同人先行版

TURN1【色彩をセットし、オドを生み出す】(同人先行版)


※2026年夏のコミックマーケットにて配布予定の同人版

その一部を連日公開していきます

近況ノートにてすでに全体公開済みですが、ブラッシュアップ版です


こちらの内容は作中設定においては

アニメ第三期終了後に、放映された劇場版に従っております

――――――――――――――――――――――――――――――









 走る、走る、疾走る。


「はっ、はっ、はぁ!」


 しゃがむ。

 背後から迫っていた影が掠める。

 最新の建築技術で作られたはずの壁に爪痕。

 


「”ドク”! ドク! 聞こえてる?!」


『聞こえて__る!』


 走る、走る、耳に当てた通信機から聞こえる声に叫び返す。


「なんなのあのカード!?」


『わからん! 私も知らないカードだ!』


「それってレガシーってこと!?」


『不明だ。しかし複数あ__ ̄ザザ』


「ドク? ドク!」


『_ ̄ザともザ――彼の_もザザザ――』


 通信機からの雑音、そして音が途切れた。

 なにかあった!?

 そう考えた瞬間、後ろから気配。


「ッ」


 踏み出していた爪先に集中した力を溜めて、高く跳ぶ。

 跳躍。

 グルンと回る。

 先生マスターのように無駄なく、丹田から力を込めて廻る。


 夜空、星、月、そして膨らんだ闘麗装ドレスの裾、自分の爪先。


「ふぅ!」


 着地。成功!

 息を吐きながら振り返る。


「……しつこいっ!」


 振り返った先にあったのは立ち並ぶビル群。

 夜間消灯の敷かれたものと未だに明るく輝く光の塔、巨大な壁に覆われた町並み。

 


 けれど、そこに見慣れないものがいた。


「ケケケ、逃げ回るだけか?」


 美しく輝く満月を汚すように佇むのは姿勢の悪いジャンパー男。

 夜更けなのにも関わらず被るオレンジ色のバイザー、合わせたつもりらしいオレンジと黒のメッシュのジャンパー。

 日に焼けていないなまっちょろい肌、ダボついたダメージジーンズに銀色のベルト、そして黒いマスクを鼻下にまでずらした意味のない付け方。


「ファイトをよぉ」


 本来は高いだろう背丈が、猫背のせいで低く見える姿勢で。


「ファイトをしようぜぇ! お前らの大好きなさぁ、ファイトを!」


「うるっさい!」


 鳥みたいに甲高い声を上げる帽子男バカに叫びながら――機導剣を振り抜いた。

 金属音。

 迫っていた刃を叩き落とした。





 マナーが本当になっていない!


「なんでおゥれぇに気持ちよくワンキルさせねえかなぁ?!! オレのたたーん!!」


 バカが叫びながら左手を振る。

 真っ黒で、ゴテゴテの趣味の悪いバトルボード。

 なんでか


「ドドロー! 色彩をセットしぃ、2コスで”スタロ”を召喚!」


 ギラつき光るボードに叩きつけられて、現れたカードを見て、息を呑む。

 感じる威圧感となによりも性能スタッツは。


「2コストで、3/1?!」


「さらにここからぁ記録カウンターを2つセット! +1/+1修正が2つ重なる!」


 上昇する。

 そのステータスは……


「5/3!?」


「こいつは速攻・貫通を持つ! さらに通常魔法<スパイダーリフト>で、もう一枚の”スタロ”も場に戻すぜ! こいつはコストが2以下なら蘇生する!」


 引きずり出されるのはもう一枚の異形。

 金属であり、真っ黒に流星のような文様を描かれた――翼を持つ機械。


「場に出る効果でこいつも強化! バトル! 今度こそ死ねよ! 5・5の2つだ!」


機装防鎧アームズアーマー! 機装右腕アームズライト!」


 手をかざす。

 纏う鎧にコスト――精命力オドを流し込む。


起動ウェイクアップ!」


 励起。

 実体化させた武装カードを維持しながら、息とともに言葉コマンドを吐いた。


「<機装防鎧アームズアーマー・獣甲ネメーア>でどちらもブロック! さらにブロックに<機装右腕アームズライトつらぬきの丸剣スティング>を加える! 丸剣は【機先】がある!」


「馬鹿が! 1/1の骨董雑モンがスタロに効くか!」


「足りないなら増やせばいい――墓地起動!」


 左手で指を鳴らす。


「墓地の魔石<ザ・スタンディング>を除外! これは瞬間発動で、クリーチャー1体のパワーを+2する! 右腕を強化、3/1に!」


 迫る異形に踏み込んで、機導剣スティングを振り抜く。


星描く翼スター・ロード!」


 機先にて切り捨てる!


