LZ Windtalkers IIレビュー|濃厚さではなく、速さと余白で描くオールKnowles 10BA
TRN BA16から始めたフルBAシリーズでは、ドライバー数の多さが、そのまま音の厚みや完成度を決めるわけではないことを確認してきた。
Night Oblivion Butasturは、SonionとKnowlesを組み合わせた片側10BAによって、フルBAらしい軽さから離れた低域の太さと、濃厚で滑らかなつながりを作っていた。その一方で、声の実体、高域の伸び、音数が増えた場面でのレイヤリングには弱点も残っていた。
続くLonginusでは、片側12基をすべてSonion製BAへ統一。Butasturの濃厚さを残しながら、声の身体、高域の余韻、細かな粒立ちまで大きく引き上げ、「TOTL級の音を中価格帯で」というNight Oblivionの価値を、音の完成度から実感できるところまで進んでいた。
ただし、Longinusの進化を、そのまま「Sonionへ統一した成果」と考えることはできない。
Butasturからはドライバーのメーカーと基数だけでなく、帯域配分、クロスオーバー、音響管、ベント、内部容積、樹脂から金属へ変わった筐体まで、多くの条件が同時に変化している。Longinusの音が改善された理由を、Sonionという名前だけへ結びつけることはできない。
そこで次に聴くのが、LZ Windtalkers IIだ。
Windtalkers IIは、Longinusと近い世代に登場した片側10BAのフルBAで、低域4基、中域4基、高域2基をすべてKnowles製BAで統一している。価格は599ドルで、ドライバー数はButasturと同じ10基、価格帯もButasturとLonginusの間に収まる。
LonginusがオールSonionによって濃厚さ、声の実体、高域の伸びを一つの音へまとめたのに対し、オールKnowlesのWindtalkers IIは、同じフルBAという構成からどのような音を作るのか。
低域4基、中域4基、高域2基という配分は、Longinusの低域2・中域2・高域8とは大きく異なる。Windtalkers IIが低域と中域へ多くのBAを使うことで、声や楽器の身体を厚く描くのか。それともKnowlesらしい輪郭や反応の速さを前へ出し、Longinusより明確に音を切り分けるのか。ここは仕様だけでは判断できない。
今回確認したいのは、SonionとKnowlesのどちらが優れているかではない。
同じ価格帯の新しいフルBAが、異なるメーカーのBA、帯域配分、筐体、チューニングによって、どれほど違う価値を提示できるのか。
ButasturからLonginusへの進化は、本当にオールSonion化によって生まれたのか。それとも、Night Oblivionがチューニングと音響構造を全面的に作り直した結果なのか。
Windtalkers IIを挟むことで、ドライバーの銘柄だけでは説明できないフルBA設計の差と、Longinusが高く評価できた理由を、もう一段深く掘り下げていきたい。
この書き方なら、今回のWindtalkers II単体を評価しつつ、Butastur → Longinusで見えた進化を別ブランドのオールKnowles機から検証し直す章として成立する。最終的にCantorへ進んだ時も、ドライバーメーカーではなく、設計全体が音へどうつながるかという流れを維持できる。
LZ HIFIとWindtalkers II|多彩な仕掛けを試してきたブランドが、オールKnowlesの10BAで示すもの
LZ HIFIは、中国の音響設計者Lao Zhongを中心に展開されてきたIEMブランドだ。ブランド名もLao Zhong Audioに由来し、大規模メーカーが複数の開発チームで製品を広げるというより、一人の設計者が持つ発想を製品ごとに形へ落とし込んできたブランドとして知られている。
LZが海外で広く知られるきっかけになったのは、2010年代半ばに登場したA2、A3、A4などのハイブリッド型だった。特にA4は、前後に異なるフィルターを装着して低域と高域を個別に調整できる構造を採用し、一つのイヤホンから複数の音を引き出せることが、価格性能と並ぶ大きな特徴になっていた。
その後のA5やA6でも、交換式フィルターを使って音を変える考え方は継続されている。A6では1DD+4BA+圧電セラミックという当時としては意欲的な構成に、9種類のフィルターとインピーダンスを変更するスイッチまで組み合わせており、LZは固定された一つのハウスサウンドより、異なるドライバーや音響部品を使って音を動かすことに強い関心を持ってきたブランドだと分かる。
ただし、構造の面白さが常に完成度へ直結していたわけではない。A6は細かな情報量と幅広い調整を評価された一方、選ぶフィルターによっては高域が強くなり、ケーブルやイヤーピースを含む製品全体の作りには改善の余地があるとも評されていた。
LZの魅力は、最初から一つの完成形を提示することより、設計者の発想をそのまま製品へ持ち込み、ユーザー側にも音を選ぶ余地を残してきたことにある。その反面、仕掛けの多さに対して帯域のつながりや付属品までまとめ切れているかは、モデルごとに評価が分かれてきた。
LZはハイブリッド型だけを作ってきたブランドではない。2017年頃には、片側7BAと三つのチューニングスイッチを組み合わせた上位フルBAのBig Dipperも展開しており、多BAを使った音作りと可変チューニングには早い段階から取り組んでいた。
その流れの中で2018年頃に中国国内で登場していたのが、初代の風語者/Windtalkersだ。
初代Windtalkersは片側10BAを搭載した上位モデルで、低域、中域、高域のゲインを変更するスイッチ構成も用意されていた。当時の中国語レビューでは、低域の量と包囲感、温かく厚みを持った中域、男性ボーカルとの相性が特徴として挙げられている。
一方、同時期の8BAモデルと比較すると、初代Windtalkersは低域と声の肉厚さでは優れるものの、音の軽快さ、高域の伸び、細かなレイヤーの見通しでは不利だったと評価されている。今回追ってきたButasturと同じく、BAの薄さを避けて濃厚な音を作った代わりに、上側の開放感や音数が増えた時の整理が交換条件になっていたモデルと捉えられる。
ただし、初代Windtalkersについて残されている詳細な情報は、中国国内の限られたレビューが中心になる。正確なBAの型番やメーカー、クロスオーバー、音響管の構成まで確認できる公式資料は見つからず、この音がドライバー由来なのか、LZのチューニングや筐体設計によるものなのかまでは判断できない。
その初代から長い間を空け、2025年後半に登場したのがWindtalkers IIだ。名称と片側10BAという基数は引き継いでいるが、現行モデルは低域4基、中域4基、高域2基のすべてにKnowles製BAを採用したユニバーサルIEMとして作り直されている。
公称インピーダンスは15Ω、感度は112dB/mW @ 1kHz、歪率は1%未満、チャンネル偏差は±0.5dB。付属ケーブルも3.5mmの6N OCCと、4.4mmの金メッキOCC+銀メッキ線によるケーブルが一本ずつ用意され、一つの端子交換式ケーブルではなく、接続方法ごとに異なる二本を同梱する構成になっている。
定価は599ドルに設定されているが、NICEHCKの直販では現在429ドルで販売されている。定価で見ればButasturと同額でLonginusより100ドル安く、実売価格で見ればオールKnowlesの10BAを400ドル台へ持ち込んだ、価格性能も強く意識されるモデルになる。
