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2025.07.07 13:30

SNSの悪口は現実化する?有害な言語を「ホープスピーチ」へ

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「悪口」から読み解く「社会の現在地」。悪口をテーマにした書籍などを刊行する南山大学・准教授の和泉悠が提案するのが「希望の言語使用」だ。


忙しければ忙しいほど携帯のスクリーンにひきつけられる。腰を据えて本を読む時間も、映画を鑑賞する時間もない。ほかに何もできずに、とりあえずSNSを開いてみると、あっという間に時間がたち、徒労感と罪悪感だけが残る。これは私だけの経験ではなく、同じような日常を過ごしている人も多いだろう。

医療科学者による実証的な研究により、ドゥームスクローリング(注1)やSNSの過剰な利用が心身に悪影響を与えることが徐々に判明しつつある(注2)。オンライン空間は、有名人のゴシップや揶揄どころか、個人への明白な暴言や脅迫、社会的マイノリティに対するヘイトスピーチにあふれている。それらを延々と眺めて体に良いはずがないのは、直感的にも明らかである。

SNS言語を過小評価できない理由

恐ろしいのは、SNSが引き起こす有害さは、個人の健康被害にとどまらないところである。イタリアで行われた興味深い実験がある(注3)。参加者として50人ほどの異性愛者が選ばれ、まずランダムに2つのグループに分けられる。どちらのグループも、“leone”(ライオン)、 “Americano”(アメリカン)といった、イタリア語の短い単語リストを見せられる。しかしグループによって、そのうちの1つの単語だけが異なっており、一方のグループは、一般的に男性同性愛者を意味する “gay”の語を、もう一方のグループは、イタリアでの男性同性愛者に対する差別的蔑称(ここでわざわざ印刷する必要はない)を目にすることになる。

参加者はその後ふたつの課題を行う。ひとつ目は、自由に3つの単語を連想してもらうというもので、蔑称を目にしたグループのほうが、よりネガティブな単語を思いつくという結果になった。蔑称を見るだけで、なぜかネガティブな方向に誘導されたのだ。

ふたつ目の課題は、架空の公共政策に対して資金配分を行わせるというもので、エイズ・HIV対策と不妊治療対策に、どのように予算を割り振るかを参加者に選んでもらう。ここで大事なのは、少なくともイタリアでは、エイズ・HIV対策はより男性同性愛者の利益につながり、不妊治療対策はより異性愛者の利益につながる、という一般的な認識があることである。つまり、異性愛者の参加者が、もしエイズ・HIV対策の予算を減らして、不妊治療対策への予算を増やすなら、より自分たちの利益になる選択をしたということになる。

そして結果は、蔑称を目にしたグループのほうが、まさに、より不平等な予算配分を行い、自分たちの利益が高まるような選択をしやすくなったのだ。

偶然、一方のグループに、ネガティブな人間ばかり集まったとか、同性愛者に対して敵対的な人間ばかり集まった、ということはありえない。これは、単に、たったひとつの差別的単語を見ることが、その後何をするかという行動に影響を与えることを示しているのである。

さらに驚くべきことは、同じ研究チームにより、単語を見せる時間がいわゆるサブリミナル(意識に上る閾値以下)の、13ミリ秒(1,000分の13秒)でも、偏見を示唆するような行動を助長することが示された点である(注4)。


注1:doomscrolling:主にSNS上でネガティブな情報を次から次へと過度に消費し続けること。

注2:例えば、次の記事はドゥームスクローリングに関するいくつかの研究をまとめてくれている。Maureen Salamon, 2024, “Doomscrolling dangers,” Harvard Health Publishing, https://www.health.harvard.edu/mind-and-mood/doomscrolling-dangers(最終アクセス2025年4月15日).

注3:Fasoli et al. 2015 “Labelling and discrimination: Do homophobic epithets undermine fair distribution of resources?” British Journal of Social Psychology.

