JFCは何を訂正し、何を訂正しなかったか——「各党党首の発言の真偽は」訂正文の検証【ファクトチェック検証】
はじめに
2026年6月20日、筆者は日本ファクトチェックセンター(JFC)の記事「各党党首の発言の真偽は 討論会をまとめて検証【#衆院選ファクトチェック】」(魚拓: 2026年2月5日公開時点)に対する検証シリーズ全7本を公開した。翌6月21日、JFCの問い合わせフォームおよびX公式アカウントへの公開リプライを通じて全文と質問状(Q1〜Q28、回答期限6月28日)を送付した。
6月29日、JFCは当該記事にれいわ新選組・大石晃子氏に関するセクションの削除・訂正とお詫びを公表した。5件の指摘のうち1件に対応がなされたことになる。
本稿は、この訂正文の内容を検証し、残された問題点を整理した上で、JFCに対する追加質問を提示する。
本シリーズの個別検証は以下の7本で構成される。未読の方は先に各記事をご覧ください。
「『直接言われたことない』は『ミスリード』か」(高市防衛費記事)
「『地方財政部局は別』は『ミスリード』か」(高市部局記事)
「『15年後に医療費80兆円』は『不明確』?」(藤田医療費記事)
「高市首相の回答は『判断が難しい』?」(高市消費税記事)
「れいわ・大石氏の『国家総動員・強制労働』発言は存在しない?」(大石不存在記事)
「検証総まとめ」(包括記事)
「JFCへの対応要請及び公開質問」(質問状)
1. 評価すべき点
訂正文について、評価すべき点を記す。
①大石氏の発言が実際には存在しなかったことを認め、当該セクションを削除したこと。
②れいわ新選組と大石氏に対して「心よりお詫びを申し上げます」と公に謝罪したこと。
③問題の原因がAIのハルシネーションにあり、人間による動画確認が抜け落ちていたことを認めたこと。
④責任ある編集担当者を明確に配置しないまま記事を公開したことを認めたこと。
⑤JFC自身のAI活用ガイドライン「ルール1:確認」に反していたことを認めたこと。
⑥記事のURLが変更されていないこと。
これらの開示は、ファクトチェック機関として不可欠な自己検証の姿勢であり評価する。特に、ハルシネーションが原因であることを明示し、編集プロセスの具体的な失敗箇所(2回目のAI抽出時に動画確認を怠ったこと、明確な編集担当を置かなかったこと)まで踏み込んだ説明は、再発防止に向けた有意義な開示だ。
筆者は6月30日に、れいわ新選組党本部に対しJFCから直接の謝罪・訂正連絡があったかを確認した。同日、同党本部よりJFCから連絡があり大石氏とも共有した旨の回答を得た。JFCが記事上の謝罪にとどまらず、当事者への直接連絡も行っていたことを確認できた。
2. 問題点
(1)筆者記事へのリンクの不提示
訂正文は「2026年6月21日、問い合わせ窓口より指摘を受け、内容を再度確認した際に誤りが発覚した」と記述している。筆者が公開した検証シリーズ(7本、28問の質問状)へのリンクは一切記載されていない。
筆者は質問状において、訂正・修正記事に対して本シリーズの各記事へのリンクを明示的に記載することを要請した。JFCは、この要請を読んだ上でリンクを掲載しない選択をした(※1)。
この不提示の結果、訂正文から得られる情報は「問い合わせ窓口より指摘を受け、内容を再度確認した際に誤りが発覚した」という記述のみとなっている。5件すべてに対する体系的な検証と28問の質問が提出されているという事実は、訂正文からは一切読み取ることができない。
この構造は、藤田医療費セクションにおいて指摘した問題と同型である。藤田医療費記事で筆者が指摘したのは、厚労省等(2018)の出典をJFCが提示しなかったことで、読者が「80兆円」の根拠をJFC記事を一読しただけでは確認できないという問題であった。本件でも、筆者の検証記事へのリンクがないことで、訂正に至った指摘がどのような内容・規模のものだったかは訂正文からは確認できない。
JFCファクトチェックガイドライン第28条は、訂正の要求について「当該訂正の要求の内容及び検証の結果について、公正に公表する」ことを求めている(※2)。訂正の要求の「内容」を公正に公表するためには、その要求がどのような根拠と範囲に基づくものであったかを読者が確認できる手段の提供が不可欠である。また、第21条の基本方針(読者がファクトチェックの内容を自ら再現できるようにする)及び第26条2項の精神(情報源のリンク提供による読者の理解の確保)も、訂正の経緯の開示に際して同様に尊重されるべき原則である。
※1 なお、JFCは過去の訂正において外部の指摘記事へのリンクを掲載した実績がある。2023年6月7日公開「普及が進まないのは鳥に襲われるから?動画は警察による犯罪対策の訓練【ファクトチェック】(訂正あり)」では、批判記事へのリンクが付されている。
しかし、それ以降の事例ではリンクの不提示が続いている。2024年6月5日公開「パンデミック条約は偽情報・誤情報を取り締まる?【ファクトチェック】(追記あり)」では、楊井氏から訂正の申し入れがあったことは明示しているが、そのテキストへのリンク(投稿1, 投稿2)は付されていない。その後楊井氏によって当該追記に対する反論文が公開されたが、当該記事にはリンクは存在しない。また、2025年7月15日公開「外国人犯罪が急増している? 【#参院選ファクトチェック】(訂正あり)」及び2026年1月27日公開の訂正兼取材記事「外国人犯罪が急増? 日本の治安は悪化した? 専門家に聞くデータでわかること・わからないこと【#衆院選ファクトチェック】」においても、Nagashima氏の批判記事及び訂正兼取材記事への批判記事へのリンクが存在しない。
すなわち、2023年のドローン記事を唯一の例外として、直近の訂正事例においてはJFCは一貫して外部の指摘記事へのリンクを掲載していない。JFCがリンクを掲載した実績があるにもかかわらず、近年それを行っていないという事実は、これが技術的制約ではなく編集判断であることを示している。
※2 ファクトチェックガイドライン第28条「公表されたファクトチェックの結果について、合理的に検討すべき根拠を付した訂正の要求については、ファクトチェックの実施と同様の手順に従い検証を行い、当該訂正の要求の内容及び検証の結果について、公正に公表する。訂正があった場合、訂正前の記事も引き続き掲載し、読者が訂正の前後を比較検証することが可能となるよう努める。」
