納豆に合う異色の日本酒 常陸太田・老舗酒蔵が開発 酵母の「天敵」を相棒に 茨城
地元の名産品を支えようとする異色の挑戦が、商品化された。茨城県常陸太田市の老舗酒蔵「岡部」が、同市産酒米を使い、納豆に合う日本酒を開発。本来、納豆菌は酒造りに欠かせない酵母などの働きを邪魔する「天敵」だが、あえてその風味に寄り添う一杯に仕上げた。岡部彰博社長(45)は「いずれも県の特産品。調和させ、消費を増やしたい」と意気込む。
新商品開発の背景にあるのは、納豆の本場としての危機感だ。
総務省の家計調査によると、2025年の同県水戸市の1世帯当たり納豆購入額は福島県福島市に次ぐ全国2位。16年に一度は日本一を奪還したものの、近年は首位から遠ざかっている。「大いに飲んで、食べて、消費につなげてほしい」。そんな思いから、岡部社長は県産業技術イノベーションセンター(茨城県茨城町)に共同開発を持ちかけた。
日本酒造りは、納豆と相性が悪い。納豆菌は繁殖力が極めて強く、ひとたび蔵に侵入すれば、重要な工程となるこうじ菌や酵母の増殖を妨げるほか、繊細な香りや味わいを台無しにしてしまう。このため、酒造りに関わる従業員たちは、主に10月から翌年5月の醸造期間中、好物であっても納豆を断つのが常識だ。
同社の杜氏(とうじ)を務める岡部社長は、納豆と相性のいい日本酒を研究してきた。ただ自身は、年間で納豆を口にできる機会が少ない。同センターが持つ納豆菌の知見を頼りに、相性を科学的に分析。苦みやうまみ、粘り、酸味などを5段階で数値化し、納豆の癖を包み込む最適な配合を探り当てた。
醸造工程でも工夫を凝らした。地元産の酒米「五百万石」と地元の水を使い、蔵の温度を通常より低い5~10度に設定。じっくりと発酵させて切れのある辛口を引き出した。あえて香りを抑えることで納豆特有の風味を邪魔せず、酸味の力で口内の粘り気を解消することですっきりした後味を実現した。岡部社長は「納豆が苦手な人も楽しめる」と太鼓判を押す。
こうして完成した純米吟醸酒「松盛 納豆がガツンと旨(うま)くなる!」は、小粒から大粒までどんな納豆とも合うように仕上がった。720ミリリットル入りで1950円(税別)。いばらき地酒バー(水戸市)や道の駅ひたちおおた、電子商取引(EC)サイトなどで販売されている。
「観光土産品としても販売を強化したい」と岡部社長。さまざまな困難を乗り越えて生まれた一本を手に、茨城県の特産品の売り込みに力を注ぐ。