改正個人情報保護法が成立 病歴や信条も…本人の同意なく提供可能に

編集委員・若江雅子 福岡龍一郎

 AI(人工知能)モデル開発やデータ活用を進めるため、個人データを収集する際の規制緩和を盛り込んだ個人情報保護法の改正案が10日、参院本会議で与野党の賛成多数で可決され、成立した。病歴や犯罪歴といった機微な個人情報の取り扱いに懸念が出ており、今後策定される規則やガイドラインに対応がゆだねられる。

 改正案に賛成したのは、自民党日本維新の会のほか、国民民主党、チームみらい。立憲民主党公明党、参政党、共産党れいわ新選組、沖縄の風、社民党などが反対した。

なぜ、今回の法改正が実現したのでしょうか。記事の後半では、長年この分野を取材してきた記者による解説や背後にある政治の動きを紹介します。

 現行法では、企業や病院が個人データを外部に提供するときなどに、原則として本人の同意を得ることを義務づけている。法改正で、AIモデルや統計情報を作成する目的に限り、同意を不要とする「特例」を新たに設ける。企業にとっては、大量の個人データを集めやすくなるメリットがある。米国や中国に後れを取る国内でのAI開発を後押ししたいと、政府は説明する。

 一方、病歴や犯罪歴などプライバシー性が極めて高い「要配慮個人情報」までも、本人の同意なく外部に提供できるようになる点に、批判や懸念の声が相次いでいた。

 データを外部に提供する際、提供元がデータ内の氏名を匿名化することも求められていない。一定の条件を満たせば、海外企業や個人事業主もデータの提供を受けられることから、データ流出や悪用への対策が不十分と指摘されていた。政府は今後、策定する規則やガイドラインによって不正利用を防ぐとしている。

 また、悪質な利用や第三者への提供をする事業者に、金銭を支払わせる課徴金制度を新たに創設する。違反行為で得た利益に相当する金額を課徴金として徴収できるようになる。一方で、被害を受けた本人に代わり、消費者団体が訴訟を起こせる団体訴訟制度は盛り込まれなかった。

 改正法は公布後、2年以内に施行される。

どうしてこの法改正? 関係者の嘆き

 今回の改正は当初、2025年の法案提出が目指されていた。

 だが、個人情報保護委員会が導入しようとした課徴金や団体訴訟制度に、経団連新経済連盟、日本IT団体連盟などの事業者団体が反対。結局、25年の改正は見送られた。

 今回の特例の方針は、こうした状況下で浮上した。「本人同意を不要とするデータ利活用」は事業者団体が掲げていた要望の一つで、改正案を受け入れてもらうための「切り札」として委員会が用意したといわれる。

 だが、それでも事業者団体は譲歩しなかった。26年改正に向けて法案をまとめる期限が迫った25年11月下旬、委員会は妥協案を示したという。改正の柱だった課徴金の対象を限定し、団体訴訟制度も取り下げた。

 「事業者団体が納得しないと法案は永遠に国会に出せない」と関係者は嘆く。

 一因は与党の事前審査制にある。法案が閣議決定される前に与党の了承を得る慣習だ。

 事前審査の第一関門は自民党のデジタル社会推進本部だ。本部の議員が了承しなければ、事前審査は難航する。このため、本部の有力議員の内諾を得ることが法案提出には必要になってくる。そして、議員らは事業者団体が納得するかを重視してきた。

 法案に「ゴーサイン」が出たのは25年12月、デジタル社会推進本部の役員会だった。限られた議員による非公開の会議に、事業者団体のロビイストが同席し、委員会に制度の詳細を確認したという。

 今回の改正で委員会は初めて事業者団体だけでなく消費者代表からもヒアリングを実施したが、肝心な場面で消費者団体の声を届ける機会はなかった。一方、消費者団体が委員会から法案の説明を聞いたのは、法案の全体像が固まった後、制度改正方針が1月9日に公表される前日だった。

 本人同意の原則は、自分の情報が誰にどう使われるのかを把握し、関与できるようにするための消費者の大切な武器の一つだ。主婦連合会の河村真紀子会長は「その武器が、国民から見えにくい政策形成過程の中で、あっけなく崩されることは納得できない」と批判する。

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    梶原阿貴
    脚本家
    視点

    国会では長妻議員が頑張っておられましたが、強行採決されてしまいました。ていうか、これって危なくないですか?誰が得をするんですか?選挙の時に掲げていた「2年間限定で食料品のみをゼロにする」はどうなりましたか?余計な法案ばかりスピード審議してないで選挙の時に約束したことをやって下さい。多くの国民は少しでも今より良い暮らしができるように自民党に投票したはずです。

    2026年7月10日 12:25
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    杉山日那子
    弁護士・米国ロースクール実務家教員
    視点

    多くの人が取っつきづらいと感じる問題を分かりやすく報じていただいてありがとうございます。データ悪用、AIによる差別事例の大量発生などショック療法を待とうと諦める前に、自分も含めより多くの多様な人が、この改正に素朴な疑問を発信し続ける必要があるだろうと思います。そのために、 ・事業者団体に参画している企業の具体的な名称、その役割を報じてはいかがでしょうか。今回の立法により影響を受ける人の範囲の広さを考えれば、その企業行動について広く議論が必要ではないでしょうか。 ・消費者団体の方の貴重な声をご紹介いただきました。他に、例えば、犯歴を持つ方や更生を支援する保護司さん、社会的なバイアスの残る病歴を持つ方やその互助団体の皆さんは今回の改正をどう感じているのでしょうか。 「とっつきづらさ」が議論から市民を排除する仕組みとして機能するわけですから、質の高い立法や政策のために、記者の方の「伝える」仕事が特に大きな役割を果たす領域だと思います。米国で、欧州で、記者の方と市民社会の役割分担は最近のバズ・ワードの一つで、私の取り組む問題の一つである監視の領域についても、記者の方との協働は欠かせません。 それにもかかわらず、今回の改正では、記者の方の取材行動の萎縮、制限につながりかねない条文が加えられました。180条は、「自己もしくは第三者の不正な利益を図る目的で」「個人情報を保有する者の管理を害する行為により」「個人情報を取得」する行為に拘禁刑を含めた刑事罰を課しています。「不正な利益」「個人情報を保有する者の管理を害する行為」など構成要件が曖昧で、憲法、国際人権法上保護された取材行動も罰しうるような書きぶりです。 プライバシーは、表現・報道の自由を含め、あらゆる人権の前提(gateway)としての価値を有するという理解がグローバルで浸透しつつあります。プライバシーを保護する法律が表現の自由を貶めては目的を果たしません。ガイドラインでしっかりと適用類型を明確化して、憲法、国際人権法上守られた取材行動を適用対象から除く必要があると考えます。 (こちらの メディア総合研究所さんのページにまとめられています:https://note.com/mediareport/n/n873f165c2275

    2026年7月10日 15:33

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