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茨城・古河老健殺人 「合理的疑い残る」一部無罪 元職員に懲役20年 水戸地裁判決

赤間恵美被告
赤間恵美被告


茨城県古河市の介護老人保健施設で2020年、入所者2人に空気を注入し殺害したとして、殺人などの罪に問われた元職員の同市、赤間恵美被告(40)の裁判員裁判で、水戸地裁(山崎威裁判長)は7日、2件の殺人罪のうち1件について「他殺だが、被告を犯人とするには合理的な疑いが残る」として無罪とし、もう1件は有罪として懲役20年(求刑無期懲役)の判決を言い渡した。弁護側は公判を通じて全面無罪を主張し、閉廷後に控訴する意向を示した。

被告は初公判で「私は空気を注入していません。殺害していません」と起訴内容を否認。犯行を裏付ける直接証拠が乏しく、公判では他殺かどうかの事件性と、被告が殺害したかどうかの犯人性が争われた。

無罪となったのは鈴木喜作さん=当時(84)=に対する殺人罪。当初病死とされ、遺体は司法解剖されなかった。

判決理由で山崎裁判長は、鈴木さんの体内に致死的な空気があったことから「ほかの疾患が死因になった可能性は現実的でない」として他殺と判断。空気を入れる方法は点滴ルート以外にないとしたものの、「(注入に)シリンジ(注射筒)を用いたことを裏付ける証拠はない」として検察側の主張を退けた。

また、鈴木さんの容体が急変する直前に被告が部屋に出入りするのを見たとする同僚の証言については、供述に変遷があるとして信用性を疑問視。証拠上認められる事実関係を踏まえると、犯人は「職員の誰かである可能性が非常に高いというにとどまる」とした。

死亡した吉田節次さん=当時(76)=の事件については、被告がベッド脇でシリンジを押し引きする様子を見たとする同僚の目撃証言や、シリンジに被告のDNA型が付着していた点などを重視し「被告が空気を注入していなければ合理的に説明できない」と殺害を認定。点滴に異常があったとする弁護側の主張を退けた。

山崎裁判長は量刑理由で、点滴処置を受けている人を狙った「無差別的な殺人に近い」と指弾。自然死に見せかけるような犯行について「医学的知識を悪用し、周囲に発覚しにくいやり方で悪質」と述べた。

判決によると、被告は同市の老健施設「けやきの舎(いえ)」で同年7月6日、吉田さんに対し、点滴用チューブにシリンジをつないで空気を注入し、空気塞栓(そくせん)による急性循環不全で殺害した。鈴木さんは同5月、死亡した。

被告は21年11月、スーパーで牛肉など計5000円相当を万引したとして窃盗罪にも問われ、同地裁は有罪とした。

水戸地検の石田正範次席検事は「判決内容を精査し、上級庁とも協議の上、適切に対応したい」とコメントした。

《解説》問われた間接証拠の質

古河市の老健施設殺人事件の公判で、2件の殺人罪のうち1件を無罪とした水戸地裁判決。犯行を裏付ける決定的な証拠が乏しい中、検察が積み上げた間接証拠の質の差により、二つの事件で判断が分かれる形となった。

状況証拠による有罪認定を巡っては最高裁が2010年、「被告が犯人でなければ合理的に説明できない事実、あるいは説明が極めて困難な事実関係が含まれていることが必要」との基準を示している。

今回、検察側が多くの間接事実の「総合評価」を求めたのに対し、無罪を訴えた弁護側は「合理的な疑問を差し挟まない証明がされたとは言えない」と反論。主張は真っ向から対立した。

二つの事件で検察が有罪立証の根拠とした証拠には、共通するものと、それぞれに特有のものがある。1人目の事件は当初病死と判断され、本格的に捜査が始まったのは2人目の事件後。証拠収集はより困難だった事情がある。

2人目の事件では、事件直後に施設内で見つかったシリンジから被告のDNA型や被害者が受けていた点滴の輸液成分が検出。1人目でも発生約1カ月後に被告の所持品からシリンジが見つかったが、判決は「殺害に用いたことを意味するものではない」と判断した。

同じ介護施設で立て続けに起きた「不審死」から発展した殺人事件。今回の裁判は、一つ一つの状況証拠を総合して事実を認定することの難しさを改めて浮き彫りにした。



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