持株会「再考」(2):「普通の上場会社」の持株会を37年続けたら?
こんにちは、
いやもく@FP講師です。
さて、持株会とは、
社員が自社の株式を
コツコツと積み立てる制度です。
制度の仕組みとして、
持株会が株式を買う方法は
以下の2つになります。
(A)給与、賞与の一部を天引きし、“おまけ”の奨励金をつけて株式を買う
(B)“もらった”配当金で株式を買う
(これを「配当再投資」と言います)
そして、持株会のメリットとは
“おまけ”の奨励金がつくことだと、
よく見聞きします。
でも、前回の記事、
持株会「再考」(1):伊藤忠「8億円社員」はなぜ生まれたか?
で試算してみたところ、
伊藤忠商事の場合、
持株会を長く続けるほど、
奨励金より配当再投資のほうが大きくなりました。
これは伊藤忠商事だからこそ、
起こることなのでしょうか?
それとも、他の会社でも
起こるものなのでしょうか?
この記事では、
「普通の上場会社」でも
奨励金を配当再投資が上回るのか、
その理由を
“初心者でもわかるように”
整理してお伝えします。
前回記事の振り返り
まず、伊藤忠「8億円社員」のエピソードについて、要点をお伝えすると、
・1970年代半ばに入社した女性社員
・40年以上、コツコツと持株会を継続
・退職時の保有株数は10万株超
・時価は約8億円
・年間配当は約2,000万円
と、羨ましい限りの話しですね。
でも、少し冷静になって、
持株会の試算をしてみたところ、
「8億円社員」が生まれた理由は
次の3つだとわかりました。
①毎月4万円+賞与8万円の平均以上の積立額(集中投資)
②企業業績、株価の浮き沈みに耐えた45年に渡る長期投資
③奨励金よりも大きく育った配当再投資
特に③は、
意外と知られていない“持株会の本質”だと
申し上げた上で、
次回(つまり、この記事ですね)は
伊藤忠商事でなくても、
奨励金と配当再投資の逆転現象が
起こるのかどうかを検証する、
とお約束したのが前回でした。
「普通の上場会社」の株価 ≒ TOPIX
さて、今回も持株会の試算をするわけですが、
ところで、「普通の上場会社」って、
どうやって選びましょうか?
特定の業種や高配当企業などを
ピックアップすることも考えました。
でも、前回と同じように
「うちの会社じゃ無理じゃない?」と
思われるかもしれません。
そこで、「普通の上場会社」の株価を、
日本の株式市場全体の動きを示している
TOPIX(東証株価指数)
だと見立てて試算してみることにしました。
いわば、
TOPIX持株会を試算する、
ということですね。
ちなみに、平成から令和にかけて、
約37年間のTOPIXの推移は
以下のとおりです。
このグラフを見ると、
“平成は失われた30年だった”ことが一目でわかりますね。
ちなみに、1990年以前のTOPIXのデータは、
日本経済新聞の縮刷版を
近所の図書館で確認しました。
自分が大学生の頃の新聞だったので、
TOPIXを確認したあとも
他の記事や広告を興味深く眺めながらの
充実した休日の午後になりました。
というわけで、今回、おじさんの目は
“しょぼしょぼ”ではなく、
興味“シンシン”って感じでしたね(笑)。
そんなことはさておき、
これで株価のデータは準備完了です。
「普通の上場会社」で持株会を37年続けると、評価額は約9,000万円に
それでは、試算に取り掛かりましょう。
持株会の試算条件は以下のようにしました。
・投資対象:TOPIX
・積立額:毎月4万円+賞与8万円
・奨励金率:10%
・配当再投資:「配当込みTOPIX(税引後)」で計算
・試算期間:37年間(1989年4月~2026年3月)
積立額と奨励金率は、
前回記事、伊藤忠商事の試算と揃えました。
また、配当再投資を計算するために使う
「配当込みTOPIX(税引後)」は
基準日(指数算出開始日)が1989年1月4日です。
基準日より前は遡ることができないので、
試算期間は前回(45年間)より少し短い、
37年間としています。
以上の条件で
TOPIX持株会を試算してみると、
2026年3月末時点で
・投資額が3,890万円
・評価額が9,273万円
となりました。
「8億円社員」とはいかないものの、
「普通の上場会社」の社員であっても、
持株会を37年続けたら、
老後不安を払拭するくらいの資産は作れた、
ということですね。
投資額と評価額の推移グラフも作成してみました。
このグラフを見ると、
TOPIX持株会でも“苦しい時期が長かった”ことがわかります。
グラフの読み方は、
・青い部分:投資額(=給与・賞与天引き+奨励金+配当再投資)
・赤い線:評価額(=株価×保有株数)
