夏休みの終わり、大学の映像制作サークルで撮影旅行へ行くことになった。
海沿いの小さな町。夕方になればオレンジ色の光が街全体を包み込み、どこを切り取っても映画のワンシーンみたいだった。
班は三人。
山中柔太朗くん、曽野舜太くん、そして私。
柔太朗くんはカメラを肩にかけ、何気ない景色さえ作品に変えてしまうような感性を持っていた。一方の舜太くんは、人懐っこい笑顔で地元の人ともすぐ打ち解け、気づけばみんなの輪の中心にいる。
正反対なのに、不思議と息はぴったりだった。
柔太朗くんがファインダーを覗く。
そう言われ、少し照れながら立つと、隣から舜太くんが笑った。
その一言で肩の力が抜けた。
撮影が終わると、柔太朗くんは液晶を見せてくれる。
短い返事。でもどこか誇らしそうだった。
その横から舜太くんが覗き込み、″ めっちゃいいじゃん!″ と大げさなくらい喜んでくれる。
二人といる時間は心地よくて、気づけば笑ってばかりいた。
その日の夜。
撮影が予定より長引き、宿へ戻る頃には雨が降り始めていた。
舜太くんが私の手首を軽く引く。
雨宿りした商店街の軒下で三人並ぶと、雨音だけが静かに響いた。
私が空を見上げると、柔太朗くんが自分のパーカーをそっと肩へ掛けてくれる。
相変わらず言葉は少ない。
でも、その優しさは十分すぎるほど伝わってきた。
その言葉に胸がざわつく。
“勝つ”って、何に?
そう思った瞬間、舜太くんが私を見た。
少しだけ真面目な顔。
雨音が少し大きくなった。
その一言で、時間が止まった。
私は何も言えなかった。
すると隣で柔太朗くんが静かに息をつく。
思わず振り向く。
飾らない、真っ直ぐな言葉だった。
舜太くんが苦笑する。
二人は目を合わせ、小さく笑った。
ライバルなのに、どこか優しい空気が流れる。
そう言って笑う舜太くんは、いつもの明るい笑顔だった。
表情だけで、本気なのが分かった。
雨は少しずつ弱くなる。
商店街の向こうに、夕焼けが顔を出した。
恋なんて、一人と一人だけのものだと思っていた。
でも今は違う。
こんなにも真っ直ぐ想ってくれる人が二人もいる。
幸せなのに、少し苦しい。
それでも――この夏が終わる頃には、きっと私は答えを見つける。
そう思いながら、雨上がりの空を三人で見上げた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!