「不法占拠、私の代でやめたい」市ケ谷の人気釣り堀、経営者が語る

渡辺芳枝 中山直樹

 不法占拠、もうやめたいです――。

 国史跡に指定されている江戸城の外濠(そとぼり)跡で、70年ほど前から営業している釣り堀「市ケ谷フィッシュセンター」(東京都新宿区)。土地と水面の使用許可が64年前に打ち切られ、以降は「不法占拠」の状態が続いている。新たな経営者が朝日新聞の取材に応じ、「人に言えないような仕事はしたくない。こんな状態は私の代で終わらせたい」と語った。

使用許可、60年以上前に打ち切り

 JR市ケ谷駅のすぐ目の前。外濠跡を埋め立てるように5面のいけすが広がる。地下水をくみあげ、コイやニジマスの釣り堀にしている。映画やテレビドラマのロケ地としてもたびたび使われ、外国人観光客の人気スポットにもなっている。

 外濠跡の管理事務を担う千代田区によると、ここは国有地。もともと東京都が使用許可を出したが、1964年の東京五輪が開催される2年前に許可を打ち切った。水質改善を目指す土木工事の妨げになるというのが理由だった。以降は使用料を受け取っておらず、区は原状回復を求める警告書を年1回送っている。

「愛されているからこそ、きれいな契約を」

 「3代目」となる現在の経営者、宮田幸治社長(44)は、昨年1月に親族から市ケ谷フィッシュセンターを引き継いだ。「初代」から伝えられている経緯はこうだ。

 戦後、新たに娯楽の場をつくろうと当時の新宿区長らが動いており、都の水産試験場で働いていた初代に声がかかった。都の許可を得た上で、58年からコイの釣り堀を始めた。東京五輪前に「工事の邪魔になるから退去するように」と言われたが、工事は敷地から離れた場所で行われて終了。退去する理由はなくなった。

 だが、宮田社長は「なあなあで乗り切れた昭和は終わり、時代は令和。あいまいなものが許され、納得してもらえる社会ではない」と語る。「できれば公共性のある形で、(使用許可を)更新したい」とし、適切な額の使用料を払い、水辺の環境を生かした施設として運営していきたいと望んでいる。

 そして、「もし解決できないなら、この施設は存在しない方がいいのではないか」。ただ撤退するとしたら、社員の生活を保障できるようになるまでの猶予期間が欲しい、と求めている。

 市ケ谷駅前の景観として定着し、昭和の雰囲気を残す憩いの場として親しまれているが、宮田社長は「市民権を得ているから違法でもOK、とはならない。言い訳にもならない。逆に、愛されているからこそ、きれいな契約をしないといけない」。

対応するのは千代田区? 東京都?

 ただ、問題が長引きすぎたせいか、行政側の腰は重そうだ。

 千代田区の担当者は「外濠跡は国の財産で、その財産管理をしているのは都。区は、都条例に従って事務を担っているだけで、都に正常化してほしい」。都の担当者は「是正できる権限は23区にあるはずで、これは区に動いてもらうしかない。だが、あまりに有名になり、長年続いてしまっていることもあって、動きづらいのだろう」。

 区は、同様に外濠跡で営利活動をしている他の3事業者にも、年1回、警告状を送っている。いずれの事業者、所有者も、取材には応じなかった。

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この記事を書いた人
中山直樹
ネットワーク報道本部|都庁担当
専門・関心分野
人権問題、災害、人口減
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    河野有理
    法政大学法学部教授=日本政治思想史
    視点

    毎朝ここを見ながら通勤していることもあって気になるニュースだ。インタビューに答える三代目はかなり前向きに解決を模索し、行政がむしろ及び腰というニュアンスの記事だが、背景としては外濠の水質浄化のために実施される工事計画にいよいよゴーサインが出たという事情もあるのではないか。本紙でも「外濠水質改善、事業費は340億円 2030年代半ば完成、都が試算」という見出しで4月21日に記事が出ている。いずれにせよ背景が気になるニュースである。ぜひもう少し深く掘り下げていただきたい。

    2026年7月16日 15:22