親が手伝う自由研究は逆効果! 「国立科学博物館」の研究員に聞いた「5つメモして2つ調べる」学びのコツ
夏休みは、おでかけや自由研究のテーマさがしに、博物館へ行ってみよう! そう考える親子も多いのではないでしょうか。せっかく足を運ぶなら、単なるイベントの思い出で終わらせず、子どもの「知りたい!」という好奇心をぐんぐん伸ばす最高のきっかけにしたいもの。
この夏、大注目の展覧会が国立科学博物館(東京・上野公園)にやってきます。特別展『いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!』〈2026年7月11日(土)~10月12日(月・祝)〉は、同館の貴重な標本とNHKの迫力ある映像が融合し、いきものたちの驚くべき「生き残り術(生存戦略)」を体感できる、親子にぴったりの催しです。
大人がちょっと意識するだけで、博物館での体験が何倍も深く、おもしろくなる秘訣とは? 前編に引き続き、本展の総合監修を務める国立科学博物館の研究主幹、田島木綿子先生にお話を聞きました。
【画像を見る➡】天才・落合陽一氏の母に聞く「好き」を「強み」に変える育て方◆田島木綿子(たじま・ゆうこ) 国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ研究主幹。筑波大学大学院生命環境科学研究科准教授、日本獣医生命科学大学客員教授。日本獣医生命科学大学(旧日本獣医畜産大学)獣医学科卒業、野生のオルカ(シャチ)に魅了され、海の哺乳類の研究者の道へと進む。
特別展『いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!』2026年7月11日(土)から10月12日(月・祝)まで、国立科学博物館にて開催
わからないから面白い だから人間は学び続ける
──前編では、特別展の魅力や展示を観察して学びにつなげるヒントを伺いました。「子どもの自発性を大切に」とお話しされていましたが、「自分で問いを立てて調べる」ことの楽しさや難しさはどんなところにあるのでしょうか。田島木綿子さん(以下、田島さん):私自身、長く研究の場に身を置いていますが、やればやるほどわからないことが出てきて、新しい疑問が湧いてきます。だからこそ面白い。Aを理解しようと思うと、Bを学ぶ必要がありCについての知識も必要で……と連鎖してどんどん広がっていくわけです。
私はイルカやクジラなど海の哺乳類について研究していますが、彼らのことだけ研究していても事実に近づけない部分があり、海洋生態系全体を捉えていく段階なのだと思い始めたところです。
木を見て森を見ずではないですが、トッププレデター(食物連鎖の頂点にいるいきもの)だけを理解しても全体を把握することには限界があります。なので、食物連鎖全体を考えることで、事実に近づける気がしています。
それには自分の力だけでは限界がありますので、ほかの研究者や先生方と協力しています。学びの輪とはそうやって広がっていくのですね。
──研究者というのは、湧き上がってきた疑問や探求したいことについて、知識や考察を深めていく延長線上にあり、まさに夏休みの自由研究を生涯にわたって取り組んでいるようなものですね。
田島さん:そうそう。自分の気になることを調べて掘り下げて、それをどう実証するか、根拠をもとに論文や学会でどう発表していくか。これができるようになれば、もう研究者の仲間入りです。
国立科学博物館の研究員たちは、子どものころ、川に行って石をひっくり返してはひたすら眺めていた人たちが多くて(笑)。とにかく自然やいきものが好きで、気の向くまま川や草むらに行って楽しんでいたようです。一方で、博物館や水族館に毎週のように通っていた人たちもいます。そういうところに、研究者の原点があるのではないでしょうか。
──田島先生ご自身は、どのような経緯で研究者の道を歩むことになったのでしょうか。
田島さん:私の場合は、辿った道が周りの人たちとはちょっと違っていて……(笑)。私はいわゆる教育ママであった母のおかげもあり、「子どもたちには、専門的な道に進んでほしい」という強い決意のもと育てられたところがあります。小さいころから動物が好きだったので、母から勧められた獣医という分野を目指して、獣医学部に進学しました。
大学に行ってからは、いきもののことをたくさん学べたので「もっともっと知りたい」という気持ちが強くなり、やっと勉強やいきものたちに真剣に向き合うようになりました。
