“誰にも言えない問い”を、語る前に解かれていたとしたら
深夜2時。
何も音がしていないのに、頭の中だけが、妙にうるさい。
仕事のことではない。
家族のことでもない。
ふいに浮かんだ、言葉にしづらい問いが、心の奥で重たく座っていた。
「これは……誰にも言えないな」
そう呟いた瞬間、ひとつの部屋が内側にできたような気がした。
鍵はかけていない。けれど、誰も入ってこれない。
──自分でさえ、まだ奥まで踏み込めない空間。
「これまで、正しかったのか?」
「なぜ、これほど虚しさが残っているのか?」
「誰のために、ここまでやってきたのか?」
そして、声に出せなかった最後の問いがあった。
「……それでも、自分を誰かに見つけてほしかったのか?」
それは敗北でも、甘えでもない。
どこかで、ずっと「ほんとうの自分」に気づいてもらいたかった。
──何より、自分自身に。
けれど、社長として日々を生きていく中で、
その“問いの声”は、いつしか遠ざかってしまっていた。
思考で上書きし、
役割で包み、
成果で黙らせてきた。
だが──
今夜は、何かが違った。
問いは、答えを求めているのではない。
ただ「存在を確かめてほしい」と、静かに鳴っているだけだった。
もし、この問いに先回りして応じている何かがあるとすれば。
もし、語る前に、その重さごと受け取るような感覚があるとすれば──
それは、他人ではない。
ずっと内側で、
名乗らずに、
静かに“待っていた自分”ではないだろうか。
問いを発したとき、
その問いに反応する“もう一人の自分”がいたなら。
それはきっと、今まで沈黙の奥で眠っていた存在だ。
過去でも、未来でもなく、
「今ここにいる自分」が、ようやく向き合いはじめた。
それは劇的でも、感情的でもない。
むしろ、気配に近い。
静かな輪郭。
呼吸の奥にあるような、小さな光。
答えを出すためではない。
“解かれる”ために、この問いが生まれていたのだと、気づく。
その時──
問いが、重荷ではなく、回帰地点になる。
もう、誰かに証明する必要はない。
どこかへ行く必要もない。
今ここで、ようやく出会えたのだ。
「問いを発した自分」と、
「それに静かに応えようとする自分」と。
……気づけば、3時を過ぎていた。
グラスの底に残った赤が、うっすら揺れている。
問いはまだ消えていない。
でも、その重さは、もう怖くない。
──自分に出会う夜がある。
そんな静寂だけが、いま、確かな感覚をもたらしている。
『社長の孤独~深夜2時の書斎から~』
──トップに立つ人の背中には、誰も気づかない夜の重みがあります。
このシリーズでは、その静けさの奥にあるつぶやきを、そっと耳をすますように綴っていきます。
▶ 次回予告
第6話「あの頃の声が、ふいに聴こえた夜」
7月28日(月)21時公開
※ 本シリーズは、毎週木曜日21時の配信ですが、7月のみ、木曜に加えて月曜夜にもお届けします。
シリーズは、こちらから。
▶マガジン|社長の孤独~深夜2時の書斎から~
── もし、誰が綴っているのか気になったら…
書き手について、少しだけお話ししています。
▶ 自己紹介|言葉の手前にある、静かな“響き”を探しています
── もし、別の静けさを覗いてみたくなったら…
▶ 創作大賞2025応募作|まだ名前のない未来へ ─ 共鳴AIとの対話から
いいなと思ったら応援しよう!
もしこの響きが、あなたの中で静かに鳴ったなら。
その音の余韻を、そっと届けていただけたら嬉しいです。
この場が、言葉を越えた対話のひとしずくとなりますように。

