《アルゼンチン》飛行中に教官が機外へ身投げ 残された22歳女性教習生が小型機を無事着陸
遺言は「君は何をすべきか分かっている、進み続けなさい」
事実は、どんな劇的な表現も追いつかないほど衝撃的だった。7月4日、アルゼンチン・コルドバ州の上空250メートル。訓練飛行中の小型機から教官が機外へ身を投じ、コックピットに22歳の女性教習生が一人取り残された。それだけではない。飛び降りる直前、教官は穏やかな口調でこう告げていた。「君は何をすべきか分かっている、進み続けなさい」。 8日付G1紙によれば、死亡したのは教官のレアンドロ・ベルタッゾさん(42)。遺体はコルドバ州トレドの農村地帯で発見された。機体はセスナC-150という小型の練習機で、同乗していた女性教習生(22)は操縦免許を持ちながらも飛行経験はわずか数時間に過ぎなかった。 飛行学校の責任者、エドゥアルド・アウバレス氏の証言は、この行動の異常性を物理的な側面から裏付ける。「彼はヘッドセットを外し、携帯電話を置き、ドアを開けた。高速走行中の車のドアを開けるようなもので、相当な力を要する行為だ」。衝動的な行動ではなく、計画性をうかがわせる行動だった。 8日付エル・コメルシオ紙によれば、ベルタッゾ氏は事件以前から精神科の治療を受けていた。しかしその事実は職場に一切報告されておらず、家族内のみに留まっていた。また事件当日、普段は自家用車で通勤していた同氏が珍しく同僚に送迎を依頼するという「普段と異なる行動」もあった。 一方、絶望的な状況に置かれた教習生の対応は圧倒的だった。8日付デイリー・ワイヤー紙によれば、彼女は即座に地上チームへ緊急事態を無線連絡し、誘導を受けながら着陸した。機体への損傷もなく、正常に着陸した。アウバレス氏は彼女の対応を「明確で決定的、かつ成熟した専門性」と評した。 経験わずか数時間の操縦士が、教官が目の前で消えるという極限状態でこれだけの対応を見せたことは、訓練の成果を示す出来事となった。 この事件により、機体の整備や技術訓練という従来の枠組みに加え、操縦者の精神的コンディションをいかに組織として把握・管理するかという課題が、あらためて浮き彫りとなった。