東証上場の昭和HDが「企業消失」寸前、実印・帳簿不明、取締役会も機能不全
東京証券取引所スタンダード市場に上場する昭和ホールディングス(昭和HD)が、実印や会計帳簿、預金通帳の所在すら分からない「企業消失」とも言える異例の事態に陥っていることが、同社が7月8日に開示した資料で明らかになった。代表取締役は不在で、取締役会も開けない状態が続いているという。
同社は1937年設立の老舗企業で、長年にわたりゴム製造事業などを中核に、東証グロース市場上場のコンテンツ事業会社など複数の子会社を傘下に収める持株会社だった。前身の昭和護謨として1937年6月に発足し、1952年に東証第2部に上場登録した歴史を持つ。しかし、6月29日に開催された定時株主総会を境に、経営陣と会社資産の管理機能が事実上崩壊した。
開示資料の題名は「代表取締役選任が出来ていないこと、経営の現況と今後の方針」。それ自体が異常事態を物語る文面で、東証の適時開示情報閲覧サービスに掲載されると、市場関係者の間で衝撃が広がった。問い合わせ先として記載されていたのは、東京都内の弁護士事務所の電話番号だった。
総会で経営陣が総退陣、残った取締役3人は連絡不能
資料によれば、6月29日の第125回定時株主総会では取締役候補9人の選任議案が提出されたが、うち4人が否決された。否決された中には、代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)だった此下竜矢氏も含まれる。同氏は取締役の任期終了に伴い、代表取締役を退任した。
| 区分 | 氏名 | 結果 |
|---|---|---|
| 取締役(監査等委員を除く) | 此下 竜矢(代表取締役社長兼CEO) | 否決 |
| 取締役(監査等委員を除く) | 渡邊 正 | 否決 |
| 取締役(監査等委員を除く) | 庄司 友彦 | 否決 |
| 取締役(監査等委員を除く) | ニコラス・ジェームズ・グロノウ | 可決(重任) |
| 取締役(監査等委員を除く) | 細野 敦 | 可決(重任) |
| 監査等委員である取締役 | 増田 辰弘 | 可決(重任) |
| 監査等委員である取締役 | 西村 克己 | 可決(重任) |
| 監査等委員である取締役 | 久間 章生 | 可決(重任) |
| 監査等委員である取締役 | 戸谷 雅美 | 否決 |
出所:昭和HDが6月30日に開示した「第125回定時株主総会における代表取締役の異動(退任)と取締役選任結果に関するお知らせ」
問題は、再任された5人の内訳にある。連絡が取れない3人とは、増田氏、西村氏、久間氏の監査等委員である取締役3人だ。同社は総会後、代表取締役を選ぶための取締役会を開こうとしたが、3人が欠席したため定足数を満たせなかった。6月30日にも全取締役に招集通知を出し、グロノウ、細野の両取締役が出席したものの、監査等委員3人は現れず取締役会は不成立。招集した細野取締役には一切の連絡がなく、以後も連絡が取れないままだという。会社法上、取締役会設置会社は取締役会の決議によってしか代表取締役を選定できないため、この3人が姿を現さない限り、昭和HDは代表者を置けない。同社は「法的手続を検討する」としている。
さらに深刻なのが、会社財産の管理状況だ。取締役の1人が千葉県柏市にある本店所在地を訪れたところ、そこには看板があるのみで、会社の実印、会計帳簿、預金通帳といった経営に不可欠な物やデータ類は一切引き継がれておらず、保管場所さえも不明であることが判明した。開示資料によれば、これまで昭和HDの開示事務や株主名簿管理を担っていたのは子会社の昭和ゴムの取締役・従業員であり、その昭和ゴムが子会社でなくなった結果、前代表取締役の此下氏から「昭和HDの事務を行わないように」と告げられていたという。
《朝日新聞》の記者が7月9日に現地を取材したところ、本店所在地はかつての子会社である昭和ゴムの工場などが立ち並ぶ広大な敷地だったが、昭和HDの看板は見当たらず、守衛からは「ここには存在しない。看板もない。連絡先もわからない。まったく関係ない」と強い口調で関係を否定されたという。
子会社が親会社に貸し込み、総会の3日前に担保権を行使
今回の混乱には、株主総会直前の資金取引が深く関わっている。ただし、その順序は重要だ。昭和HDが子会社から資金を借り入れたのは総会の直前ではない。同社は2024年8月9日に連結子会社のウェッジホールディングス(東証グロース上場、融資枠4億5,000万円)と、2025年9月12日に連結子会社の日本橋本町菓子処(融資枠8億5,000万円)とそれぞれ融資枠設定契約を結び、日常の運転資金を子会社からの借入で賄ってきた。金利は年3%。当初は最長3カ月の短期運転資金の想定だったが、大部分が一度も返済されないまま固定化し、借入残高は2024年8月9日時点の2億8,000万円から2026年6月24日には12億3,300万円(ウェッジ社3億8,800万円、日本橋本町菓子処8億4,500万円)へと膨張。融資枠の上限合計13億円に迫っていた。