いろいろなタイプの研究者がいることも多様性の一つだと思うので(笑)、最終的に自分が「楽しい」と思うことに到達できることも大切にしています。
ほかのいきものを知ることで、新たな視点を得る
──子どもの興味や関心が向いた先に、大人がどう気づくか。そしてどう反応するかを大切にしたいですね。
田島さん:先ほどもお話ししましたが、同じものを見ても見る視点を変えると、全く違った感想や考えが湧くものです。科博のような博物館の展示や標本に対して、「わからない」という子もいれば、「興味が湧かない」という子もいると思います。
そうだとしても、それは1つの答えであり、では何に興味が湧くのかな?どこがわからないのかな?といった違う観点で子どもたちと向き合えるのではないでしょうか。例えば、絵や仏像に興味があるのかもしれませんし、大工さんになりたいのかもしれません。
たとえば今回の展示は、オオナマケモノ以外は今の地球上に生息しているいきものたちばかりです。
『いきもの超ワールド展』では6つのCHAPTERでさまざまないきものを展示。写真はCHAPTER2「いきもので異なる『エネルギー補給』」で展示されるいきもの。
田島さん:子どもが「わからない」と思ったとしても、今回の展示で紹介しているほとんどのいきものは、現在も、この地球上で共に生きる仲間ですので「地球で一緒に生きている仲間として、少しずつ彼らのことを知っていくのはどうだろう」など別の視点からフォローしてみると、子どもたちのいきものに対する見方がちょっと変わったりするので、そんなときは私も嬉しいですね。
大人の方々は大変です(笑)。凝り固まってしまった頭を柔軟にほぐしながら、「人間もまた、食物連鎖の一員」という視点で、地球やいきものたちと触れていただけると楽しいはずです。
さまざまないきものが食う・食われるの関係の中で、死に直面するのは自然の摂理です。しかし我々は、その関係を一方通行に考えてしまいがちです。いきものが互いに支え合っているからこそ、その関係も成り立っていることを、心に留めて置けると良いですよね。
「標本」を通じて得られる、本物の自然との出会い
──学校や塾といった場とは異なる「博物館での学び」は、子どもにとってどのようなメリットがあるとお考えですか?田島さん:それはやっぱり、標本があることですね。標本とは、「人間が調査研究するために、自然から切り取った一部」という言い方もできます。
博物館に来ると、我々は標本を通して自然に出会い、そこから何かを感じ取り、学ぶという体験をできるはずです。自然界に存在したものを少しお裾分けしてもらって保管しているのが博物館なので、まぎれもない本物を目にしたときの感動は、非常に大きな意味を持つと私は思っています。
私がいくら「イルカの胃はたくさんの部屋に分かれていて、すごく面白いんですよ!」と言葉で説明しても、イルカの胃の実物標本を見たときのインパクトにはかないません(笑)。
田島さん:私自身、「実物を見ると、人の反応はこれほど変わるんだ」という経験をしていますし、私たちが標本を見て感動するなら、多くの人もきっと感動してくれるはずだと信じています。
今回展示している標本は、多くの人に興味をもっていただけるようなラインナップを考えておりますが、皆さんがどこにハマるかは十人十色であり自由です。自分だけのツボをみつけていただければと思います。
研究者の仕事は過去を辿って学ぶことも多いですが、実は私は「過去」よりも「現在から未来」を知りたいと思うタイプでした。
でもいろいろと勉強していく中で、今よりもずっと知識や技術が未完成で、コンピューターもAIもなかった時代に、人間が自らの力だけで自然界や人間についてのさまざまな事実を突き止めたことのすごさも実感するようになりました。
今は便利なものがいろいろある時代だからこそ、人間が本来備えている「考える力」を大切にしなければいけないと切に思うようになりました。そのためにも、「体験すること」は第一歩だと考えます。
目の前で本物と出会ったときの「最初の驚きや感動」って、すごく大事な体験ですよね。第一印象で、子どもたちが何を感じるか。保護者の方と同じ感想でなくても良いわけで、そのほうがかえって、「どう感じた?」「私はこう感じたよ」「へぇ!」と盛り上がれるはずです。
