《地獄での楽しみ?》
宿舎の岩風呂は天然温泉でしたが、先輩たちが先に入る。同期の駒大トリオ(中畑清、二宮至、平田薫)も含め、みんな年上です。赤嶺賢勇(投手、沖縄・豊見城)が一番下で僕が次。最後に入る。湯舟の底は泥がたまっていてザラザラでした(笑)。
僕はあまり飲まないけど、夕食はビールも禁止でした。岡嶋義彦トレーナーが「養命酒はダメですか?」って(笑)。夕食後はミーティングです。土井正三コーチがシーズンの反省、分析をしてましたが、眠気がすごくって。1週間ほど遅れて青田昇コーチが合流して「飯を食うときビールの1本くらい…」って解禁になり、ミーティングもやめた。個人のレベルアップ、肉体改造をしにきている。講義はいいでしょ(笑)。
休日は2回かな。最初の休みは阿野鉱二コーチの提案で船を借りてアジ釣りに行きました。ビールを持ち込んで一番張り切っていた阿野さんは船がちょっと走ったらすぐ船酔い(笑)。アタリがきたと思ったら反対側に乗っていたヤツの釣り糸が絡んだりして。みんなワイワイ楽しんでましたね。2回目はミスターが川奈ホテルへ食事に連れて行ってくれた。オマールエビのカレーを食べたかな。
《伊東キャンプ締めを飾る〝地獄のクロスカントリー〟は膝が笑い、尻が割れる…》
伊東スタジアムから裏山を5キロほど登った馬場の平という丘陵地にモトクロス場の跡地がありました。休日前、午後練習の総仕上げで走りました。5、6回やったかな。1周400メートルくらい。本来はバイクが走るところですよ。「こんなところを走るの?」ってくらい地面はデコボコでね。最初は70、80メートルくらいの坂を駆け上がって最後は下り。10キロほど走る。膝が笑う。尻が割れるって。キツイなんてもんじゃなかった。でもあれで足首とか鍛えられた感じはしますね。
《ミスターに暴言?》
ふふふ…。本当は監督(長嶋茂雄さん)に言うつもりはなかったんです。監督に言えるわけないじゃないですか。僕らがキツイ練習で走っているのに、コーチらは新聞記者の人たちとしゃべっている。監督じゃなくコーチを走らせたくて、「チクショウ」って思っていたら中畑さんが突然、「オイ、シノ、監督を走らせろよ」ってね。でも「監督、走ってください」ではインパクトはない。どうしようかと考えていたら、監督に近づいて、ちょうど腕組みをしていた。言ったんですよ。
「監督、腕組みなんかしてねぇで、一緒に走ってみろよ!」
こっちは集団で走ってるから誰が言ったのかわからないだろうという感覚でした。すると中畑さんがすぐに大きな声で「シノ、お前、監督に何てこと言うんだ」って。中畑さんの策略に乗せられた。それが真相です。
でも「ナニィ~!!」ってミスターが猛ダッシュして先頭に立って走ってましたね。途中で皆で抜いちゃったけど。最後は1人で下りてきたので「お疲れス」と皆で声をかけたら、ミスターもうなずいてくれて。
そのときですよ。20日以上キャンプをやってきた。でも長嶋さんは長嶋さんです。まだ雲の上の人です。なかなかこちらから近づいていくことはできなかったけど、最後のシーンで何か距離が近くなった気はしました。
監督が自分で、新たなチームを作るという入れ替えの時期でした。僕らもそういう言葉をもらいながら猛練習に励みました。後にこのメンバーで「伊東会」を作ってゴルフコンペなど年に1度は集まって、「あんな練習は二度とできない」「猛練習があったからこそ」と盛り上がった。けど当時は練習をしながら、このメンバーでV9メンバーのようなチームを作るのは難しいだろうな、長嶋さん、王さんが抜けてどうなるんだろうな…という思いはありました。
でもやり切ったという自信は恐ろしいですね(笑)。(聞き手 清水満)