TURN7【エンドフェイズ、相手のターンが始まる】(同人先行版)


 空間が歪んでいく。

 どうやらファイトの決着がついて元に戻っていくらしい。

 まだ時間はかかるようだが。


「ふぅ」


 あっぶねっっっ!!

 マジであっぶね!

 通ってよかった! 本当に通ってよかった!

 本当に通ってよかった!

 いやまじふざけんなよ、なんで星航る鳥たちの記録コメートテイルズ使ってんだよ。

 ブロックが2つ3つどころか8個ぐらい違うんですけど!

 クリーチャーパワーイカれてんだろ! 魔法? いつもイカれてんだよ!

 展開始動される前に殴り殺さないと勝ち目ねえよ!

 ハンデスでスタシア落とせてよかった。手札にあるんだもん、もうやだ、この世界はよぉなんで初手で引いてんだよ。

 1枚でよかった、最悪2枚とか3枚握ってまーすとかされたら死ぬからな。

 2枚展開されてたら? もう終わりですね、全体除去引けてないもん。

 マジで泣くぞ。

 ハンデス、ハンデスは大体解決する。

 だから侮蔑くん、初手で来てくれ。5~6ターン辺りで来ないで、マジで持て余すから。

 わはは、上振れでてめえが下振れして有無を言わさず騙し討ちすればこんなもんよ! ばーか!


「……死ぬかと思った」


「圧勝してなかった?」


「ファイトの大半はね、圧殺するか惨敗するかが殆どだ。いい勝負なんてそう出来るもんじゃないさ」


 特に、


「そうだろう? ゲーミング野郎」



「……クソ、が」



 ボロボロに崩れながら、オレンジのバイザーをつけた頭がそう答えた。

 まだ死んでいない。

 死んでないだけだ。


「カード化もアンティの提示もなかったから終わってないのはわかってたが……どうなってんだ、お前は」


 その手足は

 まるで灰がらのようにちぎれて、落ちた手足の断面から血が出ていない。

 付けていたボードも落ちて、そこに嵌めていた手足も砂化している。

 クラットによるリアルダメージでやっちまったかと思ったが、さすがにそこまでえげつないダメージを叩き込んだ覚えはない。

 やるならあの時のような無限ダメージによる粉砕ぐらいだろう。


「クソ、くそ! 聞いてねえぞ! アバターがこんな脆いなんて!」


 アバター?

 見下ろしたオレンジ野郎の顔には焦燥や悔しがる顔はあっても、痛みや恐怖の色は見えない。


「お前本体じゃないな。どうなってやがる」


「クソ! 残機はねえのか! おい、やり直しだやり直し! 次やれば負けねえ! 少し油断しただけだ、リトライさせろよ!」


 通信機もつけてなさそうだが。


「お前は誰なんだよ。なんで僕らを狙った!」


「さっさと答えろ、”ロイエス”」


 ロイエス?

 わめき散らしている間にもどんどん手足が崩れていく。

 自分の崩壊が避けられないと理解したのだろう、オレンジ男はこちらを見上げて。


「……なんなんだ、てめえは」


「僕のことは知ってるんじゃないか、お前は」


「ああ、知ってるよ。前座野郎。マグマ・イディアの玩具。夜疾猟団ナイトレイダー使いのヘラヘラ裏切り野郎」


 言葉が重なる。

 知ってる単語、覚えのあるようでない扱い、そして。


「――テメエは誰だ」


 見上げる。

 バイザーの下の目は困惑だった。



 その言葉に。


「……」


 少し、少しだけずっと考えていたことに得心がいって。


「そいつは――君が知らなくていいことだ」


 笑って誤魔化した。


「ざ、ざけんな! なんだお前は!? なんで動きを、コメテがわかった! こいつはまだこの時期には出てな――」


 ザラりと。

 叫び散らしたからだろう、口から崩れて、その首から頭がもげた。

 止める暇もなく全てが灰になった。


「あ」


 そうして、同時に周りの光景が元に戻った。


「……あちゃー」


 まっずい。

 パチンと自分の額を叩く。


「どうしょう。手がかりが消えてしまったな」


 先に一発平手でもいれておいて、喋らせるべきだったか?