(2)残り4件への対応の不記載
筆者が指摘した5件のうち、訂正文で対応がなされたのは大石発言の1件のみである。残り4件(高市防衛費・高市部局・藤田医療費・高市消費税)について、訂正文には言及がない。
一方、筆者が6月29日に受領したJFCからのメール(詳細は添付資料参照)には、以下の記述がある。
各項目について、現在、編集部にて精査を行い、順次運営委員会にて対応を検討、協議しているところです。
(中略)
その他のご指摘につきましても、継続して確認を進め、必要な対応を検討・協議していく予定です。
すなわちJFCは、残り4件が検討中であることを筆者に対しては認めている。対応が完了していない段階で個別の検討内容を訂正文に含めないことには、一定の合理性がある。しかし、検討中であること自体を読者に開示しない選択は、透明性の観点から問題がある。訂正文に「ほかのセクションについても指摘を受けており、現在確認中である」旨の一文を加えることは容易だったはずだ。JFCはこれを行わなかった。
この結果、訂正文からは、大石発言以外にも指摘が存在するという事実自体が読み取れない。5件すべてに対する体系的な検証と28問の質問が提出されているにもかかわらず、訂正文が開示しているのは1件への対応のみである。
なお、訂正文中に藤田医療費と高市消費税に言及している箇所は存在する。しかし、それは大石発言が記事に追加された経緯の説明として登場するものであり、以下の引用の通りである。
また、消費税ゼロに関する高市氏の「免税に近い」という発言、日本維新の会の藤田文武氏の「医療費は15年すると80兆」という発言については、ファクトチェックの対象にするよりは、解説で文脈を補うほうが有権者に資すると判断して、専門家への取材を交えて記事後半に加えました。
この記述は当初の編集判断の経緯説明であり、筆者が指摘した具体的問題(厚労省等(2018)の推計資料を提示しなかったこと、井伊教授の見解が藤田発言を反証する方向に機能しないこと、後半発言(49:22〜)を検証に含めなかったこと)への応答ではない。
(3)訂正文から新たに判明した問題、疑問点
大石発言の訂正自体は評価するが、訂正文の記述からは、本シリーズの他の検証に関わる新たな問題が浮上した。
① 時系列の不透明性
訂正文は、1月27日にNotebookLMへの入力と発言の抽出を行ったことを明示している。しかし、それ以降の工程(15件の動画確認、専門家への取材(少なくとも井伊教授・土居教授の2名)、編集部内の議論、2回目のAI抽出、記事の執筆・編集)がそれぞれいつ行われたかは明らかではない。
これらの工程が1月27日中にすべて完了したとは考えにくい。複数の専門家への取材のアポイント調整だけでも、通常は数日を要する。訂正文が1月27日という日付のみを開示し、それ以降の時系列を省略していることで、各工程にどの程度の時間が充てられたのか(特に、動画確認や専門家取材にどれだけの時間的余裕があったのか)が外部からは検証できない。
② プロンプトの開示内容と元記事の記述の矛盾
訂正文は、AIへの指示内容を以下のように開示している。
編集部は1月27日、文字起こししたドキュメントをNotebookLMに入力し、「客観的・科学的に検証可能な発言を抜きだしなさい」と指示しました。
一方、元記事(2月5日公開時点)には以下の記述がある。
これらの3つの話題は、JFCが利用したAIが「検証対象にすべきだ」と選定し、判定を「誤り」と推定していたものです。
「検証可能な発言を抜き出せ」という抽出の指示から、「誤り」という推定が出力されることは指示の範囲を超えている。追加のプロンプトがあったか、モデルの出力に指示外の判定が含まれたのいずれかであり、訂正文の開示はこの点を説明していない。
③ 「15の発言」の不透明性と文脈確認の含意
訂正文によると、1回目のAI抽出で15件の発言が抽出され、編集部はこの15件について「その発言が実際に存在するかや、発言があった文脈を動画で確認し」た上で検討を行った。
この15件のリストは公開されていない。したがって、最終的に記事に掲載された高市防衛費・高市部局・藤田医療費・高市消費税の各発言がこの15件に含まれていたか否かは、外部からは確認できない。ただし、訂正文の記述から合理的に推測すれば、大石発言のみが2回目の抽出で出現し、それ以外は1回目の15件に含まれていたと考えるのが自然である。
仮にそうであれば、JFCはこれらの発言について、動画で文脈まで確認していたことになる。この前提は、本シリーズの個別検証で指摘した問題をより深刻にする。
藤田医療費発言について:
藤田氏が社会保障改革の必要性を訴える文脈で「80兆円」を使用していることを動画で確認していた場合、井伊教授の見解(「医療費は過小評価されている」という方向の指摘)が藤田氏の主張を反証する方向に機能しないことは、文脈から容易に気づけたことだ。JFCが訂正文で当該セクションを「解説」と位置づけたとしても、この論理関係の不記載は正当化されない。にもかかわらず、記事ではこの点が指摘されなかった。この不記載の原因は、二つの可能性に絞られる(※)。
①藤田氏発言の文脈と井伊教授の見解との論理関係を認識していたにもかかわらず、記事に反映しなかった場合。
②動画確認や文脈確認を行ったとしながら、その確認が形式的なものにとどまり、当該論理関係を認識できていなかった場合。
①であれば、ファクトチェック機関が偽情報を発信したことになる。これはガイドライン第30条2項が想定する「編集長としてふさわしくない非行」に該当しうる事態であり、JFCの信頼性の根幹に関わる。②であれば、著者である古田氏の検証、読解能力及びこの点を指摘できなかった編集部全体の能力について著しい疑義が発生する。
いずれにしても、大石不存在発言に次ぐ深刻な事態である。
※ なお、この二択の提示は誤った二分法と構造的に同型であることを筆者は認識している。しかし、筆者はこれら以外の説明を見出せなかった。筆者が見落としている事実関係があるのであれば、それはJFC自身が開示すべきことである(Q22参照)。
高市消費税発言について:
文字起こしを読んでいたのであれば、前半の議論の末尾(21:11)で司会が「後程また議論をお願いします」と述べていることを確認していた可能性が極めて高い。この一言は後続の議論の存在を明示するシグナルであり、これを起点に動画の後半を確認すれば、49:22〜における三概念の整理に到達できた。
