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医療の現場で見た、尊厳が削られていく瞬間 看護師としてのわたし①


看護師リアルエッセイ連載中です
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痛みには、いくつものかたちがある

医療の現場で見た、尊厳が削られていく瞬間

痛みは、身体だけに現れるものではありません。
心や、社会とのつながり、そして人としての尊厳が静かに削られていくことも、確かな痛みだと、医療の現場で知ったお話です。

コロナ禍の頃、外科病棟で看護師として勤務していました。
面会は制限され、病室には家族の姿がありませんでした。
人が人として生きるうえで大切なものが、静かに削ぎ落とされていた時代だったと思います。

大部屋に、ひとりの高齢の男性患者さんがいました。
咽頭がんで、病状や手術の影響から言葉を出すことができませんでした。
会話は筆談が中心でしたが、年齢や全身状態の影響もあり、文字を書くことも、読むことも容易ではなく、お辛そうでした。

その患者さんは、起きてはベッドの端に腰をかけ、
一日中、同じ一点を見つめて過ごすことが多い方だったのです。
食事が運ばれてきても、なかなか手が伸びない。
おいしいとも、まずいとも言えない。
つらい、苦しい、寂しい。
そうした感情さえ、どこに出せばいいのかわからないように、私には見えました。

夜になると、ナースコールが鳴ります。
何度も、何度も。

行ってみても、言葉は出ない。
質問をしても、うまく意図が伝わらない。
身体が痛いのか、心がつらいのか、孤独なのか。
看護師として評価しようとしても、輪郭がつかめませんでした。

心電図モニターの波形に大きな異常はなく、
呼吸状態にも急変はありません。
痛み止めや麻薬を調整しても、その訴えは消えませんでした。

薬では届かない痛みがある。
そのとき、言葉やまなざし、そばにいるという行為そのものが、
唯一の処方になることがあります。

その患者さんは、
言葉を奪われ、
自分で何かを決める選択肢を奪われ、
社会の中で担ってきた役割を失い、
家族や人との関係性からも切り離されていました。

「患者」という立場だけが残り、
その人がどんな人生を生きてきたのか、
何者だったのかを示すものは、ほとんど見えなくなっていたのだと思っています。

夜間は業務も多く、正直、ゆっくり関わる余裕はありませんでした。
とにかく、忙しいのです。
それでもチームメンバーに声をかけ、協力を得ながら、
私はその患者さんのベッドの隣に座り、一緒の時間を作りました。

その患者さんは、私の目をじっと見つめてきました。
症状ではなく、
「自分がここにいる」ということを
必死に伝えようとする目だったことを記憶しております。

しばらくすると、その患者さんの目からは大粒の涙があふれました。
言葉にならないまま、私の手を強く握ります。

苦しい。
寂しい。
ひとりが怖い。
助けてほしい。

その訴えは、言葉よりもはっきり伝わってきました。

その人には、身体の痛みももちろんあったと思います。
でも、それ以上に大きかったのは、
老いていくこと、
できていたことが一つずつ失われていくこと、
そして「自分は誰なのか」を示す役割を失っていくことの痛みでした。

それは、尊厳が静かに削られていく痛みでした。

相当歳の離れた看護師にそこまでしがみつく患者さん。
よほど、辛くて苦しくて 身の置き所のない苦しみ、悲しみ、言葉にできない思いの中でもがいていたんだと思います。

私は、その患者さんと、もっと話したかった。
若いころはどんな仕事をしていたのか。
何が好きで、何を大切にして生きてきたのか。
好きな食べ物は何だったのか。

もっと、人と人として関わりたかった。

でも、その問いを交わす時間は、
もうほとんど残されていませんでした。

後日、その患者さんは、震えるような文字で
「ありがとう」と書いた紙を、私に手渡してくれました。
その一言に、その人の人生のすべてが込められているように感じて、
涙が止まりませんでした。

自分の関わりが正しかったのかは分かりません。
正解だったとも思えません。
ただ、病気ではなく、
「その人自身」に向き合おうとしたことだけは、
間違いではなかったと思っています。

その患者さんは、その後まもなく亡くなりました。
穏やかな表情でした。
コロナ禍の中、最期を支えていたのは医療者でした。

私は今でも、その人を忘れることができません。
助けてほしいと訴える、あの目。
もっと人として関わりたかったという後悔。

それが今も、
看護とは何か、
人を看るとはどういうことかを、
私に問い続けています。


※本記事は、患者さんおよびご家族のプライバシーに配慮し、病状や経過、個人が特定される情報は一部変更・ぼかして記載しています。

感動ポルノでかいているわけではありません。命や尊厳は人にとってなくてはならないものです。


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心のざわめきや、誰にも言えなかった想いを ことばと音で紡いでいます。綺麗ごとじゃなく、リアルで、生々しく、鋭く、えぐるものを。 🌙詩・歌詞・楽曲・エッセイを通して、 🩹痛みも弱さも、そのまま抱きしめられる作品を発信中。 皆さん♪お気軽に絡んでください💛 ※音楽は各種配信中
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