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/tachiha/ - たちは板κ

リレー小説用
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cfc7f4c5 No.3184

e75537e9 No.3194

「ふにゃぁ〜。」
スクリュードライバーやブラッディーマリーといった高いカクテルをしこたま飲まされた私は、正体なく笑う。
レディーキラーと呼ばれる口当たりの良い代わりにアルコール分の高いお酒をどんどん奢ってくれる男の思惑なんてしれてるわけだが、今夜はその思惑に乗ってやろうと思う。普通の女の子にだって性欲はあるのだから、30でTSしてしまい二十歳前後になった私にだって当然性欲はあるのだ。

4bb81075 No.3205

「送り狼には誰がなるの?」
私の口から漏れたのは、自分でも驚くほど甘ったるい声だった。
テーブルに置かれたグラスの縁を指でなぞりながら、目の前で下卑た期待を隠しきれずにいる同僚の男を見る。
彼は「だいじょうぶ? 酔った?」なんて言いながら、私の肩を引き寄せようと虎視眈々とチャンスを伺っている。
ふふ、馬鹿な男。
私がかつて「男」として、この手の合コンでどれだけ戦略を練っていたかを知りもしないで。

私は今、市役所の戸籍住民課で働く、ちょっとした有名人だ。
「中途採用で入ってきた、少し影のある美人」
それが今の私のパブリックイメージ。30歳で人生がひっくり返り、TS(性転換)という超常現象に見舞われてから早数年。
戸籍の書き換えには死ぬほど苦労したが、部長以上の幹部連中にだけは「特殊な事情」として根回しを済ませてある。
おかげで、私は20代前半のぴちぴちした(この表現は今の私には少し気恥ずかしいが)女性として、第二の人生を謳歌していた。
名前:織田 舞(旧名:織田 真司)
職業:市役所職員(窓口業務担当)
秘密:元30歳、独身貴族のサラリーマン。


今夜のコンパは、部署の若手が主催したものだ。
次々に運ばれてくる、オレンジやトマトの香りが心地よいカクテルたち。
「舞さん、これ飲みやすいよ。お酒弱いんでしょ?」
そう言って差し出された『スクリュードライバー』。
中身がウォッカベースの、立派なアルコール度数であることを私は知っている。
かつての私なら「これ、結構キツいから気をつけなよ」とスマートに忠告しただろうが、今の私はとろんとした瞳でそれを受け取り、一気に喉へ流し込む。
熱い。
胃のあたりがじりじりと焼けるような感覚。
でも、それが心地いい。
男が耳元で囁く。
「……少し、外の空気吸いに行こうか? 近くに静かな店、知ってるんだ」
使い古されたテンプレート。
でも、今の私にはそれがたまらなく刺激的だった。
30歳の男だった頃の知識と、20歳の女になった肉体。
理性が「危ないぞ」と警告を鳴らす一方で、アルコールで蕩けた本能が「たまには流されてみてもいいんじゃない?」と囁き返す。
「いいよ……。でも、私、歩けるかな……?」
わざとらしく、机に突っ伏すようにして胸元を強調してみる。
男の息が荒くなるのがわかった。
市役所の真面目な「織田さん」は、今夜だけはログアウト。
かつての自分なら絶対に手を出さなかった「危うい女」を演じながら、私は心の中で、自分を送り届けるはずの「狼」を嘲笑い、そして同時に、彼に牙を立てられる瞬間を心待ちにしていた。
「ねぇ。責任、取ってくれるんでしょ?」
上目遣いでそう告げると、私は男の差し出した手に、熱を帯びた自分の指を絡ませた。

a3aa5c54 No.3212

「ねぇ、千田くん。そんなに強く握ったら、痛いよ?」
私はわざと少しだけ声を震わせ、繋いだ手に力を込める。
私たちの指は、いわゆる「恋人繋ぎ」の形で深く絡み合っていた。
私の細くなった指の間に、彼のごつごつとした指が食い込んでいる。
夜の帳が下りた川沿いの遊歩道。
街灯が水面に反射して、ゆらゆらと黄金色の光を散らしている。
隣を歩く千田くんは、さっきから生返事ばかりだ。
コンパの自己紹介では「福祉課でケースワーカーをやってます」なんて真面目そうに言っていたけれど、今の彼はそんな爽やかな公務員には見えない。
横顔を盗み見ると、彼は耳の裏まで真っ赤に染め、眉間にしわを寄せて何やら必死に考え込んでいた。
(ふふ。顔に出すぎ。この先の『城』に、どうやって誘い込むか必死なんでしょ?)
この遊歩道を抜けた先には、ネオンが毒々しく輝くホテル街がある。
かつての私なら、あそこへ連れ込むための「スマートな口実」をいくつも用意していただろう。
「終電なくなったね」とか「ちょっと休みに行こうか」とか。
でも、今の私は、誘われるのを待つ側だ。
彼が「あの、織田さん、その……」と口ごもった瞬間、私は先手を打つことにした。
「ふにゃぁ……。なんだか、久しぶりにあんなにお酒飲んだから、疲れちゃったなぁ」
私は立ち止まり、千田くんの腕に全体重を預けるようにして寄り添った。
二十歳の瑞々しい肌に、少し高めの体温。
アルコールで火照った私の吐息が、彼の首筋にかかる。
「……疲れ、ましたか?」
「うん。脚もふわふわするし……このまま歩いて帰るの、ちょっと大変かも。千田くんのせいだよ? 私にあんなに美味しいお酒、たくさん飲ませたんだから」
わざと甘えた口調で責めると、彼は露骨に狼狽した。
「あ、いや、ごめん! 悪気はなかったんだ、ただ、織田さんが楽しそうに飲むから……」
「嘘。酔わせてどうにかしようと思ったんでしょ?」
直球を投げると、彼は「そんなこと……!」と否定しようとして、言葉を飲み込んだ。
川風が私の髪をさらりと撫でる。
私は絡めた指をさらにぎゅっと締め、彼の目をじっと見上げた。
「ねぇ。私、もう一歩も歩きたくない。どこかで、ゆっくり座って休めるところ、ないかな?」
千田くんの喉仏が大きく上下した。
彼の視線の先には、すでにピンク色のネオンが見え隠れしている。
福祉課の若手職員は、ついに覚悟を決めたように、私の肩に手を回した。
「すぐそこに、静かに休める場所があるんだ。行こう、舞さん」
「うん。千田くんがエスコートしてくれるなら、いいよ」
私は心の中で、かつての「織田真司」だった自分に苦笑する。
女の武器を使うのがこんなに簡単で、こんなに愉悦を伴うものだなんて。
今夜、この「送り狼」がどんな牙を見せてくれるのか。私は千田くんの腕に抱かれながら、夜の闇へと足を踏み出した。

a3aa5c54 No.3213

File: 1775974604945.png (1.71 MB, 1028x1024, 1775974395874.png)


d256ca9a No.3231

自動ドアが開くと、冷房の効いたロビーに、派手な入浴剤の香りと独特の密室感が漂っていた。
千田くんは、まるでお化け屋敷にでも迷い込んだ子供のように肩を強張らせている。
自動精算機の前に立つ彼の手は、ポケットの中で財布を探しているのか、あるいはスマホを落としそうになっているのか、目に見えて震えていた。
「あ、えっと、舞さん。その、部屋、一番上のデラックス、でいいかな?」
「ふふ、千田くんにお任せするわ。私、こういうところ、初めてだから、よくわからなくて」
私は頬を赤らめ、少し俯いて彼のシャツの裾をつかんだ。
「初めて」なんて嘘だ。
男だった頃、それこそ仕事の付き合いや遊びで、この手のシステムは嫌というほど熟知している。
パネルの操作に手間取っている彼に「そこは決定ボタンを先に押すんだよ」と喉まで出かかったアドバイスを、アルコールと一緒に飲み込んだ。

エレベーターの中は、信じられないほど静かだった。
上昇するわずかな振動に合わせて、私の肩と彼の腕が触れ合う。
(ああ、ダメ。お酒のせいで、身体の芯が熱
い)
スクリュードライバーの甘い罠が、今になって私の理性をじりじりと侵食していた。
二十歳の、感度が鋭敏になったこの身体は、男の放つ緊張感混じりの体温に過敏に反応してしまう。
押し倒してしまいたい衝動を、淑女の仮面で必死に抑え込む。
「……着いたよ」
千田くんがカードキーを差し込む。
二、三回エラーを出して、ようやく解錠の電子音が響いた。
部屋に入った途端、彼は入り口で直立不動になった。
「あ、あの! 舞さん、先に……シャワーとか、使う? それとも、喉乾いたかな、冷蔵庫に何か……」
「千田くん。そんなに焦らなくても、逃げたりしないわよ?」
私は鞄をソファに置き、ゆっくりと彼に歩み寄った。
部屋の照明を少し落とすと、窓から見える宮崎の夜景が、私たちの輪郭を曖昧にする。
「私、まだ少しだけ、ふわふわしてるの」
私は彼の胸元にそっと手を置き、ネクタイの結び目に指をかけた。
千田くんの心臓が、トクトクと速い鐘のように鳴っているのが掌に伝わってくる。
福祉課の真面目な彼が、今、必死に理性と闘っている。
その様子が、たまらなく愛おしく、そして——ゾクゾクするほど、私を昂ぶらせた。
「少し……冷ましてくれる?」
潤んだ瞳で彼を見つめ、私は一歩、彼との距離を詰めた。
手慣れていない彼の戸惑いさえも、今の私にとっては最高のスパイスだった。