また、後半を見落としていたとしても、前半発言の全文には高市首相が「ゼロ税率」「仕入税額控除は可能」と明言した箇所が含まれている。土居教授にこの全文を提示していれば、財政の専門家として三概念の区別に踏み込んだ解説を行うことは自然であり、記事の記述が「整理がされていない」という評価にとどまる結果にはなりにくい。にもかかわらずそうなっているということは、土居教授への提示が断片的・要約的なものにとどまっていたか、解説を受けても記事に十分反映しなかったかのいずれかを示唆する。
なお、仮にこれら4件が1回目の15件に含まれていなかった場合、すなわち、AIの抽出結果とは別に編集部が独自に検証対象として追加した場合は、上記の問題は生じないが、別の問題が生じる。AI抽出と編集部の独自選定がどのように組み合わされて記事が構成されたのかが不透明になり、検証プロセスの再現可能性の問題が悪化する。
④ 「バランス」動機と意思決定フローの問題
訂正文は、大石発言が記事に追加された経緯について以下のように述べている。
しかし、これらだけでは与党側の政治家発言ばかりをファクトチェックしているように見え、「JFCの検証には偏りがある」と受け取られる懸念もありました。そのため、ほかにも検証対象となる発言がないか、文字起こしを見直しつつ、改めてNotebookLMでも抽出しました。
与野党のバランスの外観を整えるために追加の抽出を行ったという意図自体は理解できる。各党党首が発言している以上、野党の発言が一件も検証対象にならなければ「JFCは野党に甘いのではないか」という批判は合理的に成立しうる。しかし、訂正文が開示した意思決定フローに問題がある。
訂正文によれば、大石発言は当初「誤り」と判定されていたが、編集部内で「ファクトチェックの対象にはならないのではないか」という意見が出て、「検証対象外」に変更された。「誤り」という判定を取り下げるという意思決定は、当該発言を改めて検討する契機だった。「この発言がどのような文脈で行われたのか」を動画で確認した上で、変更の妥当性を検討するのが自然な手順である。しかし訂正文の記述からは、こうした基本的な確認が行われた形跡がない。この意思決定が、対象発言への再検証を伴わずに行われたことになる。
加えて、判定変更の結果にも問題がある。大石発言は「検証対象外」として掲載されたが、「検証対象外」では野党発言を検証したことにならない。「誤り」と判定してこそ「野党の発言も検証している」という外観が成立するのであって、当初のバランス確保という目的自体が、判定変更によって達成されなくなっている。意図と結果の間にも乖離がある。
⑤ 「解説記事」への事後的な位置づけ変更
訂正文は、編集担当を明確に置かなかった理由について以下のように述べている。
今回の記事は、通常のファクトチェック記事とは異なり、複数の検証を組み合わせ、さらに、大石氏の発言など検証対象に含まなかった点もまとめた解説記事となっています。筆者である編集長の古田大輔が原稿を書き、他のエディターら編集部員らがチェックをしていましたが、明確な編集担当を置かないまま作業を進めてしまいました。
しかし、当該記事はURL(/fact-check/politics/...)においても、見出し(「各党党首の発言の真偽は 討論会をまとめて検証【#衆院選ファクトチェック】」)においても、ファクトチェック記事として公開されている(※)。記事内では高市防衛費発言・高市部局発言に対して「判定:ミスリード」と明示されており、判定行為を伴う記事がファクトチェック記事でないとする説明は成立しない。
すなわち、読者に対してはファクトチェック記事として提示し、判定まで行っておきながら、訂正の場では「解説記事」と位置づけて編集体制の不備を説明するという構造になっている。ファクトチェック記事であれば通常適用される編集プロセス(明確な編集担当の配置とダブルチェック)を、事後的に「解説記事だったから」と説明することは、記事公開時に読者が合理的に期待した品質保証の前提を覆すものである。
※ JFCはファクトチェック記事と解説記事を明確に区分して運用している。ファクトチェック記事はURLに/fact-check/を使用し、見出しに「【ファクトチェック】」のラベルを付す。解説記事はURLに/explainer/を使用し、見出しに「【ファクトチェック解説】」等のラベルを付す。例えば「イラン戦争をめぐってナフサは「確保」できているのか 専門家の「6月に詰む」という言葉の背景【ファクトチェック解説】」は/explainer/の下に置かれ、判定は付与されていない。当該記事がこの区分のいずれに該当するかは、URLと見出しから平易に判別できる。
⑥ 再発防止策の実効性
訂正文は再発防止策として「AI活用時の確認を徹底し」「編集担当によるダブルチェックを厳格に実施します」と述べ、さらに「時代に即したより厳格なガイドラインに更新し、公開する予定」としている。しかし「確認を徹底」はJFC自身のAI活用ガイドライン「ルール1:確認」の遵守を言い直したものであり、「ダブルチェック」は本件で欠落していた「明確な編集担当の配置」を今後行うと述べているにすぎない(※1)。三点目のガイドライン更新についても、具体的な変更内容や更新時期は示されていない。いずれも既存の手順を改めて守ると宣言しているだけであり、その既存の手順が機能しなかったからこそ本件が発生したという構造的問題への応答になっていない。
さらに、訂正文の再発防止策は公開時のチェック強化に限られており、公開後に問題を自発的に発見する仕組みを含んでいない。本件は2月5日に公開され、6月29日にようやく訂正された。4か月以上にわたって問題が放置された原因は、公開時の確認不足だけではなく、公開後に記事の問題を検知する仕組みが存在しなかったであろうことにもある(※2)。訂正文の再発防止策は前者にしか対応しておらず、後者——すなわち外部からの指摘がなければ問題が永続するという構造——には対応策がない。
そこで筆者は、事後チェック制度の導入を提案する。具体的には、ファクトチェック記事等の公開後1週間を目安に、X等各JFCアカウントに寄せられたリプライ・引用等の反応を目視で確認したうえで、記事を批判的に再検証することを編集部の手順として義務づけるものである。これにより、時間的制約の下で見落とされた問題に対する事後的な対応が可能となり、少なくとも本件のような長期放置の再発は防ぎうる。