注4:Fasolietal. 2016 “Not “just words”: Exposure to homophobic epithets leads to dehumanizing and physical distancing from gaymen,”European Journal of Social Psychology.

次ページ > SNS上にあふれる「有害言語」

文=和泉悠 企画・編集=一般社団法人デサイロ

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2026.06.30 11:00

「AI-Native」時代に価値を高められる人材とは? シンプレクス × Xspear Consultingが描くエンジニアとコンサルタントの未来

金融分野をはじめとする大規模システム開発において、プライム(一次請け)としてクライアントと直接向き合い、下請けに依存しない開発体制を貫き、高い技術力を培ってきたシンプレクスグループ。

いま同社は、人間がAIを補助的に使うのではなく、AIを前提に仕事や組織そのものを再設計する「AI-Native」の実現を推進している。創業者でシンプレクス・ホールディングス代表取締役社長CEOの金子英樹と、同社取締役副社長 共同COOでXspear Consulting(クロスピア・コンサルティング)代表取締役社長の早田政孝に、AI-Native時代における働き方と同グループの戦略について話を聞いた。


意思決定プロセスに関わる仕事の価値が高まる 

──ITやコンサルティング業界の現状をどのように捉えておられますか。

金子英樹(以下、金子):生成AIの急速な進化により、大きな転換期を迎えています。これまでシステム開発の現場では、人員を投入した工数に応じて対価を得る“人月型”のビジネスモデルが主流でした。しかし近年は、AIによるコーディングやテスト、自動ドキュメント生成、運用保守の高度化が進み、多くが自動化されつつあります。その結果、単純な工数提供や指示された作業をこなすだけの価値は低下し、エンジニアやコンサルタントには、より高度な課題設定力や意思決定支援能力が求められるようになっています。

この変化は業界構造にも大きな影響を与えています。コンサルティングファームがシステム実装や開発領域へ進出する一方で、SIerも経営戦略や業務変革支援といった上流工程へと事業領域を広げており、両者の境界線は曖昧になっています。さらに、企業によるAI活用やシステム内製化の動きも加速していることから、IT企業には単なる開発ベンダーではなく、経営課題の解決や事業成長まで伴走するパートナーとしての役割が求められています。

今後は、AIを単なる業務効率化ツールとして導入する企業ではなく、AIの活用を前提に組織や業務プロセスそのものを再設計できる企業が競争優位を獲得すると考えられています。人間がAIを補助的に活用する「Work with AI」の段階から、AIを前提に仕事の進め方や価値創出のあり方を見直す「AI-Native」への移行が進みつつあり、IT・コンサルティング業界全体が新たな変革の局面に入っています。

この変化を真の生産性向上につなげるためには、組織のあり方や仕事の進め方そのものを根本から変える必要がありますが、日本はこの転換が苦手な国だと感じています。個人レベルではAIによる利便性の向上を実感している人は多い一方で、それがチームとしての生産性や利益率の改善、あるいはリードタイムの短縮にまで結びついているケースはまだ限定的です。

金子英樹 シンプレクス・ホールディングス代表取締役社長CEO
金子英樹 シンプレクス・ホールディングス 代表取締役社長CEO

──AI-Nativeが進むと、エンジニアやコンサルタントの価値はどう変わっていくのでしょうか。

金子:業界構造という観点から見ると、下請け・孫請けで成り立っている会社は今後市場での居場所を失っていく可能性があります。IT業界でプライムのみで事業を行っている会社は全体の数%に過ぎず、上場企業や大手であっても下請け案件を多く抱えているのが実態です。

加えて、プライムかつ自社完結、つまり下請けに流さずに案件を完結させることを標榜しているコンサルタント・エンジニア中心の会社はほとんどないと思います。上流、下流の概念が変わる可能性すらあるなかで、全体のプロセスのなかで限定的な工程のみを請け負うスタイルは、AI時代にはフィットしないのではないでしょうか。