「くそが! もう一体は生き残る! 5点ダメ、全部ネメーアに!」


装甲タフネス3で軽減し、2点受ける!」


 衝撃。

 纏っていた獣甲が紙くずのように千切れ飛ぶが、歯を食いしばって色彩を回す。


「コスト2支払ってネメーアを【再生】! さらに……ダメージチェック! 色彩、呪言<戦の呼び声>発動! 次のターン、僕の【機装】が1増加する!」


 残りライフはわずかだが、まだ生きてる。

 まだだ。また戦える!


「ゴミが……! 生き残りやがって……!」


 ガンガンガンと苛つくように地団駄を踏む帽子男。


「さっさと死ねよ! なんで死なねえ!! あ゛あ゛!!?」


「死ぬためにファイトするやつなんているもんか……!」


さっさとデカパイ晒して負けろや!!」


「はぁ?」


 なにいってんだこいつ?

 あまりのならず者、いやこちらでは変質者? いやならず者でいいやな仕草に、怒るより先に引いた。


「いきなり襲いかかってきて、なんなんだよお前たちは!!」


「うっせ、うっせ、うっせえ! もういいわ」


 こちらの問いを無視して、帽子男が趣味の悪いボードを掲げた。


遊びゲームは終わりだ。ガチで殺す」


「素直にやられるとでも?」


「ほざくな時代遅れ、型遅れの雑魚デッキが!! メインフェイズ、ツゥー!」


 来る。

 機動剣を構えて、少しでも息を整えるために吸って。

 気づいた。


 聞いたこともない音が響いてきた。


「あ゛?」


「なんだ?」


 なにかおかしい。

 どこから……上?


「なっ!?」


 上空を見上げる。

 そこにあったはずの満月は、血のように赤く染まっていた。


「月が!?」


 ビシビシとなにかが割れる音。


「ちっ、時間切れか」


「なにがお」


 帽子男の声に目を向けようとして、それは出来なかった。

 眼の前の光景が、歪んでいた。


 いや何もかもがぐにょぐにょに歪んで――


「き」


 声が出せない。

 何も聞こえなくて。

 最後に思ったのは。



 ――会いに行こうと考えていた人のことだった。







 ◆





 走る、走る、走って駆けつけた影があった。


「くそ、どこだ!?」


 スピードを殺すようにアスファルトの地面を靴底で滑らせる。

 纏った羽織りの裾を翻しながら旋回。

 風のように舞いながら、周囲を見渡して、腰だめに鯉口を切った――刀を構えていた。


「どこだ?」


 それは少女だった。

 文明の明かりに照らされた小麦色の髪、それを結い上げた髪型に、凛々しい目つきを周囲に散らしている。

 普段ならば整った顔つきで見惚れるほどの美貌だが、その表情は焦りに歪んでいた。


「はぁ……はぁ、はぁ」


 羽織りに包まれた肢体は、普段ならば分かりにくい起伏の取れた体を汗で吸い付けて、荒い呼吸と共に震えていた。

 その少女の側へと遅れて、もう1人人影が追いついた。


「セイラちゃん、はやすぎぃ、はぁ、はぁ」


「お前が遅過ぎる、シャトア」


「はぁ、普通だとおもうなぁ~~!」


 赤みのかかった金髪を汗ごと掻き上げて、無数のバレッタで止めた髪を揺らす少女。

 シャトアと呼ばれた眼鏡を付けた少女は上を見上げてから、息を整えながら周りを見る。


「いません、ねぇ?」


「何もわからないか?」


「はぁ……何か、スピリットの残滓は感じるんですが」


 絵の具で汚れた白衣のポケットを漁り、取り出したのは手のひらサイズの機械端末。

 そのライトを付けて眼鏡の少女は掲げた。


「これが一番やばいですね」


 ライトに照らされた壁は深い傷跡が刻まれていた。


「人間業じゃないですよ、これ」


 カシャカシャと音を立てる端末。


「……さっきまでの連中だと思うか?」


「でしょうね。私たちが襲われたのはあくまでもクリーチャーだけ、でも彼女は」


「わかってる。あの騎士道馬鹿め、1人だけ無茶をしおって……己たちをなんだと思っている」


 歯を食いしばる。

 羽織りの少女は息を吐きながら再度周りを見渡し……何の音も気配もしないそれに、頭を振った。


「これだけの騒ぎだ。すぐに”テンプル”がくる」


「噂をすればぁーなんか聞こえてくるー」


 遠くから聞こえるのはサイレン。

 やがてこちらにもくるだろう音に、息を吐きながら……未だに納めるきっかけを掴めない刀を握りしめて、羽織の少女は呟いた。


「あの馬鹿め、どこに行ったんだ」





「プレア」






――――――――――――――――――――――――――――


 打ち鳴らせ、戦いのゴングを!

 打ち震えろ、戦の呼び声に!


 これは生き残るための戦いなり!


              ――戦の呼び声


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