※1 なお、JFCは2026年7月5日公開の記事において、ガイドラインやワークフローの見直しを進めていること、公開する記事数を減らしてでも確認を徹底する措置を既に実施していることを説明している。ただし、見直しの具体的内容は当該記事においても提示されていない。
※2 筆者が調査した限りにおいて、2026年7月7日時点でJFCが公開したファクトチェック記事に対する事後調査制度は確認できなかった。これは、JFCファクトチェックガイドラインに該当する記述が存在しないこと、訂正・修正ページに自主的に事後調査をしたと明記された記事が存在しないことを根拠とする。
3. JFCへの質問——整理と追加
本シリーズの質問状ではQ1〜Q28の質問を公開し、回答を求めた。訂正文により一部の質問については部分的に回答が得られたため、本章では訂正文で判明した事実を踏まえ、質問の現状を整理し、追加質問を提示する。
なお、JFCには外部からの具体的指摘に対して実質的な応答を行わなかった事例が複数確認されている(※)。本件においてもJFCからのメール(6月29日受領)は「精査を行い」「検討・協議」という文言にとどまっており、質問への直接的な回答を約束する表現は含まれていない。以上を踏まえ、筆者は全質問に対する具体的かつ直接的な回答を求める。
※ 楊井氏は2024年6月、JFCのパンデミック条約記事(「パンデミック条約は偽情報・誤情報を取り締まる?【ファクトチェック】(追記あり)」2024年6月5日公開)に対し、3点の訂正を申し入れた。JFCは6月11日付の追記で応答したが、全ての訂正要求を退け「訂正の必要はないと判断しました」とした。楊井氏はこの追記に対する反論文を公開したが、JFCからの再応答はない。楊井氏はこの対応を「問われていることに正面から向き合わないJFCの姿勢」と評している。
また、渡辺氏はプレジデント・オンライン(2024年12月30日)でJFCの検証手法やガバナンスの問題点を具体的に指摘し、JFCに対して質問を送付した。JFC事務局からの回答は、ガイドラインのリンクの提示と既存のファクトチェック講座動画の参照を求めるもので、渡辺氏の個別の質問に直接対応する回答は確認できなかった(添付資料(2)参照)。
(1)訂正文で部分的に回答が得られた質問
本シリーズの質問状ではQ1〜Q28の質問を公開し、回答を求めた。訂正文はこれらの質問への公式回答として書かれたものではないが、その記述から一部の質問に対応する情報が得られた。以下の表は訂正文からどの程度の情報が読み取れるかを整理したものである。
(2)未回答の質問
(1)の表に示した通り、訂正文が開示した情報は、大石発言に直接関わるもの(Q6, Q10, Q11)と検証プロセスの一部(Q1, Q2, Q8)に限られている。Q23については、訂正文が当該セクションを「解説」と位置づけたことで部分的に回答が得られたが、記事の体裁との整合性の問題は残る(本稿2章(3)⑤参照)。大石発言に関わるプロセス(AIの使用、ガイドライン違反、動画確認の欠如)については詳細に開示する一方、検証全体の品質に関わる問い(人間が動画をどの程度視聴したか(Q3)、時間的制約が品質に与えた影響の自覚(Q4)、直前の外国人犯罪記事の教訓が反映されたか(Q5)、稲村記事との判定基準の一貫性(Q12))には触れていない。これらは、大石発言の訂正だけでは解消されない、記事全体の検証プロセスに関する問いである。
Q13〜Q28(残り4件に関する個別質問16問)については、先述Q23を除き、表に示した通り訂正文に該当する記述がない。JFCのメール(6月29日受領、添付資料①参照)では「各項目について、現在、編集部にて精査を行い、順次運営委員会にて対応を検討、協議しているところです」とされており、7月中旬を目途に回答するとしている(添付資料④参照)。
筆者は、上記の未回答の質問すべてについて具体的かつ直接的な回答を求める。回答があった場合は続稿で検証する。
(3)訂正文を踏まえた質問の更新、追加
訂正文で判明した事実を踏まえ、質問状のQ1〜Q28のうち前提が更新されるものについて補足し、新たに生じた質問を追加する。
① 更新
Q22(井伊教授見解の方向性)の更新〈本稿2章(3)③参照〉
訂正文は、1回目の15件について「発言があった文脈を動画で確認し」たと述べています。藤田氏の発言がこの15件に含まれていた場合、社会保障改革の必要性を訴える文脈で「80兆円」が使用されていることをJFC自身が確認していたことになります。その前提の下で、井伊教授の見解がこの文脈と矛盾しないこと(むしろ補強する方向であること)に気づいていましたか。
気づいていた場合、何故記事にその旨を記載しなかったかを教えてください。気づいていなかった場合、動画で文脈を確認したにもかかわらず当該論理関係を認識できなかった原因を説明してください。いずれにも該当しない場合は、別の説明を示してください。
Q23(「不明確」という用語)の更新
訂正文は当該セクションを「解説」と位置づけ、判定を出していないとする立場を示しました。しかし、「根拠は不明確」はJFCの判定基準5段階(正確・ほぼ正確・根拠不明・不正確・誤り)のいずれとも異なる独自の表現です。判定を出していないのであれば、何故判定基準と紛らわしい評価的表現を使用したのですか。また、仮にこの記述がJFCの意図どおり判定ではないとしても、厚労省等(2018)に80.2兆円の推計値が明示されている以上、「根拠は不明確」という記述自体の当否は検証可能です。この点について見解を示してください。
Q25(後半発言の確認)の更新
高市消費税発言が15件に含まれていた場合、前半の議論の末尾(21:11)で司会が「後程また議論をお願いします」と述べていることを文字起こしとして確認していた可能性が非常に高いことになります。司会のこの発言を認識していましたか。認識していた場合、後半の議論(49:22〜)を確認しなかった理由を教えてください。
Q28(土居教授への取材経緯)の更新
15件の文脈確認を行っていたのであれば、土居教授への取材前に、高市首相の政策意図がゼロ税率(仕入税額控除が可能な課税取引)であることを把握していた可能性があります。その前提で、土居教授に高市首相の発言をどのような形で(全文か、要約か、前半のみか)提示したかを教えてください。
