第10話

💛 続
2,460
2026/03/29 16:23 更新
ー勇斗sideー

今日は宮城公演前日のリハ。

朝、楽屋に入ってきた仁人を見た瞬間、ほんの少しだけ違和感があった。

仁「おはよ」

いつも通りの声。

でも、

(…今日、音きつい日かもな)

仁人が大きい音とか、重なる音が苦手な日があることは、前から知ってる。

「昨日ちゃんと寝た?」

なんとなく聞く。

仁「うん、まあ」

少しだけ間があく。

(あー、これ微妙なラインだな)

完全にダメなときは、もっとわかりやすい。

でも今日みたいな“ギリいける日”が一番危ない。



会場に入って、音が出た瞬間。

仁人がイヤモニを触る。

(やっぱり)

一回じゃない。

何回か、微調整してる。

でも、何も言わない。

(言えよ…)

思うけど、言わないのもわかる。

本番前、流れ止めたくないって考えるタイプ。



リハが進む。

仁人は普通にこなしてる。

でも、

(余裕ないな)

表情がほんの少し固い。

視線もあまり上げない。



何回か目が合いそうになって、

そのたびに逸らされる。

(バレたくないんだろうな)

そう思うと、踏み込みづらくなる。

「一回休憩入りまーす!」

その声で、仁人が少しだけ下を向いたまま止まる。

(今なら声かけられる)

まだ間に合う。

そう思って、一歩踏み出しかけた。



そのとき。

キィィィィィンッ

会場に、鋭い音が突き刺さる。



「うわ…」

最悪のタイミング。

視線を戻した瞬間、

仁人の肩が大きく跳ねた。

すぐに近づく。

「仁人?」

顔色が明らかに変わってる。



呼吸が速い。

浅い。

さっきまでの“ギリいける”が、
一気に崩れた。

「柔太朗!仁人ヤバいかも!」
近くにいた柔太朗に助けを求めた。





ー柔太朗sideー

宮城公演前日のリハ。

会場に入って、音出しが始まった瞬間から、少しだけ引っかかってた。

よっしーがイヤモニを触る回数。

一回じゃない。

何回か、位置を微調整してる。

(…今日、きてるかもな)

よっしーが大きい音が苦手なのは知ってる。

だから、その小さい仕草でもわかる。



リハが進む。
よっしーは普通にこなしてる。

いつも通り動きに問題ないし、ミスもない。

でも、
(ちょっと静かだな)

無理してるときの感じに近い。

(休憩で一回聞くか)

そう思ってた。



「一回休憩入りまーす!」


そのタイミングで、スタッフに呼ばれる。

「ちょっと機材確認お願いしていいですか?」

「あ、はい」

ステージの端、少し離れた場所。

よっしーがいる場所から距離ができる。

(すぐ戻ればいいか)

そう思って、確認に入る。


そのとき。

キィィィィィンッ



「うわっ…」

耳に残る、嫌なハウリング音。


その瞬間、頭に浮かぶのはよっしーのことだった。

(まずい)

反射的にステージを見る。

よっしーの肩が大きく跳ねて、そのまま動かない。

(やっぱり)

さっきの違和感が、全部繋がる。

勇「柔太朗!」

勇ちゃんの声。

勇「仁人ヤバいかも!」

その一言で、完全に状況を理解する。

(遅れたな)

「すみません、あとで!」

それだけ言って、すぐ戻る。

近づくほど、状態がはっきり見える。



呼吸が速い。

浅い。

手も少し震えてる。


完全に崩れてる。

「よっしー」

声をかける。

反応が薄い。

「よっしー、こっち来れる?」

首を振る。

仁「……っ、むり…」



(動けないやつか)

すぐに判断する。


その間に、勇ちゃんがスタッフに伝えて音を止めてる。

よっしーの前にしゃがんで、視線を合わせる。

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