個人情報保護法は誰のため? 規制緩和求めたロビイストに聞く
10日に成立した改正個人情報保護法は、AI(人工知能)開発のためなら、本人の同意なく個人データを提供できるようになる特例が盛り込まれました。背景には、規制緩和を求めた事業者団体のロビー活動がありました。経団連や新経済連盟とともにロビー活動の中心を担った日本IT団体連盟(IT連)の別所直哉・常務理事に考えを聞きました。
――長年、IT業界のロビー活動を引っ張ってきました。今回の改正で、何を達成したと考えていますか。
「AI開発のためなら、本人の同意を不要とする特例を盛り込めたことが一番大きいですね。日本の個人情報保護法は、『本人の同意』に強く依存していますが、それが本当にいいのかという問題意識がありました。欧州連合のGDPR(一般データ保護規則)には、正当な利益のためなら本人の同意を不要とするルールがあります」
――本人の同意なく、病歴などの機微な情報までも提供できるようになる特例には、様々な懸念や批判が出ています。
「自分たちのデータを大切に使いたいと思っている普通の事業者であれば、相手方もきちんと調べた上で取引するでしょう。日本ではレピュテーションリスク(評判を落とす恐れ)が強く意識されますから」
――資金繰りに困ってデータを売ってしまうような事業者も出るのでは。
「悪質な事業者が出てくる可能性はゼロではないでしょう。それは別途、対策を考える必要があります」
――対策といえば、事業者団体は、法令違反があった企業に金銭的ペナルティーを支払わせる課徴金制度にも、救済措置である団体訴訟にも反対してきました。なぜですか。
「我々としては、本当に課徴金や救済措置が必要となるような悪質なケースなどの『立法事実』があるのか、という疑問があります」
キーワード
【課徴金】行政庁が違反企業に対して科す金銭的ペナルティー。今回の改正で初めて導入された。ただ、事業者団体の反対があり、対象となる違法行為は限定された。
【団体訴訟制度】特定の消費者団体が個人に代わって違法行為の差し止めや被害回復のための訴訟を提起できる制度。データをめぐるトラブルが増加する中、法執行機関のリソース不足を補うために世界で導入が進んでいるが、今回の改正では見送られた。
――たとえば2019年には、リクルートキャリアが就活生の内定辞退率を予測して無断で企業に販売していたリクナビ事件がありました。こういうケースのために必要では。
「リクナビ事件が『悪質』と言えるか疑問です。結果的に本人の同意を得なかったのは大きな落ち度ですが、事業者が何を考えていたかも重要です。そのデータを購入・活用しようとした企業側には『内定者の辞退を防ぎたい』という希望があり、それは採用企業側にとっても、内定した側にとっても大きな関心事です。『全部NG』と言われてしまうと、事業者は何もできなくなってしまうのではないでしょうか」
――NTT西日本の子会社から約10年間にわたり、顧客情報928万件が不正に持ち出されていた事案もありました。外部から指摘があったのに見過ごされていました。
「指摘があったのに放置していたとすれば、それはいかがなものかと思います」
――それでも課徴金制度は不要ですか。
「課徴金を科すことで本当に状況が変わるのか、十分検証されていないと思います。課徴金を科すことでどうなるか、制度を提案する側の個人情報保護委員会が示すべきだったのに、示しませんでした。外国でやっているから、と説明されましたが、各国にはそれぞれの事情があり、日本で導入した場合にどうなるかをきちんと検討してもらいたかった」
団体訴訟 「消費者団体に力なく、日本では困難」
――消費者団体が被害回復のために訴訟を提起できる団体訴訟制度にも反対しました。なぜですか。
「(団体訴訟の是非を議論した)検討会の場では、消費者団体の方々が『制度が必要だ』とする一方、『制度ができてもキャパシティーがないのでほとんど動かせない』ともおっしゃっていました。動かせないものを導入する意味はありません」
――制度ができれば体制が育っていく面もあるのでは。
「ないと思います。日本では団体訴訟は難しいでしょう。訴訟の当事者になる消費者団体がもっと充実した体制を整え、その活動が社会的に支持されるようになれば別ですが、日本ではまだその状態にないと思います」
ロビー活動、誰でもできる
――法案をつくる過程で、事業者団体は一部の自民党の役員しか出席できない非公開の会議に参加しています。一方、消費者団体は参加できていませんでした。こうした政策決定のプロセスについてどう考えますか。
「我々は、呼ばれたところに行って話をしているだけです。(消費者団体は)まず『やろうと思っているかどうか』。やろうと思わなければ動きませんから、まずやろうと思ってほしい」
「政策が決まる過程では、省庁での立案・審査とは別に、事実上、自民党内での検討のプロセスがほかの法案も含めてありますが、全体の流れを見た上で、自分たちの意見をどこに伝えればいいのかを考えています。それは誰にでもできることのはずで、問題があるとすれば、こうした仕組みになっていること自体を多くの人がよく知らないことだと思います」
「個人情報保護法は生活者みんなにかかわる法律なので、もっと多くの人に関心を持ってほしいのですが、『データを使う企業のための法律』と思われているようで困ります。もっと多くの人に関心を持ってもらいたいと考えています」
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