ストーリー

国内100万頭超の屋外ネコ 「国家レベルの多頭飼育崩壊」と専門家

迫野貴大

【ニュートンから】外ネコを取り巻く問題(1)

 ネコ(イエネコ)はそのかわいらしい姿としぐさで多くの人々を魅了してきた。ネコは「伴侶動物(コンパニオン・アニマル)」とよばれ,家族として受け入れられている。2024年の推計では,日本でのネコの飼育頭数は約916万頭であり,イヌ(イエイヌ)の約680万頭を上まわっている(ペットフード協会.“全国犬猫飼育実態調査”.2024)。

 ネコは,ヒトが農耕と定住をはじめた約1万年前に,中東のペルシャ湾周辺で家畜化されたと考えられている。ネコがヒトとともに暮らすようになったきっかけは,貯蔵された穀物を食べ荒らすネズミや小鳥にネコが引き寄せられてやってきたことだといわれている。それ以降,ネコはネズミなどを狩るすぐれた狩猟能力や高い繁殖力などが重宝され,ヒトの移動にともなって世界中に持ちこまれ広まった。

年間22万頭の外ネコが交通事故で死んでいる

 ネコは家庭でかわいがられることが多い一方で,放し飼いにされたり違法に捨てられたりすることがある。ネコとイヌはどちらも伴侶動物として飼育されているが,法律上のあつかいは大きくことなる。イヌはヒトや哺乳類に感染する狂犬病ウイルスを媒介する。ヒトが狂犬病を発症すると100%死に至る。そのため,イヌは「狂犬病予防法」という法律のもとできびしく管理されている。イヌを飼うには居住している自治体に登録をする必要があり,放し飼いは原則的に禁止されている。狂犬病ウイルスはネコなども感染・媒介するが,ネコの飼育に関しては法律がなく,ネコをどのように飼うのかは飼い主の判断にゆだねられている。

 沖縄大学で客員教授を務める山田文雄博士は次のように話す。「かつてはネコに対して,手間をかけずに野放しにできるペットだという認識がありました。放し飼いにされているネコが多いのはそのためです。しかし,動物愛護や環境保全,感染症の予防などの観点から,現在では室内飼育が推奨されています」。

 飼い主はいないが住宅地でヒトからえさをもらって暮らしているネコは俗に「ノラネコ」とよばれる。一方で,山地などで野生化し,ヒトとかかわらずに自分でえさをとって生活しているネコは「ノネコ」とよばれる。この記事では,放し飼いにされているネコやノラネコ,ノネコなどの,屋外を出歩いているイエネコをまとめて「外ネコ」とよぶ。

 外ネコは冬の寒さや雨風,交通事故,感染症,ネコどうしのけんかなどのさまざまなリスクにつねにさらされている。ヒトが原因となっているネコの死因として,圧倒的に多いのが交通事故だ。日本で交通事故によって死亡する外ネコの数は年間約22万頭にもなる(人と動物の共生センター.“全国ロードキル調査報告”.2024)。これはネコの殺処分数である年間約6900頭(環境省.“犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況(2023年4月1日~2024年3月31日)”)のおよそ32倍だ。大阪市で行われた調査では,交通事故による外ネコの死亡率は,1か月あたり4.2%に達すると推定された(高倉耕一ほか.環動昆.2013;24:133-141)。

 動物の健康と安全を守り,他人に迷惑をかけないように責任をもって飼育することは「適正飼養(しよう)」とよばれる。ネコの適正飼養の条件の一つとして,ネコを屋外に出さずに家の中で飼育する「完全室内飼育」が推奨されている。屋内で適正飼養されているネコの平均寿命は16歳だ(ペットフード協会.“全国犬猫飼育実態調査”.2024)。一方で,放し飼いにされているネコの平均寿命は14歳と短い傾向にある。ノラネコの平均寿命は3~5歳ほどといわれている。