・赤が青を上回っていれば「儲かっている」
・下回っていれば「損をしている」
となります。
最終的に大きく儲かっていますが、
損益がトントンであったり、
損を抱えた“苦しい時期”が長かったようですね。
これは前回記事、伊藤忠商事の試算でも同様でした。
つまり、伊藤忠商事であっても、
「普通の上場会社」であっても、
持株会を長く続けることの難しさは同じ、
ということだと思います。
「普通の上場会社」でも奨励金より配当再投資が大きく育つ
次に、先ほどの試算で
奨励金と配当再投資を比較するため、
TOPIX持株会への投資額の推移を
「給与・賞与天引き」
「奨励金」
「配当再投資」
の3つに分けてグラフにしてみました。
このグラフを見ると、
前回の伊藤忠商事と同じように
「普通の上場会社」の持株会でも
“奨励金より配当再投資が大きく育つ”ことがわかります。
グラフの読み方は、
・濃い青い部分:給与・賞与天引きによる投資額
・薄い青い部分:奨励金による投資額
・赤い部分:配当再投資による投資額
となります。
配当再投資による投資額は、
開始当初は目立たないのですが、
持株会を長く続けるほど
“雪だるま式”に増えていますね。
最終的には奨励金の5倍以上の投資額になっているのです。
つまり、
「普通の上場会社」の持株会でも、
奨励金と配当再投資の逆転現象が起こる
ことが試算で確認できました。
奨励金を配当再投資が逆転する理由は“複利”
では、なぜ、持株会を長く続けると、
奨励金と配当再投資の逆転現象が起こるのでしょうか?
そのメカニズムを明らかにするため、
TOPIX持株会の試算について
投資額と保有株数を積立期間別に整理してみました。
この表を見ると、
“20年を境に、奨励金を配当再投資が逆転した”ことがわかります。
奨励金は、
給与や賞与の天引き分の一定割合(10%)ずつ増えます。
逆に言えば、
天引き分の一定割合ずつしか増えない、
とも言えます。
一方、配当再投資では、
保有株数に応じて“もらった”配当金で
株式を買い、保有株数がさらに増えます。
この繰り返しになるので、
保有株数が増えれば増えるほど、
配当再投資は“雪だるま式”に増えることになります。
つまり、奨励金と配当再投資では増え方が違うのです。
この違いを推移グラフで表すと、
時間の経過とともに、
“直線的に増えるのが奨励金”で、
“曲線的で加速度的に増えるのが配当再投資”
だということがよくわかります。
また、この推移グラフは
単利と複利の違いを示すグラフの形にそっくりですね。
ですから、
“単利”で増えるのが奨励金、
“複利”で増えるのが配当再投資
と言い換えることができるかもしれません。
つまり、
最初は奨励金のほうが大きくても、
持株会を長く続ければ続けるほど
配当再投資の“複利”の効果が発揮されて
奨励金よりも配当再投資のほうが大きくなる。
これが奨励金を配当再投資が逆転するメカニズムなのです。
前回記事では、
伊藤忠「8億円社員」が生まれた理由を
次の3つだと確認しました。
①平均以上の積立額(集中投資)
②業績、株価の浮き沈みに耐えた長期投資
③奨励金よりも大きく育った配当再投資
この記事では、③について、
「普通の上場会社」であっても、
持株会を長く続けるほど、
奨励金より配当再投資のほうが大きくなる
ことを試算で確認しました。
さらに、
“単利”で増える奨励金と
“複利”で増える配当再投資の違いが、
その逆転現象を生むメカニズムだと解き明かしました。
以上の試算結果は、
持株会のメリットを
“おまけ”の奨励金がつくことだと
見聞きしている人にとっては、
“目からうろこ”の気づきかもしれません。
でも、そんな気づきを得たとしても、
皆が皆、
持株会をやってみよう、
持株会を続けてみよう、
と思うとは限りません。
なぜなら、
持株会をやってみること自体、
リスクが集中し過ぎる、
という懸念があるからです。
さらには、
前回の試算にしても、
この記事の試算にしても、
持株会を長く続けること自体、
簡単なことではなかった
ことも示唆されているからです。
ですので、
次回、持株会「再考」(3)では、
伊藤忠「8億円社員」が生まれた理由の残り2つ、
①平均以上の積立額(集中投資)
②業績、株価の浮き沈みに耐えた長期投資
についても、再考してみたいと思います。
【ご参考:シリーズ記事】
持株会「再考」(1):伊藤忠「8億円社員」はなぜ生まれたか?
持株会「再考」(3):令和の持株会は、平成の持株会とは別物!?
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