早田政孝(以下、早田): コンサルティング業はCxOクラスと直接向き合うビジネスパートナーとしての領域は残るものの、業務の大半を占めるマーケットリサーチや事業計画書の作成といったアウトプット主体の仕事は早晩AIに代替されていくため、現状維持すら難しいでしょう。一方で、尖った強みをもつ会社には勝機があります。この1年が勝負であり、伸びる会社と淘汰される会社が二極化していく局面だと考えています。

早田政孝 シンプレクス・ホールディングス取締役副社長 共同COO/Xspear Consulting代表取締役社長
早田政孝 シンプレクス・ホールディングス 取締役副社長 共同COO/Xspear Consulting 代表取締役社長

──そうしたなか、シンプレクスグループにはどのような強みがあるのでしょうか。

早田:AIが急速に進化する時代においても、最終的に価値として残り続けるのは「意思決定」に関わる領域だと考えています。コンサルティングとシステム開発は一見異なる仕事に見えますが、本質的には、企業の意思決定を支援し、それを実行可能な形に落とし込む営みです。

当グループの特徴は、オフショア・ニアショアや下請け・孫請けに依存せず、東京都港区に拠点を集約したうえで、すべてのソースコードを自社で開発している点にあります。

その体制によって、コンサルタントは技術的リアリティに基づいた実効性の高い戦略を描くことができ、エンジニアはビジネスの背景や経営課題まで深く理解したうえで実装に落とし込むことができます。さらに、双方が互いの領域を理解しながらクライアントと対話することで、戦略と実装が分断されない、End-to-Endな一気通貫の価値提供を実現しています。

──クロスピア・コンサルティングは、どのような経緯で創設されたのでしょうか。 

早田:当グループは、創業当初は数億円規模のシステム開発を主軸としていましたが、事業の拡大に伴い、クライアントからより上流のコンサルティングも担ってほしいという要望が増加しました。当初はニッチ領域におけるシステム開発を本業として守る方針であり、ビジネス戦略に関わるコンサルティングは意図的に行っていませんでした。

しかし、プロジェクト規模が数十億円単位へと拡大するにつれ、システム投資の意思決定を社内で通すための企画・事業計画フェーズから関与しなければ、そもそも案件が成立しないケースが増えていきました。そこで、クライアントの内部に入り込み、投資対効果の算定や事業計画の策定といった上流工程から参画し、システム稼働後のビジネスチューニングとシステムエンハンスを両輪で支えるというコンセプトのもと、2021年4月にクロスピア・コンサルティングを創設しました。

金子:日本のIT業界は、「エンジニアはハードウェアに付帯する無料サービス、『物』には払うが『人』には払わない」という前提からスタートした歴史があります。その結果、エンジニアの付加価値は十分に評価されにくく、報酬水準も相対的に低い状況が長く続いてきました。この構造が変わり始めたのはここ7〜8年のことです。

一方でコンサルティング業界は、外資系ファームが40年前に日本へ持ち込んだビジネスモデルのもと、高い報酬水準が長年にわたって維持されてきました。同じようにクライアントの課題解決に向き合うプロフェッショナルでありながら、コンサルタントとエンジニアの間には、報酬水準に大きな差があったのです。

この歪みこそがIT業界における構造的な課題であると、シンプレクス創業当初から認識していました。コンサルタントとエンジニアは担う役割こそ異なりますが、クライアントの課題解決に向き合うという点では、いずれも本来、高い付加価値を提供するプロフェッショナルです。

だからこそシンプレクスは、エンジニアの付加価値をコンサルタントと同等に評価し、それに見合う報酬水準を実現するモデルを、創業以来一貫して追求してきました。こうした考え方を事業として成立させてきた企業は、国内でも稀だと考えています。

その結果として、シンプレクスとクロスピアの間には報酬格差がなく、ミューチュアル・リスペクト(相互尊重)が自然に成立する関係性が生まれました。こうした土台があるからこそ、グループシナジーが機能していると考えています。

