第10話

🩷 ドライブ
566
2026/06/12 18:00 更新
休日の朝、スマホが震えた。
勇斗
暇?
表示された名前は、佐野勇斗。
あなた
暇だよー?
そう返すと、すぐに既読がつく。
勇斗
海行かない?
相変わらず突然だな、と笑ってしまう。

結局断る理由もなくて、「いいよ」と送った30分後には、私は勇斗くんの車の助手席に乗っていた。
勇斗
おはよ。
あなた
おはよ。ほんとに海行くんだ、
勇斗
せっかく休みだしね
そう言って勇斗くんは車を走らせる。

車内には好きな音楽が流れていて、他愛もない話が続く。

最近見た映画の話。

友達の話。

コンビニの新作スイーツの話。

笑っているうちに、あっという間に海へ着いてしまった。
あなた
わー!!
目の前に広がる青い海に思わず声が漏れる。


砂浜を歩いて、写真を撮って、コンビニで買ったアイスを食べる。

特別なことは何もしていない。

なのに不思議なくらい楽しかった。

夕方になると空はオレンジ色に染まり始めていた。
勇斗
そろそろ帰るか
車に戻り、帰路につく。

遊び疲れたせいか、走り始めてしばらくすると眠気が襲ってきた。
勇斗
眠そうだな
あなた
んーちょっとだけ…
勇斗
寝てもいいよ
あなた
でも話し相手いなくなっちゃう
勇斗
安全運転するから
そう言われて小さく笑う。

勇斗くんの運転は安心できる。

窓の外を流れる景色を眺めながら目を閉じた。
あなた
今日たのしかったな……
半分夢の中みたいな状態で呟く。
勇斗
俺も
そのまま眠ろうとした時だった。
勇斗
お前といるとさ、
勇斗
どこ行っても楽しいんだわ
その言葉に、閉じていた目を少しだけ開く。

だけど勇斗くんは前を向いたまま。

気づいていないらしい。
勇斗
……だから困るんだよ
小さな声。

車のエンジン音に消えそうなくらい小さい。
勇斗
気づいたら会いたくなるし
勇斗
連絡来ると嬉しい
勇斗
友達のままが楽だと思ってたんだけどな、笑
私は完全に目が覚めてしまっていた。

だけど声を出せない。

出したら、この空気が壊れてしまいそうだったから。

やがて車は赤信号で止まる。

そのタイミングで私が身じろぎすると、勇斗くんがこちらを見た。

そして固まってしまった。
勇斗
…起きてた?
あなた
途中からね
勇斗くんはハンドルに額をぶつけそうな勢いでうなだれた。

思わず吹き出してしまう。
勇斗
聞こえてた?
あなた
もちろん
耳まで真っ赤になっている。

そんな姿が可愛くて、さらに笑ってしまった。
勇斗
何笑ってんの
あなた
だって勇斗くんがそんな顔するの珍しいから、笑
勇斗
かっこよく告白するつもりだったんだけどな
その言葉に、今度は私が固まる番だった。

勇斗くんは照れたように笑う。

そして、信号が青に変わる。

車がゆっくり動き出した。
勇斗
…好き、
まっすぐな一言。
あなた
…わたしも
そう答えると、勇斗くんは少しだけ目を見開いて、それから嬉しそうに笑った。



家の近くまで送ってもらい、車を降りる。
あなた
今日は本当にありがとう!
勇斗
こちらこそ
あなた
また海行こう!
そう言うと、勇斗くんは首を横に振った。
勇斗
海じゃなくていい
勇斗
あなたの下の名前ちゃんとならどこでも楽しいから
    もう二度と、この助手席をただの友達として座ることはなかった。

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