思春期に多いがん「骨肉腫」発症の謎解けた はじまりは老化の研究

野口憲太

 老化の仕組みを調べていたら、思春期に多い骨のがんの謎が解けた――

 これまで解明されていなかった「骨肉腫」の発症の仕組みに、細胞分裂のアクセルとブレーキのバランスが深く関係していることをつきとめたと、東京大などのチームが15日、発表した。偶然の発見が、新たな治療法の開発につながるかもしれない。

 論文が、科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」で発表された(https://doi.org/10.1038/s41467-026-74929-6別ウインドウで開きます)。

10代に多く、ひざ関節にできやすい

 骨肉腫は年間200人ほどが発症するめずらしいがん。患者は10代に多く、ひざ関節にできやすいことが知られている。

 現在は抗がん剤治療が確立し、がんの切除手術とあわせての5年生存率は70%ほど。ただ、発見時にすでに転移などがあると生存率は大きく下がる。

 若い人のひざに起きやすいことから、体の成長に関連すると考えられていた。ただ、詳しい発症の仕組みは分かっていなかった。

 解明の糸口は、想定外の観察結果からもたらされた。

 チームを主導した東京大の山田泰広教授はもともと、老化のメカニズムを調べるため、老化細胞の目印となるたんぱく質「p21」に着目。体内でp21が光るように遺伝子改変したマウスで実験をしていた。

 そこへ、骨の老化の研究のため訪れていたのが慶応大の大学院生で医師の齊藤誠人さんだった。

 マウスを観察すると、予想もしていない現象に気づいた。老化した細胞で多いはずのp21が、成長期のマウスの太ももの骨の先端で光っていたのだ。p21は老化細胞の目印としてだけでなく、がんの原因にもなる「傷ついたDNA」に反応し、細胞分裂を止めさせる増殖の「ブレーキ役」としても有名だ。

 「この観察結果が、骨肉腫の謎にせまるカギになるかも」。骨のがんの患者も診ている齊藤さんは、すぐにそう直観した。

 詳しく調べると、p21が光っていたのは成長期に活発に分裂する「骨芽細胞」だった。また、分裂を促す「アクセル役」の因子も活性化していた。

 アクセルとブレーキを同時に踏む、一見矛盾する状態。だが、絶妙なバランスを保つことで、分裂の過程でできるDNAの傷が放置されて細胞ががん化するのを防いでいると考えられた。

 実際に、アクセル役を活性化させるだけでは骨肉腫は発生せず、p21がはたらかずブレーキが壊れた状態にすると、太ももの骨の端に多く発生した。骨肉腫の発症を再現したことになる。

 ヒトの場合でも、成長期の太ももの骨の先端でp21がはたらいていることを確認。こうした結果から、今回見つかったアクセルとブレーキのバランスが、遺伝子変異などによって崩れることで、骨肉腫が引き起こされていると結論づけた。

特殊ながん 「仕組みをきれいに説明できた」

 東大の山田さんは、「狙って行う研究ではないが、大変面白い結果が見えた」と話す。がんは一般に加齢とともになりやすいが、骨肉腫は思春期になりやすいという点で特殊といい、「その仕組みをきれいに説明することができた」と研究の意義を語る。

 実験に使ったp21が光るマウスを、有望な治療薬を探すために活用するなど今後の発展が期待できるという。

 慶応大の齊藤さんによると、骨肉腫の治療は1980年ごろまでは足を切断するしかなく、それでも5年生存率は2~3割と低かった。現在でも、がんの発見時にすでに転移しているなどの場合に有効な治療法がなく、40年前と生存率はほぼ変わらないという。

 この壁を崩せない理由の一つが、発症の仕組みが不明確なことだった。齊藤さんは、「(骨肉腫という病気を理解する)ピースが足りていなかった」と表現する。今回の成果は新しい治療法に直結するものではないが、「今回のような知見がたまっていくことが、治療の進歩につながると考えている」と期待を示した。

「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験


関連トピック・ジャンル