娘のように思っていた女性が息子と結婚
DVに対する認知度が現在ほど広まっていなかった時代。家庭の恥をさらしたくないという思いもあり、元子さんは誠さんの暴力をひた隠しにしていた。そんな彼女の支えになっていたのが、自身が働く児童養護施設の出身者であり、当時は職員として一緒に働いていた由香里さん(仮名・36歳)だった。
「由香里は私が一番可愛がっていた子どもでした。何となく相性が良いというのか、私は彼女を実の娘のように思っていましたし、由香里も母親のように慕ってくれました」
両親から虐待されて施設にやって来たせいか、由香里さんは他人の顔色や体調に敏感なところがあった。元子さんの悩んでいる姿や身体のあちこちにある痣に気づいたことで、常に彼女を心配していたそうだ。
「私はそんな由香里に甘えて、息子のDVについて愚痴ったりしていました」
ストレスによる胃潰瘍を繰り返し、また誠さんの暴力で腰や背中を痛めるなど、心身に限界が来ていた元子さんは70歳を目前に養護施設を退職する。だがその後も、由香里さんとの交流は続いた。
「お恥ずかしい話ですが、息子は私に手をあげるだけでなく、犯罪にまで手を染めるようになっていました。『取り返しのつかないことになる前に……』と親子心中を考えていた時、由香里が『私にできることがあれば何でもするから、バカなことを考えるのは止めて!』と言ってくれたんです」
元子さんに寄り添うように、頻繁に自宅に出入りするようになった由香里さん。いつしか誠さんが彼女に思いを寄せるようになり、ふたりは交際に発展した。「二度と暴力はふるわないこと」「真面目に働くこと」を条件に由香里さんは誠さんと結婚する。誠さん31歳、由香里さん27歳の時だった。
「結婚願望がなかったにも関わらず、由香里は私のために息子と結婚してくれたんです。『元子さんと親子になれて嬉しい』と無邪気に笑う由香里に、きっとその先の地獄は予想できなかったと思いますよ」