皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。
近年、日本でもキャッシュレス化が急速に進み、スマートフォンやクレジットカードさえあれば現金を持たずに生活できる場面が増えました。しかし、一歩都心を離れたり、特定の施設を利用したりすると、まだまだ現金のみということも少なくないのが日本の現状です。
今回は、筆者が駅の現場で実際に直面し、頭を抱えたエピソードをもとに、キャッシュレス化の過渡期にある日本で起きている混乱模様をご紹介します。
「現金が一切ない」駐車場でのパニック
筆者が以前勤務していたのは、観光地の玄関口となる駅でした。日常的な通勤・通学で利用される駅とは異なり、観光地ならではのさまざまなトラブルが発生する職場でしたが、その中でも一番印象に残っている出来事があります。
ある日、駅の窓口に若い家族連れが駆け込んできました。お話を伺うと、駅前のコインパーキングに車を停めて出庫しようとしたところ、精算機が「現金のみ」の対応だったというのです。このご家族は完全なキャッシュレス主義で、手元に紙幣も硬貨も一切持っておらず、車を出せずに立ち往生してしまったとのことでした。
あいにく、その駅の周辺には銀行もコンビニのATMもありません。かといって、駅の売上金をお客様に貸し出すようなことは規則上絶対に不可能です。困り果てた末にひねり出した苦肉の策は、クレジットカードで購入できる一番安い乗車券を買っていただき、電車に乗って銀行がある隣の駅まで現金を下ろしに行っていただくというものでした。ご家族には手間のかかる方法を取っていただきましたが、なんとかその場を収めることができました。
言葉の壁とお金の説明
日本の主要な商業施設やホテルではキャッシュレス対応が進んでいますが、観光地から一歩離れた場所にある個人商店や路線バス、そして先述のような駐車場の精算機など、思わぬところに現金しか使えない落とし穴が潜んでいます。
キャッシュレスが主流の社会から訪れる外国人観光客の中には、クレジットカードやスマートフォン決済しか持っていないという方も少なくありません。
筆者自身、別の場面で交通系ICカードがエラーになり改札を通れなかった外国人観光客の対応で、非常に苦労した思い出があります。
状況を調べると、前回の乗車時に降りる駅で正しく改札機にタッチできておらず、カードに「出場記録」がないためロックがかかっていました。これを解除して不足分の運賃を精算しなければならないのですが、まず「前回、どの駅で乗って、どの駅で降りたのか」を聞き出すだけでも一苦労です。お互いに英語が母国語ではない者同士、スマートフォンの翻訳アプリを片手に身振り手振りで意思疎通を図りました。
ようやく乗降駅がわかっても、今度は「なぜ前回正しくタッチできていなかったのか」「なぜ今ここで精算が必要なのか」という日本のICカード特有のルールを理解してもらうのにさらに時間がかかりました。お金を請求する形になるため、説明不足だと「ぼったくられているのではないか」という不信感を与えかねません。言葉の壁がある中で、システム上の理由を丁寧に説明して納得していただくのは、まさに冷や汗をかくような体験でした。
費用対効果と現場の温度差
こうした外国人観光客への案内やトラブル対応をスムーズに行うため、筆者の勤務する鉄道会社でも、かつて主要駅に外国語対応専門のアテンダントを配置していた時期がありました。
しかし、残念ながらその試みは長くは続きませんでした。人件費の問題に加え、専門の係員を常駐させなければならないほどひっきりなしに外国語の問い合わせがあるわけではなく、アテンダントが窓口で時間を持て余してしまう状況が続いたため、結局配置を取りやめてしまったのです。
キャッシュレス決済への対応や、多言語でのサポート体制は観光地として不可欠です。しかし、行政や会社が描く理想と、導入にかかる費用対効果、そして現場の実態との間には大きな温度差があり、決してスムーズには進んでいないのが現状です。
多くの観光客を受け入れている諸外国のように、遠い国から来た外国人観光客でも、そして国内の日本人でも、インフラの壁に阻まれることなく誰もが快適に観光を楽しめるような日本になることを、現場の最前線から強く願っています。
ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、同業界に15年以上従事。鉄道部門だけでなく、タクシーやバス、小売りといった関連事業にも幅広く携わる。現在はWebライターとしても、広報を担当した経験を活かし、コラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで多岐にわたって活動中。