今回の展覧会は「いきもので異なる『五感』」、「いきもので異なる『エネルギー補給』」など6つの切り口で、いきものたちの生き残り戦術を紹介しています。これらの生き残り戦術の中には、人間にも備わっているスキルもありますので、自分たちと比較しながら見ていただけると思います。
そして、ほかのいきものはどういう能力が発達していて、どんな生き方をしているのか。展示を見て、聞いて、感じ取り、そういう話題でぜひ盛り上がっていただきたいです。
興味を持てば、「学ばない」という選択肢はなくなる
──子どもの学びによく利用されるアイテムに、図鑑があります。図鑑という書籍ジャンルの魅力、子どもの学習によいと思う点などについてお聞かせください。
田島さん:学び方に、決まった法則はないように思います。たとえば、博物館を訪れたとき、何が面白かったかをお子さんに5つほど挙げてもらい、メモしてもらいます。そのうちとくに面白かった2つについて、お家に帰ってからお子さん自身で図鑑やインターネットを使って調べてみる、というのもいいのではないでしょうか。
お子さんが興味を持った内容が、博物館の推し展示でなくても全く問題ありません。お子さんが何に興味を持ったのかを知ることや、そこから会話が生まれることなどが、次のステージへつながり、そこからどんどん世界が広がっていくはずです。
──最後に、この展示を通して来場者の方々に届けたい思いをお聞かせください。
田島さん:我々人間もいきものの一員であることを心に留めながら、いきものたちの「超」がつくほどの驚きと感動の世界を体験してほしいです。
そして、そうしたいきものたちと共に、この地球でこれからも歩み続けていけるヒントやきっかけが見つかるといいなあと思います。
楽しかった思い出を一生ものの学びに。「おうち復習」のすすめ
ここからは、本と子育てのウェブメディア「コクリコ」編集部より、田島先生のお話をふまえた、博物館での感動を一生ものの学びに変えるための「すてきなヒント」をご紹介します。
田島先生がインタビューの中で教えてくれた、「お家に帰ってから、特に面白かったことを図鑑やインターネットで調べてみる」というアイデア。会場でいきものたちの迫力に満ちた姿に五感で触れた後は、ぜひおうちで「振り返りの時間」を設けてみてください。
展覧会を観終えたあとの子どもたちの頭の中は、「すごかった!」「おもしろかった!」という新鮮な興奮でいっぱいです。その熱量が冷めないうちに図鑑を開くと、おうちでの振り返りがさらに充実します。
自分だけの「おもしろポイント」をさらに深掘り
田島先生のお話にもあったように、子どもがどこに夢中になるかは自由です。たとえそれがメインの大きな展示ではなく、片隅にあった小さな昆虫や、1本の骨だったとしても、その知りたい気持ちを深掘りへと繫げてあげてください。親子でインターネットや図鑑などを活用し、さらなる発見を探してみましょう。
「絵日記」や「自由研究」がすらすら書けるヒントに
博物館で出会った標本の大きさや、いきものの生存戦略の違いなど、現地で感じたファーストインプレッションを思い出しながら図鑑や映像などの資料を調べてみましょう。正しい名前や、いきものたちの詳しい解説を一緒に読み解くことで、子ども自身の手で「自分だけのいきもの研究」をまとめられるようになります。
「博物館で本物の迫力に驚き、おうちに戻って深める」。このステップが、子どもたちが自分で考え、学び続ける力を伸ばします。この夏休みはぜひ、お気に入りの図鑑などを相棒に、特別な探求の旅へ出かけてみてください。
取材・文/木下千寿
撮影/市谷明美
特別展「いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!」
■会期
2026年7月11日(土)~10月12日(月・祝)
■会場
国立科学博物館
〒110‐8718 東京都台東区上野公園7‐20
■開館時間
9:00~17:00(入場は16:30まで)
※8月9日(日)~8月15日(土)は18時まで開館
(入場は17:30まで)
土日祝日および8月10日(月)~14日(金)はオンラインによる日時指定予約をおすすめします。
■休館日
7月13日(月)、9月7日(月)、14日(月)、24日(木)、28日(月)
※会期、開館時間等は変更になる場合がございます。
■主催
国立科学博物館、NHK、NHKプロモーション
■協賛
光村印刷、早稲田アカデミー
■協力
新潮社、ZEISS、ブリッジリンク
■お問い合わせ
050-5541-8600(ハローダイヤル)
03-5814-9898(FAX)