 でもあれ痛み感じなさそうだったしな。

 それで即死してたらもっと意味ないし、ならファイトを遅延するべきだった? いや、コメテ相手に遅延とか死ぬわ。あれ以外勝てねえよ、せめてイン・パクトか星喰いとかの当時のテーマパーツくれ。殺されるか殺される前に殺すかになるけど……うん? こいつは……


「あ、あのぅ」


「あ」


 忘れてた。

 灰を弄くる手を一旦止めて振り返る。


「大丈夫?」


 ? なにが。


「いやそちらこそ大丈夫? 体調とか悪くない? あ、剣持ってる」


 いつの間に。

 いや当然か、あの状況だと武装したほうが安全だしな。

 色々騒いでるから近所から通報されないといいが。

 ……最悪窓から一旦離脱するか。

 ホウムさんたちにも一報入れておくか? 知らない一般警官だと面倒だし。


「剣は騎士の誇りだからね!」


 きし?


「それはともかく。結構ダメージ受けてたはずだけど大丈夫?」


 ペタペタと無遠慮に触られる。


「ああ、これぐらいなら大したことないよ。精々打撲ぐらいかな」


闘麗装ドレス命衣流メイルも纏ってなかったはずだけど……」


「リアルダメージだけだったしな。闇ファイトと違ってメンタルダメージもなかったし」


 そう考えると闇ファイターじゃなかったのか?

 共鳴率奪われてたかはわからんかったし。

 そう考えていると、なんか変な顔されていた。


「何いってんだこいつ」


 失礼な。知り合いのファイターならみんなわかる話だぞ。


「ま、まあ無事ならいいんだけど……外の人間ってみんなこんな頑丈なのかなぁ」


 小声でなんか言ってるが、はっきり言って欲しい。


「それはともかく。いきなり襲撃されたが……あいつはなんなんだ? なんで君はここにいる?」


 残骸の灰を見下ろしながら尋ねる。


「あいつは――【リボーク】 そう名乗ってた」


「リボーク?」


「うん、リボークの”シンク”。エレウシスでいきなり襲ってきたんだ。」


 悪徳クレカ……支払い方法じゃないよな。

 どっかで聞いたような。

 ……ん、あー、トランプだっけ?


「それであいつらの目的なんだけど」




「――世界を改竄するために、らしい?」



「はい?」




 ◆





 透き通るような声が奏でられた。


「――”五番シンク”様の反応喪失シグナル・ロスト。アバターが損壊したようです」


『おいおい。あのイタキャラくんさぁ、負けちゃったの?』


「所詮五番目。我々の中では半分ぐらいの強さよ」


「ククク、適当にくじ引きして決めた数字だから意味ねえがな」


 それに答えるのは三重の声。

 二人は顔すら多い隠す外套を纏う男たち。

 そして、残る1人は破れ、焦げ付いた外套をマントのようになびかせた機械仕掛けの人型機械。


『あのゲーミング馬鹿。おっぱい金髪如きに苦戦どころか負けるとは情けねえ』


「主役補正でも入ったのかねぇ。最新デッキ使って普通負けるか?」


「どこからか拾ったつよつよカードさんでも出したんだろ。まったく、ムキになって追い回すから返り討ちなんてダサ過ぎる」


 嘲り、茶化すように嗤う彼らは瓦礫の上に腰掛けていた。

 それに案じるような色はない。

 彼らに仲間意識なんていうものはない。


 何故なら――



Roiesロイエス



「はい、御主人様マスター


 ロイエスと呼ばれた者は美しかった。

 美しいとしか形容の出来ない女、いや女性、いや女体と形容するしかない造形美。

 滑らかに長い手足、真珠のような艶やかな丸みを帯びた臀部、柔らかく膨らんだ乳房、染み一つ見当たらない肌。

 その全てが大理石から磨き上げ、長い時間を掛けて掘り上げたような非現実的な美体に、完璧な左右対称に整った美貌、黒曜石のように艷やかな黒い髪が淡く青色の発光を帯びている。

