江戸の浮世絵師、葛飾北斎と歌川広重は年の差が37もありながら、ライバルとして対置されることが多い。どうやら後輩の広重に、気負うものがあったらしい。『冨嶽三十六景』で北斎の描いた富士を、筆を尖(とが)らせて評している。
▼<絵組のおもしろきを専らとし、不二は其(その)あしらひにいたるも多し>。構図に重きを置く分、富士が添え物になっている―と。含むところがあったのか、「私は見たままを写した」とも。作為を押し出した北斎と現実を追求した広重の、哲学の違いを見るようで興趣が尽きない。
▼例えば、北斎が河口湖に映る逆さ富士を描いた「甲州三坂水面」(『冨嶽三十六景』の一つ)である。蒼天(そうてん)を突き刺すのは山肌のあらわな夏の富士だが、湖面の富士は冠雪している。「おもしろいでしょ」といたずらっぽく笑う作者が目に浮かぶ。