TURN2【幻獣を召喚し、場に出す】(同人先行版)


 ずるずるずる。

 ずるずるずる。


「うみゃい」


 朝帰り。

 開いている駅前の立ち食いそばで食べる温かいそばは美味い。

 昨晩は久々に本業な仕事をしたので卵に、天ぷらも付けた。

 そばを半分そのまま食べてから入れた卵を潰して混ぜる主義だ。

 ずるずるずると啜る、ずるずるずると食べる、幸せ。

 そうやって思い出すのは昨晩の不思議な思い出。

 なんであの決闘相手、さっさと終わらせてそば食べたいって言ったら怒ったんだろうか?

 こちとら花の女子高生だというのに夜ふかしして代理決闘の順番待ちしてたというのに、お腹空いてたからそば食べたいって素直に言っただけなのにめっちゃ怒ってたし。


「ま、弱かったけど」


 感想と共に締めのお冷やを飲み干して、セルフサービスの棚にトレイを戻す。

 ごちそうさまの言葉を忘れずかけて、店を出る。

 店の外は相変わらずちょっと曇っていた。


「……少し寒いね」


 いつものコートの前を閉じる。

 もうすぐ冬だ。

 日に日に気温が下がっていくのを感じる。

 学校ならもうすぐ冬休みといったところだろうか。

 あの子たちから色々と冬は何をするか要望はあるけれど、どうしたもんか。考えるのも楽しい。

 歩きながら、右手の腕時計で時間を確認する。

 このまま向かえば店の出勤に間に合うだろう。

 まったく予定になかった仕事をしてたからちょっとしんどいけど、腹ごしらえはしたからいいか。

 そんな事を考えながら、もう一度腕時計に触れる。

 銀の腕時計は触り心地がいい。


「ふふっ」


 ちょっとだけ笑ってしまった。

 そんな気分がいい時だったから――思わず息が出た。


「誰?」


 気配、なし。

 向かう通勤路で人通りがない、それが逆に異常だった。

 この辺りから狙撃出来る角度と位置は……



『サレン=アンダーだな?』




「真正面から来るとはおろか」


 狙撃と死角を狙って突っ込んでくるだろうと思って体を開いたら、なんか普通に先の路地裏から出てきた。


『は?』


「ごめん、本音。どちら様?」


 それは顔の見えない全身コートに、センスもかっこよさもないフードを被っていた。

 背丈は大体2メートル弱、被っているコートの奥側から光る目が見えるだけ……遮光性能が高い布地、防弾はどうかな。

 職質必須の、随分と世間を舐めた格好だ。

 ここまでどうやってきたんだろう。適当にに乗ってきたかな。


『貴様が知る必要はない』


「じゃあ、答える意味もないね」


 右手を上げて。

 ――踏み込む。


『ッ!?』


 左側に体を落として、重心落下の移動だけで初速を出す。

 気雲流――あいつの動きからパクった動き、相手の目線は上げた右手に一瞬動いた――と同時に行動した。

 だからこの飛び蹴りは直撃した。


『ガッ!』


「ロボか」


 脳震盪を起こす角度で叩き込んだ蹴りで、めくれたフードから見えたのは人工物の顔。

 破壊する。

 蹴りの反動で後方に跳んで。


『この』


 宙返り。

 回転し、着地しながら、その勢いで――引っ掛けたワイヤーを引く。

 が。


「ち、硬い」


 切断出来ない。

 首の根本に掛けたワイヤーは音を立てるだけで、食い込む感触がない。


『リアリスト担当がぁ!』


「危ない」


 腕を振り回してくるのを見て、ワイヤーを切断する。

 ロボの手はただ空を切り、その間に私はもう一歩距離を取った。

 人間と低品質ファイトロボぐらいなら切断出来るワイヤーだが、これまでの化物ネームド共との戦いで学習もしている。

 あれを壊すのにどうするか。

 2・3手ほど考えついたが、その前に一つ気になることがあった。


「”中身がいる?”」


 このファイトロボの挙動はおかしい。

 


「遠隔操作か?」


『くそ、もういい』


 コートの左腕が捲られる。

 金属の分厚い腕が展開し――出現したボードと共に、私も待機状態にしておいたボードを起動させた。


時歪領域モッディング・モード・展開』


「<孤絶結界>・展開!」


 空間が歪む。

 周囲の景色が滲んで、音が止まった。

 闇の領域とはまた違う結界か。

 試しに、その辺りにあった小石を蹴り飛ばしてみる――が、飛ばすどころかスカった。

 物質界から隔離されてる?