f2481b6e No.3244

千田くんは、さっきから不自然なほど部屋の備品を点検している。テレビのリモコンの位置を確認したり、備え付けのミネラルウォーターをじっと見つめたり。
(おいおい、いつまで待たせるつもりだよ、千田)
アルコールの熱が、下腹部のあたりでドクドクと脈打っている。
男だった頃の経験上、今すぐこいつをベッドに押し倒して、不器用な指先を「ここだよ」って導いてやりたい衝動に駆られる。二十歳の女の身体ってのは、俺が思っていた以上に素直で、貪欲だ。
自分から剥き出しの欲望をぶつけてしまえば、どんなに楽だろう。
けれど、今の俺は「市役所の織田さん」なんだ。ここでガツガツ行ったら、今までの淑女キャラが台無しになる。
俺は荒くなる呼吸を必死に整え、唇を噛んで熱を散らすと、わざとらしく千田くんの背中に寄り添った。
「千田くん……そんなに遠くにいたら、寂しいよ」
背中に柔らかい胸の感触が伝わった瞬間、千田くんの身体がびくん、と跳ねた。
「あ、ごめん! 舞さん、その、雰囲気に慣れてなくて。変に緊張させちゃったよね」
「ううん。千田くんのそういう真面目なところ、嫌いじゃないよ。でも、今はもう少しだけ、近くに来てほしいな」
(よし、いいぞ。そのままこっちに来い)
俺は彼の腕をそっと取り、誘導するようにベッドの端へ腰掛けさせた。
私もその隣に、肩が触れ合う距離で座る。
部屋の間接照明が、俺の肌を火照った桃色に照らしているはずだ。
「舞さん、顔、すごく赤いよ。やっぱり、飲みすぎた?」
「そうかも。……身体中が、すごく熱いの。ねぇ、触ってみて?」
(はやくしろ、限界だ。男の俺が女を誘うなんて冗談みたいな話だけど、今はもうそんなの関係ねえ!)
俺は彼の大きな手を自分の頬、そして首筋へと導いた。
熱に浮かされた肌に触れた瞬間、千田くんの指先がピクリと震える。
「本当だ。すごく、熱い……」
「千田くんの手、冷たくて気持ちいい……。もっと、いろんなところ……冷ましてほしいな」
俺は彼の目を見つめたまま、ゆっくりと自分の首筋を晒すように髪をかき上げた。
誘っているのは俺なのに、あくまで「誘われている」体裁を保つ。
男の征服欲を適度に刺激し、彼が「一線を越える勇気」を持てるように、丁寧に、けれど確実に外堀を埋めていく。
「舞さん、俺、もう我慢できそうにないんだけど……いいかな」
千田くんの声が、低く、湿り気を帯びて響いた。
彼の手が、俺の肩から二の腕へと滑り落ちる。
「千田くんがしたいこと、私も……したいと思ってるよ」
(よし、こい! 牙を剥けよ、送り狼……!)
俺は彼の首に腕を回し、あどけない少女のような微笑みを浮かべながら、その唇が重なるのを静かに待った。
内側から溢れ出しそうな狂おしいほどの性欲を、淑女のヴェールの下に隠して。

5b702f3b No.3249

千田くんの顔が、ゆっくりと近づいてくる。
その瞳は緊張で泳ぎ、視線がどこを彷徨えばいいのか分かっていない様子だ。
(おいおい、そんなに震えるなよ。こっちまで緊張が移るだろうが)
やがて、触れるだけの、羽毛のような軽いキス。
場所も少しズレて、唇の端に当たっている。
まるでお互いの反応を伺うような、ぎこちない接触。
(はぁ。これ、俺がリードしなきゃ朝までこのままだな。よし、スイッチ入れるか)
私はわざと、驚いたように小さく吐息を漏らし、瞳を閉じた。
そして、彼が離れようとした瞬間に、絡めていた指先をぐいっと引き寄せる。
「んっ。千田くん、もっと……いいのよ?」
私は彼の首筋に顔を埋め、柔らかな髪を指で梳きながら、耳元で熱い吐息を吹きかけた。
二十歳の女の肉体が発する甘い香りと、アルコールの熱が混ざり合い、狭い密室に充満する。
「舞さん、俺、本当に……壊しちゃうかもしれない……」
「壊して。千田くんになら、いいから……」
私はベッドに身を沈めながら、彼の大きな手を、自分のタートルネックの裾へとそっと導いた。
厚手の生地の下に、ブラジャー越しではない、熱を持った「女」としての柔らかな感触を教え込んでやる。
(ほら、ここだ。遠慮すんな。お前の欲しがってるもんは、ここにあるぞ)
指先が私の肌に触れた瞬間、千田くんの呼吸が劇的に変わった。
荒くなり、理性が焼き切れる音が聞こえそうなほど、強烈なオスとしての本能が目覚めていくのが分かった。
「……あ……っ」
千田くんが、私を押し倒す。
さっきまでのぎこちなさは消え、彼は飢えた獣のように私の唇を塞いだ。
今度は深く、強引な、互いの唾液が混ざり合う熱いキス。
(よし、落ちたな。今夜はたっぷり、俺……じゃなかった、「私」を可愛がってもらうからな)
市役所の淑女という仮面の下で、私は勝利を確信したような、そして自分自身の高まりに抗えない、蕩けた笑みを浮かべていた。

c26f5aea No.3253

「んむっ、ふ……っ」
千田くんのキスは、さっきまでの遠慮が嘘みたいに強引で、熱かった。
お互いの唾液が混ざり合う、グチュリとした卑猥な音が静かな部屋に響く。
二十歳の身体は敏感すぎて、舌を絡められるたびに背中を電流が走ったような衝撃が突き抜けていく。
(おいおい、あの大人しそうだったやつが豹変しすぎだろ。でも、悪くねえ……いや、最高だわこれ)
「はぁ……はぁ……舞さん、ごめん、俺……」
「いいのっ。千田くんの鼓動、すごく速いね……私の、聞こえる?」
私は彼のシャツのボタンを一つずつ、もどかしい手つきで外していく。
本当なら一気に引きちぎってしまいたい。でも、今は「慣れない手つきの女の子」を演じなきゃならない。
指先をわざと震わせながら、彼の胸元に触れる。
「すごく、綺麗な身体してるんだね」
(って、俺が言ってどうすんだよ。でも実際、若さってのは武器だな。自分でもこの身体、たまに直視できねえもん)
「舞さんこそ。ねぇ、俺、もう我慢の限界なんだ。一緒に、シャワー、入らない?」
千田くんの声はもう、すっかり男のそれに変わっていた。
恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、その瞳にはどろりとした欲望が張り付いている。
「えっ、一緒に? それは、その……恥ずかしい、よ」
首を振って俯く。
でも、手は彼の腰に回したままだ。
(よし、これで「嫌じゃないけど恥ずかしい」っていう完璧な演出の完成だ。早く連れてけよ、千田)
「大丈夫だから。俺に、舞さんの全部を見せてほしい」
千田くんが私の身体をひょいと、お姫様抱っこするように抱え上げた。
「あっ、きゃっ」と短い悲鳴を上げる。
視界が揺れて、彼の逞しい腕の感触がダイレクトに伝わってくる。
「……千田くん、意外と力持ちなんだね」
「これでも一応、学生時代はスポーツやってたんだ。舞さん、軽いから」
彼はそのまま、浴室へと足を進めた。
すりガラスの向こうに見える、清潔で少し無機質な空間。
自動で点灯した照明の下で、私たちは狭い洗い場に並んで立った。
「脱がせても、いいかな?」
「……うん。優しく、してね?」
(はぁー、俺、今のセリフ、ノリノリで言ってんな。30歳の男だった頃の自分が見たら、卒倒するんじゃねえか?)
千田くんの震える手が、私のタートルネックの裾にかかる。
服が滑り落ちるたびに、冷たい空気が火照った肌を撫でていく。
やがて、鏡に映ったのは、一人の男を完全に「落とした」あどけなくも色香を纏った、二十歳の私の姿だった。
「綺麗だ」
千田くんが、呆然としたようにつぶやく。
その視線が、私の身体を舐めるように動く。
(さあ、ここからが本番だぞ。俺を……私を、満足させてみろよ)
シャワーからお湯が溢れ出し、白い湯気が二人を包み込んでいった。

c26f5aea No.3254

タイルの冷たさと、シャワーから立ち上る熱い湯気のコントラストが、私の感覚をいっそう鋭くさせていた。
お互いに自分の体を洗い終え、気まずい沈黙が流れる。
千田くんは、さっきまでの勢いはどこへやら、視線をどこに置いていいか分からないといった様子で、一生懸命に自分の膝あたりを眺めている。
(おいおい、ここで止まるなよ。せっかくいい雰囲気なんだからさ)
私はわざとらしく、足元の石鹸の泡を少しだけ残しておいた。
「千田くん、あの……っ!」
「あ、舞さん、危なっ——」
声を上げた瞬間、私はわざと重心を崩した。
濡れたタイルに足を滑らせたふりをして、彼の胸元へダイブする。千田くんが慌てて私を支えようと腕を伸ばし、私たちはそのまま浴室の壁に押し付けられるような形で密着した。
「あ、痛っ。ごめんね、千田くん」
私は彼の首に腕を回し、潤んだ瞳で彼を見上げた。
同時に、二十歳の弾力ある胸を、彼の顔の間近……いや、ほとんど押し付けるように密着させる。
(ほら、どうだ? この感触。男だったらもう理屈じゃねえだろ)
「……舞、さん……」
至近距離で、千田くんの荒い吐息が私のデコルテにかかる。
彼の視線が、隠しきれない私の膨らみに釘付けになっているのがわかる。
「ねぇ、千田くん。まだ、お酒のせいかな……心臓が、さっきよりずっとドキドキしてるの。触ってみる?」
私は彼の震える手を導き、自分の胸元に導いた。
はじめてのラブホテルに戸惑う「お淑やかな淑女」を演じながら、心の中では彼が理性をかなぐり捨てる瞬間を、冷徹に、そして熱狂的に待ち構えていた。
(よし、あと一押し。お前が選んだんだぜ、この後のことは)
「舞さん、もう、止まれないよ」
千田くんの声が、獣のような低い響きに変わった。
彼は私の腰を強く引き寄せ、再び深く、貪るようなキスを仕掛けてきた。
今度は、私が先導する必要はなさそうだった。

