いぬころ流作詞講座③ 〜テクニック編〜
初めに
3度目まして、いぬころです🐶
このノートは書き始め編からのシリーズとなっておりますのでよければそちらをみてから戻ってきていただけるとウレシイ…
今回は言い回しなど、お気に入りのテクについて解説いたします!
ちょっと長くなりそうですのでできるだけ手短にお話ししますね
最もよく使う強力なテクニックとして「ある単語に対して、自分なりの解釈(多少無理のある曲解)を付け足す」というものがありますが、これについては上記の書き始め編にて解説しています。ご確認くださいまし…。
私が作詞で重視しているのは、とにかく聞き手の印象に残ることです。ここからは、印象に残るために有効なテクニックをいくつかご紹介します!
珍しい単語を使おう
まず一つ目が珍しい単語を使うことです。
みなさんは「カフネ(Cafuné)」という単語をご存じでしょうか。これはポルトガル語で「愛する人の髪の毛にそっと指を通す仕草」を表す言葉です。この単語は通常恋人関係には使わないそうなので、「撫でる」とはまた違う意味を持つ単語です。そうすると、作詞者がわざわざカフネという単語を用いたことに意味が生まれます。
それだけでなく、難しい単語ばかりの歌詞は聞くのに疲れてしまうかもしれませんが、普通の歌詞の中に1つだけちょっと珍しい単語があると印象に残りやすいですし、どういう意味なんだろう、と好奇心を掻き立てることにも繋がります。
「そんなオシャレな外国語の語彙力なんてないよ!」という方におすすめなのが、偉人、心理学の用語、あるいは神話や物語の登場人物の引用です。
例えば、オフィーリアは、シェイクスピアの悲劇『ハムレット』に登場する主人公の恋人であり、最愛の恋人に父を殺され、正気を失った挙句川で溺死する悲劇的なヒロインです。オフィーリアを題材とした絵画も数多く存在し、「オフィーリア」という名前には既に背景が存在します。
他の例としては、ハリー・ハロウという心理学者は、愛着形成についての研究を行いましたが、そのアカゲザルの実験には多くの倫理的問題があり、非難が殺到しました。「ハリー・ハロウ」という名前にもやはり多くの背景が存在します。
このように、珍しい名詞を使うことで作詞家があえてその名詞を引用した意味が生まれ、作品に解釈の幅を持たせることができます。
ただ、一つ注意点としては引用元にリスペクトを持ちきちんと下調べをした上で利用すべきであるということです。愛着は何かをあたえられて形成されるという歌詞を書きたい時に、ハリー・ハロウの引用は適切ではないでしょう。
変わった言い回しをしてみよう
これは川谷絵音氏がテレビか何かでおっしゃっていたことです。
川谷絵音さんの作品では「私以外私じゃないの」や「ロマンスがありあまる」などユニークなフレーズを用いることが多いです。これもやはり、リスナーの耳に残るための工夫であり、どういう意味なんだろう、という考察のきっかけになるからというのが大きな理由だそうです。
とはいえ、誰の耳にも残るキラーフレーズを考えるのは至難の業です。後述するテクニックも参考にしていただければ幸いです…。
自分の曲を引用してみる。
これは既にリスナーを獲得している方向けになりますが、自分の過去作の歌詞やタイトルを引用したり、合作相手の小ネタを含めたりするのも面白いと思います。
例えば、かつての恋人への怒りを歌った「メアリー•スーの告解」では歌詞の中にいぬころの過去作「そういえば、」「ダァリン」が露悪的に登場します。他のテクニックに比べるとかなり自己満足よりになりますが、引用にはやはり意味が生まれます。
「あなたが作ったあの歌じゃきっと
私は幸せ、それでいいのでしょう。
そういえば、最後になった純情も初めてだったキスだって
貴方のセイだ、だから⚪︎んじゃえよ。
グッバイ、ダァリン!」
ボカデュオのようなお祭りイベントやn周年記念の楽曲では意味もなく歌詞に小ネタを挟むのもいいと思います!特にボカデュオはメンバーに喜ばれるのでおすすめです。
小手先のテクニック紹介
以降は作詞に使えるテクニックを乱雑に紹介していきますっ!