求められるのは、ハイブリッドに価値を高められる人材

──シンプレクスは、なぜ下請けを使わないのでしょうか。

金子:当社のフィロソフィーのひとつに「Player」があります。私は外資系のコンサルティング会社や金融機関でキャリアを積んできましたが、シンプレクス創業当時に日本の大企業を見たときに驚いたのは「誰もプレイしていない」という現実でした。外資系では自分でプレイして成果を上げることが当然であり、それが直接報酬に跳ね返る世界です。ところが日本の大企業では、同世代の人間が何十人もの部下を管理し、その部下もまた下請け会社を管理するという構造が当たり前になっている。これでは、才能の壮大な無駄遣いです。

当グループは、1997年の創業時からこの問題と向き合い、全社員が自分でプレイし続けるという文化を徹底して根付かせてきました。そして今、AIの時代においてこのフィロソフィーが大きな意味をもっています。プレイヤー文化を長年積み上げてきた当グループには、AI-Nativeへの転換において、他社にはない素地があるのです。

早田:「なぜ、これほどの技術力をもつ集団をつくれるのか」とメディアから取材を受けることも増えましたが、答えはシンプルで、全員にプレイさせているからです。結果として、オープンワークが公表した「働きがいのある企業ランキング2026」の20代成長環境部門において、当グループは1位にランクインしています。

──AI-Nativeに向けて、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

金子:AI活用ノウハウを標準化・展開し、開発プロセス全体の品質と生産性を高める仕組み「Siphon(サイフォン)」を2025年に本格始動しました。主にスターエンジニアを中心に、AIの深い知見を積み上げてきたメンバーをCenter of Excellence(CoE)として組織し、AI-Nativeへの転換を主導しています。

Siphonの役割は、当グループが手がけるすべてのプロジェクトにおいて、個人ではなくチームとしての生産性を引き上げること。CoEがチェックや指導にとどまらず、必要に応じてハンズオンで現場に入り込み、AI-Nativeな開発を一気に全社へ展開していきます。そして、この取り組みを通じてAI-Nativeを実践できるようになったプロジェクトメンバーが別のチームへも加わり、その手法を広げていく。さらにそこで得た新たなノウハウをSiphonに集約する、そうした好循環をつくり上げていく仕組みです。

実践と並行して、さまざまな検証も行いました。例えば、同一の新規プロジェクトに対して、一方は従来通りのWork with AIのアプローチで開発を行い、もう一方はCoEやスターエンジニアが主導しながら、AI-Nativeなプロセスでシステムを開発しました。この2チームの開発・テスト工程における削減工数の差を定量的に計測したところ、AI-Nativeなプロセスを適用したチームでは工数削減率が30~70%となるなど、生産性向上における一定の優位性を確認しました。

早田:当グループが手がけるシステムの性質上、Siphonは特に重要な意味をもちます。株式・為替取引や個人資産を扱う基幹システムのような、ミッションクリティカルなシステム(止まると社会やビジネスに重大な影響が出る重要システム)では、高い可用性・信頼性・性能・セキュリティが欠かせません。AIを活用するうえでも重要なのは、単にコードを生成することではなく、複雑な業務要件やシステム全体の設計思想に適合させ、品質を担保できる形にチューニングし続けることです。Siphonでは、スターエンジニアが実際のプロジェクトで培ってきたシステム設計や開発プロセスのノウハウを集約し、継続的に磨き込むことで、AI-Nativeな開発プロセス全体の水準を高めています。

──IT業界やコンサルティング業界の将来に不安をもつ人も多いですが、どのようなスキルを身につければ、AI時代に価値を高められるのでしょうか。

金子:AI-Nativeが当たり前になった先では、IT業界もコンサルティング業界も、現在の延長線上で価値を出し続けることは難しくなります。AIによって代替される業務が増える一方で、クライアントの課題を理解し、意思決定を支援し、実行可能な形に落とし込むという役割の重要性は、むしろ高まっていくはずです。

