夏祭りの日。
待ち合わせ場所に着くと、舜太くんは私を見るなりふっと笑った。
不意打ちの一言に思わず顔が熱くなる。
舜太くんとは幼なじみで、昔から照れもせずに思ったことを口にするから、こっちばかり振り回される。
舜太くんはそんな私をみて楽しそうに笑う。
それから私たちは屋台を回った。
射的をしたり、かき氷を食べたり、他愛もないことで笑い合ったり。
ずっと楽しみにしていた夏祭りは、想像以上に楽しかった。
人の流れに乗って歩き始めたころだった。
かかとに鋭い痛みが走る。
思わず足を止めた。
慣れない下駄で靴擦れしてしまったらしい。
少し休めば大丈夫だと思ったけれど、人の波はどんどん流れていく。
顔を上げた瞬間、血の気が引いた。
さっきまで目の前にいた舜太くんの姿が見えない。
呼んでみても、人々の話し声にかき消される。
追いかけようとしても、足が痛くて思うように進めない。
スマホを取り出したけれど、回線が混雑しているのか連絡も繋がらなかった。
どうしよう。
急に胸の奥がざわつく。
こんなにたくさん人がいるのに、ひとりぼっちになった気がした。
私は人混みを避けるように端へ移動し、近くのベンチに腰を下ろした。
花火開始まであと少し。
それなのに、楽しみだった気持ちはどこかへ消えてしまっていた。
数分後。
聞き慣れた声が響く。
顔を上げると、舜太くんがこちらへ走ってくるのが見えた。
息を切らしながら、真っ直ぐ私のところへ。
私の前で立ち止まると、大きく息を吐いた。
そして、舜太くんの視線が私の足元へ移る。
その優しい声に、張り詰めていた気持ちが少しだけほどける。
すると夜空に大きな音が響いた。
花火だ。
色とりどりの光が空いっぱいに広がる。
私たちは並んで花火を見上げた。
だけど、隣にいる舜太くんの存在の方が気になって仕方なかった。
しばらくして、舜太くんがぽつりと口を開く。
花火の光に照らされた横顔は、いつもより真剣だった。
胸がどくん、と鳴る。
聞いた瞬間、舜太くんが私を見る。
まっすぐな瞳。
逃げ場なんてなかった。
花火の音が遠くなる。
聞こえるのは自分の心臓の音だけ。
その言葉がおかしくて、思わず笑ってしまう。
言った瞬間、舜太くんの目が大きくなった。
そして安心したように笑う。
その笑顔を見たら、私まで嬉しくなった。
夜空には大輪の花火。
その光の下で、舜太くんがそっと手を差し出す。
少し迷って、その手を握った。
すると舜太くんは優しく握り返してくれる。
そう言ってくれる舜太くんの横顔が、花火よりもずっと眩しく見える。
この夏祭りは私にとって一生忘れないものとなった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!