『Eno』という映画が予感させる、ジェネラティブサイトとコンテンツストックの時代
唯一の完成版がない映画
2024年に公開された映画『Eno』は、とても興味深い作品です。
ブライアン・イーノを描いたドキュメンタリーでありながら、「これが最終という完成版」という一本の映画が存在しません。
上映のたびに映像や音楽、インタビューがアルゴリズムによって組み替えられ、毎回異なる作品として上映されるという「ジェネラティブ映画」という仕組みです。
完成版が無いのではなく、全てが完成版、でもあります。
素材は同じでも、編集のルールによって体験が変わる。
その発想を知ったとき、私は「これは映画だけの話ではない」と思いました。むしろ、これからのWebサイトの姿を予感させる作品なのではないか、と感じたのです。
残念ながら映画は、2026年の上映は3月で一旦、終了していますが、再上映を期待しています。
ジェネラティブサイトは、もう始まっている
実は、この考え方自体はすでにWebの世界でも始まっています。
訪問者の検索キーワードや広告、閲覧履歴などに応じて、ランディングページの文章や構成を変えるサービスはすでに登場しています。全員に同じページを見せるのではなく、一人ひとりに合わせてページを最適化するという発想です。
つまり、「ジェネラティブサイト」という考え方は、決してSFではありません。技術はすでに存在し、その活用範囲が少しずつ広がっている段階だと言えるでしょう。
しかし、何かが足りない
ただ、私はこれらのサービスを見ていて、一つ物足りなさを感じています。多くのサービスは「AIがページを生成する」ことを中心に語っています。しかし、そのAIは何を材料にページを組み立てるのでしょうか。
ページを自動生成することばかりが注目され、その元になる企業の情報資産については、意外なほど語られていないように思えるのです。
企業が持つべき資産はページではない
これまで企業は、トップページ、サービス紹介、会社概要、施工事例、ブログなど、「ページ」を作ることに力を注いできました。
しかし、ジェネラティブサイトの時代には、価値を持つものが変わるかもしれません。
企業理念、代表者の考え方、商品説明、施工事例、顧客の声、FAQ、写真、動画、ノウハウ。
これらを完成したページとして持つのではなく、AIが自由に再編集できる「素材=コンテンツ」として蓄積していく。
そのストックから、訪問者に応じて最適なページが組み立てられるようになるのではないでしょうか。
コンテンツストックという考え方
私は、この企業が蓄積する情報資産を「コンテンツストック」と呼びたいと思っています。
企業の資産は完成したページではなく、再利用できる状態で整理されたコンテンツそのものになる、という考え方です。
もちろん、CMSやヘッドレスCMS、コンテンツの再利用という考え方は以前からあります。
しかし、AIがリアルタイムでページやサイトを生成することを前提に、「企業はコンテンツストックを育てるべきだ」という視点は、私が調べた範囲ではあまり見かけませんでした。
分岐する映画やゲームとは、何が違うのか
結末が変わる映画やゲームは、以前からありました。
プレイヤーや視聴者が途中で選択し、その選択によって物語が分岐する作品です。複数の結末が用意されており、人間がどのルートを進むかを決めます。
しかし、『Eno』はそれらとは少し違います。観客が途中で物語を選ぶのではありません。映像、音楽、インタビュー、時系列などの素材が、上映のたびにアルゴリズムによって再編集され、その都度一本の映画として立ち上がります。
つまり、従来の分岐型作品は「完成した複数のルートから一つを選ぶ」仕組みでした。一方の『Eno』は、「素材と編集ルールを用意し、上映時に作品そのものを生成する」仕組みです。
ここに、私が考えるジェネラティブサイトとの共通点があります。
企業が完成した記事やランディングページを何本も用意するのではなく、文章、写真、実績、顧客の声、FAQ、商品情報、代表者の思想などを蓄積しておく。そしてAIが、訪問者の検索意図や目的に応じて、その場で必要な素材を選び、一つのページとして編集するのです。
固定された複数のページから一つを選ぶのではありません。コンテンツストックから、その訪問者のためのページを毎回生成する。
この違いは小さく見えて、Webサイトの作り方そのものを変える可能性があります。
Webディレクターの仕事も変わる
そうなると、Webディレクターの仕事も変わります。
ページを一枚一枚設計することではなく、どんな情報を蓄積し、どのように分類し、どんな条件でAIが組み立てるのか。そのルールを設計することが仕事になるでしょう。
私は既に、「ブライアン・イーノ・モデル」という記事を何本か書きました。イーノは作品だけを作った人ではありません。
『オブリーク・ストラテジーズ』のように、作品が生まれる仕組みそのものを設計した人でした。
映画『Eno』は、その思想を映画というメディアで実践した作品だと私は考えています。
WordPressも変わるかもしれない
もし、この方向へ進むなら、WordPressテーマやテンプレートの価値も変わっていくでしょう。
これまでは完成したデザインを販売することが価値でした。しかし、AIがレイアウトを自在に生成できるようになれば、その価値は相対的に下がっていきます。
代わりに重要になるのは、「どんなコンテンツを持つべきか」「どう蓄積するべきか」「AIがどう組み立てるべきか」という設計思想とキュレーションです。
テーマを売る時代から、生成のルールを設計する時代へ変わるのかもしれません。
ページを作る時代から、育てる時代へ
もちろん、これは現時点では私の仮説です。
固定されたランディングページがすぐになくなるとは思っていません。
しかし検索がAIによって変わり始めている今、その先に「ページを作る」のではなく、「コンテンツを育て、必要に応じてAIが組み立てる」という時代が来ても不思議ではありません。
映画『Eno』は、完成版のない映画でした。
もし将来の企業サイトも、蓄積されたコンテンツから、その訪問者のためだけにリアルタイムで組み立てられるようになるなら、企業が持つべき資産はページではありません。
コンテンツストックと、それを成果につなげる編集ルールです。
そしてWebディレクターとは、ページをデザインする人ではなく、コンテンツが育ち続け、生成され続ける仕組みを設計する人、そして企業がコンテンツをストックしていくことをサポートすることも含めてのディレクション、へ変わっていくのではないかと感じています。
(このnoteは2026年7月21日に初稿を書きました。)


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