医療大学が有機農業の学部をつくる理由、気候変動時代に始まる新しい学び
医療大学が農学部、それも全国初となる有機農業に特化した学部をつくる――。一見すると意外な組み合わせに思えるかもしれません。しかし、気候変動や食料問題、健康への関心が高まる今、その発想はとても自然な流れです。
今年も5月には30度を超える真夏日が続き、その後は台風や大雨が各地を襲いました。季節の移り変わりは急激になり、農作物への影響も目立っています。さらに中東情勢の緊迫化は燃料や肥料価格を押し上げ、私たちの食卓にも影響を及ぼしています。食料、環境、健康は、もはや切り離して考えられない時代になりました。
こうした中、京都府南丹市の明治国際医療大学は2027年4月、全国初となる有機農業に特化した農学部の開設を目指しています(設置認可申請中)。国も「みどりの食料システム戦略」を掲げ、有機農業を2050年までに耕地面積の25%へ広げる目標を示し、持続可能な食料システムづくりを進めています。新学部の食農エコロジー学科(仮称)は、その時代の流れを象徴する存在といえるでしょう。
この学部が特徴的なのは、農業だけを学ぶ場ではないことです。大学は「健康と食、地域環境は一体であり、身体によいものは社会にもよい」という理念を掲げ、生産から加工、流通、消費までを総合的に学ぶ教育を目指しています。医療大学だからこそ、「健康を支える食」という視点が教育の中心にあります。
カリキュラムにはアグロエコロジーや食農システム、オーガニックフードという未来の食と農にとって不可欠なキーワードが並び、有機農家での実習や地域でのフィールドワークも重視されます。「『食』から考える環境と未来」という高校への出前講義も行い、食と農、環境のつながりを次の世代へ伝える取り組みも進めています。
舞台となる南丹にも大きな意味があります。里山や小規模な家族農業が残る一方、高齢化や担い手問題、獣害など、日本農業が抱える課題が凝縮された地域だからです。学生は教室だけではなく、地域そのものを教材として学ぶことができます。
医療大学が農学部をつくる目的は、農業分野へ進出することではありません。人の健康を考え続けた先に、食と農、そして地域環境の課題があったと言えます。食べ物は身体をつくるだけでなく、地域社会や自然環境も支えているのです。
気候変動が進み、世界情勢が私たちの食卓を左右する時代だからこそ、求められるのは農業、医療、環境を横断して考えられる人材です。全国初の有機農業に特化した学部は、新しい学部が一つ増えるという話ではなく、未来の食と農、そして私たちの暮らしを考え直す新しい一歩になりそうです。