② 追加
Q29(筆者記事へのリンクの不掲載)〈本稿2章(1)参照〉
訂正文は筆者の検証シリーズ(7本)および質問状へのリンクを掲載していません。筆者は質問状においてリンクの掲載を明示的に要請しており、JFCはこの要請を読んだ上でリンクを掲載しない選択をしたことになります。ガイドライン第28条が求める「訂正の要求の内容」の「公正に公表」との整合性をどのように考えるか、説明してください。
Q30(残り4件の検討状況の不記載)〈本稿2章(2)参照〉
訂正文は大石発言以外の4件(高市防衛費・高市部局・藤田医療費・高市消費税)について一切言及していません。一方、JFCは筆者へのメール(6月29日受領)で残り4件が検討中であることを認めています。訂正文に「他の指摘についても確認中である」旨の記述を加えなかった理由を教えてください。
Q31(検証プロセスの時系列)〈本稿2章(3)①参照〉
訂正文は1月27日にNotebookLMへの入力と発言の抽出を行ったことを明示していますが、それ以降の工程(15件の動画確認、専門家への取材、編集部内の議論、2回目のAI抽出、記事の執筆・編集)がそれぞれいつ行われたかは記載されていません。各工程の実施日を教えてください。
Q32(プロンプトの完全な開示)〈本稿2章(3)②参照〉
訂正文は1回目のプロンプトとして「客観的・科学的に検証可能な発言を抜きだしなさい」を開示しました。しかし元記事は「AIが判定を『誤り』と推定していた」と記述しており、抽出の指示から判定が出力されることは指示の範囲を超えています。1回目・2回目それぞれについて、実際に使用したプロンプトの全文を開示してください。
Q33(15件のリスト)〈本稿2章(3)③参照〉
1回目の抽出で得られた15件の発言のリストを開示してください。高市防衛費・高市部局・藤田医療費・高市消費税の各発言がこの15件に含まれていたか否かを明示してください。
Q34(判定取り下げ時の再確認)〈本稿2章(3)④参照〉
大石発言について「誤り」から「検証対象外」へ扱いを変更する際、当該発言の文脈を動画で確認しなかったのは何故ですか。判定の取り下げは対象発言を改めて検討する契機であり、その時点で動画確認を行うことは訂正文自身が「基本的な作業」と認めている手順です。この「基本的な作業」が判定変更の意思決定過程から抜け落ちた具体的な原因を説明してください。
Q35(「解説記事」への事後的な位置づけ変更)〈本稿2章(3)⑤参照〉
訂正文は当該記事を「解説記事」と位置づけ、明確な編集担当を置かなかった理由としています。しかし、当該記事はURL(/fact-check/politics/...)および見出し(「【#衆院選ファクトチェック】」)においてファクトチェック記事として公開されており、記事内では「ミスリード」という正式な判定が付与されています。JFCが自ら運用しているファクトチェック記事と解説記事のカテゴリ区分に照らし、当該記事を「解説記事」とする根拠を示してください。また、読者がファクトチェック記事として受け取る体裁で公開しながら、訂正時に「解説記事」と説明することの整合性について見解を示してください。
Q36(再発防止策の実効性)〈本稿2章(3)⑥参照〉
訂正文が示す再発防止策(AI活用時の確認の徹底、編集担当によるダブルチェック、AIガイドラインの更新)は、前者の二つは既存の手順の遵守を改めて宣言したものであり、三点目は具体的な変更内容や更新時期が示されていません。既存の手順が機能しなかったからこそ本件が発生したことを踏まえ、これらの措置の具体的な実施内容を教えてください。また、本件が外部からの指摘なく4か月以上放置された事実を踏まえ、公開後に記事の問題を自発的に検知する仕組みの導入を検討していますか。検討していない場合、本稿2章(3)⑥で提案した事後チェック制度について見解を示してください。
おわりに
JFCは大石発言の不存在を認め、訂正し、謝罪した。この対応は評価する。
しかし、訂正文はそれ自体が新たな問題を提起している。プロンプトの開示内容と元記事の記述が矛盾していること。1回目の15件について文脈確認を行ったとしながら、その確認が記事の他のセクションにどう反映されたのかが不明であること。与野党のバランスへの懸念から行った2回目のAI抽出において、基本的な動画確認が行われないという意思決定がされたこと。そして何より、筆者が提出した5件の指摘のうち、対応が公にされたのは1件のみであり、残り4件は読者に対してその存在すら開示されていないこと。
筆者はJFCに対し、以下を要請する。
第一に、訂正文の修正。 当該訂正文に、筆者の検証シリーズ(7本)および質問状へのリンクを記載することを求める。JFCの運用上の定義(判定結果は変わらないが記事内容を変更する場合は「修正」)に照らし、これは「修正」に該当する。修正に際しては、本稿の指摘を受けてリンクを記載した旨を修正履歴に明記すること。
第二に、全質問への回答。 本稿で追加したQ29〜Q36を含む未回答の全質問について、具体的かつ直接的な回答を求める。回答期限について、JFCは当初の質問状(Q1〜Q28)に対し7月中旬を目途に回答するとしていた。しかし、本稿は7月10日に公開され、8問の追加(Q29〜Q36)と既存4問(Q22・Q23・Q25・Q28)の前提更新を含んでいる。この追加分を踏まえた再検討に時間を要することは理解するため、回答時期についてはJFCの判断に委ね、「7月中旬」遵守を要請しない。
ただし、回答の質については条件を付す。筆者は質問状(Q1〜Q28)の回答条件として、全問回答の原則と、回答拒否の場合の理由明示を既に要請している(質問状第4章(2)参照)。JFCはこの質問状を読んだ上で訂正文を公開したが、訂正文にはリンクの掲載という形式面の要請すら反映されなかった。本稿ではこの経緯を踏まえ、回答条件を改めて明示する。
全問について回答すること。個別の質問に対する回答を拒否する場合は、読者が納得できる具体的な理由を付すこと。「編集判断」「今後の検証に差し支えるため」と述べるだけでは、読者が回答拒否の妥当性を検証できないため、十分な説明とはみなさない。
