ー勇斗sideー
今日は宮城公演前日のリハ。
朝、楽屋に入ってきた仁人を見た瞬間、ほんの少しだけ違和感があった。
仁「おはよ」
いつも通りの声。
でも、
(…今日、音きつい日かもな)
仁人が大きい音とか、重なる音が苦手な日があることは、前から知ってる。
「昨日ちゃんと寝た?」
なんとなく聞く。
仁「うん、まあ」
少しだけ間があく。
(あー、これ微妙なラインだな)
完全にダメなときは、もっとわかりやすい。
でも今日みたいな“ギリいける日”が一番危ない。
—
会場に入って、音が出た瞬間。
仁人がイヤモニを触る。
(やっぱり)
一回じゃない。
何回か、微調整してる。
でも、何も言わない。
(言えよ…)
思うけど、言わないのもわかる。
本番前、流れ止めたくないって考えるタイプ。
—
リハが進む。
仁人は普通にこなしてる。
でも、
(余裕ないな)
表情がほんの少し固い。
視線もあまり上げない。
ー
何回か目が合いそうになって、
そのたびに逸らされる。
(バレたくないんだろうな)
そう思うと、踏み込みづらくなる。
「一回休憩入りまーす!」
その声で、仁人が少しだけ下を向いたまま止まる。
(今なら声かけられる)
まだ間に合う。
そう思って、一歩踏み出しかけた。
—
そのとき。
キィィィィィンッ
会場に、鋭い音が突き刺さる。
—
「うわ…」
最悪のタイミング。
視線を戻した瞬間、
仁人の肩が大きく跳ねた。
すぐに近づく。
「仁人?」
顔色が明らかに変わってる。
ー
呼吸が速い。
浅い。
さっきまでの“ギリいける”が、
一気に崩れた。
「柔太朗!仁人ヤバいかも!」
近くにいた柔太朗に助けを求めた。
ー柔太朗sideー
宮城公演前日のリハ。
会場に入って、音出しが始まった瞬間から、少しだけ引っかかってた。
よっしーがイヤモニを触る回数。
一回じゃない。
何回か、位置を微調整してる。
(…今日、きてるかもな)
よっしーが大きい音が苦手なのは知ってる。
だから、その小さい仕草でもわかる。
ー
リハが進む。
よっしーは普通にこなしてる。
いつも通り動きに問題ないし、ミスもない。
でも、
(ちょっと静かだな)
無理してるときの感じに近い。
(休憩で一回聞くか)
そう思ってた。
—
「一回休憩入りまーす!」
そのタイミングで、スタッフに呼ばれる。
「ちょっと機材確認お願いしていいですか?」
「あ、はい」
ステージの端、少し離れた場所。
よっしーがいる場所から距離ができる。
(すぐ戻ればいいか)
そう思って、確認に入る。
そのとき。
キィィィィィンッ
—
「うわっ…」
耳に残る、嫌なハウリング音。
その瞬間、頭に浮かぶのはよっしーのことだった。
(まずい)
反射的にステージを見る。
よっしーの肩が大きく跳ねて、そのまま動かない。
(やっぱり)
さっきの違和感が、全部繋がる。
勇「柔太朗!」
勇ちゃんの声。
勇「仁人ヤバいかも!」
その一言で、完全に状況を理解する。
(遅れたな)
「すみません、あとで!」
それだけ言って、すぐ戻る。
近づくほど、状態がはっきり見える。
—
呼吸が速い。
浅い。
手も少し震えてる。
ー
完全に崩れてる。
「よっしー」
声をかける。
反応が薄い。
「よっしー、こっち来れる?」
首を振る。
仁「……っ、むり…」
—
(動けないやつか)
すぐに判断する。
その間に、勇ちゃんがスタッフに伝えて音を止めてる。
よっしーの前にしゃがんで、視線を合わせる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!