極限としか言いようのない行為
7月2日、ニューヨークの国連本部前で、ひとりのチベット人男性が自らの体に火を放ち、亡くなった。中国で民族団結進歩促進法が施行された翌日のことだった。
自らを炎に包み、その苦痛を引き受けながら、最後まで世界に向かって何かを訴えようとする。極限としか言いようのない行為である。「できるだけ苦痛のない状態で死を迎えたい」と願っている私にとって、それは容易に想像できるものではない。
チベットハウス・ジャパン(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所)は、すぐさまホームページに声明を発表した。その一部を引く。
《彼は焼身自殺の前にビデオメッセージを残していた。チベットの伝統的なチュパを身にまとい、チベット国旗を手に、彼は静かに国連ビルへと歩み寄った。祈りを唱えながら、彼は自らに火を放った。その後、近くの病院に搬送されたが、そこで死亡が確認された。彼の訴えは、チベットの自由と独立を求めるものだ。最近制定された中国の民族統一進歩法は、彼にとってまさに我慢の限界だった。チベット国内外で160人以上のチベット人が、中国共産党政権によるチベットでの弾圧と残虐行為に抗議し、国際社会の注目を集めるために焼身自殺を図った》
彼を焼身抗議へと駆り立てた65条におよぶ民族団結進歩促進法の全文を、人工知能(AI)に翻訳させて読んでみた。
この法律は「民族分裂」の禁止を掲げつつ、国家共通語の使用促進、ネット空間の監視、宗教活動への思想教育の浸透、さらには国外の個人や組織への責任追及までを射程に収めている。学校、家庭、メディア、宗教、海外社会にまで統制を及ぼそうとする点に、その異様さがある。国家がここまで露骨に個人の言語、信仰、表現、記憶に介入してくる。それはまさに、ジョージ・オーウェルが描いた『1984』の世界ではないか。