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「TikTok」などによる悪影響「ショートビデオ依存症」とは

科学ジャーナリスト
写真:ロイター/アフロ

 米国でTikTokの規制が実行されたが、再開されるなど混乱が続いている。今回の規制は情報安全保障などが理由だが、TikTokのようなショートビデオへの過度な依存、ショートビデオ依存症が新たな問題になりつつある。ショートビデオはユーザーが爆発的に増える中、新しい研究分野であり、ショートビデオ依存症の悪影響についてまだよくわかっていない。では、それはどのようなもので、どのように対処すればいいか考える。

ショートビデオ依存症とは何か

 ショートビデオ依存症に関する研究は、ショートビデオ(Douyin、Kuaishou、小紅書、WeChatなど)のユーザーが爆発に増えている中国のものが圧倒的に多い。それだけ今の中国でショートビデオ依存症が問題になっているのだろうが、中国に限らずTikTokのような短い動画プラットフォームは日本でも広がっている。

 他の物質依存の悪影響と同じく、ショートビデオの視聴などによって日常生活に支障をきたすようになる心身の状態が、ショートビデオ依存症と定義される。TikTokの仕組みや人気の理由などについては、筆者が以前の記事で研究を紹介した

 ショートビデオ自体については、最近、中国の研究者がビジネスの側面から分析し、ユーザーエンゲージメント(サービスとユーザーとの関係)の強さ、満足度の高さなどが魅力であり、使用動機になるとしている(※1)。心理学的なアプローチによれば、社会的な人間関係に不安があったり孤立した状況にあったりする人は、ユーザーに寄り添った動画サービス(パーソナライズされたアルゴリズム)によってショートビデオの過度な使用をしがちだという(※2)。

 また、ショートビデオの使用動機に関する複数の論文を分析・統合した研究によれば、ショートビデオ依存症と現実逃避の間に強い関係があったという(※3)。ショートビデオの使用動機には、情報の取得、新規性、娯楽、ストレス解消、社会的交流、現実への不満の補償、自己実現、社会的な認知、そして現実逃避などがあるが、ショートビデオ依存症はインターネット依存症やSNS依存症、ネットゲーム依存症などと同じように現実逃避が最も大きな原因になっているというわけだ。

 もちろん、現実逃避は本当の意味での問題解決にはつながらず、一時的な気晴らしにしかならない。また、現実逃避が長く続けば、問題解決を遅らせたり妨げたりし、時間が経てば経つほどストレスが強くなり、それによって別の心理的精神的な問題につながる危険性がある。

 さらに、そうした現実逃避によって新たな問題が生じた場合、ユーザーはそれに対処せず、同じように現実逃避をしてやり過ごすようになりがちだ。こうしたことから、視聴のきっかけが情報の取得や娯楽などだった場合でも、最終的にはショートビデオの過度の使用や依存症に変わる危険性がある。

注意力や集中力を減衰させ、自己制御機能が落ちる

 依存症につながるショートビデオの悪影響については、これまで多くの研究がなされてきた。中国の大学生を対象にしたショートビデオと知覚的なストレスや現実への不満を補う動機(Self-Compensation Motivation)との関係を調べた研究によれば、知覚的ストレスがショートビデオ依存症と強い関係があり、現実への不満の補償行為による媒介が示されたという(※4)。

 また、ショートビデオ依存症になると、注意力や集中力が減衰するという研究もある。これも中国の大学生を対象にした研究だが、視線追跡を用いた注意力の分析をした結果、ショートビデオ依存症の人は反応へ応答する時間が長くかかり、与えられたタスクで正答率が低く、依存症でない人とは異なった眼球の無意識な動き(サッカード運動)が見られたという(※5)。

 それでは、ショートビデオ依存症の人の脳では何が起きているのだろうか。中国の浙江大学の研究グループが注意ネットワークテスト(Attention Network Test)を使って48人(女性35人)の参加者のショートビデオ使用と脳波の関係を調べたところ、ショートビデオ依存症になると前頭葉の働きが弱くなることがわかったという(※6)。前頭葉には行動や認知の制御機能があるとされ、ショートビデオを視聴すればするほど、それを自分で制御できなくなる危険性があるというわけだ(※7)。