皆様の参考になれば幸いです。
対比
なにか2つの事柄を並べ、それぞれの違いや特徴を際立たせる技法のことです。
改竄しちゃって都合よくlo-fiしちゃってミステリー
そんなんで僕たちは進めんの?って
毎回嬌って思考せず狼狽しちゃってヒステリー
そんなんで僕たちは、
韻を踏みつつ同じ文構造を繰り返すことでリズム感を生み、文章の先を予想させながらも2回目の分は途中で区切ることで予想を裏切っています。
似た展開を繰り返すことでやはりリスナーに印象付けることができ、その先の展開や言葉の意味を変えることでリスナーの予想を裏切ることができます。
あのね、貴方がくれたスカートは
なんか汚せなくて大事に閉まったまま
いつか私があげたコートは
どうせ、タバコの匂いが移ってる
あのね、貴方がくれたスカートは
後で着ようとして埃を被ってる
きっと私があげたコートは
貴方を温めてさ、誇りに思ってる
この例では、1番のAメロと2番のAメロで視点が変わっています。対比構造を用いつつ、伝えたい内容は真逆にすることで歌詞が綺麗にまとまっています。
リフレイン
同じ単語や似たような単語を繰り返す手法です。
何回も何回も怒らせて
何回も何回も困らせて
何回も何回も許されて
何回も何回もこれからも
こうやってずっといられたなら、いいね。
あなたが落とした夜空が、
あなたが流した涙が、
あなたが、私を切り裂く。
それでも2人忘れてキスをした。
歌詞を繰り返すことである程度のキャッチーさが生まれます。
2つ目の例では前二つは「あなたが〇〇した」と連体形につなげ名刺を修飾していますが、最後は主語になることで意外性を持たせています。
裏切りの技術
いぬころが命名しました!調べても出てこないかもしれない。
歌詞の途中までで今後の展開を予想させ、それを裏切る手法です。こちらが提供するスピードで歌詞を受け取らせることができる音楽ならではの手法だと思います。
例を提示します。
もしも、君のこの世でただ一つになれたなら
ここまで読んでどうでしょうか。
もしも、君のこの世でただ一つになれたなら…と来たら、何か嬉しいこと、喜ばしいことが来そうだと予想するのではないでしょうか。
もしも、君のこの世でただ一つになれたなら
きっと孤独だ。それは私によく似た何かだ。
ですが、実際には「君」の理想と「私」が遠く離れているのを嘆く、寂しさや悲しさを表す歌詞になっています。
このように、意外な展開を混ぜておくことで印象深い歌詞になります。
その他こだわり
助詞を工夫してみる
死にたいなんて馬鹿らしいのに
生きたいねって繰り返してた!
今更だって振り解きはしないで。
自然な日本語としては「死にたいなんて馬鹿らしいから生きたいねって繰り返してた!」ですが、敢えて助詞を「のに」にしています。
ちょっとした改変で文そのものの意味を変え、違和感を持たせています。
記号をつけてみる
さよなら!桜は散るのに
どうしてそれも言えないの?
体を重ねて隠した
使い潰して汚れた引力
あなたが私を呼ぶから
私はあなたのものだよ。
そうしてゆっくりと潰れる
違える思い、確かな引力で。
アストロノーツのラスサビでは記号「!」「?」「。」「、」が使用されています。以下のバージョンと見比べてみてください。
さよなら 桜は散るのに
どうしてそれも言えないの
体を重ねて隠した
使い潰して汚れた引力
あなたが私を呼ぶから
私はあなたのものだよ
そうしてゆっくりと潰れる
違える思い 確かな引力で
記号の有無によって、感情の乗り方が違って見えませんか?
