深掘り

大便が血液に入ったら? 専門家が想定する患者が亡くなるメカニズム

原晟也 染田屋竜太

 千葉県柏市の病院に勤めていた看護師が殺人容疑で逮捕された事件では、入院患者の点滴用のチューブに大便を混入させた疑いが持たれている。そもそも大便を体内に入れると何が起きるのか。県警や病院の説明をもとに、患者が亡くなるまでのメカニズムを専門家に聞いた。

 千葉県警によると、入院患者の男性(当時75)の容体が急変したのは1月30日午前4時ごろ。巡回中の准看護師が「苦しい」と訴える男性の異変に気づいた。顔面は蒼白(そうはく)で、呼吸が浅くなっていた。男性は、その日の夕方ごろに血圧が低下。集中治療が施されたが、翌31日午後10時半に死亡した。

 男性の死因は、敗血症による多臓器不全だった。県警が調べた結果、男性の血液からは人間の大便の中にある細菌が検出された。大便の細菌が血液に入ったことで敗血症を起こしたとみられる。

 敗血症は、細菌が体内に入って感染症が広がることで、人が本来持つ防御機能が過剰になって全身の臓器に障害を引き起こすものだとされる。

 救急・集中治療が専門で敗血症にも詳しい松田直之・名古屋大学大学院医学系研究科教授は、混入された異物が短時間で全身に回る危険性を指摘する。

 「60キロの成人でおよそ4リットルの血液が、1分ほどで心臓から送り出されて全身を巡る。点滴から入った異物も、約1分で全身に達する」

 便には、1グラムあたり約1兆個の腸内細菌がいるとされる。「異物が血液に溶けて回ると、白血球が敵とみなして攻撃を始め、血管を広げる一酸化窒素などを大量に出す。その結果、血圧が急激に下がってショック状態になる。アナフィラキシーショックに近い」

 松田教授は、その上で敗血症が起きたのではないかとみる。

 細菌の細胞壁の成分(内毒素)に白血球が過剰反応して暴走し、二次的に体を痛めつける。さらに、菌が分泌する外毒素は人体の細胞を直接壊すこともある。体は内からも外からも影響を受け、血圧の低下に加え、高熱や意識障害も急に表れるのだという。

 点滴への異物混入が絡む事案に複数関わった経験がある松田教授。そのうち一つは、細菌を含む水道水が点滴に混入され、ボトル内で繁殖した細菌が敗血症を引き起こした事案だった。「水道水でも点滴に入れば命に関わるということは、医療従事者なら当然に知っている」と語った。

 敗血症に詳しい西田修・東京曳舟病院長は「敗血症の発症には数時間かかるため、混入直後には、菌以外にも大便の食物繊維などの異物による急性のアレルギー反応が起こった」とみている。

 今回の男性患者の死亡について、西田院長の見立てはこうだ。そもそも固形の大便は血液中には入らないため、何かで薄めて混入した。血液中に決して入ることのない異物を排除するために「アナフィラキシーに近い反応や血液凝固が起こり、強い炎症反応や肺の毛細血管が詰まることにより低酸素血症や心肺機能の低下が起きた」。

 その後、菌がどんどん増殖。それを排除しようとする免疫反応が過剰に起き、「自分の臓器が傷つけられて多臓器不全になったのではないか」という。

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この記事を書いた人
原晟也
ネットワーク報道本部
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スポーツ、教育
染田屋竜太
東京社会部
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事件・事故 国際ニュース(アジア)