ファイル共有ソフトによる違法アップロードに、略式命令で罰金30万円
埼玉県在住の50代男性が、ファイル共有ソフト「qBittorrent」を用いて著作物をインターネット上に公開していたとして、越谷簡易裁判所は2024年8月19日、著作権法違反(公衆送信権侵害)で罰金30万円の略式命令を出した。略式命令は同年9月5日に確定している。
本件は、公開されていたファイルの中に著作権者の著作物が含まれていたことを契機に、著作権者が2024年6月10日、栃木県宇都宮東警察署へ告訴したところから手続が進んだ。宇都宮東警察署が宇都宮地方検察庁へ書類送検し、さいたま地方検察庁へ移送された後、越谷区検察庁が8月9日付で略式起訴し、今回の略式命令に至った。
何が「違法」なのか:公衆送信権侵害のポイント
ファイル共有ソフトを使ったアップロード型の侵害は、単に「自分が入手したファイルを配る」行為にとどまらない。P2P(ピア・ツー・ピア)方式の多くは、ダウンロードの過程で、端末側が同時に他者へファイル片を提供する設計になっている。結果として、本人に「配っている」意図が薄くても、設定や利用実態次第で、他者がアクセス可能な状態を作り出し、著作物を公衆に送信可能にしてしまう。
著作権法上、インターネット上で著作物を公開・配信可能な状態に置く行為は、公衆送信(ないし送信可能化)に該当し得る。権利者の許諾なくこの状態を作れば、公衆送信権侵害として刑事責任の対象となる。
捜査・立件の流れ:告訴と検察移送、略式起訴
刑事事件として立件されるためには、侵害の特定(公開されているファイルの内容、公開時期、公開態様)と、当該端末・回線の利用者の特定が必要となる。本件では、権利者側(権利管理団体を含む)が告訴を行い、警察が捜査を進め、検察へ送致(書類送検)した。
その後、さいたま地検への移送を経て、越谷区検察庁が略式起訴を選択している。略式手続は、比較的軽微な犯罪につき、公開の正式裁判を経ずに、書面審理で罰金等を命じる制度である。被疑者が同意し、裁判所が相当と判断した場合に利用される。
「違法と認識しながら」の意味:故意の評価
報道によれば、警察の調べに対し、男性は無断アップロードが違法であることを認識していたとされる。著作権侵害の刑事責任では、一般に故意(違法性の認識を含む)が問題となる。
P2Pソフトは設定によって共有範囲が変わるため、「共有設定がオンになっていた」「保存場所が自動共有フォルダだった」などの事情が争点になることが多い。
ただ、多数の著作物を一定期間継続して公開していたような態様の場合、実務上は、故意(少なくとも送信可能化の認識)を否定して責任を免れる主張を構成することは困難であろう。今回のように「違法と知りつつ多数の著作物を公開」と整理される事案では、故意が肯定されやすい。
故意が認められやすい典型事情
次の事情があるほど、実務的には故意(認識)を推認されやすくなる。
期間が長い/継続している(一過性の事故では説明しにくい)
点数が多い(多数の著作物が共有されている)
アップロード実績が多い(送信量・稼働時間が大きい)
権利者側の対応
本件のような違法アップロードが疑われる場合、侵害を早期に是正し、クリエイターの権利保護を図る観点から、必要に応じて刑事告訴を含む措置が検討される。
実務上の示唆:P2P利用者と権利者双方にとって
利用者側
「ダウンロードしただけ」のつもりでも、設定次第でアップロード(公衆送信)になり得る。
違法性を認識して利用していた場合、刑事責任が問われる可能性が高い。
大量にダウンロードしていた事実がある場合でも、それ自体は直ちに公衆送信(送信可能化)の故意を基礎付けるものではない一方、実務上は、利用状況・設定・継続性・共有実績等の事情から、少なくとも送信可能化の認識(故意)の有無が具体的に評価される。
侵害態様の特定と証拠保全(公開状況の記録、ファイル同一性の確認など)が、告訴・捜査の実効性を左右する。加えて、告訴が受理され捜査が開始されれば、事案の態様や必要性・相当性に応じて、取調べ(事情聴取)や、捜索・差押え(端末等の押収)といった強制捜査が行われる可能性がある。
権利者側
証拠保全の徹底:
公開状況(日時・URL・ハッシュ値等)、ファイル同一性、配布態様(P2Pの共有状態、シーダー数等)を記録し、後日の立証に耐える形で保全する。
民事と刑事の使い分け:
侵害停止・損害回復を優先する場合は、削除要請、差止請求、損害賠償請求を軸に検討。
悪質性(多数・反復・継続、営利目的、警告無視等)が高い場合は、刑事手続(告訴等)を検討。
告訴後の実務的帰結:告訴が受理され捜査が開始されれば、事案の態様や必要性・相当性に応じて、被疑者の取調べ(事情聴取)や捜索・差押え(端末・記録媒体・ルータ等)が実施され得るため、事前に想定される捜査シナリオと必要資料を整理しておく。
識別・特定の論点整理:侵害者特定(IPアドレス・タイムスタンプ・接続先等)のためのログの所在と保存期間を把握し、必要に応じて早期の手当て(照会・証拠保全手続)を行う。
コミュニケーション設計:侵害停止の要請、和解提案、再発防止要請など、相手方への連絡方針を統一し、記録化する(後日の故意・悪質性評価にも影響し得る)。
まとめ
越谷簡易裁判所が罰金30万円の略式命令を出した本件は、P2P型ファイル共有ソフトを用いた違法アップロードが、公衆送信権侵害として刑事責任を問われ得ることを改めて示した。権利者側では、削除要請やプロバイダーとの連携に加え、必要に応じて告訴などの措置を講じ、インターネット上の違法配信による侵害の早期解消を図る動きがある。
当事務所の対応
2025年度は、複数件の刑事告訴を実施し、いずれも受理に至っている。これまでの対応を通じて刑事告訴に関する実務ノウハウが蓄積されてきたことから、今後は、連絡がとれない発信者や和解による解決に応じない発信者について、権利者から告訴対応の依頼がある場合には、事案の内容・悪質性・証拠関係等を精査した上で、刑事告訴を含む措置をより積極的に検討していく方針である。


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