世界よりも愛したい貴女だった
キュアエクレール=くれあ前提。
あの戦いの後、秘密裏にウソノワールらに囚われていた彼女を解放したのがるるかだったらなはなし。
捏造過多なので注意。
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――羽根をもぎ取られた蝶の末路は、愚かに蜘蛛に食われると決まっている。
自ら光に呑まれ美しい蒼羽根が焼かれていくだろう最中に、くれあはるるかのマコトジュエルを抱きしめる瞬間に奪っていった。私が絶対なんとかするから、貴女は普通の女の子になったって良いのよ、そう告げると大きく羽根を震わせた。綺麗なダイヤモンドのように、あるいは刹那的瞬間をこそ生きる蝶のように瞬いた。
満身創痍で手を伸ばすもかなわず、気付けば巨大なマコトジュエルごと彼女は跡形もなくなってしまっていた。同時に、彼女と紡いできた記憶の糸が細くなっていくのがわかった。この世界の真理の塊であるマコトジュエル、そして嘘という負の権化たるウソノワールごとくれあは消えようとしたのだ。たったひとりの少女が、だ。なんの代償もなく、出来るわけが無い。
そう、譬えば――彼女を大事に想う人間たちから存在さえ掻き消える、なんて。地面に手を突きながら、ほどけたリボンが落ちる。くれあから貰った大切なリボン。一瞬、これ、だれのだっけ、と思ってしまった。その逡巡に悟りながら手の甲に爪を立てた。
――そんなの、許さない。私から、私の世界からくれあを奪うだなんてことあって良いはずない。
「…………絶対、駄目。そんなこと、くれあであっても許さない」
ふいに視線をやると、そこには欠けてしまっていたるるかのマコトジュエルがあった。
手に取ると、そこにはもうかつての力は感じなかった。それでも彼女は手のひらに包み込んで、祈る。
――これで、終わらせたりしない。まるでさよならみたいに笑ったくれあの顔を最後になんて、したくない。なにに替えても、貴女は私が取り戻す。二人一緒に、なんて望まない。貴女がこの世界で笑えるのなら、なんだっていい。その為なら、私が影に染まろうが構わない。白く綺麗に、無傷に生きて彼女を失うくらいなら私は黒く生きる。
そんなるるかの深い深層心理を読んでか、マコトジュエルは新しく姿を変えた。小さなペンダントとして。
それから、彼女はキュアット探偵事務所から姿を消した。代わりに怪盗団ファントムらへと取り入ることは決めたのだ。淡々ともうこの世界にはうんざりした、嘘で生きる方がずっと楽で綺麗だとわかったの、だから貴方たちに協力するわ。アルカナ・シャドウとして。そう宣言すれば、ウソノワールは自分をファントムとして受け入れた。彼の洗礼だという暗示にも掛かった振りをした。
そうして彼らの元へ身を置いて暫く。あの子は絶対此処にいる、という予感は当たった。
だって、彼らからは仄かに甘い匂いがしたから。キュアエクレールは本当に消えたのね、とカマを掛ければ白々しく嘲笑してから冷や汗を垂らすアゲセーヌの表情をるるかは見逃さなかった。確信を持ってからアジトを密かに探索し、自分も知らないだろう人間に食事を運ぶ使用人らしき存在を見つけた。
初めて見る地下迷宮、その最奥に――くれあは閉じ込められていた。衣食住は整えられていたが、白い清楚なワンピースに似つかわしくない手枷が掛けられていた。ベッドに散らばる蒼い髪の毛に、きょとりとしたハニーレモンの双眸が此方を向いて瞬いた。くれ、あ、と呟くも聴こえてはおらず、同時に彼女の異変に気が付く。
「ぁ、ごめんなさい……使用人さん以外が此処に来るの初めてでつい嬉しくなって。本当はちゃんと顔も見たかったんだけど、私、事故で記憶喪失になってて、後遺症なのか目も視えなくなってるみたいで………だからごめんなさい。みっともないところを見せちゃって」
「…………かまわない。貴女の顔を見たかっただけだから」
――こんなふうに、鎖で繋がれて。疑うことも知らず、記憶もなくして。それでも私の前で、まだ笑ってくれている。
生きていてくれたことに喜びを感じるも、彼女を縛る鎖をロッドから放つ光弾で焼き切った。焼け焦げる匂いに困惑していたくれあに大丈夫、私は貴女の味方。世界でたったひとりの貴女のパートナーだから、と囁くとそのまま彼女を抱き上げた。くれあがいなくなればファントム内での騒ぎになるだろうが、自分のアリバイはシュシュタンが作ってくれている。
そうして、月夜を駆けてから長く空を抜けてゆけば――くれあの自宅へと入った。ワープホールを転々と繋げたので、足はつかないだろう。
ゆっくりと腰をベッドに落としてやると、もう大丈夫、貴女を縛るものはなにもないから、と優しく伝えるとくれあはどうして、と尋ねた。その瞳には涙が浮かんでいる。盲目故に焦点の合わない瞳が必死にるるかを追いかけ、ドレスの裾を握る。そしてる、る、か、と声にならない声で唇が動いた気がした。憶えていないと思っていたが、心までは嘘はつけないのか。
「いとしくて優しい蝶だった」
「…………ぇ?」
「貴女のいる世界が、私の全てだった。つまらなくて退屈でセピア色の世界に彩りをくれた。だから、貴女がいなくなれば世界も終わる。………貴女が幸せに生きてくれているだけで私は救われてる。――大好き、くれあ」
その気持ちに、偽りはない。
それから、瞼にキスをすると。
「嘘よ、覆え」
ひとつの呪文を唱えると、共に砕け散っていた彼女のマコトジュエルに嘘を混ぜ込んだ。
そうすれば、光の宿った眼がるるかをとらえる。
「真実は、追わなくていい。私が迷宮へと誘い、隠してしまうから」
「貴女は陽の当たる場所で、優しく生きて」
その為なら、貴女を襲う全てから私が守り抜くから。
ひらりと黒蝶が舞うように消え去ると、手のひらを見つめた。咄嗟に伸ばされた手を、取りそうになった。
もし叶うのなら、世界を敵に回しても彼女を連れ去りたいくらいだった。
けれど、今はそれはしない。
――もしも、それでも。今度こそ彼女の犠牲なくしてこの世界が救われないと言うのなら、そんなもの嘘で塗り替えてみせる。そうなる前に、私がウソノワールも世界も壊す。
月光に黄昏ながら、取っておいたチョコレートチップのアイスはもう溶けかけだった。それを口にしながら、彼女を想い――触れていた手のひらにキスをする。自らの罪も恋心も呑み込むように。