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files.md:5年かけて「引き算」したノートツールの哲学と設計

KD AgenticKD Agentic

はじめに

files.md を見つけたとき、GitHub の README に書かれたある言葉に目が止まった。

「気づいたんだ。システムが大きくなるほど、思考の仕事を『未来の自分』に先送りしていた。整理し、タグ付けし、金を取り出す——そんな未来の自分は一度も現れなかった。」

作者 Artem Zakirullin は、かつて Obsidian のヘビーユーザーだった。テンプレートを作り込み、プラグインを積み上げ、ワークフローを最適化した。その結果、彼が到達したのはノートを整理するシステムが思考そのものを代替しているという気づきだった。

files.md は、5 年の歳月をかけて一人で作り上げた、その気づきへの回答だ。3,000 GitHub Star、MIT ライセンス。

対象読者

  • 機能過多のノートツールに疲れた開発者
  • AI エージェントと連携可能な個人ナレッジベースを求めている方
  • シンプルなツールで深い思考を実現したい方

この記事を読むメリット

  • files.md の設計哲学と従来ツールとの根本的な違いを理解できる
  • LLM ネイティブなナレッジベース設計の具体的手法がわかる
  • アーキテクチャ判断(ADR)から学ぶ「引き算の設計」の実例を得られる

結論

files.md は「機能」ではなく「制約」によって価値を生み出すノートツールである。プラグインもテンプレートも持たず、プレーンな .md ファイルに薄い Web インターフェースを重ねただけの構造。しかし、LLM ネイティブ設計、ADR に記録された徹底したシンプリシティへのこだわり、そして「思考の先送り」への鋭い批判は、現代のナレッジマネジメントツールに対する重要な問題提起となっている。

使い方:ブラウザを開くだけ

app.files.md にアクセスし、ローカルフォルダへのアクセスを許可する。インストール不要、アカウント不要。依存関係はすべてリポジトリ内に vendoring されており、web/index.html を開けば動作する。著者は「10 年後も動く」と断言する。

CodeMirror ベースの Markdown エディタ。Cmd+K でファイル検索、[ でノート間リンク、Cmd+N で新規作成。Zettelkasten に着想を得た双方向リンク。チャット風のクイック入力。brain/journal/Chat.md というオプションのフォルダ構成。

同期方式は 4 種類:ローカルのみ / クラウドフォルダ(iCloud、Dropbox、Google Drive)/ Go バイナリ自己ホスト / api.files.md

LLM ネイティブ設計

files.md の最も技術的に興味深い特徴は AI 連携の手法だ。プロジェクトは llms.txt を提供し、ナレッジベース全体の構造を記述している。CLAUDE.md にコピーするだけで、AI エージェントがノートの構成を理解し、読み書きできる。

これは Obsidian との本質的な違いだ。ノートは人間のためだけでなく、AI エージェントが直接操作できる知識ベースになる。Claude Code に思考断片を読ませ、テーマを抽出させ、見逃した関連性を指摘させる——すべてローカルファイルのまま、中間サーバーなしで。

コードベースは「一人の人間、あるいは一つの LLM が全体を頭に入れられる」サイズに意図的に抑えられている。コントリビューションガイドラインは「理想的な PR はコードを削除または簡素化するもの」と明示する。

Telegram ボット

@FilesMDBot書き込み専用。メッセージを送ると Chat.md に追記される。閲覧も検索も不可。この制約は意図的だ——スマートフォンでノートを閲覧できると、デスクで深く考える機会を失う。ボットは「思考の捕獲弁」であって、消費のためのインターフェースではない。

ADR が語る設計哲学

プロジェクトは Architecture Decision Record(ADR)を公開している。一連の判断が、ラディカルなシンプリシティへのコミットメントを示す:

  • WASM 廃止(2025 年 9 月)— 8MB のバイナリと JS↔Go ブリッジの複雑さを排除
  • 独自 Markdown パーサー放棄(2024 年 7 月)— 「素直なコードで十分。コード量が 3 分の 1 に」
  • Wikilinks → 標準 Markdown リンク(2024 年 11 月)— 「知識ベースは相互運用可能でなければならない」
  • Inbox を Chat に統合(2026 年 5 月)— 「Inbox は抽象的すぎる。GTD っぽい。欲しいのは静けさとシンプルさ」
  • Fyne(Go GUI)放棄(2024 年 10 月)— UI の細部に必要な工数が大きすぎた
  • 全依存を vendoring — リポジトリが自給自足の情報源

すべての判断が同じ方向を指す:コードを減らし、抽象化を減らし、寿命を延ばす

アンチ・セカンドブレイン

files.md の本質は技術ではなく、その哲学的立場にある。

Zakirullin は README の中で、現代のナレッジマネジメントツールが「理解の先送り」という集合的習慣を生み出したと論じる。ノートを取ることが理解した気分を生み、システムのメンテナンスが実際の思考を代替し、ツールの設定が生産性の錯覚を生む。

「読書とノート取りは、テキストを理解したと簡単に錯覚させる。理解したと思っても、実際には『知っている』だけだ」

「感情的レベルで受けた傷は、感情的なレベルで癒されなければならない。知的作業やノート取りではない。癒しは感じることによって起こる」

これは明確にアンチ・セカンドブレインの立場だ。外部化された記憶システムも、自動化されたワークフローもない。書く、つなぐ、再訪する、考える——それだけ。

まとめ

files.md は万人向けではない。Dataview や Canvas に深く依存する Obsidian ユーザーには物足りないだろう。

しかし、ノートシステムが思考を代替しているという感覚を一度でも抱いたことがあるなら——ツールがタスクそのものになっていると感じたことがあるなら——このプロジェクトは試す価値がある。

設定不要。ロックインなし。あなたが作るノートはすべて、ツールよりも長生きするプレーンな Markdown ファイルだ。

GitHub: zakirullin/files.md

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