渡辺氏がプレジデント・オンラインの記事で報じた通り、JFCは過去に外部からの具体的質問に対し、ガイドラインのリンクと既存動画の参照を返すのみで実質的な回答を行わなかった事例がある(添付資料(2)参照)。本件においてこのような対応が繰り返された場合、筆者はその事実を記録し公開する。
古田編集長は、JFCが「反日左翼」や「自民党の犬」と批判されることについて、「一つ一つ個別に反論するのではなく、普段の検証対象選びとその検証過程の公正さで答えていきたい」と述べている。本件は政治的レッテルではなく、JFC自身のガイドラインと記事の記述に基づく具体的な検証である。検証過程の公正さで答えるというのであれば、まさにその検証過程を問うている本件の質問に対して、全問について具体的に回答することがその姿勢の実践となるはずだ。
添付資料
(1) 筆者とJFCのメールでのやりとり
JFC担当者様より名前を伏せることを条件に、メール本文の公開の許可をいただいた。非公開情報であり、かつ重要な情報を有しているため公開する。
① 6/29 受領したメール
じゃのっす様
日本ファクトチェックセンター事務局のXXと申します。
この度はご指摘をいただきありがとうございました。
各項目について、現在、編集部にて精査を行い、順次運営委員会にて対応を検討、協議しているところです。
なお、大石氏に関する記述につきまして、誤りが確認されたため、下記のとおり訂正いたしました。
■各党党首の発言の真偽は 討論会をまとめて検証【#衆院選ファクトチェック】(訂正あり)
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/party-leader-debate-election-2026/
その他のご指摘につきましても、継続して確認を進め、必要な対応を検討・協議していく予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
② 6/30 筆者送信メール
日本ファクトチェックセンター事務局 XX様
メールを受領しました。大石氏に関する訂正の公開も確認しました。
2点お伺いします。
①残る項目および質問状への対応について、完了予定時期の目安をご提示ください。具体的な日付が困難な場合、「8月上旬」等の大まかな時期で構いません。
②今後、本件に関する記事を公開する予定です。その際、先日いただいたメールおよび今後のやり取りについて、送信者名を伏せた上で記事中に引用することを許可いただけますでしょうか。
7月4日(金) 17時までにご回答いただけますようお願いいたします。
③ 6/30 筆者が直ちに日付の誤りに気付いたため、訂正を送信
日本ファクトチェックセンター事務局 XX様
先ほどのメールで回答期限を「7月4日(金)」と記載しましたが、正しくは「7月3日(金) 17時」です。訂正いたします。よろしくお願いします。
④ 6/30 受領したメール
じゃのっす様
ご連絡ありがとうございます。
残るご指摘事項およびご質問につきましては、現在、編集部にて回答の整理を進めております。
回答につきましては、7月中旬を目途にお送りできるよう進めております。
また、ご照会いただきましたメール等の引用につきましては、送信者名を伏せた上で引用いただくことについて差し支えございません。
なお、運営委員会において内容を確認するとともに、再発防止についても検討する予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
⑤ 7/8 筆者送信メール
日本ファクトチェックセンター事務局 XX様
お世話になっております。じゃのっすです。
6月30日のメールにおいて、送信者名を伏せた上での「引用」について許可をお願いし、ご了承いただきました。しかし、記事の構成上、メール本文の全文を送信者名を伏せた上で掲載する形となりました。当初の「引用」の範囲を超えているため、改めて許可をお願いいたします。
該当箇所を含む記事の下書きを下記リンクよりご確認いただけます。
下から二番目の「添付資料」章が該当箇所です。
[下書きURLは非掲載]
なお、本下書きはJFC編集部および運営委員会内での共有については差し支えございませんが、公開前の下書きであり、公開時点で内容が変更される可能性がある点をご了承ください。
本記事は7月10日(金)19時ごろに公開する予定です。全文掲載について問題がなければご返信は不要です。掲載範囲について修正のご要望がある場合は、引用可能な箇所を明示の上、7月10日(金)17時までにご連絡ください。公開後、正式にお問い合わせフォーム等に記事全文および質問をお送りいたします。
どうぞよろしくお願いいたします。
なお、7月9日にJFC事務局より受領確認の返信があり、7月10日に全文掲載の許可を受領した。これらのメールの掲載については別途の許諾を得ていないため、内容の要約にとどめる。
(2) 渡辺氏記事におけるJFCの回答
以下は、渡辺一樹氏がプレジデント・オンライン(2024年12月30日)に掲載した記事「斎藤知事のパワハラを断定、立花孝志氏のマスコミ叩きに便乗…デマを指摘する「ファクトチェック団体」の欠陥」に基づく。本添付資料は、JFCが外部からの具体的質問に対してどのような回答を行ったかを示すために、渡辺氏の質問とJFC回答を整理し、筆者の検討を付したものである。
① 記事概要
渡辺氏の記事は、JFCの兵庫県知事選関連記事の検証と、JFCの組織ガバナンスの問題を論じたものである。記事の前半では、斎藤知事のパワハラに関するファクトチェック記事および稲村氏の外国人参政権に関するファクトチェック記事の検証手法上の問題を指摘し、楊井氏の「いつからJFCはパワハラ認定機関になったのか」等のコメントを紹介している。後半では、JFCの解説記事がプラットフォームの責任論をほぼ語らない一方でアルゴリズムの「便利」さを強調していること、運営費の99%がGoogle・LINEヤフー・Metaの3社からの助成金であること、運営委員会が完全非公開であることを取り上げ、JFCのガイドライン(非党派性・透明性)および国際ファクトチェック団体の姿勢との乖離を論じている。
② 渡辺氏の質問(2024年12月4日送付)
以下は、渡辺氏の質問文を筆者が整理したものである。詳細は渡辺氏記事参照。
問1. プラットフォームをめぐる解説の偏りについて
Q1-1 プラットフォームの責任についてほとんど言及しないのは何故か?
