今年度の課題報告では、現代日本社会における父親の役割を、ケア・教育・家族関係・社会構造をめぐる研究領域を架橋するかたちで捉え直してみたい。
近年、日本社会における「父親」の姿は大きく揺れ動いている。かつて父親は、主たる稼得者として家計を支える存在として理解され、その役割は家族の外側での賃労働に置かれてきた。他方で、少子化対策やワーク・ライフ・バランス政策の進展のもと、育児休業取得を含む父親の育児参加は積極的に推奨されている。
父親の子どもへの関わりをめぐっては、これまでも、子どもの発達や教育達成、母親の負担や夫婦関係、さらには父親自身の自己理解との関連が指摘されてきた。他方で、ジェンダー規範が男性の育児やケアへの関与を制約していることも論じられてきた。
こうした知見は、各領域・テーマにおいて個別に蓄積されてきた。その一方で、それらを「父親」という共通の焦点のもとに相互に照らし合わせて捉え直す試みは、まだ十分とは言えない。父親の育児やケアへの関与の変化は、家族関係や親役割の再編を通じて家族内のジェンダー平等の前進や、新たな家族像の形成をもたらすものとして理解される側面をもつ。他方で、そうした変化が一様に生じるのではなく、相対的に条件に恵まれた父親に偏って生じるものであるならば、そのことは新たな不平等や既存の格差・役割分業を別のかたちで維持・再編することにもつながりうる。また、このような変化は教育・労働・福祉といった家族の外部にある制度や実践、あるいは社会的に共有される家族像にどのような変化を及ぼし得るのだろうか。
本企画は、このような問題関心のもとで、教育やケアの担い手としての父親像を多面的に描き直し、その役割変化が家族の内外にどのような意味や影響を及ぼしうるのかを検討することを通じて、現代日本社会における父親の役割を再考する。
第一報告者の神谷哲司氏は、親の発達や親役割の形成、育児期家族における親・夫婦の発達に関する研究を重ねてこられた。そうしたご研究を踏まえ、父親が二次的養育者として位置づけられてきた前提そのものを問い直しつつ、性別役割分業や母性神話が形成されてきた歴史的・社会的背景にも目を向けながら、親の性別にかかわらずケアの担い手となりうる可能性についてご報告いただく予定である。
第二報告者の山根純佳会員は、ケアをめぐる負担の偏りや性別役割分業、ケアを取り巻く制度的・社会的条件について継続的に論じてこられた。今回の報告では、父親の関与をめぐる「教育」と「ケア」とをどのように区別して捉えるべきかという論点を中心に、教育とケアのそれぞれが持つ社会的意味の違いを整理しつつ、ジェンダー規範や社会構造のもとで男性がケアに関わりにくくなる条件やプロセスについてご報告いただく予定である。
第三報告者の苫米地なつ帆会員は、家族・教育・子どもをめぐる実証研究に取り組んでこられた。今回の報告では、進行中の分析を踏まえつつ、子ども期における性別化された働きかけや家庭内経験の違いが、親役割の理解や実践にどのような影響を及ぼしうるのか、また家事・育児分担のあり方が将来的な父親役割の形成やジェンダー規範の再生産といかに関わるのかについてご報告いただく予定である。
コメンテーターの白旗希実子氏は、父親の育児参加や地域活動、地域における子育て支援をめぐる研究を行ってこられた。その知見を踏まえ、地域社会における実践の視点から各報告にコメントをいただきたい。