『お得意のヴァイスファングの結界か、無駄だよ』


「精霊の中身入りではないみたい」


 こちらのことは調べている、か。


『さあ、ファイトしようか』


 稼働していたロボの左腕がさらに変形する。

 パーツが複数に分かれて、装甲がめくり返ってモニターのように展開する。

 そして、胸部のパーツが開き、中から蒸気と共に出たのは透明なケースに覆われたデッキ。

 まるでマガジンのように左腕のボードにはめ込み、音を立てる。

 無駄にギミックがカッコいい。


「それしかないか」


 コートを開いて、腰のベルトに付けているデッキケースを取り出す。

 最低限妨害に気をつけながら、ケースの留め具を外して、ひっくり返して、中身を出す。


「受けて立つ」


 ライフデッキの20枚を数回シャッフルし、自動シャッフルにセット。

 メインデッキの40枚を手早くシャッフルして、カットして、メインにセット。


『? 変なルーティンをするね』


「個人的な趣味にケチをつけないでほしい」


 ロボの発言を推測する。

 こいつの持っている情報は古い?

 シャッフルのルーティンはもう”数ヶ月前から普通にしてるのに”。


 自動シャッフルの音が止まった。

 撃鉄の音を鳴らして、デッキが組み上がる。


「さあ」


『さぁて』



『「ファイト!!」』



 着火したのは、こちらのボード。


「私のターン! レディ、アップ、ドロー……ライフ2、メインはなし! 色彩をセットし、ターンエンド」


『ボクのターン! ドロー! 変容色彩CCをセットし、1ダメージを受けて黒オドを出す!』


 しーしー? 変容色彩チェンジ・カラーの略か。

 しかもダメージカラー。色は赤黒!


『ダメチェック、当然色彩しきさいぃ! 覚悟しなよ、アンティークフォーマットだ! <濁る儀式>を実行プレイ!』


 黒のデッキ……に、オド宣言?


『コイツはクリーチャーを出すためだけに3オド使える! 1オド<星喰いの尖兵インヴェーダー・アルファ)、2オドで<星喰いの踏破脚インヴェーダー・ベータ>を召喚!』


 ロボの前に出てきたのは人型の黒ずんだ機械の兵隊に、四本脚の蜘蛛のようなロボット。

 聞き慣れないクリーチャー名――まあいつものことだ。

 しかし、呼び出されたクリーチャーのステータスを確認して思わず目を細めた。


「1コスで2/1?」


 星喰いの尖兵インヴェーダー・アルファ、2/1。

 星喰いの踏破脚インヴェーダー・ベータ、2/2。

 ベータはまだ普通だけど、アルファはおかしい。なんらかのデメリットがあるか、レアのはずだけど……気配が感じない。


『踏破脚が、場に出たことによりデッキから2枚墓地に送る! そして、こいつは速攻を持つ。バトル! <星喰いの踏破脚>で攻撃する』


「クリーチャーはない、来い」


 1コスじゃなくて、2コスのほうが速攻持ち?


「ライフで受ける!」


 色彩を稼ぐ。

 飛び込んできた巨大な機械の攻撃を、ライフデッキで受け止めて飛びち――


「チェック……?」


 反応がない。

 色彩がセットされない? まさか。


『残念だねェ、


「ッ、魂葬持ち?!」


『驚いたカナ? 骨董品のヴァイスファングだけじゃないんだよ、もう魂葬はさぁ! ターンエンド』


 いやそれはどうでもいい。

 持ってるやつは持っているし、問題は――2コスで速攻・魂葬で、デッキ削り溜めまで持っている?