そうした時代に求められるのは、管理監督だけする人間ではなく、ビジネスもテクノロジーもAIも学び続け、プレイヤーとしてハイブリッドに価値を高めていける人材です。業界構造やクライアントへの価値提供のあり方が変わっても、そうした素養をもつ人材は、変化に適応しながら価値を発揮し続けられるはずです。

当グループには、既存の延長線上では解けない課題に向き合い、より付加価値の高いビジネスやサービスの創出を目指すクライアントから、多くの相談が寄せられます。まだコンセプトレベルで解像度の低いアイデアを具現化し、最速でビジネスに乗せていく。それが当グループのスタイルであり、次々に進化する先端技術をどう活用すれば時代にマッチした面白いビジネスが生まれるかを考え続けることが仕事の本質です。

それがAIによってであろうが、別の何かによってであろうが、社会はこれからも変化し続けていきます。どんな社会になっても通用するビジネスパーソンであるために、貪欲に自分を磨いていく姿勢と意思、そしてそれができる環境が、最も重要ではないでしょうか。

シンプレクス・ホールディングス
https://www.simplex.holdings/


かねこ・ひでき◎シンプレクス・ホールディングス代表取締役社長CEO。一橋大学法学部卒業後の1987年、アーサー・アンダーセン(現アクセンチュア)入社。外資系ベンチャー、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券(現シティグループ証券)を経て1997年、シンプレクスの前身であるシンプレクス・リスク・マネジメントを設立。2016年、単独株式移転により、シンプレクスの持株会社としてシンプレクス・ホールディングスを設立し現職。

そうだ・まさたか◎シンプレクス・ホールディングス取締役副社長 共同COO/Xspear Consulting代表取締役社長。慶應義塾大学卒業後の2002年、アクセンチュア入社。11年にシンプレクスに入社し、金融領域の責任者として、新規サービスの立ち上げに従事。常務取締役を経て、20年に取締役副社長に就任。21年よりシンプレクス・ホールディングス取締役副社長を兼務するとともに、同年4月に創設されたXspear Consultingの代表取締役社長に就任。

promoted by シンプレクス・ホールディングス / text by Fumihiko Ohashi / photographs by Takao Ota / edited by Akio Takashiro

教育

2024.11.08 14:30

合意形成学で「わかりあえない」を諦めない

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「わかりあえない」と諦めないための「合意形成学」。新潟大学佐渡自然共生科学センター教授の豊田光世が読み解く。


「合意形成」という言葉を聞いて、あなたは何をイメージするだろうか。

例えば、自治体の職員に「合意形成」から何を思い浮かべるかを聞いてみると、「調整」「妥協」「交渉」といった言葉を連想する人や、「時間と手間がかかる」「難しい」など、どちらかといえばネガティブな感覚を口にする人が多い。「合意形成」という言葉には、なぜネガティブなイメージがつきまとうのか。ひとつは、「不和」や「対立」など、できれば回避したい状態を想起することがある。さらには、納得感や満足感の高い話し合いの場に参加した経験が乏しいこともあるのではないか。必要だけどできていない、必要だけどうまくいっていない……「合意形成」という言葉には、同時に、意見の一致を生み出すことの難しさが示唆される。

「合意形成学」を専門とする私は、そうした合意形成のネガティブなイメージを払拭したいと考えて、話し合いのデザインに取り組んでいる。合意形成はただ必要なだけでなく、参加した人が前向きになれる創造的なプロセスとして理解されることが重要だ。

私は「合意形成」を、さまざまなステークホルダーと共に、何ができるかを考え、選択肢を生み出していくプロセス、未来の可能性を切り開くプロセスとしてとらえる。懐疑、不安、面倒くささ、無力感……こうした合意形成をめぐる感情を変えていくような話し合いを、私はデザインしたいと考えている。

あらためて「合意形成」とは何か?