c26f5aea No.3255

千田くんが少し震える手で、大きなバスタオルを広げて私を包み込んでくれた。
「風邪ひいちゃうから、ちゃんと拭いて」
そう言う彼の視線は、タオルの隙間から覗く私の肩や鎖骨に吸い寄せられている。
私は「ありがとう」と小さく呟き、わざと拙い手つきで身体の水分を拭った。
濡れて肌に張り付く髪をかき上げ、胸元がはだけないようにバスタオルを身体に巻きつける。
(ふぅ、この『守ってあげたくなる女』の演出も、案外板についてきたな)
すると突然、視界がふわりと浮き上がった。
「わっ……!」
「ベッドまで、運ぶから」
千田くんが私を軽々とお姫様抱っこし、浴室から寝室へと歩き出す。
男の腕の力強さと、バスタオル越しに伝わる体温。心臓の鼓動が耳の奥でうるさく鳴り響く。
(やるじゃねえか、千田。こういうベタな演出、女の身体になるとマジで効くんだな)
彼は慎重に、まるで壊れ物を扱うような手つきで私を白いシーツの上に横たえた。
寝室の薄暗い明かりの中で、千田くんの瞳は爛々と輝いている。
完全に興奮しているのは一目瞭然だが、彼はどこか冷静さを取り戻したような動きで、ベッドサイドの棚に手を伸ばした。
カサリ、と小さなビニールが擦れる音が静かな部屋に響く。
(お、ちゃんと準備すんのか。浮ついてるようで、意外と冷静じゃねえか。公務員らしいっつーか、誠実っつーか……)
彼は私から少し視線を外しながら、手慣れない様子で、それでも確実にコンドームを装着した。
その真剣な表情を見て、私の中の「男」の部分が「合格」と太鼓判を押す。
「舞さん、待たせてごめん」
再び彼が覆いかぶさってくる。
バスタオルの結び目に彼の手がかかり、ゆっくりと解かれていく。
「ううん。千田くんなら、私……何されてもいいよ」
私は瞳を閉じ、二十歳の柔らかな肉体を彼に委ねた。
理性が溶けていくような熱い感覚の中、私は「織田舞」として、今夜一番の甘い声を上げた。

83748905 No.3265

千田くんが少し震える手で、大きなバスタオルを広げて私を包み込んでくれた。
「風邪ひいちゃうから、ちゃんと拭いて」
そう言う彼の視線は、タオルの隙間から覗く私の肩や鎖骨に吸い寄せられている。
私は「ありがとう」と小さく呟き、わざと拙い手つきで身体の水分を拭った。
濡れて肌に張り付く髪をかき上げ、胸元がはだけないようにバスタオルを身体に巻きつける。
(ふぅ、この『守ってあげたくなる女』の演出も、案外板についてきたな)
すると突然、視界がふわりと浮き上がった。
「わっ!」
「ベッドまで、運ぶから」
千田くんが私を軽々とお姫様抱っこし、浴室から寝室へと歩き出す。
男の腕の力強さと、バスタオル越しに伝わる体温。
心臓の鼓動が耳の奥でうるさく鳴り響く。
(やるじゃねえか、千田。こういうベタな演出、女の身体になるとマジで効くんだな)
彼は慎重に、まるで壊れ物を扱うような手つきで私を白いシーツの上に横たえた。
寝室の薄暗い明かりの中で、千田くんの瞳は爛々と輝いている。
完全に興奮しているのは一目瞭然だが、彼はどこか冷静さを取り戻したような動きで、ベッドサイドの棚に手を伸ばした。
カサリ、と小さなビニールが擦れる音が静かな部屋に響く。
(お、ちゃんと準備すんのか。浮ついてるようで、意外と冷静じゃねえか。公務員らしいっつーか、誠実っつーか)
彼は私から少し視線を外しながら、手慣れない様子で、それでも確実にコンドームを装着した。
その真剣な表情を見て、私の中の「男」の部分が「合格」と太鼓判を押す。
「舞さん、待たせてごめん」
再び彼が覆いかぶさってくる。
バスタオルの結び目に彼の手がかかり、ゆっくりと解かれていく。
「ううん。千田くんなら、私……何されてもいいよ」
私は瞳を閉じ、二十歳の柔らかな肉体を彼に委ねた。
理性が溶けていくような熱い感覚の中、私は「織田舞」として、今夜一番の甘い声を上げた。

a9852733 No.3280

バスタオルがシーツの上に広がり、私の肌が夜の空気に晒される。
千田くんが覆いかぶさってきた瞬間、彼の下半身の主張が、私の太ももにダイレクトに伝わってきた。
(おいおい、マジかよ。お風呂の時からなんとなく気づいてたけど)
いざ間近で見ると、それは期待と恐怖が混ざるほどの存在感だった。
(俺が男だった時のやつより、ふた回り……いや、もっとあるだろ。千田、お前そんなもの隠し持ってたのかよ)
備え付けのコンドームが、そのサイズに合っていないのか、パツパツに張り詰めて窮屈そうに悲鳴を上げている。
だが、その表面を覆う潤滑液と、ホテルに入った時からずっと準備万端だった私の「女」としての蜜が、合流地点を求めていた。
「舞さん……俺、もう我慢できない」
千田くんの声はかすれ、理性の糸がプツリと切れる音が聞こえた気がした。
本来なら、もっと丁寧に愛撫して、言葉を交わして……という前戯のステップがあるはずだが、今の彼にそんな余裕はないらしい。
「あ、千田くん、待っ——」
私が声を上げる間もなく、彼は急かすように私の膝を割り、その巨大な質量を入り口へと押し当てた。
「ごめん、でも、舞さんが、あまりに綺麗だから……!」
(くっ、いきなりかよ! 初心者のくせに強引だな!)
でも、不思議と嫌な気はしなかった。
アルコールでとろけた意識と、この敏感な身体が、彼を受け入れる準備を勝手に進めている。
コンドームのヌルリとした感触が、私の熱と混ざり合い、驚くほどスムーズに道を作っていく。
「ふっ、あっ、千田、くん」
私は彼の広い肩に指を食い込ませ、のけぞった。
男だった頃には決して知り得なかった、内側から押し広げられる圧倒的な充足感。
「すご、い。千田くんの、おっきいよ……っ」
「舞さん、きついっ。あったかくて、締め付けられて……壊れそうだ……」
不器用で、一方的で、でも暴力的なまでに一途な欲求。
私は市役所の「お淑やかな淑女」の殻を脱ぎ捨て、彼がもたらす未知の快楽に、ただただ翻弄されるがままになっていた。

3249d956 No.3293

「ふ、ぁっ! ああ……っ!」
内側を埋め尽くす圧倒的な質量。
男だった頃の知識では「痛い」はずのシチュエーションなのに、今のこの身体は、彼の大きさを快楽へと変換して脳に届けてくる。
(やべぇ。これ、マジで入ってるのかよ。規格外だろ、千田のやつ……っ!)
千田くんは、自分のものの大きさに戸惑っているのか、それとも私の反応に興奮しすぎているのか、余裕のない顔で何度も腰を突き立ててくる。
コンドームの潤滑液と、私から溢れ出した熱い蜜が混ざり合い、「グチュ、グチュッ」という卑猥な音が、静かな部屋に、いや、私の耳の奥まで直接響いた。
「舞さんっ、大丈夫? 痛くない?」
「だいじょ、うぶ……っ。千田くんのが……すごすぎて、頭……真っ白に、なりそう……」
私は彼の背中に爪を立て、必死に快楽の波に耐える。
不器用で、リズムもめちゃくちゃだ。
前戯を飛ばして無理やりこじ開けるような、そんな強引な挿入。
でも、その「慣れてなさ」が、逆に今の私にはたまらなく愛おしく、そして淫靡に感じられた。
(くそっ、こんなっ。でも、気持ちいい……。女の身体って、こんなに奥までっ)
千田くんの額から落ちた一滴の汗が、私の胸元で弾ける。
彼は私の反応を確かめる余裕もないほど必死に、ただひたすらに、私という獲物を食い荒らそうとしていた。
「舞さん。好きだ、舞さんっ!」
「あ……っ、んんっ! 私もっ、好き……っ、千田くん!」
(嘘じゃねえ。今、この瞬間だけは……俺、お前のことが、最高に、好きだわ)
私は彼の首を強く引き寄せ、耳元で言葉にならない悲鳴を上げた。
三十歳の男だった頃には想像もできなかった、理性を粉々に砕かれるような絶頂の予感に、私はただ、この若い狼に全てを委ねるしかなかった。