 能力が強すぎる。


「そのエンドフェイズに、瞬間魔法<衝撃>を発動。自分に2点」


 対抗するには、こっちの色彩が足りない。


切腹加速ターボカ。こっちを焼かずにいいのカナ?』


「こちらが丸い。私のターン」


 あちらは、初手で3枚もメインカード手札を切った。


「レディ、アップ、ドロー」


『販促アニメみたいな仕草だね』


「マナーは大事。ライフ・メインドロー、色彩をセット」


 これで色彩は4枚。


「2コスト支払い、秘宝<発火の秒針>をセット。起動、アルファに1ダメージ」


『チッ、焼かれる』


 人型機械アルファが、火花を散らして破壊される。

 そして、墓地に送られたのを確認してボードを操作する。


「私はターンエンド」


『ボクのターン、ドロー!』


 なるほど。


『もういいわ、そろそろ砕いてやるよ!』


「まだ2ターン目だけど?」


『うるさい! 墓地のカード1枚を除外してコストを軽減! 2オドで<星喰いの投射砲インヴェーダー・ガンマ)を召喚!』


「コストを踏み倒した」


 呼び出されたのは小さな路上を踏み砕かんばかりに巨大な砲台3/3


『変容色彩からの赤オドでダメージ! ダメージチェック、色彩セット』


 まだこちらからはノーダメだというのに色彩が増えていく。


『<燃え盛る突進>を発動! ガンマのパワーを+3し、速攻で強化!』


 召喚酔いを殺し、パワーを上げた。

 ということは。


『バトル! 2体のインヴェーダーで攻撃する』


「それで――


『!』


連動チェイン。瞬間魔法<雷撃>を発動、ガンマに3点ダメージ」


 ここが切り時だと判断した。

 迫ってきていたガンマに雷撃を叩き込み、破壊する。


「残ったベータのダメージは、ライフで受ける」


 衝撃。

 またライフが削れる、が。


「チェック、呪言<間一髪>が発動。ダメージは1点で押さえられる」


 削れたライフは1点。

 呪言が墓地におち、それ以外を戻してライフデッキをシャッフルする。


『素直に受けないか、ターンエンド』


「そのターンエンドに1コスト<火打ち>、また私に2点ダメージ。ダメージチェック、色彩2枚をセット」


 赤の1コスバーンを使用。

 これで色彩が2つ増えた。


『ッ! 防げたのに防がなかった?!』


「そいつに汚染ダメージがないのは、もう分かってる」


 先ほど破壊した星喰いの尖兵インヴェーダー・アルファのテキストを墓地に落ちたことで確認した。

 2/1の効果のほかに【殺理】と【このクリーチャーがプレイヤーにダメージを与えた際、与えたダメージ分の汚染カウンターを与える】という一文があった。


 この汚染カウンターというのがどんなものかわからないが、おそらく名前からしてインヴェーダーとやらの共通効果。

 魂葬と速攻という効果を持つベータはもってなかったが、持っているやつがいるのは間違いない。

 あと”ファイター”じゃなくて、”プレイヤー”と書かれている辺り正規のカードじゃない可能性がある。

 何らかの方法で、ボードに認識させてる?


「だから受けていいやつだけ受けてるだけ」


 墓地を再び確認する。

 ……やっぱりもってた。


「私のターン。レディ、アップ、ドロー」


 とはいえ、こちらもライフがそこそこ削れた。


「色彩をセット」


 だから。


「遊びはない。メインフェイズ、2コスト<帝王の槍持ち>を召喚」


 丁寧に叩き潰す。


「さらに、通常魔法<天狼の強襲ヴァイス・アサルト>を発動!」


『……!』


「<天狼の強襲>が発動した時、”ヴァイスファング”と名のつくクリーチャーを手札からコストを支払わずに召喚することが出来る!」


 そして、手札から引き抜くのは――今まさに手札に加わった私の牙。


「吠えろ! <孤高の天狼・ヴァイスファング>!!」


 召喚する。

 場に降り立った私の守護者。


「そして、2枚ドロー!」


 手札を補充する。


「<帝王の槍持ち>の効果発動! 私の場に5コスト以上のクリーチャーが召喚された時、相手のオブジェクト1枚を破壊する! 私が破壊するのは、その変容色彩!」


『なにっ!』


 ダメージカラーを破壊した。

 これで色彩の伸びは抑えられた。


「手札1枚を捨てて、ヴァイスファングの効果発動! 速攻とこのターン、魔法・能力の対象にならない効果を得る!」

 

『面倒くさい効果を』


「バトル! ヴァイスファングで攻撃する!」


『ベータでブロック!』


「問題なく破壊だ!」


 流石に魂葬効果を受けるつもりはなかったらしい。

 2/2のベータを、ヴァイスファングが破壊する。

 変容色彩を破壊せずに、ベータを削るべきだった?

 ……いや、これで正しい。

 あいつだったら今後のケアも考えて、そう選んだ。


「ターンエンド」


 手札は潤沢。

 ブロッカーは帝王の槍持ちだけだけど、まだライフには余裕がある。

 ここから一気に捲っていく。


『……』


 ん?


「お前のターン」


 反応が鈍い。


『……』


「どうした? 画面の向こうでどうしょうか悩んでる? ならさっさとサレンダーでもすればいい、闇ファイトじゃないんだからチンケで大したことのないプライドが傷つくだけで帰れるけど」


『フフフ、ゴメンゴメン。ちょっと見くびっていたよ』


「そう。私からするとまったく上がらない評価とそっくり、よかったね」


『…………腐っても、いや、闇落ちしても一応は


「誰がお前のライバル?」


 せめてユウキぐらい可愛いか、あいつぐらい手強くないとダメでしょ。


「あと私は鯛よりシャチぐらいのほうが可愛いと思う」


『クフフ、まったく。闇落ちしてないほうが強くない? ろくに味方面した出番もなかったくせにさ』


「何いってんだこいつ」


 話が噛み合わない。

 誰かと勘違いしてるのだろうか。



『まあこれで舞い戻らせてあげるよ――”ダレンちゃん”』



 だれ??



『コマンド起動!』


 その時だった。

 キモロボの左腕が唸りを上げて、表示されているモニターに一面の文字が走った。



【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】

   『――MODモッドロー!』

【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】【HACK】



『見せてあげよう、旧式』


 その腕が――ノイズと共に引き抜いたカードを”歪めた”。


『通常魔法<天狼の強襲ヴァイス・アサルト>を発動!』


「なっ!?」


 その魔法カードは。


『最新最強を見せてやる――<ナ■ト■■・ヴァイスファング>!』


 そして、呼び出されたのは――私の全く知らないヴァイスファングで――










 その圧倒的な性能の前に私は敗れた。











――――――――――――――――――――――――――――――

「シータクラス・オブジェクトに対する戦術計画を提示します」


            ――<星喰いの指揮統制個体>





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