Q1-2 IFCN加盟団体がプラットフォームを批判する中、JFCが批判的視点を持たないのは何故か?
Q1-3 JFCの諸解説を見たうえで、プラットフォームの責任を論じたのは1本だけであり、それもPoynter(IFCNの運営団体)の和訳である。 プラットフォームの責任論を真正面から語らないのは何故か?
問2. 資金提供元との関係について
問2は、7条(ファクトチェックは資金提供者から影響を受けることの禁止)、12条(引用する情報源に対する利害関係の提示義務)、14条(JFCファクトチェッカーは政策課題についてJFCが偏向を有すると思われる発信の禁止)と関連付けた回答を望む
Q2-1 Googleからの資金提供がプラットフォーム問題を論じない姿勢に影響を与えていないか?
Q2-2 古田氏の経歴が記事の論調に影響を与えていないか?
Q2-3 IFCN加盟団体がプラットフォームを「フレネミー(友でもあり敵でもある存在)」と位置付け距離を取る中、JFCはそれが見られない。この点について意見は?
問3. 運営委員会によるガバナンスについて
Q3-1 JFC運営委員会がJFCの兵庫県知事選挙に関連する記事についてどのような評価をしたのか?
Q3-2 JFC運営委員会で以下の議論の有無とその内容は?
①プラットフォームの責任論をほとんど語らない編集方針
②Googleからの多額の資金提供と記事の論調との関係
Q3-3 JFC運営委員会は、JFC編集部に対してどのような意見を述べたり、改善を求めたりしてきたのか?
③ JFC回答(2024年12月19日)
・JFCからの回答
お問い合わせいただきありがとうございます。以下、回答いたします。
当センターはファクトチェックガイドライン第2条に基づき、非党派的かつ公平公正なファクトチェックを実施しており、プラットフォームとの関係もこうした原則に基づいております。なお、ご参考までに下記もご覧下さい。
■ご質問1および2について
JFCでは「JFCファクトチェック指針」および「ファクトチェックガイドライン」に従い運用しています。
検証対象の選定方法についても解説しておりますのでご確認ください。
▼JFCファクトチェック指針
https://www.factcheckcenter.jp/guidelines/
▼ファクトチェックガイドライン
https://drive.google.com/file/d/1H9TCU01zuNh8sHpYL81FJ8_pOUd1WsoH/view?ref=factcheckcenter.jp
▼検証対象をどう選ぶか
https://www.factcheckcenter.jp/guidelines/
SNS、アルゴリズム、エコーチェンバーなどの問題につきましては、ご連絡いただいた記事の他にも下記の講座理論編でも取り上げさせていただき、多くの方にご視聴いただいております。
>フェイクニュースとアルゴリズム YouTubeやTikTokが便利で危険な理由【JFCファクトチェック講座 理論編3】
> https://www.youtube.com/watch?v=eS2XCaHYH24
> https://www.factcheckcenter.jp/course/others/jfc-factcheck-course-theory3/
なお、運営委員会は、委員間で自由闊達な意見交換を行い、適切な意思決定を図る場としております。
その性質上、詳細な日時や議事録等は非公開とさせていただいております。事業に関する具体的な方針等につきましては、お知らせ等必要な形で適宜公開しておりますのでそちらをご確認ください。
④ 質問と回答の検討
渡辺氏自身も記事中でJFCの回答姿勢に疑問を呈している。ガイドラインの条文を挙げて質問したにもかかわらずそのガイドラインのリンクを返されたこと、質問状で確認済みと伝えた資料を改めて提示されたことについて、渡辺氏は「驚かされた」と述べている。また、開催日時や議事録の非公開(※1)については、「完全な秘密会議」と評価し、「自ら掲げる『透明性』の大義」との一貫性に疑問を呈している。
以下、筆者の観点から質問と回答の対応関係を検討する。
JFCの回答は、問1と問2の計6問を「ご質問1および2について」として一括処理し、ガイドライン・ファクトチェック指針へのリンク3件とファクトチェック講座動画へのリンク1件を提示している。問3については「日時や議事録等は非公開」とするのみである。また、回答冒頭でガイドライン第2条の文言(「非党派的かつ公平公正」)を引いているが、渡辺氏が挙げたのは第7条・第12条・第14条という各論の条文であり、各論の問いに総論で返す構造になっている。
各問との対応を確認する。
問1(Q1-1〜Q1-3): 3問はいずれも「プラットフォームの責任論を語らない理由」を角度を変えて質問している。JFCが提示したリンク先(JFCファクトチェック指針、ファクトチェックガイドライン、検証対象をどう選ぶか)に、この理由を説明する記載は存在しない。講座動画についても、渡辺氏が質問状の中で全件確認済みと伝えた資料の一つであり、確認済みと伝えた資料を改めて提示することは、実質的な回答の拒否である。3問すべてに対し無回答。
Q2-1(Googleからの資金提供の影響): JFCが提示したリンク先に、資金提供が編集方針に影響を与えているか否かの記載はない。なお、2024年12月12日付の運営委員会報告書には「JFCの支援者から案件選択や執筆、発信方法等について要請や指摘を受けたことはない」との記載がある(※2)。しかし、この報告書はJFCの回答においてリンクとして提示されておらず、渡辺氏の質問への回答として意図されたものではない。仮にこの記載をもって回答とみなしたとしても、「要請や指摘を受けたことはない」ことは「影響を受けていない」ことの十分な証明にはならない。
Q2-2(古田氏の経歴の影響): JFCが提示したリンク先に、古田氏個人の経歴と記事の論調との関係についての記載はない。この質問はガイドライン第14条(個人の見解表明に関する規定)に関連して問われているが、第14条が規律するのは「ファクトチェック記事の作成に従事する者」個人の行為であり、組織の方針文書へのリンクでは原理的に回答にならない。無回答。
Q2-3(「フレネミー」としての距離感): JFCが提示したリンク先に、他のIFCN加盟団体がプラットフォームと距離を取る中でのJFCの立場についての記載はない。無回答。
Q3-1(運営委員会の評価): JFCの回答には、兵庫県知事選関連記事への運営委員会の評価は一切記載されていない。なお、2025年4月30日付の運営委員会報告書には、「兵庫県知事選で溢れた偽・誤情報」と題した記事の表現に関する質疑の記録がある(※3)。しかし、Q2-1と同様、この報告書はJFCの回答においてリンクとして提示されておらず、渡辺氏の質問への応答として意図されたものではない。無回答。
Q3-2(議論の有無と内容): JFCの回答は「非公開」とするのみで、プラットフォームの責任論を語らない編集方針、およびGoogleからの資金提供と記事の論調との関係について、運営委員会で議論が行われたのか否かすら明らかにしていない。渡辺氏は議事録の公開を求めたのではなく、議論の有無と内容を質問した。無回答。