90ced98d No.3346

シーツはもう、どこもかしこも汗と粘液でぐっしょりと濡れそぼっていた。
何度も頂点に達し、そのたびに意識が白く飛ぶような快楽の奔流に飲まれたはずなのに、千田の熱量は一向に冷める気配がない。
それどころか、回を重ねるごとに彼は飢えた獣のように激しさを増していった。
一度、行為が途切れた瞬間。
乱れた呼吸の中で彼がベッドサイドへ手を伸ばし、小さなパッケージを破る音が聞こえる。
カサリ、という乾燥した冷たい音。
それがまるで、獲物を逃さないための「装填」の音のように私の鼓膜を震わせた。慣れない手つきで、しかし迷いなく彼は次なる弾丸を装着する。
(おい、嘘だろ。まだやる気かよ)
男だった頃の俺なら、一度出せばしばらくは賢者タイムに入るものだ。
だが、今の千田は違う。
理性を焼き切ったあとの彼は、生理的なサイクルを超越して、ただひたすらに俺という器を突き崩そうとしていた。
私が息を整える隙も与えず、彼は再び腰を深く沈めてくる。
「舞さん、まだ足りない。全部、俺で満たしたいっ」
「っ、ぁ! あ、ああぁっ! 千田くん、もう、壊れ、ちゃう……!」
さっきまで感じていた未知の快楽は、いつしか身を削るような激しい拷問へと変わっていた。
奥まで突き上げられるたびに、内壁が悲鳴を上げ、脳髄まで痺れるような電流が走る。
ゴムを新しくしたばかりの千田のものは、さっきよりも硬く、熱く、そして粘り強く私を蹂躙していく。
(足が、動かない。腰も……もう限界だ。このままだと、俺の身体が本当に壊される!)
私の身体はとっくに限界を超えていた。
快感という麻薬で感覚を麻痺させられているけれど、筋肉は限界まで引き伸ばされ、何度も繰り返される激しいピストン運動の衝撃に、骨の髄まで軋んでいる。
何度も昇天させられ、そのたびに身体中の体液を絞り出され、空っぽになったはずなのに、千田はまたそこへ溢れんばかりの熱い衝動を注ぎ込んでくる。
「っ、んんぅ! ああ、だめ……っ、また、きちゃうっ!」
「俺も……っ、舞さんが、欲しい……っ!」
彼は私の身体に顔を埋め、野生動物のような唸り声を上げて腰を振る。
彼自身もまた、限界に近いのだろう。
全身から噴き出す汗がシーツを汚し、私たちの身体を滑りやすくさせるが、それがかえって摩擦の熱を高めていく。
何度も何度も繰り返される反復。
その中で、私は自分が何者なのかを見失いかけていた。
サラリーマンの記憶も、市役所の真面目な織田舞としてのプライドも、この繰り返される快楽の蹂躙の前では無力だ。
ただ、若い女性の肉体という名の、終わりなき苦行を強いる容器に閉じ込められたまま、私は彼が満足するまでこの地獄を味わい続けるしかない。
(千田、お前、見た目に反してどんだけ怪物なんだよ。)
思考が溶け落ちていく。
視界が明滅し、千田の荒い呼吸だけが世界のすべてになる。
私の身体はもう、自分の意志とは無関係に、彼を求め、受け入れ、壊されていくための機能しか果たせなくなっていた。
薄れゆく意識の淵で、私はただ、シーツを掴む手の力を強めることしかできなかった。

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世界が静止した。
あれほど激しく打ち鳴らされていた肉体のぶつかり合う音も、絶え間なく続いた卑猥な喘ぎ声も、すべてが嘘のように消え去った。
俺の身体はもう、ただの布切れのようにぐったりとベッドに沈み込んでいた。
汗と体液で湿ったシーツの感触が、肌にねっとりと張り付いている。
意識はとろけて虚ろで、視界の端で天井の照明がぼんやりと揺れているように見えた。
(……やっと、終わったか……)
30年間の人生で、ここまで身体の芯まで「搾り取られた」経験はない。
男だった頃には知り得なかった、底なしの快楽の沼に沈められた気分だ。
その時だった。
俺に覆いかぶさっていた千田の身体が、ピタリと止まった。
荒かった彼の呼吸が、驚くほどの速さで落ち着いていく。
まるで、何かの魔法が解けたみたいに。
ふと見上げた彼の瞳には、さっきまでの獣のようなギラついた光はなく、どこか呆然とした、現実に戻ってきた男の眼差しがあった。
「……あ……」
千田が、自分の下で事切れたように横たわる俺——織田舞の姿をまじまじと見つめる。
彼は自分のやったことの凄惨さ(というより、情熱のあまりの度を越した行動)に気づいたのだろう。
顔からみるみる血の気が引いていくのがわかった。
(おいおい、そんな顔すんなよ。って、やべぇ、マジで顔色が悪いぞ。本当に我に返ったのか?)
千田は慌てて俺から身を引き、シーツの上に座り込んだ。
彼は自分の震える手を見つめ、それからぐしょぐしょになったベッドの上と、ぐったりしている俺を見比べた。
「ご、ごめん……舞さん! 俺、何を!」
彼の声には、先ほどまでの支配的な響きはもうなかった。そこにあるのは、真面目な公務員に戻った青年の、底知れない後悔と混乱だけだ。
「っ……、う……」
俺は喉からかすかな音を絞り出すのが精一杯だった。
声帯さえも疲労していて、うまく言葉にならない。
千田は半泣きになりそうな顔で、近くにあったタオルを手に取ると、恐る恐る俺の太ももや腹部に付着した汚れを拭おうとする。
その手つきは、さっきまでの強引さが嘘のように、今度は壊れ物を扱うように繊細で、慎重だった。
(ったく。送り狼の皮を被った獣かと思えば、終わってみればただのビビリかよ。この落差、ある意味で人間味ありすぎだろ)
俺は心の中で苦笑しながら、重たい瞼を少しだけ持ち上げる。
意識はまだ朦朧としていたが、ようやく「殺人的なピストン運動」から解放された安堵感が、全身を包み込んでいた。
「舞さん、顔色が……。救急車、呼ぶ……? いや、病院、行ったほうがいいよね……? 俺、本当に最低なことを……!」
千田のパニックぶりを見て、俺は小さく息を吐いた。
このままじゃ、こいつは責任感に押し潰されて一生この夜を悔やむだろう。
「千田くん」
俺は掠れた声で、彼の手を止めた。
彼の手を握りしめると、千田の肩がビクリと跳ねる。
「大丈夫。死なないから……」
俺は弱々しく、けれど精一杯の妖艶な笑みを浮かべてみせた。
この一夜が、俺とこの若い狼にとって、どんな意味を持つのか。
30歳の男の魂を持ったまま、20歳の女としてこんな無茶な夜を過ごした代償は、案外大きいかもしれない。
「まだ、動けない。……もう少しだけ、こうしてて」
俺は彼の腕の中に再び身を投げ出し、ただ静かに、荒ぶった鼓動が収まるのを待った。
地獄のような一夜は、こうして静寂の中に幕を閉じようとしていた。

6aa96a35 No.3370

「あ、あの、舞さん。昨日のこと……俺、本当に、その……ごめん」
千田は両手で顔を覆い、シーツの端を握りしめながら、項垂れてそう言った。
完全に「賢者タイム」の真っ最中だ。
昨夜の飢えた獣のような面影はどこにもない。
真面目すぎる公務員が、一線を越えてしまったことへの罪悪感に苛まれている姿は、なんとも初々しくて笑える。
(おいおい、謝るなよ。こっちまで罪悪感感じちまうだろ。あれは俺も……いや、俺たちも求めてたんだからさ)
俺は心の中で毒づきつつも、ベッドから降りる。
バスタオルを身体に巻き付け、ぎこちない足取りで彼の隣に座った。身体の節々が軋む。
昨夜の運動量が、二十歳の身体にとってもかなりの負荷だったことがわかる。
「千田くん、謝らないで」
私は彼の背中にそっと手を伸ばし、優しく撫でた。
彼の肩が、熱に触れたようにびくりと跳ねる。
「あんなに、幸せな夜だったのに。謝られたら、私が悪いことをしたみたいじゃない」
「いや、違うんだ! 舞さんの身体、壊れちゃってないかと思って。俺、昨日は完全に頭に血が上ってて、自分が何を……」
(壊れてるか壊れてないかで言えば、完璧に蹂躙されたな。でも、悪い気はしなかった。むしろ、男として……いや、女としてか? どっちでもいいや、とにかく最高だったぜ)
私はふふ、と喉を鳴らして笑い、彼の顔を覗き込んだ。
指先で、隠された彼の目元を優しくなでる。
「壊れてなんてないよ。むしろ、すごく満たされてる」
俺は「女」の口調で、あえて少しだけ色っぽく付け加えた。
すると千田は、顔を真っ赤にしながら、まるで縋るように俺の手首を掴んだ。
「本当に、いいの?」
「うん。……千田くんが、私のことをそんなに熱く求めてくれたんだもん。嬉しかったよ」
彼は俺の手を握りしめたまま、しばらくの間、何も言わずにじっと俺を見つめていた。
その瞳の奥には、困惑と、そして隠しきれない「所有欲」が混ざり合っている。
なるほど。
どうやらこの福祉課の優等生は、一度味を占めたら意外と執着するタイプかもしれないな。
(……ま、市役所でまた顔を合わせるわけだしな。これからは、今まで通りの「同僚」関係ってわけにはいかないだろうな)
昨夜の激しい情事が、俺たちの関係をどう変えるのか。
そんなことを考えていると、千田は意を決したように俺を抱き寄せた。
「舞さん、俺、今日一日……舞さんのそばにいていいかな?」
「ふふ、もちろん。お腹、すいちゃった」
俺は彼の胸に顔を埋めながら、男だった頃には考えられなかった「甘える」という行為を、自分でも驚くほど自然に楽しんでいた。
三十歳の魂を抱えたまま、このまましばらく、この「織田舞」という箱庭の中で遊んでみるのも、悪くないかもしれない。
「じゃあ、まずはシャワー、もう一度だけ、貸してくれる?」
俺はわざと小悪魔的に微笑みかけ、彼をもう一度、ホテルという密室の沼へと引きずり込んだ。

