アメリカはいま、イランとの戦争に勝つための筋道をまったく描けていない。これは私の誇張ではない。2026年7月15日時点で進行中のこの戦争において、アメリカには「勝利の理論」が欠如しているのだ。
6月17日に署名された覚書を振り返ってほしい。あれは事実上の降伏文書だった。14項目のほぼすべてでイラン側が勝利し、アメリカは譲歩を重ねた。もしその時点で十分な強制力を持っていたなら、そもそもあのような文書に署名するはずがない。
では、それ以降に状況を変える新たな圧力が生まれたかといえば、答えはノーだ。トランプ大統領は二つの手段に頼っている。海上封鎖の再開と、イランとの「報復の応酬」だ。しかし、海上封鎖は4月から6月まで約2カ月間続けて効果がなく、だからこそ覚書に追い込まれた。それをいま再開して、なぜ違う結果を期待できるのか。
報復合戦も同じである。2月末から4月初頭までの40日間に及ぶ大規模な空爆作戦でさえ、イランを屈服させられなかった。7月7日から始まった限定的な応酬で形勢が変わる道理はない。
しかも現実には、クウェートもバーレーンもヨルダンもイランのミサイルで打撃を受けている。アラブ首長国連邦のフジャイラ港からの石油流出は止まり、紅海のバーブ・アル・マンデブ海峡も封鎖されようとしている。この応酬がアメリカに有利に働いている証拠は、どこにもない。
では、なぜこんなことになっているのか。
冷戦期、私たちは核抑止の論理を徹底的に学んだ。核兵器を持つ大国を追い詰めれば破局を招くと理解し、相手に逃げ道を残すことを戦略の要としていた。ハンガリー動乱でもチェコスロバキア侵攻でも、西側は介入しなかった。核保有国を存亡の淵に追いやらなかったからだ。ジョージ・H・W・ブッシュ政権が冷戦終結時にソ連を慎重に扱い、屈辱を与えまいとしたのも同じ理由による。
しかし、冷戦後の一極体制の中で、こうした戦略的思考は骨抜きになった。アメリカが唯一の超大国として君臨した時代に育った政策エリートたちは、核抑止もレッドラインも、もはや自分たちを縛るものではないと考え始めた。そして、この思考習慣は多極化した現在にもそのまま持ち込まれている。
ウクライナ戦争を見れば明らかだ。欧米はウクライナを事実上のNATO加盟国に変えようとし、長距離ドローンでロシア本土を攻撃し、制裁で経済を破壊しようとしている。ロシアは大国だ。核兵器を保有する大国をここまで追い詰めて、ただで済むと本気で考えているのだろうか。
ウクライナの戦場では、実はロシアがじりじりと前進している。しかし欧州の指導者たちは「戦況は好転している」というプロパガンダを繰り返し、和平交渉を一切拒否する。彼らは自ら戦うのではなく、ウクライナ人を盾に使っているだけだ。そして、もしウクライナ軍が崩壊し始めたら、欧州はどう出るのか。そこから先の展望は、誰も真剣に語ろうとしない。
一極時代に失われた戦略的思考が、いま私たちを危険な地点へと引き戻しつつある。核の現実を直視せず、大国のレッドラインを無視し続けることの代償は、あまりに大きい。
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John Mearsheimer(シカゴ大学政治学部 R. Wendell Harrison 特別功労教授)、Glenn Diesen(政治学者)
『John Mearsheimer: All-Out War in the Middle East & Trump's War on Russia』(中東全面戦争とトランプの対ロシア戦争)
John Mearsheimer: All-Out War in the Middle East & Trump's War on Russia
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