急展開したのはその返済をめぐってだ。6月25日、昭和HDは即時弁済が不可能であることを認めたうえで、保有する連結子会社5社分の株式に、貸し手である子会社2社を質権者とする根質権を設定したと開示した。そのわずか翌日の6月26日、両社から担保権を実行する旨の通知が届く。株主総会の3日前のことだった。
| 担保に供され、行使された株式 | 議決権比率 | 担保評価額 | 質権者(貸し手) |
|---|---|---|---|
| ウェッジホールディングス | 25.48% | 3億6,808万円 | 日本橋本町菓子処 |
| 日本橋本町菓子処 | 54.49% | 4,408万円 | ウェッジホールディングス |
| 明日香食品 | 40.32% | 1億269万円 | ウェッジホールディングス |
| 昭和ゴム | 90.00% | 1円 | ウェッジホールディングス |
| ルーセント | 90.00% | 1円 | ウェッジホールディングス |
出所:昭和HDが6月26日に開示した「連結子会社からの担保権行使通知書の受領、及び連結子会社の異動に関するお知らせ」。昭和ゴムとルーセントは債務超過(2026年3月期末の純資産はそれぞれ△3億1,100万円、△17億1,900万円)のため、備忘価格1円で評価された。
この5社に、明日香食品の100%子会社である明日香を加えた計6社が、連結子会社から持分法適用関連会社へと外れることになった。ゴム製造という創業事業を担う昭和ゴムが、わずか1円の評価額で持株会社の手を離れた計算になる。子会社が親会社に貸し込み、その担保として差し出された兄弟会社の株式を子会社自身が取り上げる——という異例の構図だ。
貸し手側にも事情があった。ウェッジ社は東証グロース市場の時価総額基準40億円を満たしておらず(2026年6月25日時点で14億4,400万円、株価34円で計算)、2026年9月30日を適合判定の期限とする監理銘柄となっている。同社はスタンダード市場への上場市場変更を準備しており、その過程で親会社である昭和HDからの独立性確保、すなわち役員兼務の解消と債権債務の適正化を強く求められる立場にあった。6月22日に庄司友彦氏が昭和HDの代表取締役を辞任したのも、開示資料によれば「上場連結子会社との代表権の兼務解消」が理由だった。
「17日間」で崩れた上場企業
一連の出来事は、わずか17日間に凝縮されている。
統治不全は5年前から続いていた
もっとも、昭和HDのガバナンスが突然崩れたわけではない。同社が6月24日に開示した「支配株主等に関する事項について」によれば、第120回から第124回までの定時株主総会では、取締役選任議案が「審議を行うのに必要となる議決権定数が不足し審議に至らなかった」ため、第119回総会で選任された取締役が「権利義務取締役」として在任を続けていた。今回の第125回総会は、実に5回ぶりに取締役選任議案が実際に決議された総会であり、その結果が経営陣の事実上の総退陣だった。
背景には、実質的な支配株主が誰なのか判明していないという特異な資本構成がある。同社の親会社は議決権の63.53%を握る英領ヴァージン諸島籍のA.P.F. Group Co., Ltd.だが、株主名簿上はスイスの信託会社SIX SIS LTD.名義であり、昭和HDは2021年から「実質株主の確認作業」を訴訟を通じて続けている。A.P.F.社のダイレクターには2018年7月6日以降、Receiver(保全管理人)が就任している。
会計面でも赤信号は灯っていた。昭和HDは6月24日、2026年3月期の内部統制報告書に「開示すべき重要な不備」を記載すると開示。持分法適用関連会社であるタイのGroup Lease PCL(2025年4月にタイ証券取引所で上場廃止)をめぐるタイ証券取引委員会(SEC)指摘の融資取引について、監査法人が十分な監査証拠を入手できず、連結財務諸表の監査意見は「限定付適正意見」にとどまっていた。
昭和HDは8日付の開示資料で「今後の対応方針は検討中」としているのみで、具体的な再建計画や株主への説明は行われていない。上場企業としての情報開示や企業統治(コーポレートガバナンス)の根幹が問われる極めて異例のケースであり、東京証券取引所や金融庁の対応も注目される。
市場関係者からは「実質的に上場廃止に準ずる状況ではないか」「株主の権利が完全に放置されている」との声が上がっている。昭和HDの株式は現在も東証スタンダード市場で売買可能だが、投資家保護の観点から監理銘柄への指定や上場廃止の可能性も取り沙汰されている。
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