陸自「個人携行救急品」にみる衛生軽視
2015年に月刊軍事研究に寄稿した陸自の個人衛生携行品の記事の加筆版です。この一連の記事が元で当時防衛省の衛生検討会の座長だった佐々木勝麻布病院長が月刊WILLで防衛省の批判記事を書いたり、当時参議院議員でぼくの永田町でやっていた勉強会のメンバーだった大野元裕(元埼玉県知事)が中心になって動き、装備の改善が実現しました。
戦争を想定していない陸自
戦後幸いにも我が国は戦争に巻き込まれたことはない。また自衛隊もPKOなどの海外任務で戦火をまじえたこともなく、戦闘によって自衛官が死傷したことはない。だが、そのためか正面装備などに比べて、衛生が軽んじられているようにも見られる。例えば我が国からODAを受けているような国々でも当然のように装備されている野戦装甲救急車にしても陸自は全く保有していない。率直に申し上げて陸自は実戦を想定しておらず、演習をこなせればいいと思っているフシがある。陸自の衛生の現状を見るに、とても交戦による死傷者が発生することを前提にしているとは思えない。
その端的な例がファースト・エイド・キットに現れている。陸自では長年個人用のファースト・エイド・キットとしては包帯が二本支給されてきただけだった。これは第二次大戦当時の旧軍並である。以前からファースト・エイド・キットの見直しは検討されていたものの東日本大震災後をきっかけにようやく現実のものとなり、平成24年度から「個人携行救急品」が導入された。これが故に収納力不足等やや時代遅れの印象を受ける。
この「個人携行救急品」は国際活動等補給品(国外用)と通常補給品国内用の二種類が存在する。国外用は、救急品袋(砂漠迷彩)、救急包帯(4インチ・エマージェンシー・バンテージ)×1、止血帯、人工呼吸用シート、手袋、ハサミ、止血ガーゼ、チェストシールの8つの構成品からなっており、国内用は救急品袋、救急包帯、止血帯の3点から成っている。
国内用は言うに及ばず、充実している国外用でも米陸軍の現用のファースト・エイド・キットであるIFAK(Individual First Aid Kit)IIよりも劣る。だが防衛省も陸幕も「有事の際には国内用キットに5品目を追加し、PKO用と同等にする」としており、「個人の救急処置に関する訓練は、陸上自衛官全隊員に対し、年間30時間から50時間程度の教育訓練を実施しており、「有事の際に追加される5品目を含めた『個人携行救急品』の概要教育、実技訓練等を行っている」。
『個人携行救急品』は、アイカップ以外は米軍等の装備も参考に定めており、米陸軍の同装備と概ね同様の内容品」であり、問題はないとの見解である。
まず海外用の「個人携行救急品」各構成品の説明をしよう。救急品袋は救急品を収納・携行するための、モールシステムに対応した小型のポーチである(参考単価\4,314税込以下同)。海外用であることの証拠に砂漠迷彩となっている。救急包帯は四肢等からの出血に対して速やかに圧迫止血を行うとともに創傷部位を保護する(参考単価\993)。
止血帯は四肢等からの出血に対して、速やかに緊縛止血をおこなう(参考単価\3,186)。人工呼吸用シートは口対口の人工呼吸を行う際の、感染防止を図る(参考単価\154)。手袋は救急処置に際して血液などの体液からの感染防止のためである(参考単価\73)、ハサミは刃の部分の角度がついている医療用のもので、処置を行うために創傷部位を露出させるために、被服などを裁断するためのものだ(参考単価\934)。
止血ガーゼは止血剤を含浸させたガーゼであり、四肢以外からの出血に対して、速やかに止血を行う(参考単価\2,770)。チェストシールは銃創等により、胸壁に穴が開いた状態(開放性気胸)に対する救急処置を行うものだ。
当初は空気抜きの一方向弁が三角形に配置されたものが採用されていたが、収納の面で問題があるので、よりコンパクトに畳める3穴直列型に変更になった(参考単価\3,899)。セットの金額を合計すると調達単価は16,323円だ。対して救急品袋、救急包帯、止血帯の3点からなる通常用(国内用)は8,493円となっており、約二倍の違いとなっている。
陸自とレベルが違う米陸軍のIFAK
対して米陸軍では2012年度12月から従来のファースト・エイド・キットであるIFAK(Improved First Aid Kit)からIFAK II(Individual)へと更新を開始した。これは米軍衛生の方針である「LLE」に基づいている。LLEとはLife(生命)Limb(手足)Eyesight(視力)のことであり、まず生命を守ることを最優先として、生活に大きな支障が出ないよう、手足を温存し、視力を維持することを追求している。
以前のIFAKの構成は止血帯×1, 4インチ・エマージェンシー・バンテージ×1,伸縮性ガーゼ包帯×1、2インチ×6ヤード絆創膏×1、経鼻エアウェイ×1,胸腔減圧用脱気針×1、消毒用アルコールパッド×2、駆血帯×1、静脈路確保用留置針×1、留置針固定用テープ×1、感染防止用手袋×1となっている。IFAK II はこれらに加えて、止血帯×1を専用ポーチ付きで追加、チェストシール×1、怪我をした目を覆うカップ(損傷を受けた眼の上から包帯で圧迫してしまうと、眼球自体が腫れる圧力も加わり更に眼球に損傷を与えてしまうため、カップで隙間を空ける)、被服やシートベルト等を裂く安全カッター×1、負傷者記録カードと記入ペンのセット×1が追加された。
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