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千田をベッドに残し、私は重い足取りでバスルームへと向かった。
扉を閉め、冷え切ったタイルの上に立つ。
鏡に映る自分の姿を見て、思わず苦笑いが漏れた。
首筋から鎖骨、肩にかけて、そこかしこに赤紫色の痕(キスマーク)が残っている。
昨夜の狂気がどれほど凄まじかったか、鏡の中の肌が雄弁に物語っていた。
(おいおい、これ、会社で見せたら一発アウトだな。タートルネックで隠せるか? いや、月曜までには消えてくれよ……)
シャワーの蛇口を捻り、熱い湯を浴びる。
水圧が筋肉痛の身体に心地よく突き刺さる。
身体を洗うスポンジを手に取り、丁寧に泡立てながら、私は自分の身体を撫で上げた。
昨夜、何度も千田に愛されたこの身体は、まだ微かに震えている。
30歳の男だった頃の俺なら、朝起きてシャワーを浴びればそれで全てはリセットされていた。だが、今のこの「20歳の女」の身体は、快楽の記憶を細胞のレベルで刻み込んでいるようで、どうにも収まりが悪い。
(さて、これからどうするかな……)
千田くん。
福祉課の、あの真面目でどこか抜けていた男。
彼が昨夜見せた獣のような一面は、間違いなく本物だった。
今までは「同僚」というレッテルを貼って見ていたけれど、一度身体を重ねてしまえば、関係性は否応なしに変わる。
これからの職場での立ち位置、そして私という「TSの秘密」との距離感。
もしも彼が、この関係にのめり込んで「独占したい」なんて言い出したら面倒だ。
かといって、昨夜のあの充足感を捨てるのも惜しい。
男の性として、この若くて瑞々しい女の身体が、自分を求めてくるのを拒絶するのは難しいだろう。
(まあ、いいか。なるようになるだろ)
結局、今の俺は「織田舞」という箱を演じているだけで、中身は30歳の元サラリーマンだ。
男の扱いなんて、それこそ腐るほど見てきた。
千田を完全に掌の上で転がしつつ、職場では「有能な同僚」として振る舞い、夜は「秘密の愛人」として可愛がってやればいい。
それは、30年かけて積み上げた俺の知恵と、20歳のこの身体の武器を組み合わせた、最高のライフハックかもしれない。
私はシャワーを止め、備え付けのタオルで身体を拭った。
鏡の中の自分が、少しだけ妖艶に微笑んでいるように見えた。
(よし。月曜日からが本番だな。市役所、か。退屈な場所が、急に面白くなってきたぞ)
私はタオルを巻き、濡れた髪をかき上げながら、再びベッドルームへの扉を開けた。
そこには、俺を待つ、今夜の「飼い犬」が眠っている。

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シャワーを浴び終えて、湯気に包まれながらバスルームの扉を開ける。
(さて、千田の野郎、どんな顔して待ってるかな)
バスタオル一枚の姿で、わざと少ししどけなく部屋に戻ったのだが、期待していたような「舞さん、大丈夫?」なんて甘い言葉も、熱い視線も飛んでこなかった。
千田は俺と視線を合わせることすら避けるようにして、入れ違いで脱兎のごとくバスルームへ駆け込んでいった。
「……あ、俺も、シャワー浴びてくるから」
ボソッとそれだけ言い残して、バタンと扉が閉まる。
(なんだよ、あいつ。あんなに激しくしといて、朝になったらこれかよ。少しは余韻に浸らせろっつーの)
心の中に、ちくりとした小さなトゲが刺さる。
「お疲れさま」の一言くらいあってもいいだろう。あるいは、このキスマークだらけの肩を見て、また顔を赤らめるとかさ。
……そこで、自分自身の思考にハッとした。
(待て待て。俺、今何考えてんだ? なんであいつからのリアクションを『期待』してんだよ。男だった頃の俺なら、黙ってシャワー行くなんて『賢者モードの様式美』として理解してただろうが)
情事の後の、女特有の寂しさ。
そんなものを、30歳の男の魂が抱くはずがない。
それなのに、この二十歳の肉体は、ホルモンバランスのせいなのか、それとも昨夜の蹂躙の余韻のせいなのか、知らず知らずのうちに「愛された後の女」としての振る舞いを脳に強制してくる。
(やべぇな。身体が女になると、中身まで引っ張られちまうのかよ)
俺は苦笑いしながら、ベッドの隅に散乱していた「昨日の服」を拾い上げる。
本当は着替えたかったが、予備なんてあるはずもない。
しわを軽く伸ばしながら、まずは下着を身につける。
(このブラジャーつけるの、まだ慣れねえんだよな。ホックを止める時の、この独特の締め付け感……)
続いて、昨日の服。少し酒の匂いが残っている気がするが、背に腹は変えられない。
鏡の前に座り、持参していたポーチから最小限の化粧道具を取り出す。
(キスマークは……コンシーラーで隠しきれるかこれ? かなり濃いぞ。あいつ、マジで加減を知らねえんだから……)
パフで肌を叩き、リップを薄く引く。
少しずつ、鏡の中の姿が「市役所の織田舞」へと戻っていく。
けれど、鏡に映る瞳の奥には、昨夜の快楽を知ってしまった、淫らな光がまだわずかに残っていた。
(よし、化けの皮は剥がれてねえな。千田が出てきたら、何食わぬ顔で『お腹空いたね』って言ってやるか)
私は口紅を馴染ませながら、バスルームから聞こえるシャワーの音を、どこか冷めた、けれど少しだけ熱を帯びた気持ちで聞いていた。

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シャワーの音が響くバスルームを背に、私はサイドテーブルに置いていたスマホを手に取った。
画面には、昨夜のコンパに参加していた同僚の女子たちからの通知が数件。
『舞ちゃん、あの後どうなったのー?(笑)』
『千田くんと二人で消えたの、みんな見てたよ! 舞ちゃんが意外と積極的でびっくり!』
『大丈夫? 飲みすぎて変なことされてない? 心配だから返信ちょうだいね』
文面はからかい半分、心配半分といったところだが、そのどれもが最後には決まったように同じ質問で締めくくられていた。
——『で、千田くんとどこまでいったの?』
(ったく、女ってのは本当にこういう話が好きだよな。……あ、俺も今、女なんだったっけ)
一通一通、スクロールしながら中身を確認する。
「どこまでいった?」か。
まさか、お前の想像してる「どこまで」の数倍は深く、それこそシーツを何枚もダメにするくらい蹂躙されたなんて、口が裂けても言えない。
(あいつが、まさかあんなデカいもん振り回す怪物だったなんて、誰が信じるよ)
男だった頃の経験上、こういうのは適当にはぐらかすのが正解だ。
「酔っ払って寝ちゃった」とか「タクシーで送ってもらっただけ」とか、いくらでも言い訳は思いつく。
だが、鏡に映る自分の、コンシーラーでも隠しきれないほどの首筋の痕(キスマーク)を見つめていると、妙な優越感に近い感情が込み上げてくるのも事実だった。
(教えてやりたいよ。あのおとなしそうな千田が、夜はどんな顔して腰を振るのか。お前らが一生かかっても味わえないような悦楽を、俺は……私は、たっぷり味わったんだってな)
私はスマホのキーボードを叩きかけ、ふと指を止める。
市役所の「お淑やかな織田さん」という仮面を守るなら、ここは沈黙か、あるいは完璧な嘘を貫くべきだ。
でも、このズキズキと痛む身体と、内側に残るあの圧倒的な熱量は、嘘をつくことを拒んでいるようだった。
「……んー、なんて返そうかな」
千田が出てきたら、一緒にブランチでも食べながら相談してやるか。
私はスマホを伏せ、昨夜の共犯者がバスルームから出てくるのを、意地悪な微笑みを浮かべながら待つことにした。

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ガチャリ、とバスルームの扉が開いた。
湯気と一緒に、心なしかさっぱりした顔の千田くんが戻ってくる。
濡れた髪をタオルでガシガシと拭きながら、俺の着替え終わった姿を見て、また少し気まずそうに視線を泳がせた。
(おいおい、まだ引きずってんのかよ。男ならシャキッと白飯でも食いに行くぞ、白飯)
私はスマホを置いて立ち上がり、わざとらしくお腹をさすってみせた。
「おかえり、千田くん。……ねぇ、私、昨日の夜から何も食べてないから、お腹すいちゃった。どこか、ブランチに行かない?」
「あ、うん……そうだね。もうそんな時間か」
「場所は千田くんにおまかせ。……今日一日は、私のエスコート役、してくれるんでしょ?」
上目遣いでそう言うと、千田くんは「えっ、おまかせ……?」と、目に見えてうろたえ始めた。彼はスマホを取り出し、眉間にしわを寄せてフリーズしている。
(……あー、こいつ、普段オシャレなカフェとかデートスポットとか、全然縁がないタイプだな? スマホの画面、検索ワードが『オシャレ ブランチ』とかになってんじゃねえだろうな)
「その……舞さん、俺、そういう女の子が喜ぶような、気の利いたお店とか全然知らなくて。ちょっと調べてみるから、待って……」
必死に画面をスクロールする彼が可笑しくて、愛おしい。
私は彼の袖をきゅっと引っ張った。
「ふふ、そんなに気張らなくていいよ。千田くんの行くお店なら、私、どこでもいいよ?」
「……どこでも、いい?」
「うん。どこでも」
私の言葉に、千田くんはしばらく考え込んでいたが、やがて何かを決心したようにぽん、と手を叩いた。
「……じゃあ、すごくオシャレってわけじゃないんだけど、俺がよく行く定食屋さんでもいい? 雰囲気は普通だけど、ご飯はすごく美味しいんだ」
(お、定食屋。最高じゃねえか。今のこの空っぽの胃袋には、気取ったパンケーキより、ガツンと白米と味噌汁が一番染みるんだよ)
「うん、そこに行きたい! 千田くんの『行きつけ』、教えてほしいな」
私は嬉しそうに微笑み、彼に寄り添った。
市役所の「織田舞」としては、オシャレなイタリアンあたりを期待するのが正解だったのかもしれない。
けれど、30歳の男の魂を持つ私にとっても、そして昨夜あれだけ激しく身体を動かされた二十歳の私にとっても、千田くんが選んだその「飾らない選択」は、最高に魅力的なエスコートだった。

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「え、そのお店、この時間からでも開いてるの?」
時計を見ると、ブランチというには少し遅い時間だったけれど、千田くんは「うん、あそこは通し営業だから大丈夫。ここから歩いてすぐだよ」と、ようやく少し誇らしげに微笑んだ。
ホテルの自動ドアをくぐる直前、千田くんは急に足を止め、周囲をキョロキョロと見回し始めた。
まるで見つかってはいけない指名手配犯か、あるいは悪いことの証拠隠滅を計る現行犯だ。
(おいおい、分かりやすすぎるだろ。誰も見ちゃいねえよ、土曜のこんな時間に市役所の職員がラブホから出てくるとこなんてさ)
「千田くん、そんなに変な動きしてたら、逆に怪しまれちゃうよ?」
「あ、いや、ごめん! もし部署の人に見つかったら、舞さんに迷惑がかかると思って……」
「ふふ、大丈夫だよ。ほら、行こう?」


