雲の上の「ON」からの指導にひたすら感謝 一塁手が王さん、もうチビリまくりましたよ

話の肖像画 元プロ野球巨人軍選手・篠塚和典<14>

巨人軍多摩川グラウンドで守備練習=昭和53年10月

《王貞治さんの気遣いに感謝》

プロの世界に入って思ったことがあるんです。王さん、長嶋(茂雄)さんは、長い間、球界を引っ張ってきた選手です。雲の上という意識が強かった。一緒にユニホームを着て野球をするというのが不思議な感じでした。ONはやっぱり何かが違うんですよ、接し方が…。

王さんの場合は一緒にプレーもしている。子供のころからあこがれた人が、グラウンドに一緒にいるんですよ。僕が一塁に投げるんです。もうチビリまくりましたよ、最初のころは…。

いい球を投げなきゃいけないって。でも王さんはすぐに気づいてくれた。キャッチボールをやって、シートノックをした。僕の送球が、チビッているのを感じたんじゃないですか。ボールが何かチェンジアップ(※投手が投げる真っすぐのタイミングでふわっと変化するボール)になっている感じで、すぐ王さんに呼ばれたんです。

「シノ、もっと腕を振れ!」って。「ファーストっていうのは(頭の)上に行ったボールは捕れないけど、(体の)両サイド、手前は捕れるチャンスはある。俺には投げづらいかもしれないけど、一塁ベースに向かって放ってこい」って言われた。それで僕、思いきって投げられるようになったんです。王さんが何も言ってくれなかったら〝イップス〟(※心理的な原因などによりそれまで無意識にできていた動作が突如としてできなくなる障害)になっていた可能性がありますよ(笑)。

ゲッツー(併殺プレー)のときも、いい球を投げようと思うとすっぽ抜けたりして、上に行ってしまう(高投)。「下に投げて、下にそのままいけばチャンスはあるんだから。俺が構えている足元に投げてこい」ってね。で、腕を振って言う通りに投げた。それからいい球がいくようになったんです。王さんの細かいアドバイスに助けられました。感謝しかないですよ。

王さんにはプレーのことですごくコミュニケーションをとっていただいた。今の若い選手はどうなんだろう。例えば、ある大物選手がファーストをやっていて、そのときにショートを守っていた若手がイップスになっちゃったんじゃないかっていう話を聞いたことがある。だって(大物は)ここ(胸を指さし体の正面にきたボール)しか捕らないんだもの、練習中でも(笑)。そりゃイップスになるよって。

(※昭和52年、初の1軍成績は18試合、24打数5安打、2割8厘。2軍では131打数40安打、3割5厘)

《ミスターの〝シャドーフィールディング〟は財産》

2年目のシーズンが終わった秋です。多摩川グラウンドで練習しているときでした。当時はサード、ショートのポジションで練習していた。するとミスターがボールを持たずに僕のところにやってきた。そこでシャドーだけの守備練習をする。

三塁ベースより、三遊間ゴロを想定して足の運びやグラブさばきを実演してくれたんです。僕もそれに倣ってやりました。とにかくミスターの動きは軽やかなんです。すごく参考になりました。例の〝右手の指先を伸ばして手のひらをヒラヒラさせる送球〟も見せてくれたんです。目の前ですよ。もう格好良すぎて、ソレはまねなんかできなかったです(笑)。

「流れるような動きが本当にきれいだな」ってファンの人も思っていたプレーです。そういうものは大事だと思って取り入れました。とにかく実践で見せてくれるからわかりやすい。当時41歳ですよ、まだ動けたんですよ、ミスターは…。僕の財産です。

こんな思いって、僕だけじゃなくONに接した同期入団の中畑清さん、6歳上で兄貴分の河埜和正さんら、仲間たち皆が持っていた。で、もっと成長しなきゃって。(聞き手 清水満)

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