インタビュー

五味太郎さんが語る林明子さん 「いなくなっても全然寂しくないね」

聞き手・松本紗知

 絵本作家の林明子さんが7月1日、81歳で亡くなった。「はじめてのおつかい」(筒井頼子さんとの共著)、「こんとあき」など、子どもたちの姿をいきいきと描き出した絵本は、世代を超えて読み継がれている。20代のころからの友人で、「きんぎょがにげた」などの代表作がある絵本作家の五味太郎さんに、林さんへのいまの思いを聞いた。

 林さんとは、イラストレーターの真鍋博さんの事務所で一緒だった。お互いアシスタントだったんだけど、林さんは絵がうまいから絵を描くほうのアシスタントをしていて、おれはデザインの方向性を真鍋さんと一緒に考えるような役割だった。林さんはいつもこつこつ、アトリエの奥の方で絵を描いていた。

 絵本の仕事をするようになったのも、ほとんど同じ時期から。あるとき「紙飛行機の絵本の絵を描かないか」という話がきたんだけど、おれ、山折り谷折りの線とか、説明とか描くのへたくそだから、「林明子っていう、すごく絵がうまいのがいる」って言った覚えがある。そのときの「かみひこうき」(1973年、かがくのとも)が、彼女のデビュー作になった。できあがりを見ると、やっぱり絵がうまいから素敵なんだよね。

 なので、彼女の初めての絵本はどうもおれからの流れだったようで、「五味さんに足向けて寝られない」って冗談で言ってた。おれんちの方角も知らなかっただろうに。

 それから時々電話したり、お茶したり、家に遊びに行ったりして、付き合いが続いた。まったくタイプの違う絵本作家で、貴重な、いい友達だったんだよね。

おれのなかの「こんとあき」

 おれは林明子をずっと尊敬してる感じがある。で、おれが言うのも変だけど、林明子も別な角度で五味太郎を尊敬しているわけ。お互いに、相手に一目置いている。

 絵本そのものについて話したり、絵本論を語ったりすることはしないよ。「最近どう?」「ちょっと手が痛いのよ」「それは仕事のしすぎだよ」とか、そんな話を電話でちょこちょこしたりしていた。

 おれは林明子の絵本の「いい読者」で、林明子もおれの本の「いい読者」だった。自分で言うのは口幅ったいけど、いい絵本を描くやつはいい読者なんだよな。

 おれのなかでは「こんとあき」が燦然(さんぜん)と輝いていて、「あれは本当の絵本だよな」と思う。いまはおもちゃみたいな本がいっぱいあるけれど、絵本じゃないと描けないことってあるんだよね。絵本って、文芸の世界には入れにくいちょっと特殊なジャンルみたいになっているけど、あの本には文学性がある。絵本的文芸だなと思う。

 彼女の作品には説得力がある。この説得力というのは、頭じゃなくて、目と心と体で感じるもの。おれは彼女の絵本に説得されてきたし、その心地よさを感じてきた。これはとにかく読んでもらうしかない。それ以上のことは伝えられないから。

 80歳を超えるまで生きたのは、立派だったと思うよ。おれも同い年で、これは自分の実感なんだけど、80を超えるといつそのときが来ても不思議じゃないと思っている。

 でも、訃報(ふほう)を聞いたときはやっぱりがくっときて、家にある林さんの本を読んでるうちに、涙が止まらなくなった。

 でも、本ってすごい。読んでいると、林明子にいつでも会えるという感じがする。本って、その人なんだよな。

 だから、おれのいまの実感としては、林明子がいなくなっても全然寂しくないね。だって本がいっぱいあるから。

 林明子という素晴らしい作家が「いた」と同時に、林明子の絵本がずっと「いる」。だから大丈夫なんだよ。

 大丈夫ってのも変な言い方だけど。うん、大丈夫。

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この記事を書いた人
松本紗知
文化部
専門・関心分野
文化、芸能、地域振興

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