私たちは並んで、よく晴れた土曜日の街を歩き出した。
少し歩いていると、隣を歩く千田くんの様子がまたおかしくなった。
彼の左手が、私の手のひらのあたりで行ったり来たりしている。
指先を少し伸ばしては、パッと引っ込め、またポケットに入れようとしては思い直したように出す。
(はは、分かりやすっ。手を繋ぎたいけど、昨日の夜あんなに暴れといて、今さら恥ずかしがってんのかよ)
あまりにもじれったいその動きに、私の中の「男」の血が、ちょっとした悪戯心を刺激された。
繋ぎたいなら、もっと大胆にこさせなきゃな。
「ねぇ、千田くん」
「えっ? あ、はい!」
「さっきから手が落ち着かないね。……繋ぎたいの?」
「うっ……いや、その、俺なんかと手を繋いだら、舞さん、また嫌かなって……」
「嫌なわけないじゃない。でも……普通に繋ぐだけじゃ、つまんないな」
私は一歩踏み込み、彼の差し出し崩しかけていた右腕に、自分の両腕を滑り込ませた。
いわゆる「腕組み」の形だ。
ただの腕組みじゃない。
昨夜、彼が散々貪り尽くした二十歳の瑞々しい胸を、これでもかと彼の二の腕に押し付ける。
「……っ!?」
千田くんの身体が、まるで電気ショックを喰らったみたいにガチガチに硬直した。
彼の二の腕に、私の胸の柔らかい弾力がダイレクトに潰れて食い込んでいる。
(どーだ、千田。お前が大好きなやつだぞ。昨日の夜、何回もここに顔埋めてただろ?)
「こうして歩いた方が、はぐれないし……何より、千田くんの体温が近くにあって、安心するの」
私は彼の顔を見上げ、わざと小悪魔的な笑みを浮かべた。
「舞さん……それ、反則。……心臓に悪すぎるよ」
「ふふ、昨日の夜はあんなに激しかったのに、今はそんなに弱気なんだ? 私、千田くんの逞しい腕、嫌いじゃないよ?」
「もう、本当に勘弁して。……でも、嬉しい」
千田くんは真っ赤になった顔を隠すように少し俯きながらも、私の胸が押し当たっている腕の力を、心なしかきゅっと引き締めた。
街ゆく人が見れば、仲睦まじい美男美女のカップルにしか見えないだろう。
中身が30歳のオッサンだとは誰も思うまい。
私は腕に伝わる彼の硬さと熱を楽しみながら、土曜日の爽やかな風の中、美味しいご飯が待つ定食屋さんへと彼を引っ張っていった。

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ホテルから少し歩いた路地の奥に、その定食屋はひっそりと佇んでいた。
看板も小さく、まさに知る人ぞ知る隠れ家的な佇まいだ。
暖簾をくぐって引き戸を開けると、香ばしい出汁と焼き魚のたまらない匂いが鼻腔をくすぐり、空っぽの胃袋がグウと鳴った。
「いらっしゃい! ……おお、千田くんじゃないか!」
厨房から、ねじり鉢巻を締めた恰幅のいい店主が、威勢のいい声を上げた。
だが、次の瞬間、店主の目が私の姿を捉え、持っていたお玉を落としそうになるほど見開かれた。
千田くんが女の子——それも、腕にこれでもかと胸を押し付けた私を連れているのだから、驚くのも無理はない。
「おい、母ちゃん! 大変だ! 千田くんが……あの千田くんが、女の子連れてきたぞ!!」
「ちょっと、お父さん、大声出しすぎよ!」
奥から割烹着姿の奥さんが慌てて出てきたが、私の姿を見るなり、その顔がパッと明るい笑顔に変わった。
「あらまぁ! いらっしゃい。まぁ、なんて可愛らしい彼女さんじゃないの! 千田くん、やるじゃない!」
「あ、いや……その、彼女というか……あ、いや……っ」
千田くんは顔を耳の根元まで真っ赤にして、完全にパニックに陥っている。
手をブンブンと振って否定しようとするが、私の胸が腕に密着しているせいで、動きがぎこちないことこの上ない。
(はは、店主のおっちゃんも奥さんも最高だな。千田、お前普段どんだけ浮いた話がなかったんだよ。役所の同僚、って言い訳すら思いつかないくらいテンパってやがる)
「ふふ、初めまして。織田舞です。千田くんにはいつもお世話になってます」
私は腕を組んだまま、淑女の微笑みで完璧に挨拶をこなしてみせた。
奥さんは「まぁまぁ、お行儀のいいお嬢さんだこと!」とすっかり上機嫌だ。
私たちは奥の座敷席に案内された。
メニューを開こうとすると、厨房から店主が「今日はもう、うちの美味いもん詰め込んだ『おまかせランチ』で決まりだろ!」と声をかけてきた。
「あ、はい! じゃあ、おまかせ二人前でお願いします」
千田くんは逃げるように注文を済ませ、お茶をゴクゴクと飲み干した。
ようやく腕の密着から解放されて、ホッとしたような、でもどこか名残惜しそうな顔をしている。
しばらくして運ばれてきたおまかせランチは、想像以上のボリュームだった。
ツヤツヤに輝く白米、合わせ味噌のいい香りが漂うお味噌汁、メインのサクサクな唐揚げに、季節の焼き魚。
「はい、これは大将からの特別サービスね! かわいい彼女さんの分と、千田くんもしっかり体力つけなきゃダメよ?」
奥さんが悪戯っぽく笑いながら、通常のおまかせには付かない、出汁の効いた卵焼きと筑前煮の小鉢をコトッと置いてくれた。
(体力つけなきゃダメよ、か。奥さん、大正解だわ。昨日の夜、こいつのせいで俺の体力は完全にゼロなんだよ)
「ありがとうございます! 美味しそう……!」
私は手を合わせ、さっそく箸をつけた。
まずは出汁の染みた筑前煮を口に運ぶ。
「……んっ! すごく美味しい……!」
じゅわっと広がる優しい味が、昨夜の狂乱で疲れ切った身体の隅々にまで染み渡っていくようだった。
隣を見ると、千田くんも「やっぱりここのご飯は最高です」と、ようやくいつもの素直な笑顔に戻って、ガツガツと白米を口に放り込んでいる。
(オシャレなカフェもいいけど、やっぱりこういうのが一番落ち着くな。千田のやつ、いい店知ってんじゃねえか)
私は彼のおいしそうに食べる横顔を眺めながら、この居心地のいい空間と、極上の料理を心ゆくまで堪能した。

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「……ふぅ、美味しい」
お箸を進めながら、私は心の中で小さくため息をついた。
男だった頃の俺なら、このくらいのボリュームの定食なんて、白米をおかわりしてペロリと完食できただろ。
だけど、今のこの「二十歳の女」の胃袋は、自分が思っている以上に小さかった。
それに、昨夜あれだけ激しく体力を消耗したせいか、美味しいのにどうしても箸が止まってしまう。
「どうしたの、舞さん? 口に合わなかった?」
千田くんが心配そうに覗き込んできた。
彼はすでに自分の分を綺麗に平らげ、まだ物足りなさそうな顔をしている。
「ううん、すっごく美味しいんだけど……ちょっと量が多くて、食べきれそうにないの。……千田くん、もしよかったら、これ食べてくれない?」
私がそう言って、まだ手をつけていない唐揚げと卵焼きを彼のほうへ差し出すと、千田くんの目がパッと輝いた。
「えっ、いいの!?……じゃあ、遠慮なくいただきます!」
嬉しそうに私の残り物を引き取り、ガツガツと美味そうに平らげていく。
その食べっぷりを見ているだけで、なんだか私まで満たされたような気分になるから不思議だ。
(人の残り物を嬉しそうに食うなんて、すっかり懐いてやがんな。可愛いところあるじゃねえか)
食後、奥さんが「はい、ゆっくりしていってね」と、食後のサービスコーヒーを運んできてくれた。
温かいコーヒーをゆっくりと啜り、一息ついたところで、私はさっきから気になっていた件を切り出すことにした。
テーブルの上にスマホを置き、画面を千田くんの方に向ける。
「ねぇ、千田くん。ちょっと相談があるんだけど……」
「ん? 何、舞さん?」
「これ、見て。さっきシャワー浴びた後に、昨日のコンパにいたメンバーからメッセージが数件届いてたの」
千田くんがコーヒーカップを持ったまま、スマホの画面に目を落とす。
そこには、同僚女子たちからの『千田くんとどこまでいったのー?』という、からかいと好奇心に満ちた文面が並んでいる。
それを見た瞬間、千田くんは「ぶふっ」とコーヒーを吹き出しそうになり、激しく咳き込んだ。
「げほっ、ごほっ……! こ、これ……っ!」
「みんな、私たちが二人で消えたのバッチリ見てたみたい。どのメッセージの最後にも、しっかり『どこまでいった?』って書いてあるのよね」
私は頬杖をつき、意地悪く微笑みながら彼を見つめた。
「どうしようか、千田くん。まさか、ホテルのシーツをぐしょぐしょにするまで、何回も何回も激しくしちゃいました、なんて正直に返信するわけにはいかないし?」
「ま、舞さん、声が大きいよ……っ!」
千田くんは真っ赤になって周囲を気にしながら、消え入るような声で狼狽えている。
昨夜のあの『弾丸を込めるような』男らしさはどこへ行ったのやら、今は完全にただのうぶな後輩くんだ。
「月曜日、役所に行ったら絶対に根掘り葉掘り聞かれると思うんだよね。二人で口裏を合わせておかないと大変なことになるよ?……ねぇ、なんて返せばいいと思う?」
私はコーヒーカップを傾けながら、困り果てている共犯者の反応を、心の中でニヤニヤしながら楽しんでいた。