ただし、Windtalkers IIを単なる「Knowles製BAを10基積んだ割安なイヤホン」として扱うだけでは、今回このモデルを聴く意味が薄くなる。
ButasturはSonionとKnowlesを組み合わせた10BAで、低域の太さと濃厚なつながりを作っていた。Longinusは12基をすべてSonionへ統一し、Butasturの方向性を残しながら、ボーカルの実体、高域の伸び、レイヤリングまで大きく引き上げている。
そしてWindtalkers IIは、Butasturと同じ10BAを、今度はすべてKnowles製でまとめたモデルになる。
低域4基、中域4基、高域2基という帯域配分も、上側へ多くのBAを割り当てたLonginusとは大きく異なる。数字だけを見れば、Windtalkers IIは高域の物量より、低域と中域の身体、声や楽器の厚みを重視した設計にも見える。
ただし、Knowlesだから輪郭が鋭く、Sonionだから濃厚になるといった単純な分け方はできない。BAの型番、基数、クロスオーバー、音響抵抗、音響管、内部容積、筐体の密閉まで変われば、同じメーカーのドライバーでも結果は大きく変わる。
今回Windtalkers IIを加えることで確認したいのは、Longinusの進化がオールSonion化によって生まれたものなのか、それともNight Oblivionがチューニングと音響構造を全面的に作り直した結果なのかという点だ。
同時に、初代Windtalkersで評価されていた低域と中域の厚みが、IIにも残されているのかも見ていきたい。過去作の濃さを維持しながら、高域の伸びとレイヤリングを現代の水準へ引き上げたのか、それともKnowles製BAの反応と輪郭を前へ出した、異なるフルBAへ変わっているのか。
多彩なフィルターやスイッチによってユーザーへ音を選ばせてきたLZが、Windtalkers IIではオールKnowlesの10BAによる一つの固定された音を、どこまで完成させたのか。
そして、その音をButastur、Longinusと並べることで、ドライバーの銘柄だけでは説明できないフルBA設計の差まで掘り下げていく。
開封・付属品・装着感
箱を開けてまず感じたのは、LZが開封体験までしっかり意識しているブランドだということだ。質感自体は高級ブランドのような革張りや木箱ではなく多少チープさも残るものの、赤を基調とした二段構造や本体の見せ方など、「特別なイヤホンを開封している」という演出は十分に感じられる。
付属品もかなり充実している。ケースは大型のハードケースが付属しており、持ち運び時の安心感は高い。最近は簡易的なケースも増えている中で、このクラスらしい実用性をしっかり備えている印象だ。
イヤーピースも3種類がそれぞれ3サイズずつ付属しており、素材や形状も異なるため、装着感だけでなく音の変化まで楽しめる構成になっている。最近のハイエンドではイヤーピースの選択肢を重視するメーカーも増えているが、LZもその流れをしっかり取り入れているようだ。
そして付属品で最も印象的なのはケーブルだ。3.5mmと4.4mmを一本ずつ同梱する構成になっており、最近主流になっている交換式プラグではなく、用途ごとにケーブル自体を用意するスタイルを採用している。4.4mm側は銀と金のツートンカラー、3.5mm側は銅色で見分けもしやすく、どちらも十分太さがあり価格帯に見合う作りになっている。
肝心の本体も写真以上に高級感がある。ブラックを基調としたフェイスプレートには金とオレンジのラメが立体的に入っており、光が当たると模様が浮かび上がる。写真では少し派手に見えていたデザインだったが、実物はそこまで主張が強すぎず、所有欲を満たしてくれる仕上がりだ。
一方でサイズはかなり大きい。LonginusでもButasturより大型化したと感じたが、Windtalkers IIはさらに一回り存在感があり、多ドライバーのハイブリッドフラッグシップを思わせるほどのサイズ感になっている。形状自体は耳への収まりを考えたデザインで、個人的には奥までしっかり装着でき、フィット感も悪くなかった。しかしシェル自体が非常に大きいため、ほとんどの人は耳から本体が大きく張り出す装着になると思われる。耳が小さい人は購入前にサイズ感を確認しておいた方が安心だろう。
総合すると、細かな部分では多少粗さも感じるものの、実売4万円前後という価格を考えれば開封体験、付属品、所有感のどれも十分満足できる内容だった。Night Oblivionが本体や音へコストを集中させていたのに対し、LZは音だけでなく「所有する楽しさ」まで含めて製品を組み立てているブランドだという違いも、この時点で伝わってきた。
測定|低域の量より、中高域の輪郭と抜けを前へ出した10BA
Windtalkers IIの測定を見ると、低域を厚く積み上げたButasturやLonginusとは異なり、中高域の輪郭と情報を積極的に見せる方向へ重心を置いている。
20Hzから100Hzにかけては十分な持ち上がりがあるものの、サブベースだけを強く突出させた形ではない。50~80Hz付近を中心に広く量を持たせ、そこから中域へ向かって緩やかに下降しているため、最低域の揺れより、ベースラインの胴体やキックの存在感を支える低域になりそうだ。
低域へ4基のBAを使っているが、測定上は圧倒的な量感を前へ出す設計には見えない。ButasturやLonginusのように空間全体を濃く染めるより、低域を必要な土台として残し、その上の音を見通しやすくする可能性が高い。
左右では100Hz以下に一定の差が見られる。ただし、低域はイヤーピースの密閉やカプラーへの挿入位置による影響を受けやすく、今回の差だけから製品のチャンネル偏差とは断定できない。実聴では左右の低域量や定位に違和感がないかを確認していく。
100Hz以降は800Hz付近までなだらかに下がり、低域から中域を急激に分断していない。ボーカルや楽器の下側を完全に削る形ではないため、細身で乾いたモニターサウンドになるというより、一定の厚みを残した中域が予測できる。
一方、1kHz以降は急激に持ち上がり、2~3kHz付近へ大きな山を作っている。ボーカルの発音、ギターやピアノのアタックを前へ出し、低域の後ろへ中域を引かせないための存在感は強い。
この帯域の上昇はLonginusより明確で、声や楽器の輪郭を近く、はっきり描く可能性がある。Butasturで感じたボーカルの浮遊感や、濃い伴奏の中で声の中心が薄くなる傾向とは、異なる方向へ進んでいるように見える。
ただし、2~3kHzのエネルギーが強いため、音源によってはボーカルやギターが前へ出過ぎたり、音量を上げた時に圧を感じたりする可能性もある。声の実体を描く持ち上げとして機能するのか、輪郭だけが強くなるのかは実聴で分けて確認したい。
3kHz以降はいったん下がった後、4~5kHz付近でも再び大きく持ち上がる。2~3kHzで声や楽器の中心を作り、4~5kHzでアタックや細かな輪郭を追加する形に見える。
この二段階の持ち上がりが適切につながれば、ボーカルの発音、弦の擦れ、スネアやクラップの立ち上がりを細かく描ける。一方、音源との相性によっては子音や硬質な音が目立ち、Longinusより刺激を感じやすい可能性もある。
6kHz付近には深い谷があり、その後は7kHz、9kHz前後、さらに10kHz以降へ複数の山が続いている。6kHz周辺を抑えることで直接的な刺さりや歯擦音を避けながら、その上の帯域で煌めきと空気を補う設計と考えられる。