Q3-3(運営委員会から編集部への意見・改善要求): JFCの回答には記載がない。なお、運営委員会報告書には編集部の人員構成に関する議論の記録があるが(※4)、これは渡辺氏が質問した編集方針や記事の論調に関する意見・改善要求とは異なる。無回答。
総じて、9問の質問に対し、JFCの回答は個別の質問に対応する実質的な応答を一切含んでいない。本稿「おわりに」において、JFCに対し「個別の質問に対する回答を拒否する場合は、読者が納得できる具体的な理由を付すこと」を条件として付し、渡辺氏の事例のような対応を拒否する旨を明記したのは、この先例があるためである。
※1 なお、本稿執筆時点では、「JFCとは」のページにおいて、2024年12月12日、2025年4月30日の2回分について運営委員会の議事録の概要を公開している。ただし、2024年5月24日時点で、総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」において、古田編集長がJFC運営委員会の開催が「数か月に1回というペースで」(p45)「回数は今年2回、発足以来13回」(p47)と明言している。
※2 なお、本稿執筆時点で公開されているJFC運営委員会報告書(2024年12月12日)には、「ファクトチェックガイドライン7条では、ファクトチェックにおいて「調査、案件選択、検証、執筆、発信を含むいかなる側面においても、資金提供を受けることにより、当該資金提供元から影響を受けてはならない」と定めている。これまでJFCの支援者から案件選択や執筆、発信方法等について要請や指摘を受けたことはない。また、講師養成講座では、支援者であるGoogleのサービスであるYouTubeを題材として、アルゴリズムやアテンションエコノミーがもたらす危険性を説明する動画教材を制作・配信している。」と記載がある。しかし、これでも直接の回答になっておらず、そもそも運営委員会報告書はリンクとして提示されていない。
※3 なお、本稿執筆時点で公開されているJFC運営委員会報告書(2025年4月30日)には、「『兵庫県知事選で溢れた偽・誤情報』と題した記事について、「溢れた」という表現がセンセーショナルではないかとしてその意図に関する質問があり、編集長より今後同様のケースでは留意するとの回答があった。」と記載されている。ただし、兵庫県知事選挙は2024年11月17日投開票であり、筆者推定当該記事も2024年11月17日公開記事だ。2024年12月12日付の運営委員会報告書では登場せず、2025年4月30日付の運営委員会報告書で指摘されることに時系列上の違和感を持つ。
※4 回答には明示されていないが、運営委員会報告書(2025年4月30日)には、編集部やインターンの出身、ジェンダーバランスといった人員の比率等についての議論がされたことが記載されている。
参考文献
日本ファクトチェックセンター. (2026, February 5; revised June 29). 各党党首の発言の真偽は 討論会をまとめて検証【#衆院選ファクトチェック】(訂正あり). https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/party-leader-debate-election-2026/ (最終確認:2026/07/06)
日本ファクトチェックセンター [@fact_check_jp]. (2026, June 29). 訂正のお知らせ [Post]. X. https://x.com/fact_check_jp/status/2071524766880600326
日本ファクトチェックセンター. (2024, January 29). ファクトチェックとは. https://www.factcheckcenter.jp/explainer/fact-check/jfc-fact-checking-101/
日本ファクトチェックセンター. (2024, August 13). JFC AI活用ガイドライン. https://www.factcheckcenter.jp/info/others/jfc-ai-guideline/ (最終確認:2026/07/06)
日本ファクトチェックセンター. (2022). JFCファクトチェックガイドライン. https://drive.google.com/file/d/1H9TCU01zuNh8sHpYL81FJ8_pOUd1WsoH/view
日本ファクトチェックセンター.(2026, April 14).イラン戦争をめぐってナフサは「確保」できているのか 専門家の「6月に詰む」という言葉の背景【ファクトチェック解説】. https://www.factcheckcenter.jp/explainer/politics/is-naphtha-supply-sufficient/
日本ファクトチェックセンター.(2026, July 5). 訂正の再発防止とさらなる効果的なコンテンツに向けて/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】. https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/others/fact-check-weekly-20260705/
日本ファクトチェックセンター.(n.d.).訂正・修正. https://www.factcheckcenter.jp/tag/correction/ (最終確認:2026/07/06)
渡辺一樹.(2024, December 30). 斎藤知事のパワハラを断定、立花孝志氏のマスコミ叩きに便乗…デマを指摘する「ファクトチェック団体」の欠陥. https://president.jp/articles/-/89844
日本ファクトチェックセンター.(2025, April 25). 日本ファクトチェックセンターは「反日左翼」?それとも「自民党の犬」? 政府や自民党を標的にした偽・誤情報が増えているという背景【解説】. https://www.factcheckcenter.jp/explainer/others/jfc-fact-check-integrity/
日本ファクトチェックセンター.(n.d.).「JFCとは」. https://www.factcheckcenter.jp/about-japan-fact-check-center/ (最終確認2026/07/10)
総務省.(2024)「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」. https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_space/index.html
※個別検証記事の参考文献は各記事を参照。
更新履歴
2026/07/10 記事公開



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