新しい信者の獲得

 自分の顔に影がかかったのを感じて、シキは目を覚ました。


「あっ、ご、ごめんなさい……!」


 目を開くと、茶髪の女性と目が合う。


 整った顔立ちの女性は、慌てたような表情を見せると、急いでシキの上から顔を引いた。


 覗き込まれていたらしい。


 彼女の顔が避けた事で、シキの目に直射日光が当たる。

 突如として襲う眩しさに手で目を覆い隠しながら体を起こし、シキは女性に問い掛けた。


「……具合は、どうですか」


 ズズッと少し距離を取った女性が、おどおどしながらシキの質問に答える。


「え、えっと、だ、大丈夫、です」


「……それなら良かった」


 どうやら、受け答えがしっかり出来るまでには回復したらしい。


 シキは頷き、ふゎぁと欠伸をする。


 どれ程寝ていたのか。

 空を見上げるが、そこまで時間が経っているようには思えない。


 気絶する前の最後の記憶を思い出す。


 あれから、必死に才能と信仰術を駆使して女性の体に居た寄生虫を全て排除し、女性の容態が安定するのを確認してから、男の埋葬をしたのを覚えている。


 恐らく、その埋葬時に才能を酷使したのが良くなかったのだろう。信仰術も使ったが、基本的に信仰術は信仰力がある限りいくらでも使用できる。


 対して才能は、体に負荷を掛けて発動する。無理やり、それも短時間で何度も使用すれば場合によっては死ぬ事すらある。

 気絶するだけだから大丈夫だろうとタカをくくって、その気絶から回復しなかった人間は結構いる。


 まだ大丈夫はもう危ない、という言葉を思い出す。自分の思っている以上に気を付けないければならないだろう。

 

「ふわぁっ……ぁあ」


 もう一度大きな欠伸をシキはして、首をぐりぐりと動かす。

 体の中に溜まった息を全て吐き出してから、体の調子を確かめるように立ち上がる。


(さて、何からするべきなのか)


 目の前の事で手一杯で、今後の事を何も考えていなかった。


 出来る事は幾つもあるが、何から手をつければいいのか分からない。


 まずは起源神の神殿に行くべきだろうかと思案して、シキに続くようにしてゆっくり立ち上がった女性を眺める。


(この人、歳はトトナと同じくらいか?)


 見たところ、歳はトトナと変わらないように感じる。


 髪は茶髪で肩にかからない位の短髪。ある程度整えられているが、少し乱雑に感じる。自分で髪を切ったのだろう。


 彼女は袖の無い薄布の貫頭衣を着て、腰の部分を麻紐で縛っている。

 貫頭衣から伸びる手足は細身だが筋肉が引き締まっている。

 土で汚れていて分かり辛いが、肌も血色良く、ついさっきまで寄生虫に冒されていたようには思えない。


「え、えっと……」


「あ、ああ! す、すみません。ジロジロ見て。摘出した部分が跡になってないかと思って」


「い、いえ」


 恥ずかしそうにする女性に頭を下げて、向き直ると一つ咳払いをする。


「えっと、改めて。自分は神官のシキと言います。『ミタマ様』に仕える神官で、主に医療術を行使して人を助けています」 


「は、はい。わ、私の名前はユリ、です。さ、先程は助けて頂き、ありがとうございました。……本当に、ありがとうございます!」


 勢い良く頭を下げるユリに、シキは神官としての笑みを浮かべる。


「ユリさんですね。人の為になることをするのが神官の仕事ですので、お気になさらず。ただ、自分もここに来たばかりで分からないことだらけなので、教えて頂けると助かります」


「は、はい……! 私に、出来ることなら」


「ありがとうございます」


 そう言って、シキは埋葬した男の元に歩いていく。

 そこには、こんもりとした土があった。男の体は信仰術を使って肉を腐らせ、全て骨にして埋めたので、覆い被せた土の下にある穴はそこまで深くない。


(特に変わりはないな……。まあ、あのボロボロになった骨なら仮に不死者になっても対処出来ると思うけど)


