第118話

「ビュッ!」

「ビュイッ!」


 仲間の一体を消し飛ばされたウミオニ達は『ルーチェを最優先を倒すべきだ』と判断したらしく、一気に彼女目掛けて動き出した。


「〈アイス〉!」


「ビュッ!」


 メアベルはウミオニ達の進路目掛けて杖先から氷塊を撃ち出し、ウミオニ達の動きを牽制した。

 その隙に俺はウミオニの影を踏みつけた。

 行動阻害するスキル、〈影踏み〉である


「悪いが、俺と戦ってもらうぞ!」


「ビュ……」


 ウミオニが忌々し気に俺を振り返る。

 その背へと目掛け、ルーチェが飛び掛かってきた。


「〈竜殺突き〉!」


「ヴィエッ!」


 ルーチェの攻撃の前に、またウミオニ一体の身体が爆ぜる。


【経験値を510取得しました。】


「よし、二体目も取りました……!」


 だが、〈竜殺突き〉の隙を狙い、別のウミオニがルーチェを標的に捉え、魔法陣を展開していた。


「ルーチェ、とにかくその場から逃げろ! 〈ウォータースラッシュ〉が来るぞ!」


 俺が叫んだ直後、飛来してきた矢がウミオニの額に突き刺さった。


「ビィッ!」


 ウミオニは矢の勢いで頭を大きく弾かれる形になり、奴の展開していた魔法陣が途切れた。


「ナイスだケルト!」


 こうして順調にウミオニ狩りは進んでいった。



 レイドが〈夢の穴〉の入り口周辺を占拠しているウミオニ狩りを終えたとき、俺達の周囲には十体のウミオニの亡骸が横たわっていた。


「……すげぇ勢いで狩れちまったな。感覚麻痺し掛かってたが、【Lv:63】ってかなりの強敵だからな。お前と行動してるときは経験値の伸び方が桁外れだよ」


 ケルトが周囲を見回しながらそう口にした。

 他のパーティーは、せいぜい狩ったウミオニの数は一体や二体のようであった。

 こちらに羨望の眼差しを向けている冒険者達も多い。


「ルーチェのビルドは爆発力の上限こそ抑え気味だが、素早さがあるから対応力があるし、条件制限みたいなものもないからな」


「あれで抑え気味だったら他のアタッカークラスが泣いてるぜ」


 ケルトが呆れた表情でルーチェの方を見る。


「あーっ! 皆さん、来てください! このウミオニ、アイテム落としてますよ! あっ、こっちのウミオニも!」


「……あれでドロップ強化も付いてるんだもんな。キャラビルドって本当に大事なんだな」


 ケルトが深く溜め息を吐いた。


 ルーチェが五つの小瓶を抱えて、俺達の方へと戻ってくる。

 中には青い液体が入っていた。


「変わったアイテムなんよ? ポーション?」


 メアベルがぱちりと瞬きをする。


「〈海の雫〉だな。錬金用アイテムだ。特殊なポーションの素材になる。一応、そのまま飲んでもちょっとした体力の小回復にはなるな」


「……ウミオニから出てきたと思うと、飲む気がしないがな」


 ケルトはルーチェの抱えている小瓶を一つ取ると、蓋を上げて手で仰ぎ、匂いを嗅いでいた。


「ケルト、下手に触るよりそのまま〈魔法袋〉に突っ込んでおいた方がいいぞ」


「毒でもあんのか?」


「一つ六百万ゴルドはする代物だからな」


 ケルトは素早く蓋を締めた。


「そっ、そういうことは、もっと相応のテンションで言いやがれ!」


 ケルトは俺へと怒鳴った後、頭を押さえた。


「……はぁ、眩暈がしてきた。お前らといると、本当に感覚が麻痺してくるぜ」


「早速注目の的になっているようだな、エルマ」


 ふとそのとき、背後より声を掛けられた。


「人手不足で折角出張ってきたというに、まったく、お前に出て来られると、お嬢様が活躍しても話題を全てかっ攫われてしまいそうだ」


 女騎士イザベラと、ハウルロッド侯爵家の次期当主候補スノウであった。


 彼女達も今回のレイドに参加しているらしい。

 二人は次期当主としての実績作りのために奔走しているようなので、考えてみれば今回のレイドに顔を出しに来るのは当然ともいえた。


 こうして改めて会うと、スノウには威厳があった。

 従者であるイザベラの一歩前を悠然と歩き、感情の読めない冷たい眼差しで俺とルーチェを見やる。


 二人は何となく緩い印象が付き纏っていたのだが、大貴族ハウルロッド侯爵家の次期当主候補の座にいる人物なのだと再認識させられる。

 なんとなく緊張させられた。


 スノウは俺達の前に立ち、数秒沈黙を作る。


 何を切り出すのかと身構えていると、イザベラが背を屈め、スノウの耳許へと頭を下げた。


「お嬢様、御二人に挨拶に来たのでしょう? あの、やはり私から言いましょうか?」


「……す、少し待って、イザベラ」


 スノウはイザベラへと、タイミングを計るように深呼吸を挟む。


「い、以前は危ないところを助けていただき、ありがとうございました。歓待の席では、父様がご迷惑を……」


「まさか、気品ある藍色髪に、寡黙で厳格な佇まい……。ハウルロッド侯爵家のご令嬢か!?」


 ケルトが俺の横へと立った。

 スノウがびくりと肩を震わせ、その場から一歩退いた。


「疑ってたわけじゃないが、顔見知りになったって話は本当だったんだな……」


「噂には聞いたことがあったけど、実際にお顔を拝見するのは初めてなんよ。この人が、あのハウルロッド侯爵家の……」


 メアベルが出てくると、スノウが更に身体をすっと退く。

 完全にイザベラの背へと隠れてしまった。


「こ、今回はツレがいたのか……」


 イザベラがしまったというように表情を歪めていた。


「お嬢様、立て直せますか……?」


 イザベラが声を潜め、スノウへとそう尋ねる。

 スノウは無言で小さく首を振った。


 ……人見知りのスノウには、初顔二人に横から出て来られるのは厳しかったらしい。


「あ、あまり恩を売った気にはならんことだな、エルマ! ここまで事が大きくなった以上、流れ者の冒険者の出る幕などない。お前達冒険者など、せいぜい数合わせだ。あまり場を引っ掻き回してくれるなよ。わ、私が言いに来たのはそれだけだ! ……ささ、お嬢様、こちらへ」


 イザベラは早口で捲し立てると、スノウの背を手で押しながらそそくさとその場を去っていった。


「なんだったんだ……?」


 ケルトが呆気に取られたように、去っていくイザベラ達の背を眺めていた。


 ……スノウが冷酷な人物だと噂されている理由が何となくわかった。

 無表情と人見知りだけではなく、イザベラのフォローの仕方にも難がありそうだ。

 もっとも、イザベラもイザベラでどうにかスノウの人見知りを誤魔化して威厳を保とうと必死なようなので、責められないところではあるが。

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