第14話

💛 看病
605
2026/06/16 18:06 更新
仁人
風邪ひいた
昼過ぎに届いたその一通のメッセージを見た瞬間、思わず立ち上がった。

仁人くんが体調を崩すなんて珍しい。

普段から自己管理はしっかりしているし、少しくらい具合が悪くても周りに心配をかけないタイプだ。

だからこそ、その短いメッセージだけでいつもより具合が悪いんだろうなと分かった。
あなた
大丈夫?
すぐに返信すると、数分後に返事が来る。
仁人
熱あるけど、寝れば治るから
あなた
体温は?
仁人
38.2
あなた
全然大丈夫じゃないよ
あなた
今から行くね!
送信した途端、電話がかかってきた。
あなた
もしもし?
仁人
来なくていいよ
仁人
移したら嫌だし
あなた
でも私が行きたいの!
仁人
でもーー
あなた
でもじゃない!
少し強めに言うと、電話の向こうで小さな笑い声が聞こえた。
仁人
頑固だね、笑
あなた
仁人くんだけには言われたくない
少しだけ元気のない笑い方。

それを聞いただけで、早く顔を見たくなった。





仁人くんの家のインターホンを押す。

しばらくして扉が開いた。
仁人
……いらっしゃい
思わず息を呑む。

明らかに顔色が悪い。

髪は少し乱れていて、頬だけが熱で赤い。

目元もどこかぼんやりしていた。
あなた
わ、顔色悪いね
部屋に入ると、テーブルの上にはスポーツドリンクと薬。

だけど食事らしいものは何もなかった。
あなた
何か食べたの?
仁人
ゼリー
あなた
だけ?
仁人
食欲なくて
小さな声で言い訳する姿が、なんだか少しだけ可愛い。

普段なら絶対に認めないのに。
あなた
ちょっとまっててね
コンビニで買ってきたおかゆを温める。

その間、仁人くんはソファに座っていたけれど、ぼーっとしていて明らかに辛そうだった。
あなた
はい、どうぞ
仁人
…ありがと
素直に受け取る。

一口食べて、少しだけ目を丸くした。
仁人
おいしい
あなた
コンビニのおかゆだけどね
そんなことを言いながら少しずつ食べ進める。

その様子を見ているだけで安心した。



薬を飲ませて、ベッドへ追いやる。
あなた
寝て?
ベッドの横に座ると、仁人くんがこちらを見上げる。

少し潤んだ瞳。

熱のせいだと分かっているのに、ドキッとしてしまう。
仁人
…なに?
あなた
いや…
そう言ったきり、視線を逸らした。


部屋に静かな時間が流れる。

時々、仁人くんの辛そうに呼吸をするのが聞こえる。

それだけしんどいのだろう。

額に手を当てる。
あなた
まだ熱いね
仁人
でも来てくれたからちょっと楽になった
その一言に胸がはねる。




気づけば、夕方になっていた。
あなた
そろそろ帰ろうかな、
そう言った瞬間だった。

服の袖が、くいっと引っ張られる。

見ると、仁人くんがこちらを見ていた。
仁人
…帰るの?
思わず目を瞬く。

その声は弱々しくて、少しだけ寂しそうだった。
あなた
帰らない方がいい…かな?
冗談っぽく聞く。

すると仁人くんは数秒迷ってから、小さく頷いた。

その仕草があまりにも珍しくて。

思わず笑ってしまう。
仁人
笑わないでよ、
仁人
今だけじゃん、こういうの
耳まで赤くなっている。

熱のせいだけじゃない。

付き合ってから分かったけれど、仁人くんは意外と照れ屋さんだ。
仁人
……もう少しだけ、いてくれない?
小さな声。

お願いするような口調。

その瞬間、胸がぎゅっと締め付けられた。
あなた
わかったよ
即答すると、仁人くんは安心したように目を細めた。

そして次の瞬間。

そっと私の手を握る。
あなた
…仁人くん?
仁人
ちょっとだけ
弱った声でそう言う。

普段なら絶対にしないような甘え方。
あなた
離さないの?
仁人
寝るまで待って
そう言いながら、ぎゅっと少しだけ力を込める。

その手の温かさが愛しくて。

私は握り返した。

すると仁人くんは満足そうに笑う。
仁人
………好き
眠気に負けそうな声でぽつりと零れた言葉。
あなた
え?
仁人
来てくれて嬉しかった
その言葉を最後に、仁人くんは静かな寝息を立て始めた。

握られた手だけは離れないまま。

きっと明日になったら恥ずかしくなって ″忘れて″なんて言うんだろう。

でも。

こんな風に弱った時だけ見せる素直な姿を知っているのは、恋人の特権だと思った。

眠る仁人くんの前髪をそっと撫でながら、私は小さく笑った。

早く元気になってね、仁人くん。
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