ただし、6kHz以降はカプラーや挿入位置による変化が大きく、グラフ上の細かなピークをそのまま音として断定することはできない。実聴では、高域の粒立ちが自然な情報量として現れるのか、特定の金属音だけが強く浮くのかを確認する必要がある。
測定全体から予測すると、Windtalkers IIは低域の濃厚さで押し切るフルBAではない。
適度な低域の厚みを残しながら、ボーカルと楽器の輪郭、高域の煌めき、細かな音の切り分けを前へ出した、明瞭で反応の速いサウンドになっている可能性が高い。
Butasturが音の太さと一体感、Longinusが濃厚さとレイヤリングの両立を狙っていたのに対し、Windtalkers IIは各音の境界とアタックをより明確に見せる方向へ進んでいるように見える。
ただし、これをそのままKnowles製BAの特徴と結び付けることはできない。低域4基、中域4基、高域2基という帯域配分、強い2~5kHzの持ち上がり、6kHz以降の複数の山まで含め、LZがどのような音を狙ってまとめたかを見る必要がある。
実聴では、低域4BAが量より速度と輪郭へ使われているのか。強い中高域がボーカルの実体と分離へつながるのか。そして複雑な高域が、情報量と開放感を作るのか、それとも刺激や不自然な質感を生むのかを確認していく。
第一印象|測定で見えた明瞭さは、実際の音でどうつながるのか
前章の測定では、Windtalkers IIが低域の量で押し切るのではなく、2~5kHzの輪郭と、その上の高域情報を積極的に見せる設計に見えた。
ただし、周波数特性だけでは、低域がどの程度の質量と押し出しを持つのか、強い中高域が声の実体へつながるのか、あるいは輪郭だけを硬く立たせるのかまでは判断できない。さらに、高域の複数の山が実際の刺激へ直結するのか、それとも音の広がりや細かな情報を見せるために使われているのかも確認が必要になる。
まずは二曲を通して、音全体の重心、低域の存在感、ボーカルの置き方、音同士の間隔、そして測定で目立っていた高域が楽曲全体の見通しへどう作用するのかを追っていく。
藤井風 – Workin’ Hard
最初に驚いたのは、測定から想像していた以上に低域へ重さがあることだった。
グラフだけを見ると、中高域の輪郭を中心に音を組み立てた、軽快で明瞭なフルBAを予測していた。しかし実際には、低域にも一音を前へ押し出すだけの質量があり、リズムへ明確なインパクトを加えている。
ただし、その重さを空間全体へ広げ、楽曲の空気まで低域で染める鳴らし方ではない。Longinusのように、音と音の間まで濃い量感で満たすのではなく、ベースや打音へ必要な力を与えた後、その周囲には余白を残している。
この違いによって、低域の迫力を感じながら、背景のパーカッションや細かな伴奏も追いやすい。音を軽くして見通しを作っているのではなく、各音が占める範囲を整理することで、強さと分離を両立している。
藤井風の声には、わずかに上側へ浮く感覚がある。ただし、声の中心が抜け、空気だけが先に見えるタイプの浮遊感ではない。発音の芯は残っており、ボーカルが伴奏から切り離された細い音像になることもなかった。
この声の置き方は、Windtalkers IIが中域を濃く塗るモデルではないことを示している。声へ十分な実体を与えながら、その周囲へ空間を残すため、ボーカルは自然に前へ立つが、曲全体を押しのけて主張し過ぎない。
測定で目立っていた中高域から高域も、刺さりや硬さへ直結していない。声や楽器の輪郭を明確にしながら、その先の音は上側へ自然に広がり、細かな情報を見せるための空間として機能している。
ここで感じたメリハリは、特定の帯域だけを強調して作ったものではない。
低域で一音の力を作り、中域でその中心を残し、高域で音像の外側へ広げる。さらに、すべての音を同じ密度で埋めないことで、強く鳴る瞬間と静かな間の差まで見えやすくしている。
Windtalkers IIは、解像感を得るために音を薄くしたフルBAではない。各音へ十分な力を持たせながら、その周囲へ余白を残すことで、測定から想像した以上にドラマチックなサウンドを作っている。
RAYE – Oscar Winning Tears.
『Oscar Winning Tears.』では、Windtalkers IIが音の厚みと余白をどのように両立しているのかが、さらに分かりやすく表れる。
ピアノは高い音の輪郭だけを明るく見せるのではなく、低い位置へ続く倍音まで含んでいる。音には適度な深みがあるが、その響きを長く残して曲全体の重心を下へ引っ張ることはなく、RAYEの声は自然な位置と明るさを保っている。
つまり、Windtalkers IIはピアノを細く鳴らしてボーカルの場所を作っているわけではない。ピアノにも必要な厚みを与えたうえで、声との間へ距離を残すことで、二つの音を無理なく並べている。
特徴的な低域の打音には、中央へ集まる力だけでなく、ヒットした後に音像が外側へ広がる感覚がある。この広がりによって、低域の迫力と音場の大きさを同時に感じられる。
一方で、音程が下がるほど圧力を増し、最低域へ深く沈み続けるタイプではない。低域の押し出しは強いが、その役割は空間の底を揺らすことより、一音が入った瞬間に曲の表情を大きく動かすことにある。
この低域の出方が、Windtalkers IIのドラマ性へ直結している。
音が入る場面では十分なインパクトがあり、引いた場面では周囲の余白が戻る。常に同じ量感で鳴り続けないため、曲の強弱と展開が自然に見え、音が濃いだけの一本にはならない。
1分46秒以降、バックコーラスが加わり、RAYEが裏声寄りの歌い方へ移る場面では、声の周囲へ空気が広がり、音場の大きさも十分に感じられる。
ただし、声を細くし、空気へ溶かすことで広がりを作っているわけではない。裏声へ移っても発音の中心は残っており、声の実体と、その周囲に広がる反響を分けて描いている。
ここは、単に高域が伸びているというだけではない。
声の中心を中域で支え、その外側へ高域の反響を広げることで、ボーカルを空間の中へ実在させている。雰囲気を作るために声を薄くせず、声を濃くするために空間を閉じることもない。
Windtalkers IIは、音の量で空間を埋めるのではなく、一音の押し出しと、その後に戻る余白を使ってドラマを作る。RAYEの声を実体として残しながら、低域の広がりとバックコーラスの空気まで自然に両立できていた。
第一印象としてはWindtalkers IIが単純な明瞭系フルBAではないことが見えてきた。
測定で予測した輪郭の強さと高域の情報量は確かに存在する。ただし、それらを前へ出すために低域や中域を軽くしているわけではない。低域には想像以上の力があり、ボーカルにも実体がある。
そのうえで、音と音の間を濃い空気で埋めず、必要な場所へ余白を残している。
第一印象の段階では、Longinusのような濃厚さではなく、音の強弱、停止、間隔を使って迫力と立体感を作るフルBAだと感じた。
低域|重さはあるが、空間を支配しない。4BAを量より制御へ使った低域
第一印象では、Windtalkers IIが測定から予想した以上に低域へ重さを持ちながら、その量感で空間全体を埋めるタイプではないことが見えてきた。
ここでは、サブベースがどこまで沈み込むのか、低域の圧力が中高域へどう影響するのか、そして4基の低域BAが単純な量感ではなく、音程、停止、グルーヴの描写へどう使われているのかを確認する。
JID – Surround Sound
『Surround Sound』では、サブベースに不足を感じないだけの量と圧力がある。
