休日の朝、スマホが震えた。
表示された名前は、佐野勇斗。
そう返すと、すぐに既読がつく。
相変わらず突然だな、と笑ってしまう。
結局断る理由もなくて、「いいよ」と送った30分後には、私は勇斗くんの車の助手席に乗っていた。
そう言って勇斗くんは車を走らせる。
車内には好きな音楽が流れていて、他愛もない話が続く。
最近見た映画の話。
友達の話。
コンビニの新作スイーツの話。
笑っているうちに、あっという間に海へ着いてしまった。
目の前に広がる青い海に思わず声が漏れる。
砂浜を歩いて、写真を撮って、コンビニで買ったアイスを食べる。
特別なことは何もしていない。
なのに不思議なくらい楽しかった。
夕方になると空はオレンジ色に染まり始めていた。
車に戻り、帰路につく。
遊び疲れたせいか、走り始めてしばらくすると眠気が襲ってきた。
そう言われて小さく笑う。
勇斗くんの運転は安心できる。
窓の外を流れる景色を眺めながら目を閉じた。
半分夢の中みたいな状態で呟く。
そのまま眠ろうとした時だった。
その言葉に、閉じていた目を少しだけ開く。
だけど勇斗くんは前を向いたまま。
気づいていないらしい。
小さな声。
車のエンジン音に消えそうなくらい小さい。
私は完全に目が覚めてしまっていた。
だけど声を出せない。
出したら、この空気が壊れてしまいそうだったから。
やがて車は赤信号で止まる。
そのタイミングで私が身じろぎすると、勇斗くんがこちらを見た。
そして固まってしまった。
勇斗くんはハンドルに額をぶつけそうな勢いでうなだれた。
思わず吹き出してしまう。
耳まで真っ赤になっている。
そんな姿が可愛くて、さらに笑ってしまった。
その言葉に、今度は私が固まる番だった。
勇斗くんは照れたように笑う。
そして、信号が青に変わる。
車がゆっくり動き出した。
まっすぐな一言。
そう答えると、勇斗くんは少しだけ目を見開いて、それから嬉しそうに笑った。
・
家の近くまで送ってもらい、車を降りる。
そう言うと、勇斗くんは首を横に振った。
もう二度と、この助手席をただの友達として座ることはなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。