電車のドアが閉まる音に紛れるように呟くと、隣に座った舜太くんが ″ うん ″と笑った。
朝からずっと一緒だったのに、まだ帰りたくない。
そんなことを思ってしまうくらいには、今日一日があっという間だった。
付き合ってまだ一か月も経っていない。
テーマパークデートなんて初めてで、待ち合わせの時からずっと緊張していた。
でも舜太くんはいつも通り。
アトラクションの列に並んでいる時も、ご飯を食べている時も、自然に話しかけてくれるから、気づけば緊張なんて忘れていた。
スマホを開く。
今日撮った写真がずらりと並んでいた。
ジェットコースターの後に髪が乱れている舜太くん。
ご飯を頬張っている舜太くん。
カチューシャをつけている舜太くん。
気づけばほとんど舜太くんばかりだ。
覗き込まれて慌ててスマホを伏せる。
そう言うと、舜太くんは少しだけ眉を下げた。
その顔がちょっと可愛くて笑ってしまう。
言った瞬間、自分で恥ずかしくなった。
なんで正直に言ったんだろう。
絶対変な空気になる。
そう思ったのに。
返ってきたのは、少し嬉しそうな声だった。
顔を上げると、舜太くんも少し照れたように笑っている。
心臓が跳ねた。
もう。
そういうことをさらっと言うから困る。
視線を逸らしながら窓の外を見る。
夜景が流れていく。
そのうち、朝から歩き回った疲れが一気に押し寄せてきた。
小さくあくびをするとすぐに気づかれた。
くすっと笑われる。
確かに眠い。
でも寝たくなかった。
恐る恐る隣を見ると…
舜太くんは少しだけ目を丸くしていた。
・
・
・
電車が揺れる。
眠気がどんどん強くなる。
目を擦ると、
そう言った直後だった。
ぐらり、と電車が揺れる。
思わず体勢を崩した私は、隣の舜太くんの肩に軽くぶつかった。
一瞬で眠気が吹き飛ぶ。
慌てて離れようとする。
そう言って舜太くんは私の肩を自分の方へと寄せる。
心臓がうるさい。そして、近い。近すぎる。
肩越しに柔軟剤の匂いがする。
意識した瞬間、余計に緊張してしまう。
舜太くんは気にしていないみたいだった。
そう言われると、もう抵抗できない。
恐る恐る肩にもたれかかる。
すると少しだけ肩の位置を調整してくれた。
まるで私が楽なように。
その何気ない優しさに胸がぎゅっとなる。
しばらく沈黙が続く。
でも不思議と気まずくなかった。
むしろ心地いい。
ふと視線を落とすと、隣にある舜太くんの手が見えた。
少しだけ触れそうな距離。
繋ぎたいな、と思う。
でも言えない。
そんな勇気はない。
すると。
指先に温かい感触が触れた。
驚いて見ると、舜太くんがそっと小指を絡めている。
まるで確認するみたいに。
少しだけ不安そうな顔。
その表情を見た瞬間、胸がいっぱいになった。
首を横に振る。
むしろ嬉しい。
そう言う代わりに、小指をぎゅっと絡め返した。
その瞬間。
舜太くんがふっと笑う。
その一言が、今日一日で一番嬉しかった。
テーマパークも楽しかった。
アトラクションも、ご飯も、写真も。
全部楽しかった。
でも今は。
隣にいる舜太くんの温もりだけで、十分幸せだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。