低い音が入るたびに耳へ押し込んでくる感覚があり、輪郭だけを短く置く軽いBA低域ではない。曲の下側を支えるだけの厚みがあり、リズムへ身体的な強さを加えている。
ただし、その圧力を空間全体へ広げて、ほかの帯域まで低域の色で染めることはない。
ベースと低域側の打音は同じ塊へまとめられず、鳴り始める位置と消えるタイミングを分けて追える。低域の存在感は明確だが、音像の外側が不用意に膨らまないため、JIDのラップが後ろへ押し込まれることもなかった。
上側のハイハットや細かな効果音も、低域に負けず輪郭を保っている。
ここで重要なのは、高域を派手に持ち上げて低域のマスキングを打ち消しているわけではないことだ。低域側の一音が必要以上に長く残らず、次の音の場所を空けるため、ラップ、ベース、高域の刻みを同時に成立させている。
Longinusも低域の強さを持ちながら上側の情報を残せていたが、作り方は異なる。
Longinusは各音へ厚みを与えたまま複数のレイヤーを重ねていた。Windtalkers IIは低域のヒットへ十分な力を持たせながら、減衰と音像の範囲を整理することで、その上に別の音を置く余白を作っている。
最低域へ届く感覚自体はある。
ただし、音程が下がるほど揺れが強くなり、空間の底全体を震わせるような出方ではない。Longinusと同じく、一般的な楽曲で不足を感じない深さは確保している一方、最低域の物理的な振動を主役にするタイプではなかった。
ここから見えてくるのは、Windtalkers IIの低域4BAが、サブベースの量を最大化するためだけに使われていないということだ。
低域へ十分な質量と圧力を与えながら、音像の広がりと減衰を制御し、中高域が動くための空間を残している。量感の強さより、強い低域を鳴らした状態で全帯域を成立させることが、この構成の価値になっている。
ずっと真夜中でいいのに。– 有心論
『有心論』では、サブベースの深さより、ミッドベースが作るグルーヴと音程の動きが中心になる。
キックの押し出しは強過ぎないが、ベースラインには必要な厚みがあり、低い位置まで下がっても輪郭が崩れない。一つの太い低域として流すのではなく、フレーズの中で音程が動くたびに、形を保ったまま次の音へ移っていく。
この曲でWindtalkers IIが見せるのは、低域の力そのものより、低域を曲のどこへ置くかという整理の上手さだ。
ベースには十分な存在感があるが、ボーカルやほかの楽器を押しのけて主役へ出ることはない。曲を下側から動かし、リズムを支えた後は、必要以上に余韻を残さず次の音へ場所を渡している。
そのため、ベースラインの粒立ちは追いやすいが、音が細く乾いた印象にもならない。
BAらしい速さをそのまま硬い輪郭へ変換するのではなく、音の中心には一定の厚みを残している。立ち上がりと停止は明確だが、低域が骨格だけにならないため、曲のグルーヴを分析するだけでなく、身体で感じる力も保てている。
低域4BAという構成だけを見ると、より濃く、より多く鳴らす方向を想像しやすい。しかし実際には、複数のBAを使って量を積み上げるより、低域の動きを崩さず、どの音程でも役割を維持するために使っているように聴こえる。
Windtalkers IIの低域は、曲を支配するための低域ではない。必要な場所では重く押し出し、不要になれば素早く引くことで、グルーヴとほかの帯域の見通しを両立している。
Windtalkers IIの低域は、量感を抑えた分析型とも、空間全体を濃く染めるリスニング型とも異なることが分かった。
サブベースには十分な圧力があり、ミッドベースには厚みと粒立ちがある。低域好きでも物足りなさを感じにくい強さを持ちながら、ほかの帯域の情報を押し込めず、曲の中で必要な役割へ収まっている。
最低域の揺れを最大化する能力では、優れたDDや低域特化機に及ばない。一方、低域へ強さを持たせた状態で、音程、速度、分離、グルーヴを同時に崩さないことが、Windtalkers IIの低域4BAが提示している価値だと感じた。
中域・ボーカル|空気感へ逃げず、声の実体と伴奏の輪郭を同時に立たせる
低域では、4基のBAを単純な量感へ使うのではなく、必要な重さを残しながら他の帯域が動ける余白を作っていることが見えてきた。次に確認したいのは、その整理された土台の上で、Windtalkers IIがボーカルをどのように置くのかという点になる。
測定では2~5kHzの存在感が強く、声の発音や楽器のアタックを明確に描く方向が予測できた。ただし、この帯域が強いだけでは、ボーカルが自然に実体を持つとは限らない。声の輪郭だけが近くなれば硬さや圧迫感につながり、逆に空気感へ寄せ過ぎれば、見通しは高くても身体のない声になる。
ここでは女性ボーカルと男性ボーカルの両方から、声の中心、厚み、上側への伸び、伴奏との距離を確認する。さらに、音数が増えた時にもボーカルを主役として残しながら、周囲の楽器まで弱めず描けるかを見ていく。
Aimer – Deep down
冒頭のピアノには、アタックの明るさと煌めきがありながら、その下へ続く響きも残っている。高い音だけを鋭く切り出すのではなく、低い位置まで倍音を伴って鳴るため、曲全体には必要な重さと緊張感がある。
ストリングスも想像以上に上側へ伸び、空間を広げる役割を担っている。ただし、その伸びを薄い空気として見せるのではなく、音の中心を残したまま強さを伴って広がるため、音場だけが軽く開くわけではない。
Aimerの声は、息や掠れを強調して雰囲気を作るタイプの描写ではなかった。独特の空気をまとった発声は残しながら、喉元の擦れ、発音の中心、声の芯まで同時に描いているため、ボーカルが空間へ溶けて薄くなることはない。
測定で見えていた強い中高域も、声を不自然に前へ押し出す方向には作用していない。発音の輪郭は明確だが、子音だけが硬く立ったり、声が伴奏から切り離されたりする感覚はなく、Aimerの暗さと力強さを保ったまま中央へ置かれている。
ここで重要なのは、Windtalkers IIがボーカルを主役として残しながら、周囲の楽器を後退させていないことだ。
Longinusでは音全体へ厚みを与えることで声と伴奏を一つの濃い空間へまとめていた。Windtalkers IIはそれぞれの音へ必要な強さを与えながら、音像同士の境界を残すため、ボーカルの中心を見失わず、同時にピアノやストリングスの役割も追いやすい。
2分12秒以降に入るエレキギターも、強くなったストリングスの背後へ押し込まれない。ギターには前へ出るだけの輪郭と伸びがあり、声、弦、ピアノが同じ位置へ集まらず、それぞれの役割を保ったまま曲の密度を上げていく。
多BAらしい処理能力はここで明確に表れている。ただし、単に音数へ耐えられるというだけではない。
声の芯を残し、ストリングスを上側へ伸ばし、ギターを前へ立たせるという異なる描写を同時に成立させながら、音色のつながりまで崩していない。各帯域を別々に見せるだけなら分離感は高くても不自然になりやすいが、Windtalkers IIは一音ごとの輪郭を残したまま、楽曲全体を一つの流れとして聴かせている。
空気感を強調して声を薄くするのでも、ボーカルを濃くするために伴奏を引かせるのでもない。Windtalkers IIは、Aimerの声へ実体を持たせたまま、ピアノ、ストリングス、ギターまでそれぞれの強さで成立させている。
Nothing But Thieves – Overcome
『Overcome』では、Windtalkers IIの中域が持つ自然さと、帯域ごとの整理力がさらに分かりやすく表れる。
