お気に入りのカフェに通うようになったのは、静かに本が読めるから。窓際の席に座って、小説を開く。それが私の休日の過ごし方。
その日、本棚から手に取ったのは前から気になっていた恋愛小説だった。席に戻ってページを開こうとした時、ふと視界に入った人に目を奪われる。
向かいの席に座る男の子。
そして、その手には私と同じ本。
思わず見てしまった私に気づいたのか、その人は少しだけ本を持ち上げてこちらを見た。
それが、吉田仁人くんとの出会いだった。
それから不思議とカフェで会うことが増えた。同じ時間に来て、同じ本を読む。
最初は軽く挨拶するだけだったけれど、
そう聞かれてからだんだんと話すようになった。
″ あそこ、切なかったよね。″
とか
″ ここでまさかこうなるとはね。″
とか、私は本の話をする時間が楽しくなっていた。
気づけば、本の話以外もするようになっていた。
好きな作家のこと。趣味。休日の過ごし方。
カフェに行く理由も少し変わった。本を読みたいからじゃない。
″″ 仁人くんに会いたいから。″″
そんな自分に気づいたのは、小説が終盤に差しかかった頃だった。
でも同時に思う。
この本を読み終えたら、私たちが話す理由もなくなってしまうんじゃないか、と。
そして迎えた最後の日。
私は読み終えた本を閉じて、大きく息を吐いた。
少し寂しく呟くと、向かいに座る彼も同じように本を閉じる。
それだけなのに胸が苦しくなった。来週から何を話せばいいんだろう。もう会えなくなるかもしれない。
そんなことばかり考えてしまう。
俯いた私に、彼が小さく笑った。
顔を上げる。
彼は真っ直ぐ私を見ていた。
一瞬、言葉の意味がわからなかった。
心臓だけがうるさい。
彼は少し照れたように笑った。
窓から差し込む夕陽が、テーブルの上をオレンジ色に染める。
私は思わず笑ってしまった。
彼の表情がぱっと明るくなる。
その顔を見た瞬間、胸の奥が温かくなった。
物語は終わった。
でも_
私と彼の物語は、きっと、
ここから始まる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。