他にも(笑)やwを歌詞に含めるとシニカルな雰囲気になりますし、句読点だけに絞って使うと落ち着いた文学的な雰囲気になります。
韻を敢えて踏まない
めちゃめちゃ韻を踏むパートの直後に、韻を踏まない単語を置くという手法があります。敢えて韻を踏まないことでその単語だけ浮くのでそれを逆に利用してその単語を目立たせるのです。
いじらしく足掻いて届けたいのに
良い人になんてなれないまま
君だってどうせ違う人だからさ
話がしたいよ!
この歌詞では、3行目まではイイの頭韻で統一されていますが、最後の1行は全く踏まれていません。この曲の主題である「対話」を際立たせるために踏まないという選択肢をとりました。
日本語にこだわる
小中学校で習うような助詞や直喩には、想像以上のパワーがあります。
例えば、「なのに」というフレーズには「本来こうあるべき」という前提が背景としてありますし、「〇〇だから」というフレーズにはその言葉を発した人の価値観や考えが投影されています。
死にたいなんて馬鹿らしいのに
生きたいねって繰り返してた!
例えば、この曲では本来だと「死にたいなんて馬鹿らしいから行きたいねって繰り返してた!」が自然な日本語になりますが、あえて「のに」にすることで主人公の思想にチューニングし、リスナーの解釈の余地を残しています。
また、別の例で言うと「〇〇みたいだ」という直喩は、裏を返せば「それは〇〇ではない」と言うことでもあります。「どうせ」と言う言葉は諦観のイメージが強く、そこに至るまでのストーリーを想起させます。
このように、些細な言葉も蔑ろにせず丁寧に扱えば、その言葉の端端で主人公の価値観や考え方を知らず知らずのうちにリスナーにすり込むことができるのです。
(7/7追記)
また、普段あまり見ない組み合わせの単語を合わせるのもオシャレです。隠喩と組み合わせると良いかもしれません
ごめんね。私は言うけど
あなたに届かないみたいだ。
2人の間の宇宙が
言葉を食べる、正しく惑う。
ここで注目して欲しい点は最後の1行です。「宇宙が言葉を食べる」は比喩的な表現ですが読解するのは難しくないと思います。一方で、「正しく惑う」は一見文法的に間違っており、破綻しているように見えますが、歌詞においては(意味があるなら)良いスパイスになるんじゃないかなと思います。
終わりに
以上が、私が普段の作詞で意識している下準備やテクニックの数々です。
3回目の繰り返しになりますが、これができていれば「良い作詞」、できていなければ「悪い作詞」という明確な基準なんてものは存在しません。みなさんが「これが好きだ!」と思うやり方で、自由に言葉を紡いでいただくのが一番です。
ただ、昨今の音楽シーンを見渡してみると、少し寂しいことに「歌詞が軽視されがち」な風潮があるのも事実です。1曲が消費されるスピードが早くなり、どうしてもメロディのキャッチーさや、一瞬のノリの良さばかりが重視されてしまう現状があります。
しかし、言葉を扱う「作詞家」として作品に関わるからには、聴き手が思わず歌詞カードを読みたくなるような、言葉そのものを好きになってもらえるような歌詞を書く責任があるのではないか。私はそう考えています。
どうせ今の時代、歌詞なんて真剣に読まれないと嘆いて諦めてしまう前に、読んでもらうための工夫や仕掛けを自分は尽くせているかどうか、一度自分の胸に問い直してみることも大切なのではないでしょうか。
ネットの海の膨大な楽曲の中から、自分の曲を見つけてくれた誰かが、歌詞の1行を見ただけで思わず手を止めて読み耽ってしまう。そんな、人の心を掴んで離さない歌詞をいつか書けたらいいなと、私自身も日々、強い自戒を込めて考えています。
全3回にわたってお送りした作詞解説Note、いかがでしたでしょうか。 あなたの作る音楽が、あなただけの特別な言葉で彩られることを、心から応援しております!
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
またどこかでお会いしましょう!🐶
今回引用した曲
よかったら聞いてみてくださいっ!


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