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「ど、どうしようって、そんなの……『酔っ払って、タクシーで送ってもらっただけ』とかじゃダメかな?」
千田くんは額の汗を拭いながら、必死に絞り出すような声で提案してきた。
その顔は完全に、不祥事が発覚したときの謝罪会見のようになっている。
(ククッ、ウブだねぇ。そんな定番の言い訳、コンパ終わりの女子グループに通用するわけねえだろ。余計に怪しまれて、月曜の給湯室で吊し上げを食らうのがオチだわ)
「うーん、それだとちょっと弱いかな。だって、昨日私、結構お酒入ってたし、千田くんが優しく介抱してくれたってことはみんな知ってるでしょ? 『送ってもらっただけ』じゃ、かえって余計な想像を掻き立てちゃうかも」
私はわざと困ったように眉をひそめ、コーヒーの湯気の向こうから彼をじっと見つめた。
「じゃあ……じゃあ、どうすれば……。舞さんに迷惑がかかるのだけは、絶対に嫌なんだ」
千田くんは本当に申し訳なさそうな、そして私の立場を本気で心配している目でそう言った。
その真っ直ぐな誠実さに、私の中の「男の魂」が、少しだけ罪悪感を覚える。
こいつ、本当に良い奴だな。
昨夜のあの化け物みたいな絶倫ぶりからは想像もつかないくらい、根がピュアだ。
よし、ここは30年の人生経験を持つ「先輩」として、完璧な模範解答を授けてやるとするか。
「ふふ、そんなに怯えなくても大丈夫だよ。こういうのはね、隠そうとするから突っ込まれるの。……ちょっとスマホ貸して?」
私は自分のスマホを手にとり、千田くんに画面を見せながら、メッセージの返信を打ち込んでいった。
『昨日はみんなお疲れ様ー!千田くんに介抱してもらって、近くのファミレスで遅くまでお茶して反省会してたよ(笑)送り狼どころか、すっごく紳士に送ってくれました!期待に応えられなくてごめんねー!』
「……よし、これで送信」
「えっ、ファミレスでお茶……?」
千田くんが目を丸くしている。
「そう。ポイントはね、あえて自分から『送り狼』って言葉を出して、笑い話にしちゃうこと。こうやって堂々と『何もなかった』って宣言されると、周りはそれ以上突っ込みにくくなるんだよ。それに、千田くんの株も上がるでしょ? 『すっごく紳士だった』って」
「……舞さん、すごい。そんな風に考えるなんて、俺、全然思いつかなかった……」
千田くんは感心したように、そしてどこか救われたような表情で私を見つめた。
その尊敬の眼差しが、少しだけ気恥ずかしい。中身が30歳のオッサンだからこその世渡り術なんて、口が裂けても言えないからな。
「……でも、本当は『紳士』なんかじゃ、なかったよね」
千田くんが、急に声を低くして言った。
彼の手が、テーブルの下でそっと私の膝に触れる。
「……っ」
ズキ、と下半身の奥に残る熱い痛みが、彼の言葉に反応するように疼いた。
さっきまで怯えていたはずの彼の瞳に、一瞬だけ、昨夜のあの『獣』の光が混ざる。
「……あんなに、舞さんのこと、めちゃくちゃにしちゃったのに」
(おいおいおい、ここでそのモードに入るなよ! 店主のおっちゃんたちに見られたらどうすんだ!)
私は顔が熱くなるのを隠すように、残りのコーヒーを飲み干した。
化けの皮を剥がされそうになっているのは、実は私の方なのかもしれない。
「……その話は、ここを出てからね」
私はトントン、とスマホの画面を叩き、席を立つ準備を始めた。
月曜日からの役所での平穏な日々は、これで守られたはず。だけど、目の前にいるこの若い狼との「秘密の平日」が、これからどうなっていくのか……私自身の身体の疼きが、一番の不安要素だった。

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「じゃあ……また、月曜日に役所でね」
「うん。……舞さん、今日は本当にありがとう。その、メッセージの件も、ご飯のことも」
定食屋を出たあと、駅の近くで私たちは解散することになった。
千田くんはまだ名残惜しそうに、何度も振り返っては手を振っていた。
別れ際に交換した連絡先。スマホの画面に新しく登録された彼の名前を見つめながら、私は小さく息を吐く。
(……やれやれ。激動の金曜と土曜だったな)
このままアパートに帰って、泥のように眠ろう。
身体のあちこちが悲鳴を上げているし、まずはゆっくり休むのが先決だ。
そう思って駅ビルの中を歩いていたはずだった。
しかし、気がつくと私は、華やかなピンクや繊細なレースがディスプレイされた、ランジェリーショップの前に立ち尽くしていた。
(……あれ? なんで俺、ここにいんだ?)
我に返って苦笑いする。
だけど、ディスプレイされている大人っぽいネイビーのレースや、可憐なパステルカラーのブラジャーを眺めているうちに、私の脳裏に妙な思考が浮かんできた。
(千田のやつ、こういうの、どれが好みなのかな)
ハッとして、自分の頭を抱えそうになった。
(おいおい、待て待て待て! 思考回路が完全におかしくなってるぞ、俺!)
これまで、この「織田舞」の身体になってから下着を選ぶときの基準は、もっと客観的で、どこかゲーム感覚だった。
「男の目線から見て、どんなのがエロいかな」とか、「市役所の織田舞として、どんなのが可愛い自分を演出できるかな」とか。あくまで自分が主導権を握るための「武器」を選ぶ感覚だったはずだ。
それなのに、今の私は違う。
自分の好みでも、世間体でもなく、ただ昨日あれだけ自分をめちゃくちゃに貪った「特定の男」の好みを最優先に考えてしまっている。
(あのバカでかい質量で、パツパツのゴムを弾丸みたいに装填してたあいつが……どんな色を見たら、もっと興奮するのか、なんて……)
そこまで考えて、顔から火が出るほど赤くなった。
身体の奥が、シャワーを浴びたばかりだというのに、じんわりと熱を帯びていくのがわかる。昨夜、何度も限界を超えさせられた記憶が、肉体を通じて私の「心」まで完璧に作り変えようとしていた。
二十歳の女の身体が持つ本能が、あの若い狼の匂いを、その執着を、完全に受け入れてしまっている。
「くそ、身体が女になると、本当に中身まで牝になっちまうのかよ……」
悔しい。男としてのプライドがそう呟く。
けれど、私の足は、その悔しさとは裏腹に、吸い寄せられるようにきらびやかなショップの中へと一歩を踏み出していた。
店内に漂う甘い香水のような匂いが、私の鼻腔をくすぐる。
もう後戻りはできなかった。
私は千田くんのあの熱い視線をもう一度想像しながら、彼をさらに狂わせるための、新しい「秘密の衣裳」を品定めし始めた。

93199924 No.3643

「いらっしゃいませ。よろしければサイズ、お測りしましょうか?」
店に入るとすぐに、いかにもプロといった雰囲気の店員さんがにこやかに声をかけてきた。けれど、私は「大丈夫です、ありがとうございます」と軽く微笑んで、スマートにその提案を辞退した。
(ふふ、舐めてもらっちゃ困るな。この身体になってから、もう何回もランジェリーショップには足を運んでるんだ。自分の今のサイズなんて、ミリ単位とは言わないまでも、完璧に把握ずみなんだよ)
男だった頃の知識と、この20歳の身体になってからの経験値。
それらが合わさった今の私は、下着屋の独特な空気感に気後れするようなウブな娘じゃない。
店員さんに案内されなくても、自分の目的の棚へ迷わず足を進めることができる。
千田くんがどんなデザインを好むか、ゆっくりとレースの感触を指先で確かめながら、私はふと、店内にいる他の客たちに目を向けた。
中身が30歳の男だからだろうか、どうしてもこういう場所に来ると、周囲の人間観察をしてしまう癖が出る。
(お、あっちの二人の女子高生、修学旅行か何かか? 随分と背伸びしたデザインのやつ見てるな)
制服姿の2人組が、普段の彼女たちなら絶対に選ばないような、少し透け感のある黒いレースのブラを前に「これ、大人っぽすぎない?」「でも、たまにはこういうのも良くない?」とヒソヒソ声を潜めて盛り上がっている。
その初々しさに、なんだか微笑ましい気持ちになる。
(かと思えば、あっちのOL風の人は……やっぱり実用性重視か)
対照的に、スーツ姿の落ち着いた女性は、ベージュや淡いブルーの、いかにも「仕事着に響かない、シンプルで上質なもの」を迷いなくカゴに入れている。
毎日の生活を戦う大人の女性のリアルが、その選択に透けて見えて面白い。
(なるほどなぁ。下着一つとっても、その人の『今』が全部出てる。男だった頃には絶対に踏み込めなかった、女だけの秘密の花園をこうやって観察するの、普通にコンテンツとして楽しすぎるだろ)
そんな風に、冷静な「男目線」で周囲の観察を楽しんでいた。
だが、自分の手元に視線を戻した瞬間、心臓がドクリと跳ねた。
私が無意識に指先でなぞっていたのは、深いワインレッドの、フロントが大胆に開いた総レースのデザインだった。
(……待て。俺、さっきまで『市役所の織田舞』としてシンプルなやつ選ぶつもりだったよな? なんでこんな、夜の香りがプンプンするやつをじっくり見てんだ?)
脳裏に、昨夜の千田くんの、余裕のなかったあの激しい顔がフラッシュバックする。
あの男らしい大きな手で、このワインレッドのレースを剥ぎ取られるところを想像してしまい、下腹部がキュンと切なく疼いた。
周りの客の観察を楽しんでいたはずなのに、結局、一番「背伸びした、淫らな下着」を選ぼうとしているのは、私自身だった。
「……はは、人のこと言えねえわ」
私は自嘲気味に呟きながらも、そのワインレッドのセットを手に取り、試着室へと向かうためのステップを、どこか弾ませるようにして踏み出した。