冒頭の細かな電子音には明確な煌めきがあり、音の立ち上がりと位置をすぐに確認できる。その上へConor Masonの声が入っても、電子音が背景へ消えたり、逆に声の周囲で硬く浮いたりすることはない。
Conorの声は極めて自然だ。
地声には必要な厚みと芯があり、ファルセットへ移る場面では上側の軽さと抜けが加わる。どちらか一方の発声へ音色を寄せず、それぞれの質感をそのまま描くため、声を明るくしたり、温かくしたりする強い色付けは感じにくい。
特に優秀なのは、地声とファルセットの切り替わりを段差として見せないことだ。
低い発声では胸元の厚みを残し、高い発声では声の中心を細くしながら上側へ抜く。その移動をシームレスに描けるため、ボーカルの表現が帯域ごとに分断されず、一人の声として自然につながっている。
測定上の2~5kHzの強さは、ここでは声を近づけるためだけではなく、発音の違いを細かく書き分けるために使われているように聴こえる。輪郭は明確だが硬くならず、声の身体を残したまま細部を見せられている。
サビでギター、ドラム、コーラスが重なっても、音は一枚の壁にならない。
ボーカルは中央へ残り、リードギターは上側へ伸び、ドラムは下側から曲を押し進める。方向だけでなく、音色と時間の違いによっても各パートを分けているため、音数が増えても主役が曖昧にならない。
特にリードギターの伸びは印象的で、音が前へ立ちながら、その後の余韻まで自然に上側へ抜けていく。高域を強調して派手に見せているのではなく、音源に含まれる明るさをそのまま残すことで、曲全体の開放感へつなげている。
この曲でWindtalkers IIがハイブリッドに近く感じられる理由も、単純に低域と高域が分かれて聴こえるからではない。
最近の優れたハイブリッドは、異なるドライバーの役割を明確にしながら、一つの音楽として不自然につながらないことが強みになる。Windtalkers IIも、声、ギター、低域、電子音をそれぞれ独立して見せながら、フルBAらしい速度と質感の統一を保っている。
BA16のように音を薄くして空気感へ逃げるのでもなく、Longinusのように音全体を濃くまとめるのでもない。各音へ十分な実体を与えたうえで、帯域ごとの役割を整理し、結果として高い解像感を作っている。
Windtalkers IIの中域は、声の実体、楽器の輪郭、音源の明るさを同時に残しながら、どれか一つへ強く色を付けない。オールKnowlesの10BAを、分析的な硬さではなく、自然な見通しとつながりへ落とし込んだ中域だと感じた。
二曲を通して見えてきたのは、Windtalkers IIが測定で見えた中高域の強さを、単純なボーカルの近さや硬さへ使っていないということだった。
女性ボーカルでは声の掠れと芯を同時に描き、男性ボーカルでは地声とファルセットの違いを自然に書き分ける。その上で、伴奏が増えても声を中心へ残しながら、楽器の存在まで弱めない。
中域の強みは、ボーカルを主役にすることだけではない。
声を実体として中央へ置きながら、その周囲で鳴る楽器も同じ解像度で成立させる。音を濃く塗らず、薄く逃がさず、それぞれの役割を自然につないでいることが、Windtalkers IIの中域の強みになる。
高域|情報量を前へ出しながら、刺激ではなく輪郭と余白で見せる
中域では、測定上の2~5kHzの強さが、ボーカルを硬く押し出すためではなく、声と伴奏の輪郭を同時に保つために使われていることが分かった。
次に確認したいのは、その上へ続く高域の複数の山が、実際の音でどのように働くのかという点になる。Windtalkers IIの測定は、高域情報を控えめにまとめた形ではなく、複数のピークを使って細かな音の存在を積極的に見せる設計に見える。
ただし、高域の情報量が多いことと、自然に伸びることは同じではない。電子音やクラップの輪郭だけが鋭く立てば、短時間では解像感が高く感じられても、音源ごとの質感や余韻は失われる可能性がある。
ここでは、細かな音が重なった時の粒立ち、声と電子音の分離、ヒットした後の余韻、上側への抜けを確認する。さらに、測定上の強い高域が刺激へつながらず、音源に含まれる情報だけを正確に見せられているかも見ていきたい。
MAISONdes – トウキョウ・シャンディ・ランデヴ feat. 花譜, ツミキ
細かな電子音が連続する楽曲だが、Windtalkers IIは一音ごとの存在をかなり明確に見せる。
今回聴いてきたBA16、Butastur、Longinusの中でも、高域側の音を最も分かりやすく前へ立たせるタイプに感じられた。ただし、すべてを鋭く尖らせているわけではなく、電子音ごとの立ち上がりと停止を短く描くことで、密度の中から一つずつ拾いやすくしている。
女性ボーカルは高い位置へ明るく伸びるが、周囲の電子音と同じ質感へ変わることはない。声には発音の中心が残り、その外側へ上側の成分が広がるため、細く硬いボーカルにはならなかった。
途中で男性コーラスが重なる場面でも、二つの声を一つの和音としてまとめ切らず、それぞれの高さと質感を分けて描いている。女性側の明るさだけを強調せず、男性側の低い成分まで残すことで、コーラス全体の構造が見えやすい。
ここで表れているのは、単純な高域の量ではなく、近い時間と帯域で鳴る音を別々の形として保つ能力だ。
二周目以降のベースも、輪郭が滲まず、一音ずつ短く止まる。低域の減衰が整理されているため、その直後に入る電子音やクラップのための場所が残り、音数が増えても上側が埋まらない。
Windtalkers IIは高域だけを持ち上げて見通しを作っているのではない。低域と中域の音像を必要以上に広げず、鳴り終わった音を次の音へ引きずらないことで、高域情報が入る空白を作っている。
そのため、音が重なっても団子にならず、細かな電子音を追いやすい一方、音楽の流れが細切れになることもない。立ち上がりは速いが、曲のテンポやグルーヴまで硬く分解するのではなく、一つのリズムとして自然につないでいる。
Windtalkers IIの高域は、音量や鋭さで細部を見せるのではなく、音の停止と間隔を使って一音ずつ立たせている。フルBAらしい反応の速さが、情報量と見通しへ素直につながった鳴り方だった。
Charli xcx – Von dutch
『Von dutch』では、高域の情報量だけでなく、Windtalkers IIが音源へどこまで忠実に反応するかが見えやすい。
この曲には強く加工された電子音と、音源側で意図的に加えられたエコーが含まれている。Windtalkers IIは、ヒットした瞬間の輪郭だけでなく、その後へ続く反響も十分に描く。
ただし、その余韻を必要以上に引き伸ばし、イヤホン側の空間表現として大きく見せることはない。
音源にエコーが入っていれば、その広がりと消え方まで聞こえる。一方、元の音が短く止まれば、そこへ余計な残響を付け加えず、次の音との間をすぐに空ける。
この反応からは、Windtalkers IIが常に広い音場や長い余韻を演出するモデルではないことが分かる。空間を大きく見せるために音を引き延ばすのではなく、録音に含まれる長さと広がりを、そのまま描こうとしている。
電子音には十分な伸びと煌めきがあり、上側への抜けも感じられる。高域の情報を抑えて聴きやすさを作るタイプではなく、細かな音の形と加工された質感を積極的に見せている。
それでも、すべての電子音を同じ鋭さへ変えることはない。
歪みを持つ音は歪んだまま、細い音は細いまま残り、ヒットの強さや減衰の違いも追いやすい。高域の明るさを一つの色として全体へ被せず、音源ごとの違いをそのまま前へ出している。
一方、ハイハットの煌めきとヒット時の痛さは、意図的に抑えられているように感じた。
