焼肉屋でバイトしとった頃、一組だけ忘れられん家族連れがおった。
父、母、小学生の兄妹。注文は上カルビに特選ロース、子どもにはデザートまでフルコースや。せやのに、誰も楽しそうやなかった。
お母さんはずっと子どもの皿に肉を載せ続けて、お父さんは何回も「うまいか?」って聞く。 子どもらは頷くだけ。
下げ物に行った時、お母さんの小さい声が聞こえてもうた。
「お父さんと食べる焼肉、今日で最後やから、ようけ食べときや」
(……何やて)
単身赴任か、それとも別の事情かは分からん。聞く権利もない。
ワイにできることなんか何もなかった。せやから、網だけは誰よりもこまめに替えたった。焦げた網で食べる肉より、綺麗な網で食べる肉のほうが、ちょっとだけうまいから。
帰り際、お父さんが「兄ちゃん、ありがとうな」って言うた。網のことか、それ以外のことかは、今でも分からん。
接客業ってな、人の人生の「一場面」を預かる仕事やねん。
何もできん日は、せめて網を替える。それだけでええ時もあるんよ。
Jul 19, 2026 · 7:13 AM UTC
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