 盛られた土が動いていないのを確認していると、シキの隣にユリが並ぶ。


 ユリは悲痛な、それでいて複雑そうな表情を浮かべている。


「……ユリさん。少し嫌なことをお聞きしますが、確か村から追放されたと言ってましたよね。その追放された理由って、ユリさんの中にいた寄生虫と関係がありますか?」


「……は、はい。わ、私の体にも、あの虫がいることが分かって、それで……」


 暗い表情を浮かべるユリに、心を痛めながらもシキは質問を続ける。


「自分の体の中に、その虫がいると分かったのはなぜなんでしょう? 何か初期症状なものでも?」


「い、いえ。私の村にいた神官様が教えてくれたんです」


 「へぇ。『神官』……ですか?」


「はい、女性の方で、その人に、もう治癒しても間に合わないから、助からないって……」


「なるほど……」


 そういえば「手が綺麗だっから神官だと思った」みたいた事を男が言っていたのを思い出す。

 きっと、その人と関連付けていたのだろう。


「もし分かればでいいのですが、その神官の方が行使出来るのは医療術、えっと、人を癒す能力のみでしょうか?」


「た、たぶんそうだと思います。前に一度、病にかかった弟を助けて頂いたので」


「そうなんですね。じゃあ、自分と同じ医療術を行使して人助けをするタイプの神官さんなんでしょう」


 そう言いつつも、シキは心の中で警戒を強める。


 信仰術は、大きく分けて三つの種類に分類される。『攻撃術』『医療術』『生活術』の三つだ。


 『攻撃術』は相手に害を与える事を目的とした信仰術。

 『医療術』は相手を癒すことを目的とした信仰術。

 そして『生活術』は攻撃、医療のどちらにも当てはまらない信仰術を指す。


 便宜上そういう風に分類はされているものの、これは神官の間では殆ど形骸化している分けられ方だった。


 シキの扱える『魔物創造』も分類上は医療術に当てはまるが、使い方を変えれば『攻撃』にも『生活』にも転用出来る。


 優秀な神官ほど本来分類されている信仰術の型に則るのだ。神官同士で敵対した場合、相手の計算を狂わせる為に。


 更に神官の階級によって扱える信仰術の数も変わる。


 神様を崇拝して得られる信仰術は最大で十二個。


 下級神官になれば六。中級神官で更に四つ。上級神官で更に一つ。それら神官を統べる神主になれば新たに一つ取得出来る。


 その為、十二個全ての信仰術が一つの型に特化しているというのは考え難い。


 手の内を明かさないという事は、相手に知られたくない何かがあるのだろう。


 軽い気持ちで行くべきではないが、少しでも情報が欲しい気持ちもある。


 どうしたものかと悩んで、ユリに問い掛けた。


「ユリさん。病み上がりなのに、質問攻めをしてしまいすみません。それで、ユリさんには、どこか行く当てなどはあったのでしょうか?」


 聞けば、ユリの暗かった表情が更に一段と暗くなる。


「いえ、行く当てなんて、ど、どこにもありませんでした。……村で追放というのは、聞こえの良いただの死刑ですから」


 その暗い表情の中にあるのは恨み、というよりも無情感や投げやりな自嘲の色が強かった。

 おどおどとしたものではない、全てを諦めたような声でユリが話す。


「ユリさんは、これからどうしたいですか?」


 聞けば、俯いていたユリがゆっくりと顔を上げて、真っ直ぐにシキを見た。


 しかし、何も答えない。


 口を開きかけて、諦めたように閉じる。


 そんなユリにシキはもう一度、柔らかい声音で同じ質問をする。


「自分は神官であり、困っている人の味方です。ユリさんがどんな選択をしても、ユリさんの考えを尊重します。……ユリさんは、これからどうしたいですか?」


 聞けば、ユリが決意を込めた、芯のある声で話した。


「も、もしも。もし、ご迷惑でないのであれば、神官様についていきたいです」


 ユリの瞳は、真摯に濡れていた。


 真っ直ぐにシキを捉え、自分の感情をぶつけてくる。


「……。分かりました。それなら私の『従者』になって頂きたい。神官の正式な従者であれば、殆どの人間はあなたに手出しをしようなんて思わないでしょうから」


「じゅうしゃ、ですか? それは、一体どのようなことをすればいいのでしょうか……?」


 不安げな表情を浮かべるユリに、シキは微笑む。

 

「何も難しい事をする必要はありません。強いて言えば、私がこれからはユリさんに敬語を使わずに話す、くらいでしょうか。何か、ユリさんにやって貰ったりする事はありません」


「そ、それならいいのですが……。従者になるには、どうすれば……?」


「ユリさんは、そこにジッとしているだけで大丈夫です。私が信仰術を使うので、それを受け入れて下さい」


 自分を真っ直ぐに見据えるユリに、シキは信仰術を行使する。


「まだこれを使える分の信仰力は残ってるはずだけど……『主従契約』」



―――――――――――――

―――――――


【神】『ミタマ様』


【母体規模】『集落』


【恩恵】

神主:『幽霊通り』


上級:『魔物創造』


中級:『???』『???』『???』『???』


下級:『主従契約』『生命知覚』『???』『???』『???』『???』



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