高域全体を暗くして刺激を避けるのではなく、耳へ直接当たりやすい帯域だけを整理し、その上の情報や空気を残している。そのため、電子音の細部や上側への抜けは見えるが、金属音の一撃だけが耳へ強く刺さることは少ない。
この調整は、測定で見えた複数のピークと谷が、単純な明るさではなく、特定帯域の刺激を避けながら情報を残すために使われている可能性を示している。
低域が強く入る場面でも、細かな電子音は埋もれず、一つずつ輪郭を保つ。これは高域側の出力だけでなく、低域の音像を長く広げず、中域まで染めない設計によって成立している。
Windtalkers IIは、余韻を足して空間を大きく見せるイヤホンではない。音源に含まれる反響は最後まで描き、含まれていない広がりは加えず、刺激だけを抑えながら高域の情報をそのまま残している。
二曲を通して、Windtalkers IIの高域は、明るさや煌めきを前面へ出すだけのものではないことが分かった。
一音ごとの立ち上がりと停止を明確に描き、音が重なった場面でも境界を保つ。その一方で、録音に含まれる余韻は必要な長さまで残し、すべてを短く乾いた音へ変えることもない。
Longinusは高域の余韻を濃い空間へ広げ、楽曲全体へ深みを加えていた。Windtalkers IIはその逆で、音源側にある余韻だけを残し、それ以上の演出を加えず、一音ごとの形と間隔を明確にする。
そのため、立体感や奥行きをイヤホン側から積極的に足す音ではないが、録音内の細かな音、声の重なり、電子音の加工、ヒット後の消え方まで追いやすい。
高域の情報を削らず、刺激だけを整理し、音源に含まれる長さと形をそのまま描く。Windtalkers IIの高域は、派手な演出より正確さを優先した、生々しく見通しの高い音へまとまっている。
テクニカリティ|速さと定位で音を解きほぐし、録音以上の空間は付け加えない
高域まで確認したことで、Windtalkers IIが一音ごとの立ち上がりと停止を明確にしながら、音源に含まれる余韻だけを必要な長さで残すモデルだと見えてきた。ただし、細かな音が聴こえることと、複雑な楽曲を立体的に整理できることは同じではない。
ここでは、変則的なリズムへの追従、音数が増えた場面での分離、左右の定位、前後の奥行き、音量と質感が変化した時の描き分けを確認する。さらに、Windtalkers IIが持つ見通しの高さが、音場を広く演出した結果なのか、それとも録音内の位置と時間を正確に整理した結果なのかを分けて見ていく。
tricot – いない
『いない』では、これまで聴いてきたBA16、Butastur、Longinusの中でも、音の立ち上がりの速さが最も明確に表れる。
変則的に動くベースとギターを、まとまった一つのフレーズとして流さず、各音が入るタイミングと止まる位置まで追うことができる。演奏の速さへ対応できているだけではなく、リズムの重心がずれた瞬間や、次の小節へ移る前の間まで見えやすいため、曲の複雑さを曖昧な勢いへ変えない。
ギターの音色がエフェクトによって変わる場面でも、輪郭だけを同じ形で残すことはない。硬く切れる音、柔らかく広がる音、歪みによって表面が粗くなる音をそれぞれ異なる質感として描き、音の出方が変われば見える形も変化する。
ここで感じる速さは、すべての音を短く乾かすことで得たものではない。
音が柔らかく鳴る場面では、アタックを無理に鋭くせず、中心から外側へ広がる様子まで残している。それでも輪郭がぼやけず、次の音との境界が見えるため、速さと質感の描写が交換条件になっていない。
サビへ入った瞬間には、複数のパートが一気に推進力へ変わる。Windtalkers IIは音数が増えたことだけを見せるのではなく、静かに配置されていた音が同じ方向へ動き始める変化まで描くため、展開の切り替わりが分かりやすい。
定位も強く、左右へずれ込むギターや細かな音の移動を追いやすい。音場自体を大きく広げているというより、左右の位置を曖昧にせず、一つずつ異なる場所へ置くことで、結果として空間の横幅が見えている。
空気の量は不足せず、音が上側や横方向へ伸びる感覚もある。ただし、録音に含まれる以上の余韻や抜けをイヤホン側から加えることはなく、音源が狭ければその範囲の中で鳴り、広がりがあればその広さまで描く。
Longinusは音へ厚みと深みを加え、空間そのものを濃くすることで立体感を作っていた。Windtalkers IIは音像の深さを積極的に増やすのではなく、立ち上がり、停止、左右の位置を正確に示すことで、演奏の構造を解きほぐしている。
Windtalkers IIの速さは、単に減衰が短いというだけではない。音色が変われば形も変え、リズムが動けば位置とタイミングまで追従することで、複雑な演奏をタイトに描き切っている。
King Gnu – 一途
『一途』では、短い間隔で繰り返されるギターの刻みと、密度の高いサビをどこまで整理できるかを確認した。
冒頭からギターの動きへ遅れる感覚はなく、一音ずつのアタックを保ったまま展開についていく。演奏が速くなっても前後の音をつなげず、刻みの間隔を残すため、勢いは強いがリズムの形は崩れない。
音数が増えた場面でも、ボーカル、ギター、ドラムが一枚の壁にはならない。左右の位置だけで分けるのではなく、ボーカルの発音、ギターの硬い輪郭、ドラムの下側から押す質感をそれぞれ残しており、方向と音色の両方からレイヤーを区別している。
この整理力は、音像を遠くへ散らして空間を広げた結果ではない。
ボーカルへ過度なエコーを加えたり、楽器の余韻を長く残したりして、前後の距離を大きく見せるタイプではない。各音は比較的近い範囲に置かれているが、その中で位置と質感が重ならないため、高密度な場面でも見通しを保てている。
低域側には曲を支えるだけの土台があり、音が軽く浮くことはない。一方、上側へ大きく抜けて音場を拡張する感覚も強くはなく、高域は詰まらない範囲で必要な情報を残す役割へ収まっている。
そのため、サウンドステージは極端に広くも狭くもない。左右は録音内の描き分けに応じて自然に広がるが、イヤホン側が音像を外へ押し広げることはなく、奥行きについても複数の段階を大きく作るタイプではない。
ここはLonginusとの性格の違いが表れる。
Longinusは一音へ厚みを与え、反響と空気まで使って前後の深みを作る。Windtalkers IIはそのような空間的な着色を加えず、録音の中にある音を位置と質感の違いで整理するため、立体感より正確な分離が先に伝わる。
『一途』のような高密度な楽曲では、この判断が有利に働く。音場を大きく見せることより、限られた空間の中で各パートを混ぜないことを優先しているため、サビでも情報を落とさず、曲の速度と迫力を維持できる。
Windtalkers IIは、広大な音場や深い奥行きで高性能を演出するモデルではない。音源が持つ範囲の中で、方向、質感、立ち上がりを正確に分けることで、高密度な楽曲を整理している。
Windtalkers IIのテクニカリティは、フルBAらしい速さと分離を最も素直な形で前へ出していることが分かった。
音の立ち上がりは速く、複雑なリズムにも遅れず、左右の位置も明確になる。音数が増えても一音ずつの輪郭を保ち、エフェクトや発声によって質感が変われば、その違いまで書き分けられる。
一方で、音像へ厚い身体を与えたり、長い余韻によって奥行きを深く見せたりする能力を主役にはしていない。空間は録音に含まれる範囲で広がり、イヤホン側から立体感やスケールを積極的に付け加えることもない。