この文章を読む人々の多くは、どこかで「合意形成」を日々実践しているのではないだろうか。基本的には、複数の人や組織が関係している話し合いの場で必要になるコミュニケーションだとされている。例えば、議論が紛糾し、時には対立が生じ、結論を出せなくなっているとき。あるいは、複数の選択肢から、多数決とは異なる方法で関係者が賛同しうる意見を探るとき。家庭、職場、地域、国家間など、異なる立場や意見が存在していて、その差異を克服しなければならない場面で合意形成が求められる。

「合意形成学」とは、哲学、社会学、情報学、工学、さらには数理科学など、異なる学問領域から多角的に話し合いのプロセスや結果を分析し、豊かなコミュニケーションのあり方を探る実践的学問である。意思決定プロセスのデザインやファシリテーション技術の体系化にとどまらず、そもそも「合意形成とは何か」「なぜ合意形成が必要なのか」といった根源的な問いを掘り下げながら、理論の構築を試みる。

話し合いによる意思決定は、他者と共に生きていくうえで、避けることはできない。しかし、他者の考えを理解することは、容易ではない。わかりあうことの難しさに困惑しながらも、社会に生きる私たちは、他者と共に考え続ける。合意形成学は、そうした人間の生き方に寄り添いながら、対話と共創が駆動する社会を実現するための方法を模索する学問である。
次ページ > 「トキとの共生」をめぐる挑戦

文=豊田光世 企画・編集=一般社団法人デサイロ

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2025.06.14 18:00

Z世代が実践、スクロール中毒を抜け出して集中力を取り戻す3つの方法

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ネガティブなニュースやソーシャルメディアのコンテンツをチェックすることがやめられなくなり、半ば依存的になってしまう「ドゥームスクローリング(Doomscrolling)」が、働き手の生産性を奪っている。そうした中、ネットを使う際の集中力を取り戻そうとする動きの先頭に立っているのが、Z世代の若者たちだ。

TikTok、インスタグラム、Xなどのソーシャルメディアプラットフォームは、思わずやみつきになるようなフィードバック・ループを作り出し、私たち人間が自然に持つ「ネガティビティ・バイアス(ポジティブな情報よりも、ネガティブな情報に影響を受けること)」に乗じるように設計されている。その結果として生じるのが、ドゥームスクローリングによるその場限りの興奮、社会が分断されているという意識の高まり、生産性の低下、時間の浪費を招く注意力散漫だ。

ソーシャルメディアの世界には、皮肉を込めた発言や恐怖、「FOMO(取り残されることへの不安)」が溢れており、いわば「怒りの経済」と言うべき体系を形作っている。だが、こうした状態への対抗策として、Z世代が行動を起こしつつある。彼らは、ソーシャルメディアに支配された世界に対して、より理性的なアプローチを取る動きの先頭に立っているのだ。

実際、ドゥームスクローリングをやめることが不安の連鎖を断ち切り、ネガティブな物事に動揺しない強い心を育むために役立つことが判明している。

ドゥームスクローリングが奪う生産性

Z世代と、その下のアルファ世代を対象に英国で実施された調査では、対象者の50%近くが「インターネットがない世界で育ちたかった」と回答した。若年層に対するソーシャルメディア禁止令を歓迎する者も、半数に達した。

「The Offline Club(オフライン・クラブ)」というインスタグラムのアカウントは、50万人を超えるフォロワーを獲得している。ある意味皮肉なのは、「ソーシャルメディア断ち」を勧める「クラブ」が存在している場所がソーシャルメディアだということだ。

このクラブは、メンバーに対して「スマートフォンの画面を見つめている時間を、リアルで過ごす時間に置き換えよう」というスローガンを掲げ、「(スマートフォンの)電源を切り、リアルで人とつながり、リラックスして楽しもう」と呼びかけている。ドゥームスクローリングしている時に、こうした「リラックスして楽しい」という感情を覚えるだろうか?(みなさんと同様に、私もそう感じることはない)。