日本でも早めの対策が必要

 では、TikTokのようなショートビデオの依存症にならないためには、いったいどのような対策が必要なのだろうか。中国の西南政法大学の研究者の論考によれば、ショートビデオ依存症を社会が全体で取り組む問題として扱い、サービス提供会社や規制当局などが責務を持って対処する必要があるという(※8)。

 こうしたプラットフォーム型のサービスでは、ユーザー(インフルエンサー)の投稿が人気の屋台骨となる。サービス提供会社は、持続可能な高品質のサービスのため、コンテンツ第一主義を堅持し、バラエティに富み、教育的な価値と娯楽性を兼ねたコンテンツの提供から逸脱しないことが重要という。

 つまり、収益性や商業主義を優先させ、公共の利益に反するコンテンツが増えていけば相乗的に悪質なユーザー(インフルエンサー)による暴力的だったり性的であったり、社会的に不適切な投稿も増えていき、強いユーザーエンゲージメントやパーソナライズされたアルゴリズム、フィルターバブル、エコーチェンバー効果などによって依存症に陥る危険性も高まってしまう。

 そうならないためには、サービス提供会社はアルゴリズムによるレコメンド機能をセーブし、ユーザーを依存症に導くことを控えなければならないという。特に、膨大なユーザー数を誇るTikTokのようなサービスには、強い自制と自律が求められるだろう。

 一方、規制当局による管理には注意が必要だ。この中国人研究者は、中国政府の規制について擁護的であり、特に未成年者保護の観点から効率的で実効性のあるものとして評価しているが、行政の説明責任と透明性、役割の明確化も重要としている。

 TikTokは、各国で規制強化が進められつつある。情報安全補償など、その理由にはいろいろあるが、中国版のTikTokであるDouyinなどに対する中国研究者の懸念は対岸の火事ではない。日本でもユーザー保護の観点から早めの対策が必要だろう。

※1:Wenting Wang, et al., "Analyzing User Psychology and Behavior in Short-Form Video Shopping Platforms: An Integrated TAM and ISS Model Approach" SAGE Open, doi.org/10.1177/21582440241287076, 14, October, 2024

※2:Xing Zhang, et al., "Exploring short-form video application addiction: Socio-technical and attachment perspectives" Telematics and Information, Vol.42, 101243, September, 2019

※3:Yuzhou Chen, et al., "Motivations behind problematic short video use: A three-level meta-analysis" Telematics and Informations, Vol.95, 102196, November, 2024

※4:Yinbo Liu, et al., "Perceived Stress and Short-Form Video Application Addiction: A Moderated Mediation Model" Frontiers in Psychology, Vol.12, doi.org/10.3389/fpsyg.2021.747656, 23, December, 2021

※5:Yuhan Chen, et al., "The effect of short-form video addiction on users' attention" Behaviour & Information Technology, Vol.42, Issue16, 6, December, 2022

※6:Tingting Yan, et al., "Mobile phone short video use negatively impacts attention functions: an EEG study" Frontiers in Human Neuroscience, Vol.18, doi.org/10.3389/fnhum.2024.1383913, 27, June, 2024

※7:Jiajia Zhu, Lawrence Hoc Hang Fong, "Self-control and problematic short-form video usage: the mediating roles of automaticity and value-driven attention" Behaviour & Information Technology, doi.org/10.1080/0144929X.2025.2452367, 16, January, 2025

※8:Mingyue Liao, "Analysis of the causes, psychological mechanisms, and coping strategies of short video addiction in China" Frontiers in Psychology, Vol.15, doi.org/10.3389/fpsyg.2024.1391204, 6, August, 2024

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ありがとうございます。
科学ジャーナリスト

法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科博士課程満期退学、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。「科学と技術をわかりやすく」をテーマに幅広いジャンルの記事を書いている。日本医学ジャーナリスト協会会員。サイエンス系単著『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュース『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)など。

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