深みや濃さで音を立体化するLonginusに対し、Windtalkers IIは時間と位置を正確に整理することで音を見せる。音源以上の空間を作らない代わりに、演奏の速さ、レイヤーの境界、強弱の変化を曖昧にしないことが、このモデルのテクニカリティの中心になる。
Longinusとの比較|濃厚さで空間を満たすか、速さと余白で音を切り分けるか
ここまで聴いてきたWindtalkers IIは、低域に十分な重さを持ちながら、その量で空間全体を濃く染めず、音の立ち上がりと停止、左右の位置、音像同士の間隔によって見通しを作るフルBAだった。
対するLonginusは、Butasturの濃厚さを残しながら、声の実体、高域の伸び、レイヤリングを大きく改善したモデルになる。どちらも安価な多BA機にありがちな薄さはなく、高密度な楽曲へ対応できるが、音楽を組み立てる方法は大きく異なっている。
Windtalkers IIは、音が入る瞬間と止まる瞬間を明確にし、音源に含まれる余白まで残す。Longinusは、一音ごとへ厚みと深みを加え、音と音の間も濃い空気でつなぐことで、楽曲全体を一つの世界として成立させる。
ここでは、編集による急激な停止や場面転換が多い楽曲と、静かな導入から重いハードロックへ展開する楽曲を使い、二本の違いが単なる明るさや低域量ではなく、時間、空間、質感の描き方へどう表れるのかを確認する。
ROSALÍA – SAOKO
Windtalkers IIでは、冒頭から音の粒立ちと停止の速さが明確に伝わる。
ボーカルは編集によって細かく切られ、声の質感や位置が短い間隔で変化する。Windtalkers IIはその加工を滑らかにつなげて聴きやすくするのではなく、声が止められた瞬間、次の声へ切り替わる間、音像の位置が変わる境界までそのまま見せる。
ここでは、BAらしい立ち上がりと減衰の速さが、単なる硬い輪郭ではなく、楽曲の編集意図を明確にする方向へ働いている。音が入ればすぐに形を作り、止まれば周囲へ余韻を残し過ぎず空白へ戻るため、短いフレーズの連続が一つの滑らかな流れへ丸められない。
ベースは重く沈み込むというより、音程と輪郭を明確にした明るめの描写になる。独特に伸ばされた低域も、太い塊として空間を覆うのではなく、音の鋭さと長さを分けて追えるため、低域の演出そのものが見えやすい。
音源の重心が変われば、その位置へ素直に移動し、イヤホン側で暗さや低さを付け加えない。低域の量は不足しないが、楽曲全体をウォームへ傾けず、編集された音の形と速度を優先している。
Longinusへ切り替えると、低域のインパクトと音像の厚みが明確に増える。
ベースはWindtalkers IIより重く、空間にも深さが加わる。声にも十分な実体があり、細く浮いて不足することはないが、二本を直接比べると、Windtalkers IIより上側の空気と滑らかさを伴って配置される。
Longinusも音が長く尾を引いてキレを失うモデルではない。ただし、音が止まった後の空間を完全な黒へ戻すのではなく、前の音が持っていた厚みや空気を次の音まで残す傾向がある。
そのため、短く切られたボーカルの編集はWindtalkers IIほど鋭く見えず、複数のフレーズが濃い一つの流れとしてつながる。聴きやすさと音楽的な滑らかさは増すが、この曲が意図的に作っている急停止と空白の緊張感は弱くなる。
ここでの差は、単純な解像度の優劣ではない。
Longinusにも細かな情報は十分にあり、音が欠けているわけではない。ただし、情報を一つずつ裸の状態で見せるより、各音へ共通した厚みを与えて、楽曲全体を滑らかにまとめることを優先している。
Windtalkers IIは、音の停止と空白を含めて録音の一部として扱う。Longinusは、その空白にまで音楽的な厚みを残すことで、より濃く、疲れにくく、連続性のあるサウンドへ変えている。
『SAOKO』では、編集の鋭さ、音の停止、低域の形を正確に追うWindtalkers IIの方が、楽曲本来の緩急を明確に描けていた。Longinusは低域の迫力と深みでは上回るが、その濃厚さによって、この曲が必要とする空白まで滑らかにつないでしまう。
Sleep Token – The Summoning
『The Summoning』では、二本の違いが楽曲全体のダイナミクスと重心へ表れる。
Windtalkers IIは、音数の少ないイントロを必要以上に濃く描かない。小さく置かれた音は小さいまま残り、背景の静けさも保たれるため、後から低域やギターが入った瞬間のインパクトが明確になる。
Aメロでは、一音ごとの強さは十分にあるが、空間のすべてを暗く染めることはない。音源が引いている場面では余白が残り、音が増えるにつれて、その空間が徐々に埋まっていく流れを追える。
サビへ向かってギター、ドラム、ボーカルが重なっても、一枚の壁にはならない。声、ギター、低域を方向と質感の両方で分け、音数が増えた結果として空間全体が包まれていくため、密度の変化が分かりやすい。
シャウトには明るさと粗さが残り、ハードロックに必要な攻撃性も削られない。高域の煌めきは十分にあるが、刺さりへ直結するほど尖っておらず、重い楽器の中でも声とシンバルの存在を保てている。
ただし、一音ごとの輪郭とアタックが明確なぶん、長時間聴くと刺激や情報の近さを感じやすい。聴きやすさを優先して音を丸めるモデルではなく、音源の強さをそのまま前へ出すため、ハードな楽曲では疲労感につながる可能性がある。
Longinusは、イントロの時点から音の重心が明確に低く、空間にも重さと暗さを加える。
音源側の不穏な雰囲気を、低域の厚みと空気の濃さによってさらに深く見せるため、曲の世界観へ入り込みやすい。音数が少ない場面でも一定の密度を保ち、Windtalkers IIより充実した音像として描く。
一方、Bメロからサビへ向かう変化は、音が小さい状態から急激に立ち上がるというより、厚みと音圧が滑らかに増えていく。展開のつながりは自然で聴きやすいが、Windtalkers IIほど静けさと爆発の差は大きく見えない。
ボーカルも滑らかで、音が鋭く耳へ当たりにくいため、長時間のリスニングではLonginusの方が明確に楽になる。ただし、シャウトへ必要な明るさ、粗さ、前へ飛び出す力まで丸くなり、この曲が持つ攻撃性を弱めてしまう場面もあった。
Longinusはハードロックを重く、暗く、濃厚に描く能力が高い。一方、楽曲が求める迫力が必ずしも暗さだけから生まれているわけではなく、明るいシャウト、鋭いギター、静かな場面からの急激な音圧差も重要になる。
その点では、Windtalkers IIの方が曲に含まれる強弱と質感をそのまま残している。
暗さと重量によって世界観を深く見せるならLonginus。静けさから激しさへ移る音量差、シャウトの明るさ、ギターのアタックまで含めて楽曲本来の迫力を描くなら、Windtalkers IIの方が適していた。
総評|フルBAらしい速さを、薄さではなく完成度へ変えた10BA
Windtalkers IIを聴き終えて最も強く残ったのは、今回のフルBAシリーズの中で、BAという方式の速さと明瞭さを最も正面から使ったモデルだということだった。
Butasturは、フルBAへ低域の太さと濃厚なつながりを持ち込み、BAらしい軽さから離れた音を作っていた。Longinusはその方向性をさらに進め、声の実体、高域の伸び、レイヤリングまで引き上げることで、濃厚なリスニングサウンドとして高い完成度へ到達していた。
Windtalkers IIは、その二本とは異なる。
音と空気を濃くして一つの世界へまとめるのではなく、立ち上がり、停止、位置、音像同士の間隔を正確に描くことで、楽曲の構造を見せている。低域にも十分な質量があり、ボーカルも薄くならないが、必要のない場所まで音で埋めることはない。