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カーテンを引いて試着室の鍵を閉めると、そこは三面鏡と柔らかな照明に囲まれた、完全に私だけの密室になった。
(相変わらず、下着屋の試着室ってのは妙にエロいな)
ふかふかのカーペットの上に立ち、身につけていた服をゆっくりと脱いでいく。
鏡に映し出されたのは、昨夜の狂乱の爪痕がはっきりと残る、二十歳の私の肉体だ。
白く瑞々しい肌のあちこちに、千田くんが付けた赤紫色のキスマークが点在している。
首筋、鎖骨、そして胸の膨らみにまで。
「あいつ、本当に容赦ないんだから……」
指先でその痕に触れると、昨夜のシーツの擦れる音や、彼が新しいゴムを「弾丸を込めるように」カサカサと装着していた瞬間の興奮が、ブワッと脳裏に蘇って息が熱くなる。
その熱を帯びた身体に、新しく選んだワインレッドのブラジャーをあてがってみた。
ホックを止め、胸をしっかりとカップに収める。
「っ、これは、ちょっと……」
鏡の中の自分を見て、思わず言葉を失った。
深いワインレッドのレースは、驚くほど私の白い肌を引き立てていた。
フロントが大胆に開いたデザインは、谷間をこれでもかと強調し、そこに残る千田くんのキスマークと相まって、恐ろしいほど淫らな雰囲気を醸し出している。
(これは反則だろ。あのおとなしい千田が見たら、今度こそ理性を完全にぶっ飛ばして、また一晩中寝かせてくれないかもしれない)
自分の姿に自分で気後れしそうになりながらも、二十歳の肉体が持つ本能は「彼がこれを見てどんな顔をするか知りたい」と、激しく私を突き動かしていた。
男だった頃のプライドなんて、この鏡の前では完全に溶け去っている。
私はそのワインレッドのセットをカゴに入れると、さすがにこれだけでは日常生活に支障が出ると思い直し、売り場に戻って「日常使い用のシンプルなショーツ」を数枚選んだ。
そして、ふと目に入った「サニタリーショーツ(生理用)」もカゴに加える。
身体が女になった以上、こういう現実的な準備も絶対に欠かせない。
男の魂としては未だに少し気恥ずかしさがあるけれど、織田舞として生きていくための必需品だ。
レジに向かい、少しすました「市役所の織田舞」の顔に戻って会計を済ませる。
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
店員さんから上品な紙袋を受け取り、ショップを後にした。
手元にある紙袋の中には、平穏な日常を守るための下着と、あの若い狼をさらに狂わせるための秘密の兵器が同居している。
(月曜日からの市役所が、本当に楽しみになってきたな)
私は小さく微笑むと、土曜日の賑やかな駅ビルを抜け、心地よい身体の気だるさを感じながら、自分のアパートへの帰路についた。

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アパートの鍵を開け、静まり返った部屋に滑り込む。
買ってきたばかりの紙袋をテーブルに置き、ベッドに倒れ込んだ瞬間、泥のような眠気が一気に押し寄せてきた。
シャワーを浴びて、美味しいご飯を食べて、緊張の糸が完全に切れたらしい。
身体の芯に残る重だるい快楽の余韻に包まれながら、私は意識を手放した。
ふと目が覚めると、部屋の中の光の角度が変わっていた。
枕元のスマホを引き寄せて画面を見ると、時刻は15時。
(あー、よく寝た。やっぱり二十歳の身体とはいえ、あれだけ搾り取られたら保たねえな)
まだ少しぼんやりする頭で画面をスクロールすると、通知が1件。
送り主は「千田くん」。
開いてみると、画面を埋め尽くすような、いかにも彼らしい長文のメッセージが届いていた。
『舞さん、今日は本当にありがとうございました。お昼、舞さんの食べきれなかった分までいただいてしまって、図々しくてすみません。でも、すごく美味しかったです。
それから、改めて昨日の夜のこと、本当にごめんなさい。舞さんが「大丈夫」と言ってくれたことに甘えてしまいましたが、冷静になると、俺、本当に自分の欲を抑えられなくて、舞さんの大切な身体にあんなに無理をさせてしまったこと、今になって激しく後悔と反省をしています。月曜日、どんな顔をして役所で会えばいいのか分からなくて……。もし舞さんが嫌でなければ、これからは俺にできることなら何でもするので、体調が悪くなったりしたらすぐに教えてください。本当にすみませんでした。長々とすみません。』
(ぶっ、あっははは!)
ベッドの上で寝転がったまま、思わず声を上げて笑ってしまった。
真面目か。真面目すぎるだろ、福祉課の千田。
「ありがとう」と「ごめんなさい」がこれでもかと詰め込まれた、絵に描いたような反省文。スマホを持つ手が震えてるんじゃないかってくらい、彼の必死さとパニックぶりが文面から伝わってくる。
(昨日の夜、あれだけ獣みたいに俺を組み敷いて、ベッドをぐしょぐしょにした男が、昼下がりにこれかよ……)
ギャップが激しすぎて愛おしさすら覚える。
でも、ここまで「ごめんなさい」を連発されると、ちょっと意地悪したくなるのが、30歳の男の魂を持った「織田舞」の悪い癖だ。
私はベッドの上に寝返りを打ち、テーブルの上にあるワインレッドの下着が入った紙袋をチラリと見た。
(こんなに反省してる可愛いワンちゃんに、さっき買ったばっかりのこれ、今から写真で送ってやったら……どんな顔するかな?)
いやいや、さすがにそれは刺激が強すぎて、こいつの心臓が止まるか、あるいは理性が完全に壊れて今すぐこのアパートに突っ込んでくるかの二択だ。
月曜日からの仕事に支障が出ちゃ困る。
私はクスクスと笑いながら、彼を安心させつつ、でも少しだけ「夜の余韻」を匂わせるような返信を打ち込み始めた。

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千田くん、長文のメッセージありがとう
そんなに謝らないでって言ったじゃない。
後悔なんてされたら、私の方が悲しくなっちゃうよ?
お昼ご飯、私の分まで美味しそうに食べてくれて嬉しかった。
体調はね、ちょっと身体が重くてさっきまでぐっすり寝ちゃってたけど、どこも悪くないから安心して?
月曜日、役所で普通にいつも通りお仕事しようね。
でも……もし、どうしても私の顔を見るのが恥ずかしくなっちゃったら、その時は給湯室でこっそり二人きりでお話しよ?


送信ボタンをタップして、スマホを胸の上に抱え込む。
(よし、これで完璧だろ。優しく包み込みつつ、ちょっとだけドキッとさせるエッセンスも残しておく。30年生きてきた大人の余裕ってやつを、20歳の女の子の身体から発信してやるんだよ)
画面を見つめていると、1分もしないうちに「既読」がついた。
画面の向こうで、千田くんがどんな顔をしてこのメッセージを読んでいるのか、想像するだけで口元がニヤけてしまう。
きっと今頃、顔を真っ赤にして、スマホを持ったままフリーズしているに違いない。
私はベッドから起き上がり、大きく伸びをした。
身体の節々はまだ微かに軋むけれど、不思議と頭はすっきりしている。
テーブルの上に置かれたランジェリーショップの紙袋に歩み寄り、中から先ほど購入したワインレッドの下着を取り出した。
自分の部屋の鏡の前で、もう一度その妖艶なレースを身体に合わせてみる。
(月曜日、この下着をスーツの下に仕込んで役所に行ったら……あいつ、どんな反応するかな。気付くわけねえけど、俺だけの秘密の愉しみとしては最高だわ)
30歳の男だった頃の退屈な地方公務員の日常が、この「織田舞」という肉体と、福祉課の真面目な後輩の手によって、信じられないほど刺激的なエンターテインメントへと塗り替えられていく。
窓の外を見やると、土曜日の穏やかな午後の光が部屋に差し込んでいた。
月曜日までのあと1日半。
この新しく手に入れた「女の子としての週末」をどう過ごしてやろうか、私はワインレッドのレースを愛おしそうに撫でながら、ゆっくりと作戦を練り始めた。

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ピコーン、とすぐにスマホが震えた。
画面を見ると、千田くんからの返信。
予想通りのスピード感だ。
『すみません、またすぐ返信してしまって! 怒ってないって言ってくれて、本当に救われました。ぐっすり眠れたなら良かったです。月曜日、いつも通り、いつも通りですね。頑張ります。あと、給湯室のやつ、心臓に悪すぎるので本気にしちゃいますよ?』
(本気にしちゃいますよ、か。可愛いこと言いやがって。昨日あれだけ本気で攻めてきたのはどこのどいつだよ)
私は「ふふ」と声を出して笑い、あえてそれには返信せず、スマホをベッドに放り投げた。こういうのは、少し焦らすくらいがちょうどいい。
窓から差し込む15時の西日が、フローリングの上に長い影を作っている。
私は、先ほどから鏡の前で身体に合わせていたワインレッドの下着を、丁寧にハンガーへと掛けた。クローゼットの奥、普段使いの大人しい下着たちの並び。
その一番端に吊るされたそれは、まるで私と千田くんの間に生まれた「秘密」そのもののようで、妙な存在感を放っている。
さて、と……。
月曜日までの、あと1日半の自由時間。
身体の火照りもだいぶ落ち着いてきたし、このまま部屋にこもっているのも退屈だ。
私はクローゼットから、今度は「市役所の織田舞」としての服を選び始めた。
月曜日に着ていくための、少し襟元の詰まったブラウス。
これなら、あの狼が付けた首筋の痕も完璧に隠せるはずだ。
アイロンをかけながら、頭の中で月曜日のシミュレーションを組み立てる。
午前中は、週末に溜まった書類の整理。
お昼休みに、廊下で千田くんとすれ違う。
彼はきっと、周りの目を気にして、ガチガチに緊張した顔で「お疲れ様です、織田さん」と他人行儀に挨拶してくるだろう。
私はそれに、いつも通りの、完璧な「同僚の笑顔」で返すのだ。
(誰も知らない。そのブラウスの下に、あいつの好みを意識して買ったワインレッドのレースを仕込んでいることも。昨日の夜、この身体がどんな声を上げてあいつに組み敷かれていたかも……)
じわ、と下腹部の奥が、また甘く疼いた。
男だった頃には決して味わえなかった、背徳感という名の極上のスパイス。
「あーあ、早く月曜日にならないかな」
アイロンの蒸気の向こうで、鏡に映る私は、自分でも驚くほど艶やかな、完全な「女」の顔で微笑んでいた。



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