 外ネコ対策にたずさわっている森林総合研究所野生動物研究領域チーム長の亘悠哉(わたり・ゆうや)博士は次のように話す。「日本にはネコの室内飼育を義務づける法律がなく,一部の自治体が独自に条例を定めています。飼っている動物がふえすぎて個人が世話をできなくなってしまう状況は『多頭飼育崩壊』とよばれます。一方,外ネコは全国で100万~200万頭ほどいると推定されています。法制度を整備しないまま屋外にネコがあふれている日本の状況は,“国家レベルの多頭飼育崩壊”といえるでしょう」。

外ネコは世界で63種以上の動物を絶滅させた

 外ネコは自身が過酷な環境にさらされているだけでなく,ほかの動物にも深刻な影響をあたえている。アメリカでは毎年,13億~40億羽の鳥類と63億~223億頭の哺乳類が外ネコの犠牲になっていると推定されている(Loss S. R. et al. Nat. Commun. 2013;4:1396)。中国では毎年,27億~55億羽の鳥類と36億~98億頭の哺乳類が外ネコの犠牲になっていると推定されている(Li Y. et al. Biol. Conserv. 2021;253:108929)。

 日本では神奈川県厚木市で調査が行われ,外ネコに捕食されている動物の個体数が,鳥では1平方キロメートルあたり年間約1万3200羽,哺乳類では1平方キロメートルあたり年間約2100頭だと推定された(金玲花ほか.東京農大農学集報.2014;59(2):137-144)。「外ネコが野生動物を捕食する事例は全国でおきています。厚木市は住宅地と山地を両方含む一般的な街といえます。厚木市の調査結果を日本の居住区域の面積に換算すると,日本では毎年約15億羽の鳥類と約2億4000万頭の哺乳類が捕食されていることになります」(亘博士)。

 外ネコはこれまでに,世界の鳥類,哺乳類,爬虫類の少なくとも63種を絶滅させたといわれている(Doherty T S. et al.PNAS.2016;113:11261-11265)。これは1500年以降に生じた鳥類,哺乳類,爬虫類の絶滅の26%に相当する。外ネコによる捕食は,地球温暖化や森林開発と並び,野生動物への最大の脅威の一つとなっているのだ。

 外ネコのように,ヒトの手によってもともと分布していない地域に持ちこまれ野生化した生物は「外来種」とよばれる。外来種の中でも在来の生物や生態系に大きな被害をあたえる生物は「侵略的外来種」とよばれる。外ネコは,IUCN(国際自然保護連合)が定めた「世界の侵略的外来種ワースト100」の一つに選ばれている。環境省の「生態系被害防止外来種リスト」では「緊急対策外来種」に指定されている。

 「外ネコが侵略的外来種というと抵抗のある方も多いと思います。その気持ちはよくわかります。しかし,外ネコが多くの生物の絶滅や減少を引きおこしてきたことは事実です。ただし,ネコが悪者だということではありません。すべてのネコが屋内で適正に飼育されれば,犠牲になる動物はいなくなります」(山田博士)。

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    古谷経衡
    作家・評論家
    視点

    江戸の浮世絵師・歌川国芳の愛猫家ぶりは後世の我々でも知るところであるが、そんな国芳も飼っている猫(外ネコ)が行方不明になり、四方八方を捜索したなどの逸話が残されている。もっとも、江戸時代には交通事故の心配は無いから、現代人の心配の質とはまた違ったものだったのだろう。  あるドキュメンタリーで、外ネコの体にGPSを装着させ、その行動範囲を調べるというものが有った。外ネコは狭い範囲で決まったルーチンワークをこなしているという結果が出た。犬とは違って猫の行動範囲は狭いから、現代の住宅でも高低差さえあれば、猫のストレスになるようなことは無いと私は勝手に考えている。  元来野生の動物なのだから、本当は外ネコのような、気ままの生活がいいのではないか、と悩むこともある。しかし終生室内飼いを貫徹している私の愛猫は、現在19歳になっており長生きしている。野生ではこのような長命は不可能のはずだ。  最近では郊外の一戸建て住宅などの庭に、室内空間を延長させた猫のための通路(脱走防止網付き)を建設する趣味人もいると聞く。これならば猫の移動範囲は安全なまま広がる。しかし集合住宅ではこれが出来づらいから、ひたすら高さの工夫が必要であろう。猫にとって最も快適な生活を、人間は提供する義務がある。

    2026年1月6日 07:00

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