そのため、測定から想像したような細身で分析的なフルBAにはならなかった。
低域には耳へ圧力を伝えるだけの強さがあり、一音ごとの押し出しも十分にある。声には芯と厚みが残り、高域も細かな情報を積極的に描いている。それでも、すべての音を同じ密度で重ねないため、音数が増えても余白と見通しを失わない。
Windtalkers IIは、解像感を得るために音を軽くしたのではない。各音へ必要な質量を与えながら、鳴り始めと消え方を制御することで、フルBAらしい速さを現代的な明瞭感へつなげている。
低域4BAという構成も、単純な量感のために使われているようには聴こえなかった。
サブベースには一般的な楽曲で不足しにくい深さと圧力があり、ミッドベースにはグルーヴを作る厚みがある。その一方で、低域が中域まで広がって空間を染めることはなく、ラップ、ボーカル、ハイハットまで同時に成立させられる。
最低域を大きく揺らし続ける能力では、優れたDDを使ったモデルに及ばない。音程がさらに下がった時に、同じ量と形を保ったまま空間の底まで震わせるタイプではなかった。
ただし、ここを単純な弱点だけで終わらせる必要もない。
Windtalkers IIは最低域の物理的な深さより、低域を強く鳴らした状態で、音程、停止、グルーヴ、上側の見通しを崩さないことを優先している。低域の迫力と全帯域の整理を交換条件にしなかったことが、このモデルの強さになる。
中域とボーカルも、空気感や明るさへ寄せて見通しを作る音ではなかった。
Aimerの掠れた声と発音の芯、Conor Masonの地声とファルセットの違いを、それぞれの身体を残したまま描いている。ボーカルを中央へ強く固定しながら伴奏を後退させるのではなく、声を主役として保ちつつ、ピアノ、ストリングス、ギターまで別の層として成立させていた。
ここには、Longinusとは異なる自然さがある。
Longinusは音全体へ厚みを与え、ボーカルと伴奏を濃い一つの空間へまとめる。Windtalkers IIは、それぞれの音色と役割を分けながら、フルBAとしての質感の統一を崩さない。
その結果、優れたハイブリッドのように帯域ごとの見通しがありながら、異なるドライバーが別々に鳴っている感覚は生まれにくい。Knowles製BAを10基使ったことが、そのまま硬さや冷たさへつながらず、声と楽器の自然な描き分けへ使われている。
高域は、今回のフルBAシリーズの中でも最も積極的に細部を見せる。
電子音、クラップ、コーラス、加工された反響を一つずつ立たせ、近い時間と帯域で重なっても同化させない。音源にエコーが含まれていれば、その余韻と広がりを描く一方、元の音が短く止まれば余計な残響を加えず、すぐに空間を空ける。
この正確さによって、高域には生々しさがある。
ただし、完全に刺激のない高域ではない。音の輪郭とアタックをはっきり出すため、強い音源では情報が近く、長時間のリスニングで疲れを感じる可能性がある。
ハイハットの痛さや直接的な刺さりは抑えられているが、Longinusのように音全体を丸くつないで聴きやすさを優先するモデルではない。録音の強さや明るさをそのまま出すため、相性の悪い音源まで柔らかく整えてくれるわけではない。
テクニカリティの中心も、広大な音場や深い奥行きではなかった。
立ち上がりの速さ、音が止まる瞬間、左右の位置、異なる質感の書き分けは非常に優秀で、高密度な楽曲でも一音ずつの境界を保てる。変則的なリズムや編集による急停止も、滑らかな一つの流れへ丸めず、そのまま見せてくれる。
一方で、イヤホン側から前後の深さや巨大な空間を付け加えるタイプではない。音場は録音が持つ範囲で広がり、余韻がなければ広く見せるための反響も加えない。
そのため、立体感やスケールを最優先すると、Longinusや優れたハイブリッドの方が強く感じられる場面がある。Windtalkers IIは音源を大きく見せるより、音源の中にある位置、速度、強弱を正確に整理するモデルだ。
Longinusとの比較では、この違いがはっきり表れた。
濃い音、低域の重量、空間の深み、長時間聴ける滑らかさを求めるならLonginusの方が優れている。楽曲全体を一つの世界へまとめ、音源へ一定の厚みと暗さを加える能力は、Windtalkers IIにはない個性になる。
一方、音の見通し、立ち上がりと停止、急激な音量差、録音に含まれる空白まで正確に追うならWindtalkers IIが上だった。『SAOKO』では編集されたボーカルの停止と切り替えを明確に描き、『The Summoning』では静かな導入から音が増える過程を、Longinusより大きな緩急として見せている。
どちらが常に良い音かは、求めるものによって変わる。
Longinusは音楽をより濃く、深く、聴きやすくする。Windtalkers IIは音源に含まれる強さ、明るさ、停止、余白をそのまま見せる。
ただし、Windtalkers IIもすべての面で優れているわけではない。
最低域の物理的な深さ、前後方向の立体感、音像の厚い身体、超高域の外側へ薄く広がる空気では、本当に優れたDDや現代のハイブリッドに負けている感覚が残る。フルBAとしての速さと統一感は強いが、異なるドライバー方式を適切に組み合わせたモデルが持つ質感の幅まで、一つの方式だけで完全に置き換えているわけではない。
この点は、今後AFUL Cantorまで聴いたうえで、フルBA全体とハイブリッドの違いとして改めて整理したい。
それでも、Windtalkers IIの完成度は高い。
初代Windtalkersで指摘されていた低域と中域の厚みに対する高域の伸びやレイヤリングの弱さは、今回のIIからはほとんど感じられなかった。低域の力を残しながら、高域の情報、ボーカルの自然さ、複雑な楽曲への追従まで成立している。
LZは過去に、交換式フィルターやスイッチ、複雑なハイブリッド構成によって、複数の音を一台へ持ち込んできた。Windtalkers IIでは、そのような分かりやすい仕掛けを使わず、オールKnowlesの10BAによる一つの固定された音で勝負している。
細かな仕上げや巨大な筐体には粗さが残る。耳の小さい人へ手放しで勧められるサイズでもなく、長時間の聴きやすさではLonginusに分がある。
それでも、実売4万円前後でこの音を出せているなら、価格性能は明確に高い。
Windtalkers IIは、フルBAの速さと明瞭感を前へ出しながら、低域やボーカルを薄くせず、現代的な情報量へまとめた完成度の高い10BAだった。
Longinusが「TOTL級の音を中価格帯で」というNight Oblivionの物語を、濃厚な音の完成度で支えたモデルだとすれば、Windtalkers IIは、派手な物語を必要とせず、BAという方式の長所を音そのもので示した一本になる。
Sonionだから濃厚になり、Knowlesだから明瞭になったと単純に結論づけることはできない。今回の二本から見えたのは、ドライバーの名前よりも、音を濃くつなぐのか、音の間を空けるのかという設計思想の違いだった。
Windtalkers IIは、音を大きく演出しない。音源以上の深みや空間も加えない。
その代わり、鳴っている音を止まる瞬間まで見せ、次の音が入る場所まで残す。
LZがWindtalkers IIで作ったのは、フルBAの限界を消した音ではなく、フルBAの速さと正確さを、薄さや物足りなさへ逃がさず成立させた音だった。


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