 その肢体を覆うのは金属製の具足。

 足を、手を、機械の拡張機器にて包み込み、その胴体は大きく切り開かれた水着のようなスーツを纏っていた。

 背中の全て臀部の大半を露出した後ろ姿を男たちに見物されながら、彼女は一部の乱れもない会釈の動作を行った。


「”エース”はまだかなぁ」


「はい」


 顔を上げた彼女の瞳は唯一不自然な赤色の発光を発していた。


一番エース様は493秒前にアンカーの発見、交戦開始の連絡がありました」


 左右対称の顔は、唇すら動かずに完璧なままだった。


「そっかぁ」


 美しい女体人形の返答に、頷くのは青年だった。

 まだ成人になって間もないのだろうか、あるいは経験が足りていないのか。

 子供じみた顔つきに、どこにでもあるようなズボン、明るい水色のジャンパーを羽織った。

 どこにでもいそうな青年だった。


「まぁ、エースさんならなんとかしてくれるでしょ。他のみんなは?」


「”デュース”様・”トレイ”様・”ケイト”様・”サイス”様・”セブン”様・”エイト”様、まもなくエンカウンター開始」


「うん、うん、それぞれ1人2殺ノルマだからね」


 彼女の言葉に、うんうんと頷いて。


「あれ? そういえばシンクさんの担当どこだっけ」


「故シンク様は市長【常盤 火戸】の担当でした」


「そっか。あの白リ生きてたんだよね……んー」


 ポリポリと左手で頬を掻き。


「ま、いっか。ボクらには”ジョーカー”がある」


「はい」


 青年は頷き、人形は頷かなかった。

 ただ、彼らの側に一人立っていた。

 ゴシック服を纏った女。

 紫水晶を梳かしたかのような布地で織られ、黒い薔薇を思わせるフリルがふんだんにあしらわれたゴシック服。

 その顔は喪に服すようにヴェールで覆われていた。


「さあ。そろそろはじめようか」


 パンっと気の抜けた音で手を叩き、青年は笑った。


『ようやくか、”キング”』


「そうですよ、”ジャック”さん。そろそろ予定の時間だ」


「89秒前が開始時間でした」


「おっといけない。じゃあ急いで急いで、ロイエス!」


「畏まりました」


 慌てた青年の声に、優雅な仕草でロイエスと呼ばれる人形が片手を掲げた。


「――解答開示ゾーイングシーケンスに移行」


 金属音と電子音を奏でて、腕部の機械が展開する。

 無数の投影モニターが周囲に浮かび上がる。


「――回路接続コネクティングに成功」


 その宣言は必要ない。

 処理に必要なものではない。

 マスターたちに理解出来るように行使された奉仕機能パフェ―マンス


「――開門鍵体ピッキングギア、ハック、ロック」


 もう片方の手が変形し、大きく表示されたモニタへと突き刺さる。

 大きく開かれた股先からの両足が、金属音を立てて地面へと――床へと突き刺さり、結合する。


「――固体融結メルトアップ、正常加圧中」


 音が鳴る。

 今はまだここにしか聞こえない音が。


「――再築要求リ・ビルド、廻天開始」


 少しずつ、少しずつ大きくなる。

 揺れ動く。

 揺れ動く、大地の響きに、人形を、彼女を取り囲む男たちは立ち上がり。


「さあ、ここに建てよう」


 キングが笑う。

 手を叩き、両手を上げて。


 その場所で、この場所で叫んだ。


「天へと繋がる! ”ギガバベル”を!!」




 そして、全ての異変は始まった!

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【書籍化】俺の切り札は光らない 雨 唐衣 @Jsthako_gm

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