あなたは、ほんの一瞬だけ「チェックしたい」という欲求を感じ、悪いニュースをもたらす通知をスクロールして、退屈をしばし紛らわそうとしたことはあるだろうか?(私はある)。そして、画面を見始めてから2時間が経過し、「おしゃべりする赤ちゃん」ミームを6つ見たあとも、インターネットから離れられないでいる自分に気づく──そして、ドゥームスクローリングの落とし穴にはまって、1日の貴重な数時間を奪われたことに気づいたことがあるのではないだろうか?

次ページ > SNSはスロットマシンとかなり近い

翻訳=長谷睦/ガリレオ

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2024.12.05 15:00

「男性はデート代をおごるべきか?」「おごり規範」と性別役割の近未来像とは

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「恋愛文化」から読み解く社会の現在地。大妻女子大学人間関係学部・准教授の木村絵里子が注目したのが「おごり規範」だ。



「男性はデート代をおごるべきか?」という論争が近年起こっている。

デート代をおごらない男性は、なぜカッコ悪いといわれるのだろうか。特に初デートのときには男性がおごるという行為が、女性に対する思いや、今後、ふたりの関係を進展させたいという気持ちを示すことになっているのは、いったいなぜなのだろうか。

社会には、理由はよくわからないけれどその社会で生きる多くの人々が守るべきと考えるルールがある。社会学では、それを「規範」と呼んでいる。この規範を破ったからといって何らかの法的な罰則があるわけではない。しかし、多くの人がそのルールに従ったほうが良いと思っていたり、あるいは絶対に従わなければいけないと思っていたりする強制力のあるものもある。

デートの際に「男性がおごらなければいけない」という人々の考え方も、「おごり規範」とでも呼びうる恋愛関係にみられる規範のひとつとなっている。長い時間をかけて繰り返される行為のなかで、こうした規範はかたちづくられてきた。

「リード規範」実践と恋愛アドバンテージ

では、現在、上記の規範を守らなければいけないと考える人は、実際にどのくらいいるのだろうか。直接「男性がおごらなければいけないのか」を尋ねたものではないのだが、この規範を包摂し、主に男性側に課せられている「デートは男性がリードするべき」という規範意識(「リード規範」)の項目を検討してみたい。

若年層の研究を行う社会学者のグループ・青少年研究会が2022年に行った全国調査のうち、16~39歳までの独身者のデータを使用した分析によれば(注1)、「デートは男性がリードすべきだ」という考え方を支持(「そう思う」+「ややそう思う」)するのは46.8%、支持しない(「あまりそう思わない」+「そう思わない」)のは53.2%であった。支持する人としない人でおおよそ半分に割れている。
 
補足として、夫は外で働いて稼ぎ、妻は家庭を守るべきだという家庭内の性別役割に関する意識についても確認しておこう。前述の全国調査によれば、「家事や育児は、夫ではなく妻が中心的に担うほうがよい」の支持率は15.6%、「一家の家計を支えるのはやはり男性の役割だ」の支持率は36.7%で、支持しない派が多数を占めている。

男女共同参画白書(令和3年版)(注2)でも、近年になるにつれて「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方を支持しない人が多数派になっている。このような傾向からすると、日本社会ではもう性別役割分業のあり方が十分に是正されたかのようにも見える。

一方で、先ほどのデータでは「デートは男性がリードすべきだ」の割合が、支持/非支持でおおよそ半数に割れていた。では、どのような人が恋愛関係のリード規範を支持するのだろうか。


注1:調査概要については青少年研究会のHP( http://jysg.jp/)を参照のこと、注2:男女共同参画局「男女共同参画白書(平成30年版、令和3年版、令和4年版)」
次ページ > デート時の「暗黙のルール」の成立過程

文=木村絵里子 企画・編集=一般社団法人デサイロ

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