第46話 セイ、天皇となる
「本日より余は祟神天皇と名乗る!よいな!我は祟りの神であり、天の皇(すめら)である!我に逆らうものには祟りがふりかかるぞ!!」
「ハハー!! テンノウ! オレタチノオウ テンノウ!タタリコワイ! オレタチノオウ テンノウ!」
「では下がれ」
「ハハー!」
「まったく、ヒグチは心底クズな男だったが、知的レベルは高かったな。こういう会話も奴としか成立せんのが腹立たしい。この漢字を教えても理解できるものすらほとんどおらんからな。まあ、地頭の良さそうな子供を教育すれば、何人かは使えるようになろう」
ふと、セイはヒグチが自分は地頭が良いとか自慢していたのを思い出した
「あれこそがあいつが言っていた『コンプレックス』というやつだろうな」
くっくっと思い出し笑いをしながらも、セイが物語を綴る筆は止まらない。ヒグチのことを思い起こせば、創作意欲は無限に湧き出るからだ。
「オオモノになりたいとか言っておったから、オオモノヌシという名にするとしよう。知識を授けてくるが近くに置きたくない神。せめて物語の中でだけは、望み通りオオモノとして見初めた相手と結ばせてやるか。くっくっく」
~
大物主は、出自が不明とされる謎の神である。
日本神話に登場する神、たとえばアマテラスやスサノオにはモデルがいたことが伺われ、出自についても説明があるが、崇神天皇が疫病を鎮めるために祀ったとされる大物主は出自が明らかではない。
残っているエピソードとして、勢夜陀多良比売(セヤダタラヒメ)という美人に一目惚れした大物主が矢に姿を変え、セヤダタラヒメがトイレ(川の上に建てた小屋)で用を足していると、川の流れに乗ってトイレの下から侵入し、セヤダタラヒメのホト(陰部)に突き刺さったというものがある。セヤダタラヒメがその矢を持ち帰ると、矢は大物主の正体を表し、2人は結ばれたという。
他には、倭迹迹日百襲姫(ヤマトトトヒモモソヒメ)に一目惚れした大物主が、毎夜ヒモモソヒメの寝所を訪れる。ある日、ヒモモソヒメが小物入れをあけてみると、そこに蛇に化けた大物主が「いた」という。驚いて尻もちを突いたヒモモソヒメは、その拍子にホト(陰部)に箸が突き刺さって死んだ。
ここで興味深い点として、日本で箸が使われるようになったのは7世紀になってのことで、4世紀頃の逸話に箸が出てくることの解釈は学会でも揺れている。祭祀用の「ハシ(トングのようなもの)」を箸としたのか、それともこの時代にごく一部では箸を使う者がいたのか、どちらが正しいのかはわからない。
また、日本神話において情事を描いたエピソードは意外と少ない。イザナギとイザナミの国産みと、大物主のこのトイレ襲撃・小物入れに「居た」エピソードくらいなのである。
いったい、大物主にはどんなモデルが居たのだろうか。よく日本人は浮世絵の頃から触手やBLを描いていた民族であるといわれる。トイレに行った時に下から侵入したり、小物入れの中に入って待ち伏せするストーカーのような気質も、神話の時代からあったということになる。
しかしそんな珍妙なエピソードしか残っていない大物主は、初めて日本を統一したとされるハツスメラミコト、崇神天皇が疫病を鎮め国を統べる際に祀った神だというのだ。大物主のモデルとなったのは、崇神天皇を支えたストーカー気質の軍師だったのかもしれない。日本書紀や古事記の原典とされる「帝紀」を読めばその認知も読み解けるかもしれないが、別の解釈が入った日本書紀や古事記からわかることは少ない。
そもそも天皇の歴史というのは疫病と切っても切れない関係にあり……
民明書房 本当に面白かった日本神話 暇空茜著 より
認知プロファイリング探偵松尾光 暇空茜 @himasoraakane
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