トランプ政権の影響が学生新聞に波及、顧問解雇され一時発行停止も…大学側が忖度か

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[トランプの米国 建国250年]<7>

 米国の大学では伝統的に学生新聞など学内メディアの活動が活発だ。多くの大学を「リベラル偏向」と敵視するトランプ政権の影響は、学内メディアにも及ぶ。

 6月3日、「報道の自由のための記者委員会」などのメディア関連14団体が連名で、インディアナ大学の学長らに公開書簡を送った。同大の学生新聞「インディアナ・デイリー・スチューデント(IDS)」を巡る大学の対応に「深い懸念」を示す内容だった。

 米国で大学の学生新聞は1000以上あるとされる。地方紙の衰退に伴い、地域ニュースを担う新聞も多い。1867年創刊のIDSは、ピュリツァー賞の受賞者も輩出した全米屈指の学生新聞と評されてきた。

インディアナ大学の学生新聞に対する圧力の構図
インディアナ大学の学生新聞に対する圧力の構図

 何が起きたのか。

 発端は、トランプ大統領が返り咲いた2024年の大統領選だ。IDSは選挙後、トランプ氏の画像に「民主主義への脅威」「独裁者」と批判するコメントを並べた記事を載せた。州副知事選を制した共和党候補が問題視し、SNSで「こんな左翼プロパガンダはやめさせる」と公言した。

ジム・ローデンブッシュ氏
ジム・ローデンブッシュ氏

 昨秋、大学側はIDSに時事ニュースを扱わないよう求め、それに抗議したIDSの顧問ジム・ローデンブッシュ氏(49)を解雇した。オンラインでの記事発信までは禁じなかったが、紙の新聞は発行停止を一時命じた。

 大学側は、発行停止の判断は「財政上の理由」と説明するが、ローデンブッシュ氏が「大学の広報だけすればいいと大学側は言ってきた。州に目を付けられたくないと考えたのではないか」と語るように、州政府への 忖度そんたく を疑う声は根強い。

 民主主義の「実験国家」として誕生した米国で、「自由」には特別な響きがある。建国前年の1775年、英国の圧政に反発する政治指導者パトリック・ヘンリーは「自由を与えよ、さもなければ死を」と演説し、英国との開戦を主張した。この言葉は、独立戦争でスローガンとなった。

 自由な報道の重要性にも建国の父は気付いていた。独立宣言の原案を作った第3代大統領トマス・ジェファーソンは、友人への手紙で「私は新聞なき政府より、政府なき新聞を選ぶ」とつづった。自由な言論と報道により国民が多様で正しい情報を得られなければ、民主主義の根幹となる公正な選挙ができず、専制主義に陥る危険があると認識していたためだった。

 トランプ政権はメディアへの圧力を続けている。

ニコ・ペリーノ氏
ニコ・ペリーノ氏

 3大テレビネットワークの一つのCBS。日曜夜の「60ミニッツ」は、政権批判をいとわない看板番組だ。番組のスコット・ペリー記者は今年6月、上層部の報道方針に抗議した直後に解雇され、37年間在籍したCBSを離れた。

 親会社の米メディア大手パラマウント・グローバル(当時)は昨年、企業合併で新体制に移行し、トランプ氏に近い実業家の息子が新会社を率いる。ペリー氏は解雇後、米メディアに「(新経営陣は)政権に有利な報道となるよう常に大統領の見解を気にかけていた」と語った。

 非営利団体「個人の権利と表現のための財団」副会長のニコ・ペリーノ氏(36)は「経営層を通じ、批判的な報道を封じるのがトランプ政権の手法だ」と指摘する。

 報道の自由への理念は、学生新聞のような地域メディアに色濃く残っている。IDSの停刊直後、近隣のパデュー大の学生新聞は、共闘を訴える新聞3000部をインディアナ大のキャンパスで無料配布した。他大学の学生新聞も記事で、連帯を示した。インディアナ大の卒業生から寄付金取り下げが続き、新聞発行停止の命令の約2週間後、大学側は撤回に追い込まれた。

アンドリュー・ミラーさん
アンドリュー・ミラーさん

 IDS共同編集長だったアンドリュー・ミラーさん(22)は当時、大学の強硬姿勢に「停学処分を受けるかも」と案じつつ、オンライン記事では報道の自由の侵害だと訴え続けた。現在は地元でフリージャーナリストとして活動する。「民主的で自由な社会という米国の理想に向け、今後も権力者に説明責任を問うジャーナリズムは不可欠だ」と信じている。(おわり)

メディア全体に恐怖心…ジョナサン・ハフェッツ氏(米シートンホール法科大学院教授)

ジョナサン・ハフェッツ氏
ジョナサン・ハフェッツ氏

 建国の父は、制約のない議論こそ民主主義と自由の中核にあると考えていた。異論や批判を封じるトランプ政権の圧力はエスカレートしており、非常に危険だ。

 1期目はメディアを「フェイクニュース」と呼び、報道の正当性を否定する言動が目立ったが、2期目ではメディアの経営層に圧力を加える手口が顕著となった。例えばテレビ局に放送免許を 剥奪はくだつ すると脅し、自分に好ましくない報道を排除しようとしている。直接の標的とならなくても、トランプ氏の威圧的な発言で「次は自分たちが狙われるかもしれない」という恐怖心を業界全体に与える。

 言論や報道の自由は、権力の乱用から国民を守るための防波堤であり、権力を監視し、市民が十分な情報に基づいて物事を考えることを可能にするものだ。トランプ政権によって米国は明らかに権威主義的になっており、メディアが政権に 毅然きぜん とした姿勢で向き合う重要性がかつてなく高まっている。(聞き手 阿部真司)

自由を与えよ、さもなければ死を

パトリック・ヘンリー
パトリック・ヘンリー

パトリック・ヘンリー(1736~1799)「バージニアでの演説」

 弁護士、政治指導者。英国の支配に抵抗し、独立戦争に向けた機運を高めた。

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